提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
今回は長いです!
ありがとうを伝える為に
きっかけとは小さなものです。
石粒よりも砂粒よりも小さな小さなキッカケ。
ほんの些細な事でも…
あなたには取るに足らない当たり前の事でも…
他の皆には記憶に留まらない過ぎ去る普通の事でも…
たったそれだけでも…私はあなたを好きになる。
あなたの言葉と態度…
私には十分すぎる言葉…嬉しかった…。
だから夢見て追いかけるんです。
もっと…理由が必要なら……
そう
あなたが私を呼んでくれたから…
それだけで…もう離れられなくなっちゃう。
だから伝えたいんです。
ありがとう…って。
こんにちは。
私は間宮さん達と同じ補給艦です。
領海拡大に伴って、大本営から派遣…というより、転属させて頂くことになりました。
はい、転属は私の希望です。
なぜかって?
あの提督さんに会いたくて…
私は、大本営の調理、配給担当でした。
真壁さん直下の艦娘でした…。
戦場の仲間に補給物資を届ける事が役目のはず…なのに…
毎日笑顔もなく、淡々とお料理を作るだけ…。
余計な交流も、会話もなく…
コレが美味しいかな?と、レシピ以外のものを作ると怒られました。
勝手なことするな…お前は言われた通りにすればいい…と。
逆らうなら解体処分だと。
艦娘も兵隊さんもみーんな表情は固くて…生きてるの?と聞きたくなるくらいでした。
それでも日々とは過ぎ去って行くもので…
そこに彼はやって来ました…。
若い男性の提督さん。
風の噂では…国家転覆を狙って、深海棲艦とも繋がってたらしいですよ。怖いですね。
彼への食事当番が私でした…。
その命令を頂いた時は正直嫌でした…。
私達の敵じゃないですか…。
そんな怖い人のお世話なんて…と考えていました。
嫌だなあと思いながらご飯を持って行きます。
…が、そこに居たのは…ぼろぼろの周りよりもかなり若い提督さんでした…。拷問…でしょうか?かなり傷だらけでした。
『…ご飯です』
『ああ…ありがとう……』
コトリ…と彼の前………の床に料理を置きます。
両腕を後ろで縛られている相手への献立が味噌汁とご飯だなんて…
『……頂きます』
屈辱だろう…。
こんな姿を晒すのは…。
『あの…お手伝いしますよ?』
『いや、そうしたら君が懲罰を受ける』
黙々と犬のように食べる提督…。
『残念だ……』
『…え?』
味付け…だめだったかな?と思う私に彼は言いました。
『こんなに美味しいのに…ちゃんと食べられないのが残念だ』
『…ッ』
『もしかして…君が作った…のか?』
『え…ええ』
彼はとんでもないことを言ったんです。
『ごめんね』
『折角作った美味しいご飯を…床に置かせてしまって…犬みたいに食べるしかなくて…それを見せてしまって…』
『本当にごめん…でも凄く美味しいよ…優しい味だ』
まさかそんな事を言うなんて
普通ならこの屈辱的な待遇に不満も…いや罵詈雑言を私に浴びせるでしょう。
なのに彼は…おいしい…と、私に申し訳ないって言うんです。
.
胸の中が何とも言えない感じになった私は彼にご飯を食べるお手伝いをしました。
スプーンを取り出して彼の口に運びます。
『…ダメだ!君が…』
『…これは私の…意思です』
『頑張って作ったご飯を美味しく食べて欲しいから…
『貴様っ!罪人に手を貸すのは違反だぞ!!』
『きゃあ!』
私は私兵に暴力を振るわれました。
『貴様ァァ!その人に何してんだッ!!』
彼は今までになかった表情で怒りました。
一瞬ビクッとした私兵さんでしたが…
『うるさいぞ!!』ドゴッ
私兵さん達は彼を痛めつけます。
『やめてください!私がやったんです!』
『ぐっ…俺をやれ!その代わり…その人に手を出すなッ!!』
『へぇ…生優しいんだな!』
その後も彼はずっと殴られてました…。
『ごめんなさい…私のせいで…』
『……美味しかった…ありがとう…ごめんねこぼしてしまって…』
もう一つの噂通りの人だった。
艦娘達に優しくて…体を張って…。
その時から私は彼に好意を抱きました。
毎日のご飯が…楽しみになりました。
お給金を少し私兵の方に渡したら…ご飯を食べさせることや話すことを許してくれました…。
『…お前も変わりもんだな…どうせコイツは死ぬのに…』
コッソリとレシピ以外のものをつくって食べてもらったりしました。
中でも気に入ってもらえたのは炊き込みご飯でした。
「…あ…この炊き込みご飯…めっちゃ好きな味だ」
「ほ、本当ですか?」
彼は言う。
「また食べたい!是非作って欲しい」
「落ち着いたら是非ウチに来て欲しい」
『……ッ』
ドキリとした。
そんな言葉を掛けられるなんて…
今が…こんな時でなければ二つ返事でOKなんですけどね。
知ってますか?
