提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
背後からいきなり掛かった声。
ヒッ…と言う小さな悲鳴と一緒に振り返る。
「て、提督!?」
目の前には提督が手をひらひらさせながら笑っていた。
「ど、どうやってここに!?」
「ん?船で」
「いやいや!夜行は危ないですよ!」
そんな事を言ってる場合では無いが…
実際にそうだ。
昼間に比べて活発な動きもなく、また…西波島近海は然程に深海棲艦の往来はない。
だが…それはあくまで通常時である。
夜戦が可能な空母も居れば、通常の敵も存在する。
ましてや、今のこの時は灯台なんて敵の的でしか無い。
本来なら船が迷わぬように存在を示すものだが、深海棲艦の跋扈するこの海では「人間の住処はここにあるぞ!」と言っているようなものだ。
逆を言えば、そこに群がろうとする輩を撃退し続ける事によって『あそこには近付かない方が良い…』と知らしめる事にもなるが…
今はまだ、完全たる安全海域と言うわけではないのだから。
艦隊を指揮する以上、夜戦がどれだけ危険かは彼が1番よく知っている筈だ。
なのに船で来たと言う。さらには黙って来たと言う。
「…優秀な娘達が見張っててくれるからね」
彼は悪戯に笑いながら言う。
「……ッ!でも……」
と言う言葉以上の言葉は出てこなかった。変に脱力してしまったのだ。
「てか…寒いのに…平気?」
「いや、提督こそ……あ!少し待ってください」
「それで…どうされましたか?」
素朴な疑問を率直に尋ねる。ホットチョコミルクを差し出しながら。
視察かな?それとも…私の経歴を調べて…まさか…
受け取った彼はそれを見て一瞬…ニコリと笑った気がした。
冷えたであろう手をカップで温めながら一口それを飲んで…「あったかい〜〜」と言う。
そして……
「目的は達成された!」
とニヤリと笑って言った。
「……え?」
「来た甲斐があったよ」
「な、何ですか!?目的って…これじゃあ…まるで私に会いに来て、チョコミルクを飲みに来たみたい……な……あっ…
不意に川内さんの事を思い出した。
バレンタインのチョコだ〜と言う言葉を。
「…まさか……このためだけに?」
「うん、その通り」
「なんで?」
「寂しかったから?そして君を寂しくさせない為かな…」
「寂しくなんか無いですよ?それに提督の周りには…たくさんの…艦娘達が居るじゃ無いですか」
「…。夜警班のローテに灯台も組み込もうと思うんだけど」
「え?」
やめてください。
私は戦えないからここにいるんです。私にしかできないことをしたいから…私は!私は!
「大丈夫ですよ!?これは私にしか…観測船の私にしかできないこと…なんです!」
「君にしかできないこと?」
「はい!それを奪われたら…私は」
「君にしかできないことって…他にあるよ」
彼はそう言った。
そんなものあるはずは無い。
臆病で逃げて…戦えずに遠回りしかできない
卑怯な私になんか……
「え…な、何ですか?」
「自分を偽らないこと」
「…ッ!!!」
「…色々あったんだと思う。でも…それも含めて君は俺の仲間であり、大切な人なんだから…」
「や、やめてください!!私は…私は逃げたんです!そんな卑怯な艦娘が馬鹿みたいにもう一度戻って痩せた自尊s「逃げたって良いじゃない」
私の言葉を遮ったのは…提督でも無かった。
「か…がさん?」
提督も驚いていたが、加賀がそこに居た。
加賀は厳しくも優しい表情で語りかけた。
「私も一度は逃げたわ…退役して……自分を納得させて…日々を過ごしたわ。そして…仲間に気付かされて…考えて…戻ってきた。大きく遠回りをしてね……」
「その時も、昔も、色んなことを見てきたわ…あなたと同じ…。志半ばで散った者も、悔しさと憎しみの中で沈んだ者も…」
「目を逸らしたい現実も何もかも」
「少しくらい遠回りしたっていいの…時には逃げても良いの」
「でも…自分を騙して騙して納得させるのは…ダメだと思うの」
「…ッ…!!」
「ねえ?宗谷?その為に…あなたほ全てを受け止めるために…仲間は…私達は居るのよ」
「少なくとも…提督は夜の海を1人で超えてあなたに会いに来るくらいあなたを大切に思ってるわ」
「…なぜです?」
「ん?」
「何で私に?メリットも何も無いですよ?優しくもなければ何も!!」
「メリットとかで動かないからわかんないけど……」
「優しいよ?君は」
「ええ、それは私も知ってるわ」
2人は意外な事を口にした。
「何が……」
「コレ」
彼はマグカップを指差した。
「それが…一体何…ですか…」
「あなたが提督に出してあげたんじゃない……あの時に…」
灯台から街を見る。
珍しく灯台の下に誰かが居た。
誰かと待ち合わせをしているのかな?
来る日も来る日もその人は灯台の下にいた。
服装的に軍人…いや、鎮守府関係の提督だろうか?
