提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「んっ…ん〜〜〜〜!!」
大きく伸びをしたのは我らが執務担当艦の大淀。
「さ!提督?今日の執務は終了です!お疲れ様でした」
ニコリと笑いかけながら彼女は言う。
珍しく今日は2人での執務だった。
「ふふ。そういえば、2人での執務も本当に久しぶりですね」
夕焼けの光が差し込む執務室。
微笑む彼女に思わずドキッとする。
何気に2人きりの時は少し砕けた調子になるのが更に可愛いと思える。
「さあ!今日は私が夕飯を作りますね?」
「お!?本当?嬉しいね」
「今日の為に一生懸命練習しました!」
「大淀印の和定食です♪」
筍と蕨の煮付け、駆逐艦農園の大豆を使った豆腐、刺身にお吸い物。
「いただきます!」
当然美味しい…ッ!
割烹着姿の君もなかなか……と笑みが溢れた。
「美味しいですか?良かったです」
2人で他愛もない話をしながら夕飯を食べる。
大淀が今までに見たことがないくらい柔らかい顔をしている。
仕事モードの君を多く見るからか?と自分に問いただしてみた。
秘書艦制度で大淀と俺の仕事は楽になった。
桜ベルファストが来てから仕事分担は少し減った。
蒼朝日が来てからはさらに楽になった。
いかに大淀が大変だったかがわかる。
その中でも出撃や遠征、買い出し等の様々な所について来てくれた。
それはいくら感謝しても足りないだろう。
ベルや他の娘達が休みなのは珍しくない。彼女達にも休みを取ってもらわないと困る。
大淀は休みが他の娘に比べて少ないイメージがある。
休みでも執務室に出て来てるのだ。その分給料に足してるが…休んでほしい…本当…。
曰く、仕事場の方が落ち着く…らしい。
休日も割と読書や1人で買い物等で時間を潰すらしいが……
そのことを話すと、決まって彼女は少し表情が暗くなる。
今日とて、例外ではなかった。
「根を詰め過ぎないようにな?」
「休みの日は、しっかり休むべきだぞ?」
その言葉に…
彼女はポツリと言った–––––
「あなたの側に居たいからですよ」
もう一度…次は聞こえるように大きな声で言った。
「あなたの側に居たいからなんです」
「え…」
「出会った時から…この人はきっと何かを成し遂げる人だって思いました。ええ、一目惚れです」
「戦時中に……部下として…軍人として言ってはいけない事だと思いますが…あなたは優し過ぎました」
「あなたは…私にも優しく語りかけてくれましたよね」
「それがどれだけ嬉しかったか……」
「そう言ってくれると嬉しいな」
俺は素直にそう答えた…。
「だから…その分あなたが居なくなって……」
大淀は言葉に詰まった。
「……どれだけ不安だったか…」
ハッとした…
その後に彼女達の辿った道を…思い出した。
引っ掛かりが…彼女が暗くなって居た理由がわかって…その紐が俺の中で解けた。
そうだ。
それは…
一番見たくないものを近くで見なければならない
一番不安で不安で仕方ないポジションだった
と言う事だ。
前提督の指揮下で……彼女の心の傷は他の艦娘と比べる…のはアレだが、比類にならない程のストレスに晒されていただろう。
目の前で家族とも言える艦娘が解体された。
たった一言…『解体』の言葉の下に。
命絶え絶えで資材を持って帰った彼女はそのまま息を引き取った。
『……フン』
その一言…いや、言葉にもなってないモノが彼女の最期に聞いたモノだった。
見送った戦友が戻らなかった。
『……』もはや言葉すらなかった。
処罰を覚悟で、せめて彼女に一言…と言うと…『戦争だ、仕方ない。それが役目だ』と言った。
日々、怯えながら生きる苦痛。
怯え、後悔し、自分を責め、日々を耐えた。
あの日までは。
あの日も私は泣きながら提督の後ろを歩いていた。