艦娘には…その言葉は告白と一緒なんですよ?
変わらない毎日に光が差した気がした。
出来るなら今すぐにでもこの拘束を取っ払って、壁を壊して一緒に逃げ出したい…!!
『…なら、絶対に生き延びてくださいね?』
そして…この夢、理想を…現実にしてください…。
それは彼が処刑される前まで…の楽しみだった…。
最後の日…
配膳する手が震える…。
ガクガク震えながら最後のご飯を食べてもらう。
彼は最後の最後まで自分で食べる事は叶わなかった。
「…て、提督さん…私」
涙目の私を彼は…
「大丈夫」
笑顔で彼はそう言った。
優しい提督さん…
私は…私は…祈ることしかできない自分が憎いです。
彼が凶刃に倒れる事はなかった。
鬼怒が由良の攻撃を受け止めたのだ。
そして彼と彼の仲間はは全てを覆した。
凄かった。
壁をぶち破って入ってきた西波島の面々。
敵だらけの中で手を挙げた猛武と呉の提督。
そして…私達ですら勝てないかもと思えるくらいの相手に怯まずに進んで行く提督さん…。
アレが絆なんだ…本物の愛なんだって思った。
想像した…。
私も…ああやってあの人と喜び合えたら…って。
だからできる事をしようと思って…
コソコソと物資を彼女達に渡した。
それしかできなかった。
彼は帰り際に私に会いに来てくれた。
『…ありがとう。辛かったけど君の美味しいご飯のお陰で何とか明るく居られたよ』
艦娘達に支えられながら…彼は私に微笑みかけてくれました。
『…待ってるからね』
『はい、必ず!!会いに行きます!あなたの元へ』
真壁さんに従事していたとして、軽くですが罰は受けました。
減刑を進言してくれたお陰で私はかなり軽く済みました。
『転属願い?西波島にか?』
御蔵閣下にお願いしました。
『はい…』
『…ふむ……しかしなあ…ここの人手も足らん…今すぐにと言うわけには行かぬが…構わんか?』
『はい!』
それからはやはり、彼の活躍を聞くと喜びが込み上げて…彼の危機を聞くと居ても立っても居られなかった。
『…早く行けるといいね』
と、大本営の大淀さんも間宮さんも言ってくれました。
長い期間待った気がします。
クーデターの時もじっと耐える日々が続いてました。
神崎提督さんは…と無事を祈る日々が続きました。
そのクーデターも終わって…
年末年始も終わった…今日…ついに!
『……おめでとう。惚れた奴の所に行けるぞ』
と、巌元帥が言ってくれました。
…長かった…。
『ありがとうございます!』
私は頭を下げて回った。
明日になれば移送艦と共に向かえるのだが…私は一刻も早く会いたくて一人で行けます!と、出発した。
それが不味かった。
結論から言おう。
私はそこで鎮守府へ辿り着くことなく…死んだ。
これは覆しようのない…そして、紛れもない事実だ。
「〜♪〜〜♪」
会えると言うだけで幸せで…敵のことなんか頭から離れていた。
ズドオオオン!!!!
私の体は直上爆撃に耐えきれず……。
反撃する暇も逃げる暇もなく散りました。
「くっ!!応戦…!!」
「きゃぁぁあ!!」
「ダメ!私は…私は!!絶対に辿り着くんだ!!」
辿り……
ズドオオオオオオン!!!!
