提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
……う……ん…
ここは……
「気が付いた…?」
「……麗…ちゃん幸ちゃん…?」
「…提督ッ」
迅鯨、金剛…桜赤城に鳳翔も居た。
「ここは……部屋?」
見知らぬ部屋だった…。
約1人を除いて。
「幸ちゃんの艦娘は…本当に君を空の向こう側に連れて行きたかったんだね」
彼女達は願った。
提督という1人の家族が認められる世界へ…。
傷付き、倒れていった仲間から繋いだ思いは最後の2人によって現実のものとなった。
「でも…2人は…」
「……」
世界を超える。
一体どれほどのエネルギーが必要か…。
テレビをつけたら…
総理大臣が変わっただとか、芸能人が結婚しただとか、新型ゲーム機が発売されたとか…
「…ここが…私の目指した理想郷?」
「…程遠いと思うよ」
ワイドショーでは年間の自殺者が3万人を超えていると討論していた。
「……そんな…」
「……あ…」
『南の島パッケージツアー!!大海原でのクルージング!イルカやクジラに会いに行こう!ディナーはなんと!船の上!』
『豪華客船で行く!世界一周の旅!』
『マリンスポーツにスキューバダイビング!』
『大海原を一望!快適空の旅!』
CMでの広告や映像が流れる。
そんな平和な世界は彼女達にとってはきっと夢のまた夢だった。
「ほ、本当に…平和なんですね…海で船旅……」
「てかここどこ?どーやって帰る…?」
「私達…死んだのかな」
とりあえずここから出てみようと思って…ガチャリとドアを開ける…
「…おや?お客さんかな?」
目の前にはお婆さんが居た。
いつの間にか景色は変わって…振り返ってもあの部屋はなかった。
「「……ッ!」」
俺は唖然とした…。
「んー…君はどこかで…?」
「……」
「ふふっ……気のせいかね?」
「あー!お兄ちゃん!誰ー!?」
「おねーちゃん!遊んでー!」
わらわらと子供達が群がる。
「…ハーイ!遊びまショー!」
鳳翔や金剛が相手をする。
「珍しいねえお客さんだなんて…まあ…掛けなさい」
「…って?おや?お嬢ちゃん達は…喧嘩でもしたのかい?傷だらけじゃないか…おいで?手当をしてあげよう」
あ…いや…
と麗と幸は遠慮するが、年寄りのお節介は受け取るもんだよ…と、お婆さんに気圧されて大人しく手当をしてもらう。
「ありやあ…原因は何だい?こんなにしちゃって…」
不思議と温かな声だった。
何だろう…全てを包み込んでくれそうな…
どこか懐かしい…感じ…。
どこかで感じたような…温かさ。
「僕は…幸せになりたかったんだ」
「だから…世界を超えたくて……仲間のお陰でここに来られたの」
「ねえ?おばあちゃん…ここは…理想郷?天国?」
「…うーん難しい話だねえ…世界が…とかは分からないけど…理想郷はどこにも無いよ」
「…ッ!!」
幸は少し表情を歪めた。
「だって…それはいつのまにか出来てるものなんだよ」
「お嬢ちゃんの繋いだ人達との絆…がね」
「誰も私達を認めてくれないなら?弾いてくるなら?」
「…そうさねえ…きっと誰かは君の味方になってくれるさね。それは君の今までの歩いてきた道が証明してくれるさね」
「お嬢ちゃんは?」
と、麗の方を見る。
「わ、私は…そんな子の力になりたいんです。わかってもらえないかも知れないですけど…友達になりたいんです」
「あなたの周りにも幸せはあるって伝えたいんです」
「なら…根気さね。時間はかかれども…いつか伝わる日が来るよ。時にはそうやって殴り合いをしなくちゃならない時もあるけれど…」
彼女は2人をわしゃわしゃと撫でて抱き締めた。
「君達を見てるとね…昔に居た子を思い出すよ」
後ろを振り返るお婆さん。
後ろには少しだけ古びた建物があった。
「あの…ここは?」
「ここはね…孤児院さ」
「身寄りのない子を育てる…教会の孤児院さ」
「長いんですか?」
「もう…何十年になるかねぇ…」
「たくさんの子をここに迎えて…見送ったよ」
「あなたみたいな人が居るならここを出た子は幸せでしょうね」
桜赤城がにこやかに言う。
「幸せだよー!!」
と、子供達も大きな声で言い、金剛達が笑う。
そうでもないさ…と彼女は言う。
「ある子が居てねえ…」
「本当…ろくすっぽ帰らずに死んでお金だけ残して……」
「昔から…稼いでこの建物綺麗にしてあげる…ってね。コツコツ貯めては仕送りして…貯めては…貯めての子でねえ」
「ほら…アタシらの生活スペースは綺麗に広くなってるだろう?その子のお陰さね」
なるほど…確かに教会横の建物は新しかった。
畑やその他の設備も増えたらしい。
「凄いですねその子は」
「どんな人なんですか?」
「馬鹿な子だよ…」
「馬鹿…?」
「死んでしまったんだよ」
「…辛かったろうねぇ……」
「毎日しんどい思いをして…身を粉して…たくさん耐えて…」
「正しい事をして…殺されちゃうなんて……ねえ」
「殺された…んですか?」
「自殺なんかする筈ない…って思ってたよ。犯人も死んでしまったらしいけどね…」
「それから…保険金と手紙が届いてさ…本当に嬉しくない仕送りだったねえ」
「後を追うように逝った子も居てねぇ…」
「…どうか安らかに眠られるように毎日祈ってるよ…」
「大丈夫ですよ」
迅鯨が言う。
「…そのお二人のことは……ここで会ったことない二人は…」
「きっと幸せに今を生きている筈です」
「……」
「本当かい?」
「本当です」
迅鯨はハッキリと言い切った。
「会いにきてくれてありがとうね…救…秋穂」
「「「「ッッ!?!?!?」」」」
救は気付いていた。
最初に辿り着いた場所が…自分の部屋だった場所だと言う事を。
2人は気付いていた。
あの場所が…2人の育った場所だった所だと言う事。
「おや?何で分かった?って顔してるね」
「気付かないと思ったかい?何人の子供を見てきたと思ってるんだい?全員ちゃーーんと覚えてるさ」
え?!
