提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「こいつはな、俺の後輩で…今はブインを任せてあるんだ」
仙崎幸との出会いはそんな感じで始まった。
本当に普通。
大きな戦果を上げるわけでは無いが、住民や艦娘との関係は良好だったという。
ちょこちょこ遊びに来たが決まって
「この空の続く先には何があるかなあ」と聞いてきた。
「海の向こう?…島があって…海があって……島があって」
「……なら上は?」
「……上は…宇宙だろー」
「宇宙?」
「え?知らない?宇宙」
「空気もない…ほぼ無限に続く……うーーーん」
「人は住めないの?」
「ん…まあ…ほぼ不可能かな」
「住める環境も…あるかもだけどね」
「……宇宙…まもちゃんは行ったことあるの?」
「…ないないないない!」
「ねえ、まもちゃんは…死んだんだよね」
「守った人達に殺されるって…どんなものなの?」
「悲しいよね」
「艦娘の皆も同じだと思う」
「……」
「この戦いが終わってさ…皆が迫害されたりしなければいいなって…思うよ」
「何でそう思うの?」
「1番の武力を持ってる事になるからね」
「それを恐れる人は出てくると思うんだ…」
「……そうだよね」
「でも、そうなったら…皆を集めていっそのこと、国でも作ればいいんじゃないかな?」
「それだと俺達が侵略者側になるよ」
そんな話をしていた。
彼は軍を裏切るような理由がない。
何故?という疑念は晴れる事はない。
「……しかし……まさか…彼も迫害された……いや、まさか…」
そこに榛名達が走ってやってくる。
「ダーリンさん!お姉様は無事なんですか!?何でお姉様が!!」
「鳳翔さんや麗ちゃんまで!!」
「今すぐブインに出撃許可を!!」
猛武蔵達も尋常じゃない程に焦って戸惑っている。
無理もない、提督が攫われたのだから。
「待て…!今、桜達がブインに向かっていて、もうすぐ連絡を…
と言ったところで通信が入る。
もちろん桜達からだった。
「あー…桜だ。今ブインについた……正確にはブインより離れたところだな…」
「麗達は!?敵は!?」
猛武蔵が捲し立てるように問い詰める。
待て待てと宥めてから桜に話しかける。
「…ってことは…
「ああ…やべえとしか言いようがない」
「深海棲艦の鎮守府になってやがる…」
「地元住民は!?」
「…いや、人っ子一人居ねえ…」
「俺は少なくとも1人の生存者にも、死者にも会ってない」
「……大ちゃん…」
「…わかってる。無闇に攻め込んだりしない……」
「一旦…そっちに帰r「無事に帰られるとでも?」
冷たい声だった。
2人を含めてバッと振り返る…とそこには霧島…らしき艦娘の姿があった。
霧島…らしきというのを説明すると、霧島は呉にも舞鶴鎮守府にも存在する。
だが…こんなに白い霧島は居ない。
そう…本当に深海棲艦のような……。
「……姉貴…ここは俺がッ!!……大和ォ!!」
「はい!!」
グッと前に出る呉大和。
退避に移行した桜達。
『…さすがは姉弟……見捨てて逃げる判断も早い』
「……いや!虎はにげないッ!」
『おや?挑発に乗るんですか?舞鶴の虎は……まあ…いいですよ。2人の通信を介して聞いてるのでしょう?神崎…。あの人はここには居ない』
『………深い海のあるところ…そこで待つ…です』
「…深い海…?」
『さあ…ヒントはこれまでです!……私達の恨みの炎…その身を持って
知るがいい!!』
「大和ッ!!主砲––––––
主砲を展開する大和達の足に何かが絡みついた。
「なっ!?こ…これは」
「しまっ…
「大和!!川内ッ!!皆!しっかりしろ!!」
将大や桜の叫び声が響く。
周囲にはグッタリと倒れ込む呉艦娘達。
『…その程度で世界が守れるんですか?』
『その先にある悲しみも……』
『殺す価値すらない……』
「貴様ッ…!!」
腰にある銃でキリシマを撃つ桜。
が…その弾を桜に弾き返す。
「ぐっ……!?」
弾は桜の腹部に突き刺さる。
「姉貴ッ!!」
同じく銃を構える将大。
を…静止した桜。
「待て!俺と同じ目に会うだけだ…」
「……クソッ…」
『負け犬らしく帰りなさい?』
ケラケラとキリシマの笑い声が響いた。
「ぐっ……」
「姉貴ッ!姉貴ッ!!」
支える手が真っ赤に染まる。
「大和ッ!動けるか!!」
「…は、はい!なんとか!」
こんな屈辱が有るだろうか。
おめおめと敵前から逃亡するしかないなんて。
全く歯が立たないなんて!
姉がこんなになるなんて!
何とか一矢報いたい気持ちを無理矢理に抑えつけて将大は撤退命令を下した。