あぁ…
あの人が美味しいって言ってくれた…炊き込みご飯…食べてもらえなかったなあ……
目の前…にお弁当…が…
コレは…ダメ…
と溢れる中身を必死で右手で掴み取った…。
カエリタイ…
サミシイ…
アイタイ…
アイタイ…
私は気がつくと異形と化していた。
所謂、深海棲艦…。
湧き上がる憎しみや悲しみ…怒り…。
何への怒りかも分からないが…
脳の中に残っていたのは…
行きたい…
会いたい…
だった。
微かに残ったその感情は私をある方向へと向かわせた。
どこかもわからない…その目的地は遠かった。
「はぐれ深海棲艦を発見!交戦しますッ!!」
『…ヤメテ…』
『アァ…行きたいだけナノニ…』
かつての仲間が私を傷つける。
痛い…
どんどんと削られる私…。
ダメ…ここで死ねない、
私は…
コレを届けるんだ…
右手に持ったリョウリ…ヲ…。
だから…こんな所で……
「何だ…あの深海棲艦…」
「こちらを無視して…どこに行くの?」
ズルズルと沈みかけの体を引きずって前に進む…
何日もかかってやっとの思いで辿り着いたのは小さな船着場?
ドシャリ…と桟橋に上がる。
前を見ると、そこに1人の人間が居た。
人間…!!
人間ッ!!!
憎いッ!!
なぜか憎い!
いや…
悲しい……
何故か悲しかった…
「君は…」
あ……
その顔は…
片隅の片隅に残された記憶の残滓が…きらりと光った。
『ア……ア…』
この人は何日も待ってたんだ…
誰を?
ナンデ?
「深海棲艦ッ!!」
艦娘が弓を構える……のを手で遮る人間。
何故攻撃しても来ない…
何故ソンナ悲しそうなカオをスルの…?
私は敵…戦わないノ?
その人間に手を伸ばす……何故か
そうしたかったから…。
この苦しみから解放されると思ったから…。
アレ?上手く前に進めない…
アレ?私の…足……
「ごめんよ……」
彼は膝をついて泣きながら言った。
「ごめんよ…神威ッ…」
彼は待っていた。
数日前に着任する筈だった艦娘を…。
一足早く出たと聞いて迎えを送ったが…見つからず。
結果はロストとなった。
でも来る気がした。
彼女は約束を守ると思ったから…。
来る日も来る日も待ち続けた…。
彼はもうすぐ死ぬであろう私を抱きしめて言った。
神威…
彼にはその見覚えのあるバンダナが…見えたから…。
ああ…そうだった…
私は補給艦の神威…。
『ア……テー…ク…サン…』
彼女は会いに来たのだ。
『タキコ……ハン……食べ……ください』
守り切った筈のご飯…
手で握りしめて…潰れたかなあ…?
彼が好きと言ってくれた炊き込みご飯を差し出すが…
「……ッ」
彼は言葉を失った…。
その手すら彼女には無かった…
「ありがとう……」
『美味し…スカ?……まだ作れ…す……から』
彼女にはもう、彼も見えていない…
ただ…そこに感じるだけ…。
彼には見えた…
笑顔の彼女が……
『あの時…守ってくれて…ありがとう…提督さん…
『最期が…好きな人の……手…中……なら……しあわー……
と言ったのを…
彼女の残された手はゴトリと地に落ちた。
そのまま彼女は…目を開く事はなかった。
彼とまた会うことを夢みた
彼に手料理を振る舞うことを夢みて待ち続けた彼女は……
彼女は傷ついて…それでも
ここへとやって来た…
命を賭して…俺の所へ…
いや…死のうとも…俺の元へ…思いを…伝える為に…。
「…提督さん…この人が言っていた…神威…さん?」
「指揮官…」
瑞鶴と桜三笠が声をかける…。
幾たびも色んな戦いに身を投じた…。
戦場には慣れた。
幾たびも色んな死に直面した。
なのに…どうしたものか…未だに死には慣れない。
慣れる事はない。
彼はいつだってその艦娘達の為に涙を流す。
大の男が…なんてナンセンスな言葉は誰も発さない。
ただ…その優しさが…嬉しかった。
彼は立ち上がった。
砕ける彼女を抱えて
間に合わなかった艦娘も居る。
でも彼は諦めない。
「……」
「瑞鶴…桜三笠ッ!!」
「…うん!行こう!提督さん!」
彼は彼女を抱えて走った。
ぼろぼろと崩れては消えて行く彼女を抱えて……
明石に通信を入れる瑞鶴。
「明石さん!私!瑞鶴よ!!建造装置…開けておいて!!」
いきなりどうしたの!?と言う明石に瑞鶴は走りながら説明する。
「提督が…彼女を離さない為にッ!!」
「……了解!!」
「皆ァ!!建造準備よ!!ありったけの資材をここに持って来て!!」
「りょうかい!」
「わかったわ!!」
「いくにゃー」
「妖精さん達もお願い!」
「おっ?りょうかいです!」
「みんなー!いくぞー」
建造装置へと辿り着いた時には彼女は手のひらに収まる程しか残ってなかった。
資材をぶち込んで彼女を一緒に入れて建造する。
だが…彼女だけは弾かれる。
だが…諦めたく無い。
「もう一度!!」
何度も何度も試した。
なのに出来上がるのは…失敗ばかり。
「……ッ!」
それでも諦めなかった。
何故?と言われると言葉にするのは難しい。
彼女を繋ぎ止めようと思う理由…
必要としてくれたから。
もっとお礼を言いたいから。
ちゃんと手料理を食べたいから。
沈んでも尚、会いに来てくれたから!!
