提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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315話 あの空の向こう側 ⑨ 理想郷

……う……ん…

 

ここは……

 

 

 

 

 

「気が付いた…?」

 

「……麗…ちゃん幸ちゃん…?」

 

 

 

「…提督ッ」

迅鯨、金剛…桜赤城に鳳翔も居た。

 

 

 

 

 

 

「ここは……部屋?」

 

 

見知らぬ部屋だった…。

約1人を除いて。

 

 

 

 

「幸ちゃんの艦娘は…本当に君を空の向こう側に連れて行きたかったんだね」

 

 

 

 

彼女達は願った。

提督という1人の家族が認められる世界へ…。

 

傷付き、倒れていった仲間から繋いだ思いは最後の2人によって現実のものとなった。

 

「でも…2人は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

世界を超える。

一体どれほどのエネルギーが必要か…。

 

 

テレビをつけたら…

総理大臣が変わっただとか、芸能人が結婚しただとか、新型ゲーム機が発売されたとか…

 

 

 

 

 

 

「…ここが…私の目指した理想郷?」

 

「…程遠いと思うよ」

 

 

 

ワイドショーでは年間の自殺者が3万人を超えていると討論していた。

 

「……そんな…」

 

 

 

 

 

 

「……あ…」

 

 

『南の島パッケージツアー!!大海原でのクルージング!イルカやクジラに会いに行こう!ディナーはなんと!船の上!』

 

『豪華客船で行く!世界一周の旅!』

 

『マリンスポーツにスキューバダイビング!』

 

『大海原を一望!快適空の旅!』

 

 

CMでの広告や映像が流れる。

 

 

そんな平和な世界は彼女達にとってはきっと夢のまた夢だった。

 

 

「ほ、本当に…平和なんですね…海で船旅……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てかここどこ?どーやって帰る…?」

 

「私達…死んだのかな」

 

 

 

とりあえずここから出てみようと思って…ガチャリとドアを開ける…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おや?お客さんかな?」

 

 

 

 

目の前にはお婆さんが居た。

いつの間にか景色は変わって…振り返ってもあの部屋はなかった。

 

 

 

 

 

「「……ッ!」」

 

俺は唖然とした…。

 

 

 

 

 

 

 

「んー…君はどこかで…?」

 

「……」

 

 

 

 

「ふふっ……気のせいかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー!お兄ちゃん!誰ー!?」

 

「おねーちゃん!遊んでー!」

わらわらと子供達が群がる。

 

「…ハーイ!遊びまショー!」

鳳翔や金剛が相手をする。

 

 

 

「珍しいねえお客さんだなんて…まあ…掛けなさい」

「…って?おや?お嬢ちゃん達は…喧嘩でもしたのかい?傷だらけじゃないか…おいで?手当をしてあげよう」

 

あ…いや…

と麗と幸は遠慮するが、年寄りのお節介は受け取るもんだよ…と、お婆さんに気圧されて大人しく手当をしてもらう。

 

 

「ありやあ…原因は何だい?こんなにしちゃって…」

 

不思議と温かな声だった。

何だろう…全てを包み込んでくれそうな…

どこか懐かしい…感じ…。

どこかで感じたような…温かさ。

 

 

「僕は…幸せになりたかったんだ」

「だから…世界を超えたくて……仲間のお陰でここに来られたの」

「ねえ?おばあちゃん…ここは…理想郷?天国?」

 

 

「…うーん難しい話だねえ…世界が…とかは分からないけど…理想郷はどこにも無いよ」

 

「…ッ!!」

幸は少し表情を歪めた。

 

「だって…それはいつのまにか出来てるものなんだよ」

「お嬢ちゃんの繋いだ人達との絆…がね」

 

 

「誰も私達を認めてくれないなら?弾いてくるなら?」

 

 

「…そうさねえ…きっと誰かは君の味方になってくれるさね。それは君の今までの歩いてきた道が証明してくれるさね」

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃんは?」

と、麗の方を見る。

 

「わ、私は…そんな子の力になりたいんです。わかってもらえないかも知れないですけど…友達になりたいんです」

「あなたの周りにも幸せはあるって伝えたいんです」

 

 