え!?!?と、周りが2人を見つめる。
「私にとってはアンタらは子供なんだよ…。もっと顔をよく見せておくれ…」
「ああ…救は…学生の頃の顔だねえ…バイトしながら少しでも仕送りしてくれたねえ…アンタのお陰で…ここも…こんなに……」
「秋穂は……うん、外見は変わったけど…わたしにゃ…わかるよ…明るい笑顔で人気者だったねえ…。会えたんだね…救に…よかったねえ…」
ホロリと涙するシスター。
「…全く嬉しくないよ!!」
彼女は言った。
「……え…」
「生きていてくれて…こそだろう?死んじまったら…それ以上ないじゃないか!!お金が無くて貧しくても…アンタ達が居てくれることの方が幸せなんだよ」
「…でも…幸せそうなら…良かったよ」
「信じられない体験だけどね…」
「帰らなくちゃいけないんでしょ?」
「…え…?」
「…私はね…アンタが小さい時から見てたんだ」
「…神職だからか…長いこと祈ってると……願いは叶うんだね」
「ずっとアンタらの事を祈ってたんだから」
「シスター…少しだけいいですか?」
「え?なんだい?」
2人は両脇からかつての家族に抱き着いた。
「おや?どうしたんだい?2人とも…湿っぽい話に…「…シスター……なっちゃん」
なっちゃんとは彼女の愛称である。
堅苦しいのが嫌だった彼女の為の…私達の呼び方。
「「ありがとう…」」
「こらこら…シスター夏枝と呼びなさい…まったく…」
「いついかなる時も…思いやりを持って」
「笑顔で前を向いて歩きなさい」
「……ッ!!」
それは教え…
私が2人…いや、皆に言い聞かせていた教え…。
「…ありがとう…」
「私もー!ハグプリーズ!」
「ずるい!私も!!」
「…私も」
「おや!?どうしたんだい?」
「わ、私も!!」
「僕も…」
「おやおや………」
「というか…救?これは何?はーれむと言うやつかい?」
「あ!紹介遅れました!私は…高速戦艦!金剛方1番艦!金剛デース!ダーリンとはケッコンしてマース!!」
「金剛?高速戦艦?…???ケッコン!?そ、そりゃあめでたいねえ……あ……」
気まずそうに迅鯨を見るシスターさん。
「私は鳳翔と申します。私もケッコンさせて頂いております」
鳳翔、桜赤城、麗も続く。
「…あ、アンタ…一体何をしてるんだい?」
「わ、私はまだだけど…その内ケッコンする予定です!」
「僕も…この人と一緒に居たい」
「…そうかい…こんな女の子が戦うのかい……世知辛いねえ…アンタも…戦いに…ねえ」
「でも…世界の為なら…精一杯やりな!そして………死ぬな」
「生きてこそ…明日も来るんだからね。それを忘れないでおくれ…」
「うん…」
ここは理想郷などではなかった。
世界を超えても別の世界があるだけだった…。
でも…確かに彼は私にとって…救いだった。
彼にとっては彼女が救いだったのだろう。
先の彼女の温かさは…彼にしっかりと受け継がれている。
彼の優しさは…私達を救った。
それは私であり、麗であり、艦娘であり…。
「さて、帰るんだろう?……そこの道をまっすぐ進みな。振り返るんじゃないよ?真っ直ぐに…真っ直ぐにに進みな」
帰りたくない。
皆で…またここで暮らしたい。
そう思えてしまう。
「ダメだよ…アンタにゃ…まだやる事が有るんだろう?途中で投げ出しちゃあ行けないよ」
もういっちゃうのー?なんて言葉を子供達は投げかける。
「こらこら…お兄ちゃん達はね…帰らなきゃならないんだ」
「そっか!またきてね!」
ちょっと…と、呼び止められて救と迅鯨以外が呼び止められる。
「あの子達をよろしくお願いします」
と、彼女が頭を下げた。
「きっとあなた達が居るからあんなに笑えるんだね…」
「…どうかあの子達を愛してやって欲しい」
「本当に無茶する子で…人一倍愛に飢えてるんだと思う。でも…あの子の優しさは…本物だから」
「愛してますとも…」
「そして…愛されてます」
そう彼女達が答える。
「あのね!僕……まも君のこと支えるよ!だって…僕は彼に救われたんだ!!だから…だから!!」
「ありがとうねえ…」
さあ早く!と急かされて歩かされる。
バイバイと背中から聞こえるが振り返らない。
歩み続けているとフッと周りが暗くなった。
何も感じない暗闇。
「か、帰れるかなあ」
「暗くてどこに行けばいいか分からないよお!」
寄り添い合うが、そこは暗闇。
どう進めばいいかも分からなかった彼等は、夏枝の言った真っ直ぐに進めの言葉も忘れかけていた。
『…幸ちゃん…こっち』
「え?」
『真っ直ぐ…だよ』
「その声は…」
『大丈夫…また会えるから』
「こっち!こっちだよ!皆!」
幸に呼ばれて一緒にそっちへと走る。
そして…