提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
この光景を目に焼き付けよう…。
夕陽よりも輝いて…綿飴よりも甘いこの瞬間を…
この宝物だけは……絶対に
『秋雲…やっぱりアンタの絵は凄いわ』
『私も写真にはすごく自信あるけど…アンタの絵には敵わない』
『でも…時間もかかるし…瞬間瞬間を捉えるなら写真の方が…』
『写真は…その角度と、瞬間だけ』
『でも、絵なら…違う角度も、瞬間も再現できる』
『秋雲の記憶能力はカメラ並みよ…本当すごいわ』
『私は好きよ?秋雲はセンセの絵』
『お?秋雲…絵描いてんの?』
『ひゃっ!?て、提督!?』
パッとスケッチブックを抱え込む。
『ごめん!驚かせた?邪魔した?!』
『あ…ぅ…』
『いえ…そんな事はなくて…』
『見ても良い?』
『……どうぞ』
『…街の港の灯台か?凄いな!まるで写真だ』
子供のように凄い凄いと連呼する提督。
『そ、そんな事ないですよ…』
『いやいや……ん?これは俺か?』
その絵には灯台の下で佇む彼の姿があった。
『あ…はい、以前街に買い物に行った時に見かけたので…何か…寂しそうと言うか…儚げな表情だったので……』
『それが物凄く印象に残ってて…』
モジモジと赤は言う。
意外そうな、恥ずかしそうな顔をしながら彼は言う。
『…そうか…ありがとう、よく見てくれてるんだな』
『俺は好きだなあ…君の絵』
その一言が嬉しくて…
あなたが好きで好きで…
ずっとあなたの絵を描いていた。
その日が来てしまった…。
「出掛ける?」
「はい」
「行きたいところは?ある?」
「あの…画材を……」
「画材を…一緒に買いに行きたいです」
てな訳で、やって来ました!
街のちょー大型デパート。
なんでも揃います、いや本当に。
ネジや草一本から車まで何でも揃います。
「うわぁ…ここ凄い品揃えが……」
目を輝かせて画材を見まくる秋雲。
「はあ…」
新作の液タブ…
データ化の波が押し寄せる中で…私はずっと旧式で…
スケッチブックに描いてる。
意外とお金が掛かるからなかなか買えなくて…
「お…液タブ?」
「…え?!知ってるんですか!?」
「持ってたよ…?」
「ええ!?!?」
「昔の会社で描いてたしねえ…ポップ作りとかして」
「は……初耳です…もっとそういうのには疎いかな…と」
「まあ…誰にも言ってないからねえ」
「液タブ買う?」
「い、いえ!私はアナログにやりますよ」
「便利だよー?」
「はう…でも…デジタルに抵抗が少し…」
「なら両方やっても良いんじゃないかな」
「……うう…お金が……我慢しますぅ」
「よーし!神崎さんオススメセットを授けよう」
「ええ!?」
「これはね機能多くていいよ」
「この筆はね…圧が……」
「そうと決まれば…机も……ライト…」
「あ…でも…君のあの部屋の机はそのままでいいかな?」
「え?」
「君があの机に向かって描くのはやめて欲しくないかなあ…」
あの机は…
あなたからもらった1番最初のプレゼント
それでずっと描き続けていた。
思い出の机…。
絵の具や、インクで汚れたり傷もあるけど…
それも年月の積み重なり…。
「でも…置くスペースないですよ?」
「大丈夫、考えはあるから」
と、何やら注文を始めた提督。
何のことだかわからないまま買い物は終わった。
カフェタイムはパンケーキ。
提督にお勧めされたチョコパンケーキはとても美味しかった。
というか…
目の前にあなたが居るだけで胸がいっぱいになるよ。
夕焼けがさして来た頃に帰路に着く。
「画材…楽しみにしててね?」
「うう…ありがとうございます…」
「あっ……夕焼けが綺麗ですねえ…」
「本当だ……」
この景色を目に焼き付けよう。
あなたと見る幸せなこの夕焼けを…。
ちらりと彼を見る。
彼は私に微笑みかけてくれる…。
「秋雲?」
「はい?」
私はこの瞬間を一生忘れない。
「これを受け取ってくれないか?」
夕焼けを浴びながら彼は一つの箱を取り出した。
わかる。
馬鹿でもわかる。
それが何か…どう言う意味か。
きらりと輝く幸せが目の前にあった。
「………良いん……ですか?私…で」
ダメだ。
こんなにも幸せな気持ちになるんだ…。
聞いた話だけでは描けなかった。
何度も想像した…この瞬間。
でも…描けなかった。
えっちな絵も同じ…未完成なのは…体験してないから…。
ああ…こんな気持ちなんだ…。
こんなに…
こんなに…
「…君に受け取って欲しいんだ」
「は………はいい…」
幸せで彼の顔が涙で歪んだ。
ダメだ!!