「なら…根気さね。時間はかかれども…いつか伝わる日が来るよ。時にはそうやって殴り合いをしなくちゃならない時もあるけれど…」

 

 

 

 

彼女は2人をわしゃわしゃと撫でて抱き締めた。

 

 

 

 

 

「君達を見てるとね…昔に居た子を思い出すよ」

後ろを振り返るお婆さん。

後ろには少しだけ古びた建物があった。

 

 

「あの…ここは?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはね…孤児院さ」

「身寄りのない子を育てる…教会の孤児院さ」

 

「長いんですか?」

 

「もう…何十年になるかねぇ…」

「たくさんの子をここに迎えて…見送ったよ」

 

 

 

「あなたみたいな人が居るならここを出た子は幸せでしょうね」

桜赤城がにこやかに言う。

「幸せだよー!!」

と、子供達も大きな声で言い、金剛達が笑う。

 

 

 

そうでもないさ…と彼女は言う。

 

「ある子が居てねえ…」

「本当…ろくすっぽ帰らずに死んでお金だけ残して……」

「昔から…稼いでこの建物綺麗にしてあげる…ってね。コツコツ貯めては仕送りして…貯めては…貯めての子でねえ」

 

 

「ほら…アタシらの生活スペースは綺麗に広くなってるだろう?その子のお陰さね」

 

 

なるほど…確かに教会横の建物は新しかった。

畑やその他の設備も増えたらしい。

 

 

「凄いですねその子は」

「どんな人なんですか?」

 

 

 

「馬鹿な子だよ…」

 

「馬鹿…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死んでしまったんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…辛かったろうねぇ……」

「毎日しんどい思いをして…身を粉して…たくさん耐えて…」

「正しい事をして…殺されちゃうなんて……ねえ」

 

「殺された…んですか?」

 

「自殺なんかする筈ない…って思ってたよ。犯人も死んでしまったらしいけどね…」

 

 

 

 

「それから…保険金と手紙が届いてさ…本当に嬉しくない仕送りだったねえ」

 

 

「後を追うように逝った子も居てねぇ…」

 

 

 

「…どうか安らかに眠られるように毎日祈ってるよ…」

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですよ」

迅鯨が言う。

 

 

「…そのお二人のことは……ここで会ったことない二人は…」

「きっと幸せに今を生きている筈です」

 

 

 

「……」

「本当かい?」

 

 

「本当です」

迅鯨はハッキリと言い切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「会いにきてくれてありがとうね…救…秋穂」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ッッ!?!?!?」」」」

 

 

 

救は気付いていた。

最初に辿り着いた場所が…自分の部屋だった場所だと言う事を。

2人は気付いていた。

あの場所が…2人の育った場所だった所だと言う事。

 

 

 

 

 

「おや?何で分かった?って顔してるね」

「気付かないと思ったかい?何人の子供を見てきたと思ってるんだい?全員ちゃーーんと覚えてるさ」

 

 

え?!

え!?!?と、周りが2人を見つめる。

 

 

「私にとってはアンタらは子供なんだよ…。もっと顔をよく見せておくれ…」

 

「ああ…救は…学生の頃の顔だねえ…バイトしながら少しでも仕送りしてくれたねえ…アンタのお陰で…ここも…こんなに……」

 

「秋穂は……うん、外見は変わったけど…わたしにゃ…わかるよ…明るい笑顔で人気者だったねえ…。会えたんだね…救に…よかったねえ…」

ホロリと涙するシスター。

 

 

「…全く嬉しくないよ!!」

彼女は言った。

 

 

「……え…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きていてくれて…こそだろう?死んじまったら…それ以上ないじゃないか!!お金が無くて貧しくても…アンタ達が居てくれることの方が幸せなんだよ」

 

 

 

 

「…でも…幸せそうなら…良かったよ」

「信じられない体験だけどね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰らなくちゃいけないんでしょ?」

 

 

「…え…?」

 

 

「…私はね…アンタが小さい時から見てたんだ」

「…神職だからか…長いこと祈ってると……願いは叶うんだね」

 

 

「ずっとアンタらの事を祈ってたんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シスター…少しだけいいですか?」

 

「え?なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人は両脇からかつての家族に抱き着いた。

 

 