"好き"と言ってくれたから。
だが…資材は有限である。
資材が!!
もう!!
でも!!
彼女が消えてしまう…。
「…提督さん?」
瑞鶴が動きが止まった彼に問いかける。
「これ以上は…」
…これ以上は鎮守府の運営に必要な資材…!
空にするということは…あってはならない…。
皆を犠牲には…できない
そう思い建造のスイッチから手を離そうとした時だった…
「もう……だm…
「使いなさいッ!!」
瑞鶴が叫んだ。
「…でも…コレ以上は…もう……だm
[ダメ]
その言葉を遮るように彼を桜三笠は引っ叩いた。
パァン!!!
周りの妖精さん達や明石、桜明石やベルファスト達は驚いた。
榛名や蒼オイゲンは「桜三笠さん!?」と言う。
ただ1人…瑞鶴だけは動じずに彼をジッと見つめた。
桜三笠は涙を滲ませて叫んだ。
「真面目を言うなッ!莫迦者ォッ!!」
「なッ?」
彼は目を点にした。
勿論、周りの皆も…
莫迦を言うな…だって?と。
彼が何を言っている?の言葉を言い始める前に彼女達は言った。
「提督さんはバカなの…!!それで良いのよ!!」
瑞鶴は言う。
「バカで真っ直ぐ進むのがお主なのだッ!!」
桜三笠が言う。
「でも…これ以上は……」
救が瑞鶴に言う。
「資材が足らない?」
「幾らでも使いなさいよ!!資材くらい私達が幾らでも取ってくるわよ!」
「……ッ!!で、でも…それはお前達にキツくて…ひもじくて…辛い思いを…」
桜三笠に向かって言う。
「ひもじい…?辛い思い?」
「お主と仲間が居れば平気だッ!!」
「お主はいつだって艦娘や…他の世界の者を諦めたりしなかった!!」
「どんな苦境も乗り越えてきた
「盾にもならぬような最もらしい理由如きで…進むのを止めるなッ!!」
「男なら……貫き通せッ!!」
「それが我らの愛する指揮官なんだッ!!」
「………」
彼が言葉を失ったその時…
「そうだよ〜提督」
と、通信が入る。
北上だった。
「ぽい!資材狩りに行ってくるっぽい!任せて!」
「任せるのー!提督のやりたいことは私達のやりたいことなのー!」
笑顔で指令を出してもいないのに遠征に行く彼女達。
「お前達……?」
全ては彼の為に。
彼の笑顔の為に。
彼のまだ見ぬ仲間の為に!
彼が前に歩けるように。
「たった一言言えばいい」
「俺の為に…動いてくれ!…と」
いつか彼女達は言った。
「お前は堂々として言えばいい」
「ただそれだけで良い…」と。
「…皆ぁ…俺に…力を貸してくれッ!」
「俺の我儘を聞いてくれええ!!」
「ありったけを…」
「ありったけをぶち込むッ」
「「「「おう!!」」」」
「「「言われなくても!!」」」
「「「「それでこそ…あなただ!」」」」
その中にもう一度彼女だったものと彼女のバンダナを入れる。
「届いてくれ…頼む…頼むッ」
建造装置に縋り付く彼を後ろから彼女は抱き締めた。
「……瑞鶴?」
「私は幸運艦よ?」
「私が隣に居れば…大成功間違いなしよ?」
「運が…足りないか?なら我も側に居よう」
「蒼雪風も居ります」
誰かが言った。
運が悪くとも…私達が居れば良くなります…と。
あなたの不運も私達が一緒に分かち合います…と。
彼は不運か?
