提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
少し湿っぽい話
この季節がやってきた…。
梅雨時期でジメジメして中々寝付けないもんで、門番をする川内と話をしていると…
ドンドンドンと鎮守府の門を叩く者が居た。
「ただいま遠征から戻ったであります!あきつ丸であります!」
初夏の前のそんな話だ。
「いやー…今回の遠征も大変でありました!資材はこちらに置いておくでありますね!」
「う…うん、お疲れ様…」
「あれ?もしや提督殿…このあきつ丸の事をお忘れでありますか?
南南東鎮守府より何年も前にこちらに配属になったじゃないですか!遠征ばかりでお忘れでありますか?」
「いや…そんな事はないぞ? 遠征任務ご苦労だった!傷もあるだろう!入渠して補給するように!」
「はっ!」
……俺の艦隊にあきつ丸は…居ない…。
ゲームをしていた時もこの世界でも。
そして何より…南南東鎮守府なんてものは無い。
そんな名前の鎮守府は存在しないのだ…。
なら彼女は…?
「あの、提督…」
と大淀が喋りかけてくる。
「何だお「只今戻ったであります!」
「「え?」」
「戻ったであります… 入渠はすぐ終わったでありますよ?」
いやいやいやいや!
どう見ても中破以上だったろ?高速修復剤は使ってないはずだ…。
「わかった、あきつ丸は補給を行い、部屋で休むよう……。部屋割が変わったからな…大淀、案内してやれ」
「えっ…あっ、はいっ!」
俺は明石のところへ向かった。
「あきつ丸の事…よね?」
「ああ 入渠が一瞬で終わったのは本当か?」
「ええ…でも、厳密に言うと0だったのよ」
「時間がか?どう見ても中破だろう!そんなことがあるはずが…」
「でも事実なのよ…」
うーんと唸る2人…そこに大淀がやってくる。
「提督…」
「彼女ははぐれ艦娘かもしれません」
鎮守府の崩壊、任務で帰投できなかった艦娘。
どこかにドロップし、どこの鎮守府にも属さない艦娘。
深海棲艦に倒されるか、
人への報復を恐れ雷撃の処分を受けるか、
拾われるか…
そんな存在が居るらしい。
入渠0の原因は長い間中破でいた事らしい。
もう傷は治らない…どころか、恐らく彼女はすでに限界なんだろうとのことだった。
彼女はその1人なのか?
恐らく彼女の言う鎮守府は想像上の鎮守府なんだろう。
彼女は提督に会いたくて会いたくて旅を続けたんだろう。
深海棲艦に襲われ 今日みたいに門を叩き追い返され、ボロボロになりながらここに辿り着いたんだろう…。
「あきつ丸をこの鎮守府のメンバーとして扱う」
それが俺にしてやれる事だった。
「金剛殿は相変わらず提督殿がお好きですな!」
「イェース!とーってもラブラブネー!」
「相変わらず鳳翔殿のご飯も、間宮殿のご飯も美味しいであります!」
「本当?嬉しいわ」
「し…島風殿…早いです 」
「あきつ丸おっそーーい!置いて行くよー!」
「はあ…立派な紫陽花の花ですな」
「すごいでしょう?僕らで育てたんだよ?」
そんな日があり…
「あきつ丸部隊!戦闘を開始するであります!」
以前からやっていたとのことで旗艦を務めてもらった。
無論 海域的にはそこまで危険で無い轟沈の可能性が低い所でだ
しかし、被弾しても沈む事はなかった。
「勝利であります!提督殿!」
「おおー!よくやってくれた」よしよし
「照れるであります…///」
「おいしーなー!あきつ丸ー!」
「でありますな!提督〜提督殿は昔からこのわらび餅が好きだったでありますなあ…」
艦娘達も最初はぎこちなかったが受け入れてくれて行った。
徐々に慣れ親しみ、俺の中でもあきつ丸が居るのが当たり前になっていた。
