提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「あちゃぁ……また失敗した」
ぽりぽりと頭を掻く1人の少女。
彼女の目の前には失敗した料理があった。
「ま、まだ挫けないんだから」
彼女は作り続けた。
毎日昼夜と…ただ、1人の為に……感謝と元気を伝える為に。
「………もうやめよう」
食材も無駄。時間も無駄だ。
度重なる失敗に彼女の心は折れてしまった。
何度も挑戦すれば上手くなる!積み重ね!と人は言うけれど…
積み重なるのは失敗作と言う名の焦げたオムライスと悔しさとダメージ。
––指揮官に美味しい手料理を作って食べてもらって元気になって欲しい––
その一心で始めた料理だった。
彼の好きだと言うオムライスを何度も作っては失敗した料理を自分で食べた…全然美味しくなかった。
「………あはは…」
「赤みたいに強くなければ…料理もできない」
「あたしって……」
蒼オークランドは決して弱く無い、
戦いのセンスも高く、状況判断能力も優れている。
指揮官…救をブルーオースの世界で最初期から支えている彼女であるが…戦姫が増える毎に彼女よりも強い者が現れる。
特に、赤…今は大人しく彼等に力を貸すが…彼女は厄災…。
航空攻撃、魚雷…と幅広い攻撃手段を持つ…だけならまだ良いが、彼女とは体を共有している…。
つまり、赤が出れば…蒼オークランドの出番はある意味無いのだ。
ならば…せめて、と他でカバーしようとするが…
艦娘やKAN-SENも増えた今、その他のことですら遅れをとってしまう。
焦ってしまう。
知ってる。
この気持ちは何一つ揺るがない好きと言う気持ちなのに…
置いて行かれそうで怖いんだ。
そろそろ指揮官は怪我が回復する。
そうなる前に元気つけたかった。
でもその焦りか、私のレベルの問題か…渾身の出来には程遠かった。
仕方ないんだ。
私には向いてないんだと自分に納得して、その失敗したオムライスを置いてとぼとほと部屋に戻る。
『指揮官ー!ほら!オークランド特製オムライスだよ!これ食べて元気出してリハビリ頑張ろ!』
『おお!美味い!美味いよ!オークランド!やっぱり君は最高だな!リハビリも頑張れるよ!』
なんて頭の中の劇場でのやりとりは現実では交わされそうにない。
ため息が漏れる。
4月だと言うのにまだ寒いのは…どうしてだろうか。
ため息を吐く度に幸せが逃げると言うが……
幸せが遠く感じるからため息が出るのではないのだろうか?
「諦めるんですか?」
廊下で彼女のに声をかける人物がいた。
「ほ、鳳翔…さん」
「諦めがつくほどのものでしたか?」
物腰は柔らかな感じであるが、いつものトーンではない。
ある意味プレッシャーを感じる蒼オークランドだった。
「何事も諦めるのは簡単で楽ですけど…それは自分の頑張りを否定する事になりますよ」
「あたしは…!鳳翔さんみたいに器用でもないし!料理がうまいわけでも!強い訳でもないよ!!」
「だから何ですか!!!」
強い声だった。
やけに周りが馬鹿みたいに静かになった気がした。
「だからやめるんですか?そうやって理由を付けて」
「彼の隣に居られなくなる…って理由も添えてしまって…逃げるんですか?」
「いや…そんな事は「なら何ですか!?」
「私は軽空母です」
「正規空母程強くはありません」
「速力が速いわけでもありません、夜戦ができるわけでもありません」
「強いて…強いて言うなら利点は燃費の良さでしょうか」
「あの…?鳳翔…さん?」
ですが…と彼女は続ける。
「でも、そんな事関係ないんです」
「ここに居る皆1人誰1人としてその存在に意味の無い無い人なんか居ませんよ」
「でも!それは鳳翔さん達に役割があって!特別愛されているからでしょ!?」
つい声が荒くなった。
「ワタシは……赤みたいに強くも無い!鳳翔さん達みたいに料理ができるわけでも!大淀さんみたいに指令補佐ができるわけでも!朝日さんや明石さんみたいにサポート出来るわけでも!金剛さんや桜三笠さんみたいに強いわけでもない!!」
「頑張ったって積み上がるのは失敗と悔しさだけ」
「なのに!そんな分かったような言い方をしないでよッ!!」
ハッとした。
しまった…と思った。
勢いで私はなんて事を言ったんだろう…と。
チラリと鳳翔を見る。
だが、彼女は怒った様子もなかった。
ただ…少し寂しそうにこちらを見ていた。
「なら…」
鳳翔は重い口を開いた。
なら…出て行け…って言うんでしょ?