否
彼は幸運なのだ。
誰かがきっと助けてくれるから
だが…それでも届かない時はある。
どれだけの何を積んでも届かないものはある。
全ての資材を使い切っても彼女は戻ってはこなかった。
「……」
「まだだッ!!」
声が後ろから聞こえた…。
そう…
彼女達は諦めない。
「お待たせ……」
「ぽぃ…」
北上や夕立が帰ってきた。
大量の資材を背負って…!!
「…提督…持って帰ったわよ!」
大井がドラム缶を何個も引きずって来た。
「お疲れ様!次はウチらが行くで!!大淀!行けるな?!」
「はい!!」
最低限の補給と休息で彼女達は資材の獲得に向かった。
「何でそこまで……」
「何でって…貰ってるからよ」
彼女達は彼から与えられているから。
深い深い愛を、慈しみを、優しさを…笑顔を…幸福を。
戦う事が…海へ出ることが1番の仕事で恩返しになるなら…
これ以上にない程の見せ場じゃあないか!!
「ヘーイ!!ダーリン!使ってネ♡」
金剛が帰ってきた。
「よっす〜持って帰って来たよ〜」
蒼ポートランドが
「指揮官様あ〜」
桜赤城が
「指揮官!褒めなさい!」
蒼エリザベスが!
「救君!ウチのも持ってきたから使って!!」
麗や猛武蔵達が…!
合理的だとか、非合理だの話じゃ無い。
ここでそうしなきゃ…
私達じゃなくなるから…!!
自分達がそうしたいから……そうするんだ!
「退け…ッ!深海棲艦!私の帰りを…この
「邪魔を…するなぁぁぁあ!!!!」
鬼神の如き戦とはこうあるものか。
長門砲撃は一撃で数体を吹き飛ばす。
赤城や大鳳達の艦載機は敵の対空に擦りもしない。
「…ここは……何があっても通りますッ」
かつてないプレッシャーを放つ鳳翔が…
「……雑魚に構う暇なんかないわ!!」
桜オイゲンが
「お前達如きが…邪魔するなッ!!」
桜エンタープライズが
「一刻も早く届けるんだ!!」
蒼オークランドや蒼瑞鶴が
「…私の邪魔を…するなッ!私だって指揮官の為に!!」
桜エリザベスと桜シリアスが。
「当たらない…私は速いよ…!!」
島風が!
「私達だって…資材ぐらい持てるんです!!」
間宮や伊良湖達ですら一緒に行って、帰ってはご飯の補給を作るという無茶をする。
彼女達は詳しく神威を知らない…。
どんな存在かは知っているが、それはデータ上での話である。
彼女個人に関しては伝聞で、彼に良くしてくれた…くらいのものだ。
なのに何故彼女達はそうするのか?
待ち続ける事を知っているから。
彼と言う…その温もりを知っているから。
例え沈もうとも…彼に会いに来たから。
姿を変えようと、命の間際に居ようとも…
彼に会いに来たから…
たったそれだけでいい
彼女達が手を伸ばす理由はそれだけで良い。
わかるよ…
だって…最高の提督さんだもの
だから彼女達は奮闘する。
まだ見ぬ仲間の為に必死になる。
桜ベルファストは言う。
「ご主人様は…たった一度だけ…私達に諦めろと仰った事があります」
「御蔵様の世界にただ1人取り残された時です」
「…ですが……あの時…もう一度開いたゲートを前に……そう仰ったご主人様を前に…諦めた方は居ませんでした」
「私達がピンチの時は…あなたはいつも励ましてくれました」
「私達が絶望に染まる中でも…ただ1人…皆に微笑み掛けてくれるんです」
と、榛名が言う。
「ですから…私達は何があっても諦めません」
桜長門が…
「マイネリーベが諦めそうなら…言うわ」
蒼オイゲンが…
「諦めるな…と」
蒼カールスルーエが…
「…どうやら…指揮官のバカはみーんなに伝染っていたようだ」
桜ティルピッツと桜ビスマルクが言う。
「見てる?ダーリン…これが…あなたが積み上げた絆なの」
金剛が彼の肩に手を添えて言う。
思いは人を突き動かす。
では…何が彼女達をそうたらしめるのか?