「おや?どうしたんだい?2人とも…湿っぽい話に…「…シスター……なっちゃん」

 

なっちゃんとは彼女の愛称である。

堅苦しいのが嫌だった彼女の為の…私達の呼び方。

 

 

 

「「ありがとう…」」

 

 

「こらこら…シスター夏枝と呼びなさい…まったく…」

 

 

 

 

 

「いついかなる時も…思いやりを持って」

「笑顔で前を向いて歩きなさい」

 

 

「……ッ!!」

それは教え…

私が2人…いや、皆に言い聞かせていた教え…。

 

 

「…ありがとう…」

 

 

「私もー!ハグプリーズ!」

 

「ずるい!私も!!」

 

「…私も」

 

「おや!?どうしたんだい?」

 

 

「わ、私も!!」

 

「僕も…」

 

 

 

 

「おやおや………」

 

 

「というか…救?これは何?はーれむと言うやつかい?」

 

 

「あ!紹介遅れました!私は…高速戦艦!金剛方1番艦!金剛デース!ダーリンとはケッコンしてマース!!」

 

 

「金剛?高速戦艦?…???ケッコン!?そ、そりゃあめでたいねえ……あ……」

 

気まずそうに迅鯨を見るシスターさん。

 

 

「私は鳳翔と申します。私もケッコンさせて頂いております」

鳳翔、桜赤城、麗も続く。

 

 

 

「…あ、アンタ…一体何をしてるんだい?」

 

「わ、私はまだだけど…その内ケッコンする予定です!」

 

「僕も…この人と一緒に居たい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…そうかい…こんな女の子が戦うのかい……世知辛いねえ…アンタも…戦いに…ねえ」

「でも…世界の為なら…精一杯やりな!そして………死ぬな」

「生きてこそ…明日も来るんだからね。それを忘れないでおくれ…」

 

 

 

「うん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは理想郷などではなかった。

世界を超えても別の世界があるだけだった…。

 

でも…確かに彼は私にとって…救いだった。

 

 

彼にとっては彼女が救いだったのだろう。

先の彼女の温かさは…彼にしっかりと受け継がれている。

 

彼の優しさは…私達を救った。

それは私であり、麗であり、艦娘であり…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、帰るんだろう?……そこの道をまっすぐ進みな。振り返るんじゃないよ?真っ直ぐに…真っ直ぐにに進みな」

 

 

 

 

 

帰りたくない。

皆で…またここで暮らしたい。

そう思えてしまう。

 

「ダメだよ…アンタにゃ…まだやる事が有るんだろう?途中で投げ出しちゃあ行けないよ」

 

 

 

 

 

もういっちゃうのー?なんて言葉を子供達は投げかける。

「こらこら…お兄ちゃん達はね…帰らなきゃならないんだ」

 

「そっか!またきてね!」

 

 

 

   

 

ちょっと…と、呼び止められて救と迅鯨以外が呼び止められる。

 

「あの子達をよろしくお願いします」

と、彼女が頭を下げた。

 

 

「きっとあなた達が居るからあんなに笑えるんだね…」

「…どうかあの子達を愛してやって欲しい」

 

「本当に無茶する子で…人一倍愛に飢えてるんだと思う。でも…あの子の優しさは…本物だから」

 

 

 

 

 

「愛してますとも…」

「そして…愛されてます」

そう彼女達が答える。

 

 

「あのね!僕……まも君のこと支えるよ!だって…僕は彼に救われたんだ!!だから…だから!!」

 

「ありがとうねえ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さあ早く!と急かされて歩かされる。

バイバイと背中から聞こえるが振り返らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

歩み続けているとフッと周りが暗くなった。

何も感じない暗闇。

 

 

「か、帰れるかなあ」

 

「暗くてどこに行けばいいか分からないよお!」

 

寄り添い合うが、そこは暗闇。

どう進めばいいかも分からなかった彼等は、夏枝の言った真っ直ぐに進めの言葉も忘れかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…幸ちゃん…こっち』

 

「え?」

 

『真っ直ぐ…だよ』

 

「その声は…」

 

『大丈夫…また会えるから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっち!こっちだよ!皆!」

 

 

幸に呼ばれて一緒にそっちへと走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして…

 

 

 

 

 

 

 

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