提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
本日2話目!!
「さァ!まずはコノ忌まわしイ鎮守府ヲ廃墟に!!」
彼女の号令で破壊活動が始まった。
思い出の詰まった宿舎も破壊された。
執務室も…食堂も…
「おい!やめてくれ!」
影熊野に掴まれながらも必死で彼女達に呼びかけた…が、彼女達は表情を一つも変えなかった。
「やめてくれぇえええええ!!」
叫び声が聞こえる。
聞いた声だ。
目の前には…こちらに手を伸ばす鈴谷と熊野が…
あの子達は……
泣かないで…
私は大丈夫だから……
え?何今の…感情は…?
土佐様…?
いや…
違う…
誰?
私を呼ぶのは誰ですの?
その声は…
頭が痛い
また土佐様に頭を触ってもらおう…
嫌なこと忘れ…て…
溶けてしまうように…
待って
もう少し…
何かが見えそう…
平和な…明日…
誰?そんなこと言うのは…
人を助ける?違う、人から世界を取り戻す…
え?
暁の水平線…?
鈴谷…?
私は…
あなたは…?
て
い
と
…私は…
私はッ!!
まさに地獄絵図とはこのことか?
数日前まで愛し合う仲の彼女達は思い出深い鎮守府を破壊する。
どころか…
こちらに牙を剥く。
逃げなければ…
金剛と目があった。
いつもの目ではなく、憎悪に満ちた目立った。
とにかく今はこの場を離れることを考えて影熊野を振り払い逃げる。
彼女達を目指して…。
「アラ?追いかケッコ?嫌イじゃナイワよ?」
土佐がこちらに歩みを進め始めた。
「影熊野…?あなたハ追わナイノ?」
「………」
影熊野は黙って救を見つめていた。
「…壊れチャッタのカシラ?」
「なあ!鈴谷!熊野!金剛ッ!!」
「俺だ!なあ!目を覚ましてくれよ!」
鈴谷に掴みかかって呼びかける。
「……誰?アンタ」
「人間は邪魔デース」
鈴谷の握り拳が腹に刺さる。
「ガハッ……ぅ…ゲホッ…ゲホッ」
殴られた衝撃で数メートル転がって腹を抑えて悶える救。
尚も立ち上がって詰め寄る。
「なあ!俺を忘れちまったのか!?」
「知らないわよ!」
そしてまた殴られる。
さらに一撃加えようとする鈴谷に、距離を詰めてくる土佐。
何とか彼女達を取り戻したい……声さえ届けば!
でも…彼女達の目は本気の目だ…。
でも諦められない…と、折れかけた心を何とか奮い立たそうとした––––しかしこれ以上は……どうすれば…
そのとき
肩をグッと支えられた。
片腕の彼女はコソリと…私に捕まってと言う。
彼女は駆け出した。
それを見る深海組は怪訝な表情をする。
「…何ヲ…?影熊野?」
彼女は救を抱えて走り出したのだ。
「提督…あなたは…死なせる訳にはいきませんわ」
「影熊野…?お前…」
その言葉に彼女は悲しそうにニコリと笑った。
「…ヤハり…影熊野…あなたハ……思い出しテしまったノネ」
「ヤリなさい」
金剛達が一斉に攻撃をこちらに向けた。
「裏切り者には死を…デース」
「え?影熊野?裏切るの?」
「仕方ないですわ…同じ熊野として…葬り去って差し上げます」
何とか砲撃を回避しながら逃げる影熊野。
機動力のある影熊野であるが…肩腕で俺を抱きながら走る訳で、反撃も防衛もできない。
「ぐっ…」
少しずつ削られる影熊野。
「お前…何で……」
「…黙っててくださいまし、舌を噛みますわ」
彼女はニコリと笑顔を向けた––––––––
その笑顔の奥に回り込んできた土佐が見えた。
「…知らズニ済む方ガ良い事モアルのよ」
土佐は手を構えた。
鋭い爪を持った手がビキビキと音を立てたように聞こえた。
土佐の手刀が俺を狙う。
「2人…仲良ク…」
「死にナサイ!!」
ドシュ…
ズキンと痛みを感じる。
だが、傷は…さほど………
「お、お前……?」
影熊野は身を挺して救を守ろうとした。
この痛みは……
影熊野を超えてやってきた手が体を切ったらしい。
「…ぐっ………」
遂に影熊野は膝をつく。
そして…
「に…逃げて下さい…提督」
「影熊野…?お前……なんで?何でそこまで俺に!!!」
理解できなかった。
さっきまで敵対してた奴が何で俺を庇う?
なんで?どうして?
「……ごめんなさい…ですわ。私……なんてバカなのでしょうか」
息も絶え絶えな彼女が言う。
残り一つの手は血に塗れながらも俺の頬に当てられる。
「馬鹿とか…でなくって!」
「……ッ!?!?」
ああ…
毎日の支え…
いつかあなたに出会える…再会できると信じていたから私は頑張れた。
でも、それは叶わなかった。
あなたは…
あなたの優しい顔を…涙で滲ませてしまう事を…許してください。
もっと酷い事をした私が言うのはおかしいですけどね………。
「熊野?」
頭にもやが掛かっていた。
海を彷徨って、あのお方に拾って頂いて……
あぁ…でも……
記憶が戻っていたなら…きっと……
腹に突き刺さった手を片手で握りしめた。
「行ってくださいましッ!!!」
「でも!」
「良いから行けええ!!!」
鬼気迫る声に従うしかなく、俺はとにかく走ろうとした。
2歩くらい進んだ所で後ろからドシャリという音が聞こえた。
「今更……!?ぬ、抜けナイ?」
「行かせはしません…わ……」
「愛する大好きな提督を…私は犯して汚して…蹂躙しました……」
「できることは…もうないですが…せめて……せめて………」
とてつもない力で掴む影熊野。
「……コノ…死に損なイがァァア!!」
一気に力を入れて影熊野から手を引き抜く。
どしゃりと倒れ、動かない熊野。
「……」
その光景を見て…言葉を思い出してもまだ理解が追いつかない。
アイツは…熊野なのか?
なら…スペアと呼ばれた…熊野は今までウチに居た熊野だったのか?
俺は…それに気づかなかった…のか?
今後ろで暴れている熊野が本当は影熊野で……
今…死際の熊野が…本物の……
背後には俺を追う
目の前には血に濡れる手を見つめる土佐。
歩みを進めようとする土佐…
「……!?」
土佐の足を掴む者が居た。
「………」
動かない筈の影熊野…。
「コノ!コノ!!このおお!」
何度も踏みつける。それでもその手を彼女は離そうとしなかった。
一瞬、彼女の笑顔が見えた気がした–––
「やめろおおおお!!」
土佐に体当たりをした。
ぐらつき倒れる土佐。
必死で影熊野を抱えて走ろうとする。
ごめん!
ごめんごめんごめん
何で俺は!何でッ!!
「…………」
目の前に土佐が立ち塞がった。
影熊野を抱える俺を弾き飛ばした。
「ぐぅう!!」
何とか立ち上がろうとする救。
目の前には土佐…。
無言の土佐は真っ直ぐに俺を見つめ–––––––––
ゴボッ…と血を吐いた。
奥に、影神通が見えた。