愛だろう。
そして…
彼女達が必死に足掻いて掻き集めた資材には
彼女達の思いが…愛が宿る。
「皆が居る…」
「そう…私達がいるから」
全員の思いを乗せて…彼女を迎えに行きましょう。
彼は…その愛を一身に背負い…
その
建造…開始……
提督さん?
朝ですよ?
ーん?朝か?
ご飯…できてますよ?
はい、提督さんの大好きって言ってくれた炊き込みご飯です。
ーお…ありがたいな。
うふふ…間宮さんほどじゃ無いですけど…私だって…料理しますよ?
やっと…普通に食べてもらえますね。
ーそうだな…本当に。
この夢を見るのは彼か?
それとも彼女か…ー?
優しげな夢の中に彼らは居た。
「…はっ!…け、建造は…??」
高速建造もできない程に使い果たし、皆の気力も果てかけ…
彼女は額に巻くものだけを残して消え…
それでも最後の最後に見た長い建造時間…
どうやら長時間に耐えきれずに寝落ちてしまってたらしい…明石達も同じようだ…。
遠征終了組も寄り添って寝ていた。
起きなくち「ご無理はダメですよ?」
誰かの声が聞こえて…優しく頭を撫でられた。
彼は気付く。
寒いはずの工廠が暖かい事に…。
周囲に寝る艦娘達には毛布が掛けられており、自分もまた例外ではなかった。
そして…さらに気付く。
自分は膝枕をされていることに…。
目が合って気付く…。
その心優しい声の主は……
ずっと追いかけた彼女だと言うことを…。
「か…もい?」
この光景は夢なのか?
目の前に彼女が居た。
あの時の姿のままの彼女が…。
目頭が熱くなる。
滲んだ涙で上手く彼女が見られない。
ぽたり…ぽたりと彼の頬に涙が落ちてくる。
それが今を現実だと教えてくれる。
彼女は声にならない声で答えた。
「は…い…神威で……す」
「あの時…助けて頂いた…神威です」
神威はそう答えた。
いや…話したい事は沢山ある。
「お前…あんなになってまで……なんで俺なんかを…」
「ずっとお礼を言いたくて…」
「…ありがとうございます」
「私を庇ってくれて」
「ありがとうございます」
「私の料理を美味しいと言ってくれて…」
「それだけの為に…?」
「はい…」
「…人を好きになるのに理由が必要なら……私を助けて頂いた事…私のご飯をあんな笑顔で食べてくださった事だけで十分です」
「でももっと理由が必要なら…」
「あなたが私の名前をずっと呼んでくれたから…です」
「…ッ!」
「そして……こんなに…こんなに力強く呼んでもらえるなら…」
「…もう離れる訳にはいかないじゃないですかあ」
「とてもお待たせしました」
「そして……とても…とてもとても長く待ちました…この瞬間を…」
「私の…運命の提督に会うこの瞬間を……」
「神威ッ!!!」
「提督さんんんん!!!」
彼は飛び起きて…私は彼に飛びついて。
彼女は感じる。
あぁ…冷たくない
やっと触れられた。
彼は感じる。
命の失われる冷たさじゃない。
彼女は今、ちゃんとここに居る。
漂う魂の海で…
ひたすら必死に誰かを呼ぶ声が聞こえた。
その声は…力強くて、優しくて…暖かくて…悲壮で…切なそうで…。
でもハッキリわかることが一つあった。
その声は
私を呼んでくれているんだと。
だから必死に走った。
走ったってのはおかしいかな?
うん、でも走ったの。
その声のする方へ…する方へ。
無我夢中で走ったの。
遠くて遠くて…辿り着けない程だったけど…
その光の方に行くとね…?