そんな日が続いたある日の夜
俺は目が覚めるとあきつ丸が窓際に立っていた。
「提督殿?起きたでありますか?」
「ん…寝れないのか?あきつ丸」
「はい…良かったら少し散歩をご一緒に…」
「あぁ…」
月明かりに映る彼女はいつもより白く儚げだった、
紫陽花の咲く道を歩く。
時雨達がお世話をする花がたくさん咲いていた。
「ありがとうございます提督殿」
「ん?何がだ?」
「あきつ丸は思い出したであります 自分がどんな存在か…。
ある日気づいたら海の上に居たであります。
深海棲艦に襲われ戦い…資材のある所で資材をかじり生きていたであります。何度か鎮守府の門を叩いたでありますが門前払いか…雷撃の処分から逃げるしかありませんでした…それでも私は提督に…自分の提督に会いたかったのであります」
「いつからだったか…私の心は壊れたであります…遠征中なんだ!配置転換の途中なんだ!と言い聞かせたであります…でも傷つけど傷つけど
現実は変わらなかったであります」
「寂しかった…辛かった…なんで私だけこうなの?と思ったであります。岩陰から…演習を、遠くから鎮守府を見るたびにそう思ったであります…皆輝いて見えたであります」
「あきつ丸…お前」
あきつ丸が涙を流していた。
体が淡く光っていた。
淡く…儚げに。
「提督殿…しってるでありますか?紫陽花の花は梅雨の時期だけしか咲かないらしいであります。雨が途切れると枯れてしまうとか…時雨殿が教えてくれました」
「あきつ丸!」
耐えきれなかった。
彼女に触れようと…抱きしめようとした。
そんなに辛い思いをして、それでもここまで来たじゃないか!
人を嫌いにならず…ずっとずっと探して来たじゃないか!
なのに…その手は彼女に触れる事なく彼女を透き通った。
「なっ…!?」
「確かに私の艦生は嫌なことばかりだったであります。人を恨んでないか?と言われたら…少し悩むところもあります。皆が輝いて見えて羨ましくて、寂しくて… 辛い旅だったであります」
ああ…彼女は…
「でもここ数日で艦娘としての生き方を謳歌できたと…思うで…あり…ますよ!」
「まだ大丈夫だろ!?!行くな!くそっ!このバケツで」
バケツを使ったが…高速修復剤は虚空を舞い地面に散らばるだけだった。
「高速修復剤がもったいないでありますよぉ」
「なら改造は!?」
ダメだ…触れる事すらできない!
これでは工廠に連れて行くことも…。
「レベルが少し足りないでありますよ…」
何故だ!何故何もできない?
何故彼女は消えなくては…と考えて思い出した。
中破…が続き体は限界だった。
相手の攻撃で轟沈しなかった。
入渠でも何も意味がない。
彼女はもう既に何もかも限界で…心だけで彷徨っていたのだ。
「あきつ丸ッ…お前は…」
「ありがとうございました提督殿!このあきつ丸!最後にとても幸せな瞬間を味わえましたであります!」
「提督殿と食べたわらび餅、一緒に育てた紫陽花の花、優しい皆さん…。 皆さんもありがとうございました!こんなわけの分からない奴を仲間と認めて…最後に良い思い出をくれて…本…当に…ぐすっ」
「行くなよ!お前はもうウチのメンバーなんだよ!頼む!行かないでくれよ!なあ!」
「それは無理であります……でも…そこまで言ってもらえて幸せ者であります!それだけで今まで生きて来て良かったと思えるであります!
だから最後にもう一つわがままを聞いて欲しいであります」
「何だ?」
「笑顔で見送って欲しいであります、そしてこんな艦娘が居たことをたまに…思い出して欲しいです 紫陽花の花の咲く季節にだけでいいであります」
「うっ…うあっ…」
行くのか?
俺は…どうしたら……
俺にできる事はないか!?このまま終わらせたくない!