そうよ…きっと……
「なら、何であの時にあなたの名前をあの人は呼んだのでしょうか?」
「何であなたの帽子を今も被り続けてるのでしょうか?」
「……え」
あの時と言うのは…彼が林と戦った時だ。
彼のピンチに…あの人は私の名前を叫んだ。
『この帽子…私が隣に居るって証』
『ピンチの時は私を呼んで!いつでもどんなに遠くても駆けつけるから』
『オークランドッ!!力を貸してくれええ!!』
『指揮官ッ!!やっと呼んでくれた…!!』
そうだ。
ヒッパーさんも、オイゲンさんも、朝日さんも、ポートランドも、神通も、エリザベスも、ベルファストも、私より強い赤も居るのに…
あの人は私の名前を呼んでくれた…。
他の誰でも無い…私の名前を……
私の宝物のキャスケット帽を今も被ってくれている。
私の運命の人…。
沈み行くソロモン前線基地から…私を生み出して助け出してくれた指揮官。
2人で基地から脱出して……どんな時も…ううん、時に離れ離れになったけど…それでも隣に居てくれた…。
そうだ…
弱いのは…諦めてるのは私だ。
指揮官のピンチを助けるって言ったのも私だ!
なら
指揮官を元気付けるのをやめたら…私は自分でした約束を自分で破ることになるんだ!!
鳳翔は黙ってじっと彼女を見つめていた。
先程のプレッシャーでなく、少し悲しげな…
「………鳳翔さん」
「何ですか?」
彼女は頭を下げた。
「偉そうな態度をとってごめんなさい!!」
「お願い!…ううん、お願いします!私に料理を教えてください!」
「大好きな指揮官に…元気になってもらえるような料理が作れるようになりたいんです!」
「蒼オークランドちゃん…」
「私はあの人を元気にしたい!」
「ふふっ…」
彼女が笑った気がした。
鳳翔は嬉しかったのだ。
鳳翔はオークランドが部屋に帰って塞ぎ込むと少し心配していた。
でも彼女は強かった。
自らを省みて、謝ることもできた。
恥ずかしい気持ちを捨てて教えてくださいとお願いできた。
なら…私に出来ることは……
「間宮ちゃんのパフェ…」
「え?」
「それをご馳走してくれるなら…」
「私、頑張って教えちゃいます」
「鳳翔さん!!」
蒼オークランドは鳳翔に何度もありがとうと頭を下げた。
「で…何を食べているのですか?」
「ん?!」
夜の食堂では暗い中で1人何かをしていたようだ。
声をかけられてビクッと跳ねた。
その正体は…救であった。
「あなた……それは」
彼はオークランドが置いて行ったオムライスを食べていた。
「…それは?」
「ん……オムライスがあったから」
「ここ最近ずーっとあるんだよね。少しずつ美味しくなってると思うけど…」
「誰が作ったか分からないものを何も言わずに食べて大丈夫なんですか?」と、彼女は少し笑いながら聞く。
「ん……まあね」
「優しい味がするんだ」
「鳳翔は…誰が作ってるか知ってるのか?」
「さあ…?」
悪戯に答える鳳翔。
そうか…と、彼は言った。
「……頑張りますか」
「私は厳しいですよ!」
「はい!!」