提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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337話 海と灯台守と温もりと ②

背後からいきなり掛かった声。

ヒッ…と言う小さな悲鳴と一緒に振り返る。

 

 

 

 

「て、提督!?」

目の前には提督が手をひらひらさせながら笑っていた。

 

「ど、どうやってここに!?」

 

「ん?船で」

 

「いやいや!夜行は危ないですよ!」

そんな事を言ってる場合では無いが…

実際にそうだ。

昼間に比べて活発な動きもなく、また…西波島近海は然程に深海棲艦の往来はない。

だが…それはあくまで通常時である。

夜戦が可能な空母も居れば、通常の敵も存在する。

 

ましてや、今のこの時は灯台なんて敵の的でしか無い。

本来なら船が迷わぬように存在を示すものだが、深海棲艦の跋扈するこの海では「人間の住処はここにあるぞ!」と言っているようなものだ。

 

逆を言えば、そこに群がろうとする輩を撃退し続ける事によって『あそこには近付かない方が良い…』と知らしめる事にもなるが…

今はまだ、完全たる安全海域と言うわけではないのだから。

 

 

艦隊を指揮する以上、夜戦がどれだけ危険かは彼が1番よく知っている筈だ。

なのに船で来たと言う。さらには黙って来たと言う。

 

 

 

「…優秀な娘達が見張っててくれるからね」

彼は悪戯に笑いながら言う。

 

「……ッ!でも……」

と言う言葉以上の言葉は出てこなかった。変に脱力してしまったのだ。

 

 

「てか…寒いのに…平気?」

 

「いや、提督こそ……あ!少し待ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで…どうされましたか?」

素朴な疑問を率直に尋ねる。ホットチョコミルクを差し出しながら。

視察かな?それとも…私の経歴を調べて…まさか…

 

 

 

 

 

受け取った彼はそれを見て一瞬…ニコリと笑った気がした。

冷えたであろう手をカップで温めながら一口それを飲んで…「あったかい〜〜」と言う。

そして……

 

「目的は達成された!」

とニヤリと笑って言った。

 

 

 

「……え?」

 

「来た甲斐があったよ」

 

 

 

 

「な、何ですか!?目的って…これじゃあ…まるで私に会いに来て、チョコミルクを飲みに来たみたい……な……あっ…

 

 

不意に川内さんの事を思い出した。

バレンタインのチョコだ〜と言う言葉を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさか……このためだけに?」

 

 

「うん、その通り」

 

 

「なんで?」

 

「寂しかったから?そして君を寂しくさせない為かな…」

 

「寂しくなんか無いですよ?それに提督の周りには…たくさんの…艦娘達が居るじゃ無いですか」

 

「…。夜警班のローテに灯台も組み込もうと思うんだけど」

 

「え?」

 

 

やめてください。

私は戦えないからここにいるんです。私にしかできないことをしたいから…私は!私は!

 

「大丈夫ですよ!?これは私にしか…観測船の私にしかできないこと…なんです!」

 

「君にしかできないこと?」

 

「はい!それを奪われたら…私は」

 

 

「君にしかできないことって…他にあるよ」

 

 

彼はそう言った。

そんなものあるはずは無い。

 

臆病で逃げて…戦えずに遠回りしかできない

卑怯な私になんか……

 

 

「え…な、何ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自分を偽らないこと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ!!!」

 

「…色々あったんだと思う。でも…それも含めて君は俺の仲間であり、大切な人なんだから…」

 

 

「や、やめてください!!私は…私は逃げたんです!そんな卑怯な艦娘が馬鹿みたいにもう一度戻って痩せた自尊s「逃げたって良いじゃない」

 

 

 

 

私の言葉を遮ったのは…提督でも無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か…がさん?」

 

提督も驚いていたが、加賀がそこに居た。

加賀は厳しくも優しい表情で語りかけた。

 

 

 

 

 

「私も一度は逃げたわ…退役して……自分を納得させて…日々を過ごしたわ。そして…仲間に気付かされて…考えて…戻ってきた。大きく遠回りをしてね……」

 

「その時も、昔も、色んなことを見てきたわ…あなたと同じ…。志半ばで散った者も、悔しさと憎しみの中で沈んだ者も…」

「目を逸らしたい現実も何もかも」

 

 

 

 

 

 

「少しくらい遠回りしたっていいの…時には逃げても良いの」

 

「でも…自分を騙して騙して納得させるのは…ダメだと思うの」

 

 

 

「…ッ…!!」

 

 

「ねえ?宗谷?その為に…あなたほ全てを受け止めるために…仲間は…私達は居るのよ」

 

「少なくとも…提督は夜の海を1人で超えてあなたに会いに来るくらいあなたを大切に思ってるわ」

 

 

 

「…なぜです?」

 

「ん?」

 

 

 

「何で私に?メリットも何も無いですよ?優しくもなければ何も!!」

 

 

 

 

「メリットとかで動かないからわかんないけど……」

「優しいよ?君は」

 

「ええ、それは私も知ってるわ」

 

2人は意外な事を口にした。

 

 

 

 

 

「何が……」

 

 

 

 

「コレ」

彼はマグカップを指差した。

 

 

「それが…一体何…ですか…」

 

 

 

 

 

 

「あなたが提督に出してあげたんじゃない……あの時に…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

灯台から街を見る。

珍しく灯台の下に誰かが居た。

誰かと待ち合わせをしているのかな?

来る日も来る日もその人は灯台の下にいた。

 

服装的に軍人…いや、鎮守府関係の提督だろうか?