何か知ってるような…知らないような艦娘が居たの。
「どこに行きたいの?」って聞かれたから…
「
そしたらね
「まっすぐ行きなさいな…」
って言われたから…ずっとまっすぐ進んでたの…
そしたら…
光が強くなって…目が覚めたらここに居たんです。
なら…
皆が疲れ果てて寝てて…
ああ…私の為に…たくさん建造してくれたんだなあ…って思って…嬉しくて…。
「……補給艦…神威……やっと着任しました…」
彼女は泣いたまま敬礼した。
「…ん………よかったじゃん…提督…」
瑞鶴はその光景を見て涙する。
「…よがっだ…」
金剛は榛名にハンカチを貰いながら涙を拭う。
「提督!!おまたせ!持って帰っ………あぁ…」
時雨はその場に崩れ落ちた。
「…良かった…良かった…」
翔鶴も顔を手で覆い歓びに涙する。
たった1人の提督の為に
たった1人のまだ見ぬ仲間の為に
考えれば非合理だろう。
ましてや、鎮守府の資材を使い切り…あまつさえ艦娘達に遠征で資材を獲得させて、それをも使うのだから…
鎮守府の管理者として見れば失格だろう。
だが
彼女達は決してそんな目で彼を見ない。
誰もが喜んで自分の意志で行ったんだ!と
胸を張って言うだろう。
合理だから
非合理だからの世界ではない。
それが彼女達の歩む道だから…。
同じ補給艦の間宮が近付く。
「神威ちゃん」
「ま、間宮さん達まで…こんな傷だらけに……」
「ううん…いいの」
そんな事より…と間宮は続ける。
「神威ちゃん…いらっし…いえ、
お帰りなさい…
周囲を見渡すと皆が優しい顔でお帰りなさいと続いて言ってくれる。
彼女は照れくさそうに、嬉しそうに涙ながらに返事する。
「た、ただいま…」
「…本当に…本当に!ありがとうございます…うっ…うわぁぁあん」
「…あり…がとう…ございます…ありがとうござい…ます」
「ほ、補給艦…か…かも…神威……ただ今……ぐすっ……着任致しました!今後と…も…よろしくお願いします!」
震えた。
震えが止まらなかった。
私はまだ生きてるんだ…
そんな事があるはずが無いのに…私は居る…
ありがとうの言葉じゃ伝えきれない。
もっと最上級の言葉でも足りない。
こんなに幸せがあっていいものなのか?
「提督さん?朝ですよ?」
「……ん…きょうはオフだから…まだ……」
「朝ごはんの…お味噌汁と炊き込みご飯できてますよ」
彼は飛び起きた。
鼻を通る匂いが
彼女の存在を現実たらしめる。
この温かな湯気の向こうの彼女は本物なんだ…
「いただきます」
「うふふ…やっと普通に食べてもらえます」
「ん…やっぱりこっちのが断然美味い!」
「あーんされるのもよかったけどね?」
「いつでもしますよ?」
「…これが提督をオトした炊き込みご飯ですね」もぐもぐ
「…正妻として…味見……うまっ…」
「味噌汁もうまっ」
「おう!?」
「あ、お邪魔しています」
しれーーっと俺の部屋に居るメンバー…。
よく見たら皆、茶碗と箸持って外に並んでら…。
「神威…ゆっくりはできないらしいぞ?」
クスクスと笑いながら彼女は答えた。
「はい!でしたら食堂をお借りしましょう!提督さんの胃袋を掴んだ神威のお料理…披露します」
食堂に移ってご飯の支度をする神威。
間宮達も興味津々である。
並べられたご飯は
炊き込みご飯と卵焼きとお味噌汁。
頂きます…と食べ始める。
「…ん、美味しい…五航戦には真似できないわね」
「美味しい!ガサツな一航先輩には真似できないわね」
「あん?やんの?」
「お?やるわよ?」
取っ組み合いをする馬鹿は放置して…
笑顔で彼女に語りかける。
「ん!やっぱり美味しいよ」
「イアイライケレ…提督さん」
「みんなも…ありがとう」
皆のおかげで…今この時を噛み締められる」
「本当にありがとう」
彼は深く深く…頭を下げた。
「…当たり前でしょ?あなたの我儘くらい叶えられなくて何が私達よ」
「どんどん頼って甘えてね」
「私達だってそうするもの」
この日は……いや、変わらずにずっと笑顔に溢れていた食堂だった。
「し、しししし指揮官!いや!あなた!痛くなかったか?!すまない…叩いたりして…」
めっちゃ桜三笠に涙目で謝られたのは別の話。
はい、10000字超えの長編でした。
300話にちなんで
図鑑no.300の神威ちゃんに登場してもらいました。
え?改じゃない?
こまけえこたぁいいんだよぉぅ!
えっぐい流れからの…ハッピーエンド?
諦めそうな彼を叱咤し、支えるのは…やはり艦娘達。
だからこそあり得ない何かを起こすんですね。
みんな頑張りました。
うるっと来てもらえたら…嬉しい限りです。
早いもんで300話…。
ほのぼの日常とはどこにいったのか?
皆様のおかげでここまで来れたかと思います。
本当にありがとうございます。これからも応援頂けると嬉しく思います。
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