「あきつ丸ッ!!!」
俺は涙を堪えず、彼女の名前を呼んだ 。
「はっ!!何でありましょうか!」
あきつ丸は綺麗な敬礼で返事をした。
「只今より!お前にもう一度、遠征の任務を言い渡す!!」
こんな言葉しか出ない…それでも!!彼女を本物にする!!偽物なんかで終わらせたりはしない!
「…提督殿……」
「長い長い遠征になるぞ!だが!お前にしか出来ない任務だ!!!
危険だろう。きついだろう。だが…それでも必ず…必ずっっ…戻ってこい!!俺は…信じて待っている!!!いつまでも…待っている!」
「…提督殿は…… 本当に… 」
「はっ!!!!確かに!あきつ丸!その任務承りました!!!必ずや!あなたの元に帰ってくるであります!どれだけ掛かろうと…必ずやあなたの元に!!!」
「 ありがとうございます…提督殿……」
お互い敬礼をしながらぐちゃぐちゃになった笑顔で言い合った。
そして…
彼女は光となって消えた。
「あきつ丸っ!!」
光を掴みにかかった。
でも手の中には何も残らなかった。
その手をぎゅっと握りしめて…。
泣いた!
ここ数日での思い出しかないのに…
泣いた。膝から崩れて泣いた。
救えなかった…何もしてやれなかった!
くそっ!くそおおおおおおっ!!
「提督…提督はよくやったよ…最後に偽物を本物に変えたんだ…幸せだったと思うよ?彼女は」
時雨だった。
いつの間にか皆が居た…。
「提督…」
と時雨が抱きしめてくれた。
俺は泣いた、子供のように泣いた… 。
誰も皆黙ってそばにいてくれた、誰も何も言わなかった。
彼女の育てた紫陽花が風に少し揺られていた。
それから時月日が経ち、またいつもの鎮守府に戻った。
執務室の一角には一緒にいつかに撮った写真が飾られてある。
相変わらず…ジメジメするなあ梅雨時期は…。
紫陽花の花が今年も咲いたよ!と時雨から報告を受けた。
窓から見える紫陽花は綺麗だった。
ふと、1人のメンバーを思い出し写真を見る。
写真に写る彼女は長い長い遠征に出ているメンバーだ…。
ボロボロの姿なのに満面の笑みを浮かべて敬礼する彼女だ…。
俺は今も帰りを待っている…
さてと、執務だな!
と大淀と書類作業を始める。
すると
コンコンと執務室の扉がノックされる。
「どうぞ」と大淀が言う
哨戒組の帰投報告の時間だろう。
「失礼します」
と扉を開けて彼女は入ってきた。
入ってきた彼女は何も言わなかった。
「て…提督ッ」
と、大淀は驚いていた。
何だ?と、俺も視線を大淀が向ける先に向けた…。
ああ… あぁ!!!
「提督殿!お待たせしました!!!!お約束通り!このあきつ丸!遠征から戻って参りましたであります!!!!!」
「いえ違うでありますな…ただいま遠征から戻ったであります!あきつ丸であります!!」
とどこかで聞いた台詞が聞こえてきた。
そこには、涙目で綺麗な敬礼をしながらあきつ丸が立っていた。
今年の梅雨のジメジメは嫌いじゃないな
と俺は梅雨の時期が少し好きになった
麗ちゃん編は現在作成中です!
間が空きそうな気がしてので投稿!
この話はストックからの解放となります
時系列的には少し先の話
ほぼ他の艦娘がそんなに出ない話でした
初期の頃から構想がありました
あきつ丸帰ってきたけど… 寂しのはいやだもの!
気付いたら30話超えてた…
お気に入りの数がっっ!!
ありがとうございます!
本当にありがとうございます!
これからも頑張れます!
麗ちゃん嫁回の次の回 (次回の次回)
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筆者の脳内にお任せ 「カオス」
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