仲間の帰りを待ってるのかな?なんて思った。
ふと…気になって…声を掛けた。
寒く無いですか?…と。
寒いね…でも大丈夫!とその男性は答えた。
毎日ここに居ますね…と言った。
うん!と言った彼に、来ないかも知れなくても待つんですか?と聞いた。艦娘や仲間なら尚更帰ってこない可能性が高いのに…って思った。
そうしたいから待つんだよと返ってきた。
不思議な人だな…って思った。
どうぞ、寒いですから…と言って私が差し出したのは一杯のホットチョコミルク。
ありがとう…嬉しいよ!
と彼は笑顔でそれを口に運んだ…。
「あ……」
そうだ…この人なんだ。
だから…あの時に…カップを見て笑ったんだ…。
「あの時の…覚えて……」
「忘れるわけないさ…あんな優しい顔した子を」
「でも何で…加賀さんが…」
「私も見てましたから…」
「街を優しい顔で見るあなたを、提督にチョコを出すあなたを」
彼女達は知っていた。
宗谷の優しさを…。
「だから…次は君にそれを分けたくて…」
「それ?」
「俺達の暖かさ?って奴かなあ?」
「どんな君でも受け止めることのできる仲間をね」
「だから…君の口から寂しいってききたかったんだ」
「何を……」
スッと外を指差した加賀。
私は外に出て海を見る…
其れはかつて見た景色。
戦地から帰った私に…仲間が向けた姿。
鎮守府で待つ私に戦地から帰った仲間が向けた姿。
手を振る西波島の仲間が居た。
たくさん…たくさんの鎮守府の仲間が。
「宗谷〜!!」
「びっくりしたでしょ?」
「うそ……なんで…」
彼女を皆は見ていた。
灯台の子と知っている子も居た。
ただ、復役した彼女はある意味、塞ぎ込んでおり…どう接して良いかわからないのも事実だった。
だが、川内は何かを察した。
だから静まる鎮守府のメンバーを叩き起こした。
『私達らしく…ぶつかろう!』と。
だから来たのだ。
行動を起こすなら…思い立った時だ!と。
ずっと見てきた。
平和な海も、人の営みも…
戦う艦娘も、喜び合う仲間達も…
でも本当はそこに混じりたかった。
そこの一部になりたかった。
傍観するのでなく、寂しいと言える場所が…仲間が…
言い訳も何も要らなくて、本音で…居られる場所が…
「……呼んでるぞ、宗谷」
「出てきてみないか?閉じこもった世界から…」
「………良いんですか?」
「こんな艦娘でも…」
「良いに決まってるじゃん!!」
「私達…仲間でしょう!家族でしょ!」
「妹の分まで甘えたげるわよ!」
「てか!甘えておいで!!」
戦えなくったって‥仲間なんだよ!
一緒に乗り越えようよ!!
気が付いたら思わず彼女達の方に走って行っていた。
仲間は…優しく私を受け止めてくれていた……。
「…うう……寂しかった…もっと…もっと私が…こんな自分…」
「今からたっぷり時間をかけて…色々やろうよ」
「私達だからこそ出来ることもあるんだよ?」
「そうそう!ゆっくりやっていこうよ…」
久しぶり大声を上げて泣いた気がする。
今日も、私は灯台に居る。
夕焼けに差し掛かって…人の営みも変わる頃を見つめていた。
「交代の時間だよー!」
「うん!ありがとう」
「…あ!仕事始め前のアレ…いい?」
「うん、できてるよ?」
私はいつものを彼女に差し出す。
「………ふぅーー!!やっぱり宗谷のチョコミルクは美味しいよ!これで頑張れるね!」
「大袈裟だよ!」
「そんなことないって!」
「さ!帰ったら提督と夕飯食べるんでしょ?早く帰った帰った!」
「う、うん!じゃあ…お疲れ様!」
「はいよー」
ほんの少しずつ…戦地へも出るようになってきた。
開けた世界は…明るかった。
あの時の提督と皆が海を照らす灯台のように…私を照らしてくれた。
私は笑顔で帰路に着いた。
「宗谷!ただいま戻りました!」
「おかえり!お疲れ様!ご飯…行こうか」
「はい!」
「あ……食後に…あれお出ししますね」
「うん、寒い日の楽しみになったよ」
2人で笑いながら食堂への道を歩く。
「もし」
「うん?」
「もしあの時私が寂しいって呟かなかったらどうしてたのですか?」
私の突然の問いに…彼は、さも当たり前のように言う。
「言うまでこっそり毎日行ってたかな」
「…ッ!も、物好き…ですね」
「それは君もよく知ることだろう?」
「………はい」
鎮守府から灯台が見えた。
私の世界そのものだった場所…。
そして…その私と皆を繋いだ…大切な場所。
鎮守府の窓から見えた灯台は今日も小さく輝いていた。
少しでもお楽しみ頂けたら幸いです!
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