涙を拭ってそのシーンを…見ないとダメなのに…
嬉しくて嬉しくて涙が止まらないんだ。
「見てないと…覚えないとぉ…」
「……秋雲」
彼は私の涙を拭った。
「見てて…」
自然と涙が止まった。
少し潤んで霞むけど……
左手の薬指にそれははまった。
そして……
はじめての…キスだった。
「愛してる」
「わ、私も…愛しでまずううう」
止めどなく涙は溢れて来た。
ずっとあなたは私を抱き寄せてくれていた。
今日は一緒に寝る。
「……提督?」
「ん?何?」
「あの…」
「ん?もしかして…見たいの?」
「あう……でもですね?」
「見て描くだけなのは寂しいので……あ!でも提督とはああなりたいんで………その時が来たら…私を……」
「なるほど…」
「はい、体験した方が…わかりやすいかなと…」
「ん…わかった」
と、彼は抱き締めてくれる。
その温もりと匂いと…優しさに包まれて私は眠った。
これも幸せ…
絵は確かに完成には至らなかった。
でも…艦生をかけて作り上げて行きたいと思った。
あなたとの関係も…この絵も…。
指輪を貰ってはじめて絵が描けそうだと思った。
だから……あの絵の続きもそうありたい。
愛してますよ…提督。
彼女は描いた。
己の目に焼き付いて離れないあの場面を…
これから先、一生見られない…いや、見たくない場面を。
「………」
彼女は黙々と描いた。
思い出しながら…それを見つめながら…。
魂込めて…全身全霊で描いた。
アナログで描いた。
「できた……」
それは一枚の絵。
儚そうに、優しそうに…笑顔で差し出す彼の絵。
その手には…小さな箱から顔を出した輝く指輪。
この絵の前に立てば、まるで自分にプロポーズしていると錯覚を覚えそうなほどに…
今にも「受け取ってくれる?」と聞いてきそうなほどに…
そう…
プロポーズの瞬間だ。
もう夫婦だからこの先には見られない。
この人以外からのプロポーズは見たくない。
「秋雲〜ご飯行こ……って!?何その絵!?」
「あ!?!?姉さん…」
「凄いじゃないッ!!凄い……凄いしか言葉が出てこないのが悔しいけど…」
「どうしたの!?何の声……うおお!すげえ!!」
その声に釣られてやって来た人の声に釣られて…のループで彼女の完成品は皆に知れ渡った。
恥ずかしさのあまり、布団に篭って出てこない秋雲を皆は優しく引っ張り出した。
やっぱり目の前には本物が居て、笑ってた。
「ありがとう…秋雲」
「……は…ぅ」
「あーー!いいなあ!私も早く欲しいなあ」
時は変わって…
「〜♪」
彼女は今日も楽しく絵を描く。
ここは出版部。
写真部から変わってこの名称になった。
鎮守府内外の情報を取り扱ったり、新聞や雑誌等の制作を行う。
彼がプレゼントした机や画材もここにある。
彼の考えとは…こう言うことだったのだ。
部員は
部長兼顧問 神崎 救
漫画原稿担当 秋雲
取材、写真担当 青葉
情報処理担当 大淀
随時募集中
「………ふぅ!できた…」
「お?できた?オータムクラウド先生」
「うん!ばっちり!」
そう言う彼女の手には…漫画原稿があった。
「へえ…どんな本?」
「んとね…提督と私達の本…かなあ」
渡された原稿をペラペラとめくって読む。
「……あはは!こんなこともあったねえ…」
「懐かしいなあ…」
「今度のコミに出そうと思います」
「え!?」
「こんな日常が知れ渡るの!?まずくない!?」
「いいんですよー!!」
「タイトルも考えてあります!!」
「タイトルは……提督の鎮守府生活です!」
290話を超えてのタイトル回収回
こんな秋雲さんも出版部で揉まれるうちにヒャッハーなキャラに変わるかも……
少しでも…ええやん…と思って頂けたなら幸いです!
感想などお待ちしています!!