今に思えば、私達なら人に勝つ事は容易いのに…そうしなかったのはきっと[私達が人類にとって最後の砦]であることと、[人を敵に回したくない]もあったからだ。
懲罰を理由に時雨さん達を解体しようとするあの人。
麻痺した感覚は、それすらも普通になって…
私が代わりに!と言っても、執務を担当しているのを理由に私は解体されない。
あの日も同じなんだ…と泣きながら懇願していた。
そこにあなたは現れた。
時雨さんの髪を掴む手を掴んで離させ、思い切り殴り抜いた。
あの時の光景は…きっと一生忘れない。
1発の拳は、私達の
「私達だって生きてるんだ!!」そう伝えたかった言葉を全てその右拳に込めて言ってくれたように感じた。
唖然とする皆の中で…分かった。
この人は助けてくれるんだ…って。
自らを犠牲にしても私達に尽くしてくれるあなた。
自分のご飯やその他を殴り捨ててでも私達に温かい食事と、温かい寝床と、お風呂と…人らしい生活を与えてくれた。
「国や俺の為に死ね」
だった命令は
「絶対に死ぬな」
に変わった。
嬉しかったのはそれだけじゃなかった。
私達は……もっと大切な事を思い出せた
私は…私達はあなたの艦娘だったんだってことを…思い出せた。
でも………
「今も時々、長い夢を見てるんじゃないかって思うんです」
大淀は手を胸の前で握りしめて俯いて言った。
表情は見えなくとも、ポタリと涙が机に落ちるのを見て…彼女が泣いていることが分かった。
「め、目を覚ましたら…またあの地獄が待ってるんじゃないか…って」
「夢じゃない…よ」
「でも!いつかあなたが…帰るべき場所に帰ったら…と思うと私は!」
「あなたが…居なくなってしまったら…」
居なくなるってのは…現実世界に帰ることより…ここで死んだり…と言う意味が強いのだろう…。
「だから片時もあなたから離れるのが怖くて仕方ないんです!!」
彼女は流す涙を隠すことなく、俺の目を見て…見せた事もない不安な表情を曝け出して…そう言った。
「大淀…」
「ひっく……グスッ…」
「夜、1人になるのが怖いんです!朝!ドアを開けて…あなたがいなかったら!ドアを開けて入ってくるのがあなたじゃなかったら!そう思うと怖くて仕方ないんです!!」
「この指輪も…夢で明日の朝には…指に無くて!見てたのが夢で…これが現実なんだ!って言われるのが怖くて」
「幸せと感じれは感じる程に絶望は深くて苦しいものになるから!グスッ…」
抱き締めた。
それしか出来なかった。
そこまで…考える事ができて居なかった。
そうだ…
大石さんは目を覚ましたが…彼女達の受けた傷が無くなる訳では無かったのだ。
なのに…俺は………もう前を向いて新しいスタートをしたと思っていた。
その場のぬかるみに足を取られてもがく娘も居たことに気付かなかったんだ。
「ぐすっ…ひぐっ…ぅゎぁぁあん」
「大淀…ごめんな…そんな言葉じゃ足りない…けど」
「でいどぐが謝らないでくだざい…あなだわ…悪ぐないでず」
「いいや…お前がそんな状況だと今の今まで気付けないでいた能天気な俺が悪い」
「ゔぅ……そんなご「ずっと…側にいるから」
「ずっと側に居て言い続ける。これは夢じゃないって」
「今、君が触れている俺は紛れもない現実だって…示し続けるから」
「君がもう…泣かないで良いように」
「俺が君から離れないから」
「ぅ……うわぁぁぁぁあん!!提督ッ!でいどくううううう!!」
「もう!どこにも行かないで!!私達を置いて行かないで!!」
「もう…私を…1人にしないで!!!!!!!」
彼女は泣いた。
今迄の全てを吐き出すように。
言葉も涙も止まらなく…それでも彼女は続けた。
聞いてほしいんだ!!
私の全てなんだ!!
私達には…私には…あなたしか居ないんだ!!
だから…二度と離さないで!!と。
俺はずっと彼女を抱き締めて居た…。
お待たせ致しました!
仕事がめたくそ忙しくなってまいりまして…ペースはダウンすると思われますが…何卒…!!