仲間の帰りを待ってるのかな?なんて思った。

 

 

ふと…気になって…声を掛けた。

 

 

寒く無いですか?…と。

 

寒いね…でも大丈夫!とその男性は答えた。

 

毎日ここに居ますね…と言った。

うん!と言った彼に、来ないかも知れなくても待つんですか?と聞いた。艦娘や仲間なら尚更帰ってこない可能性が高いのに…って思った。

 

そうしたいから待つんだよと返ってきた。

 

 

不思議な人だな…って思った。

どうぞ、寒いですから…と言って私が差し出したのは一杯のホットチョコミルク。

 

 

ありがとう…嬉しいよ!

と彼は笑顔でそれを口に運んだ…。

 

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

そうだ…この人なんだ。

だから…あの時に…カップを見て笑ったんだ…。

 

 

「あの時の…覚えて……」

 

「忘れるわけないさ…あんな優しい顔した子を」

 

「でも何で…加賀さんが…」

 

「私も見てましたから…」

「街を優しい顔で見るあなたを、提督にチョコを出すあなたを」

 

 

 

 

彼女達は知っていた。

宗谷の優しさを…。

 

 

 

 

「だから…次は君にそれを分けたくて…」

 

 

 

 

「それ?」

 

「俺達の暖かさ?って奴かなあ?」

「どんな君でも受け止めることのできる仲間をね」

 

「だから…君の口から寂しいってききたかったんだ」

 

 

 

 

 

「何を……」

 

 

スッと外を指差した加賀。

私は外に出て海を見る…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れはかつて見た景色。

 

戦地から帰った私に…仲間が向けた姿。

鎮守府で待つ私に戦地から帰った仲間が向けた姿。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手を振る西波島の仲間が居た。

 

 

 

 

 

たくさん…たくさんの鎮守府の仲間が。

 

 

 

「宗谷〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「びっくりしたでしょ?」

 

 

 

 

 

 

「うそ……なんで…」

 

 

 

 

 

 

彼女を皆は見ていた。

灯台の子と知っている子も居た。

ただ、復役した彼女はある意味、塞ぎ込んでおり…どう接して良いかわからないのも事実だった。

 

だが、川内は何かを察した。

だから静まる鎮守府のメンバーを叩き起こした。

 

 

『私達らしく…ぶつかろう!』と。

 

 

 

 

 

だから来たのだ。

行動を起こすなら…思い立った時だ!と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと見てきた。

平和な海も、人の営みも…

戦う艦娘も、喜び合う仲間達も…

 

 

 

でも本当はそこに混じりたかった。

そこの一部になりたかった。

傍観するのでなく、寂しいと言える場所が…仲間が…

言い訳も何も要らなくて、本音で…居られる場所が…

 

 

 

 

「……呼んでるぞ、宗谷」

「出てきてみないか?閉じこもった世界から…」

 

 

 

 

 

 

「………良いんですか?」

「こんな艦娘でも…」

 

 

 

 

 

「良いに決まってるじゃん!!」

「私達…仲間でしょう!家族でしょ!」

 

「妹の分まで甘えたげるわよ!」

「てか!甘えておいで!!」

 

戦えなくったって‥仲間なんだよ!

一緒に乗り越えようよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたら思わず彼女達の方に走って行っていた。

 

 

仲間は…優しく私を受け止めてくれていた……。

 

 

 

 

 

「…うう……寂しかった…もっと…もっと私が…こんな自分…」

 

「今からたっぷり時間をかけて…色々やろうよ」

 

「私達だからこそ出来ることもあるんだよ?」

「そうそう!ゆっくりやっていこうよ…」

 

 

 

久しぶり大声を上げて泣いた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も、私は灯台に居る。

夕焼けに差し掛かって…人の営みも変わる頃を見つめていた。

 

 

 

「交代の時間だよー!」

 

「うん!ありがとう」

 

「…あ!仕事始め前のアレ…いい?」

 

「うん、できてるよ?」

私はいつものを彼女に差し出す。

 

「………ふぅーー!!やっぱり宗谷のチョコミルクは美味しいよ!これで頑張れるね!」

 

「大袈裟だよ!」

 

「そんなことないって!」

「さ!帰ったら提督と夕飯食べるんでしょ?早く帰った帰った!」

 

「う、うん!じゃあ…お疲れ様!」

 

「はいよー」

 

ほんの少しずつ…戦地へも出るようになってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

開けた世界は…明るかった。

あの時の提督と皆が海を照らす灯台のように…私を照らしてくれた。

 

私は笑顔で帰路に着いた。

 

 

「宗谷!ただいま戻りました!」

 

「おかえり!お疲れ様!ご飯…行こうか」

 

「はい!」

「あ……食後に…あれお出ししますね」

 

「うん、寒い日の楽しみになったよ」

 

 

 

 

 

2人で笑いながら食堂への道を歩く。

 

「もし」

 

「うん?」

 

 

「もしあの時私が寂しいって呟かなかったらどうしてたのですか?」

 

 

 

私の突然の問いに…彼は、さも当たり前のように言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言うまでこっそり毎日行ってたかな」

 

「…ッ!も、物好き…ですね」

 

 

 

「それは君もよく知ることだろう?」

 

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府から灯台が見えた。

私の世界そのものだった場所…。

 

そして…その私と皆を繋いだ…大切な場所。

 

 

 

 

鎮守府の窓から見えた灯台は今日も小さく輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少しでもお楽しみ頂けたら幸いです!

感想などお待ちしてます!


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