提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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366話 君と会った日だから 蒼オークランドと1日夫婦

「鳳翔さん…」

不安そうな彼女が名前を呼んだ。

 

「大丈夫!自信持って」

鳳翔はニコッと笑って彼女の最中を軽く叩く。

 

 

 

料理を教わりだして数日後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ!指揮官!」

 

「ううん。今来たとこだよ」

と、会話をしながら船に乗る。

 

 

まだまだ寒い空の下。

海風を浴びながらの船旅を終え、4月とは思えない程に寒い道を行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は最愛の人とデートに出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私服姿のあなたの後ろを歩く。

目立つお揃いの帽子が少し嬉しい。

 

私の手には、今朝1人で作ったお弁当。

愛情も溢れんばかりに盛り込んだお弁当…喜んでくれるかな?

 

 

空いた右手が寂しくて…

あなたの左手を握りたいのだけれども…

破裂しそうな、飛び出しそうなくらいにうるさい私の心臓の音だけが身体中に伝わって……緊張してその一歩を踏み出せない。

 

 

「あ…」

やっと絞りに絞り出せた一声は…たった一文字の言葉で…

聞こえているか分からない程に小さくて…

 

 

「ん?」

と、立ち止まってこちらを振り返るあなたに私は…

 

「う、ううん!寒いね!今日は」

としか返せなかった。

 

手を繋いで欲しいな…と言えない私が悔しい。

繋いでくれないかも知れないなんて思ってない。

でも…その勇気が私には少し足りなかった。

 

 

 

「寒いな」

と、彼は言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不意に体が暖かくなった。

 

 

 

あなたが上着を私に掛けてくれたんだと自分を見て気付いた。

 

 

 

「え?し、指揮官?!」

 

「これで少しは暖かいか?」

 

「え!?う、うん!でも、あなたは!?」

 

「意外と着込んでるから平気さ」

 

 

あなたの温もりと匂いが何だか嬉しくてつい、顔を埋めてしまう。

 

 

 

そっと手を繋いでくれた。

温かなあなたの手が冷たい私の手を温めてくれた。

 

「おー…冷やいな。オークランドの手は」

 

「指揮官があったかすぎるんだよ」

 

なんて笑いながら2人でゆっくり歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お昼は公園で。

ベンチに座ってテーブルにお弁当を広げる。

 

「これを…オークランドが?」

 

「うん。頑張って1人で作ってみたよ」

モジモジと答える彼女。

 

『鳳翔さん達ほど上手くできないけど……』

なんて言い訳はしない。

 

「一生懸命作ったよ!たくさん愛情も込めたよ!」

精一杯の笑顔で私は答えた。

 

楽しみだなあと彼が言う。

 

 

いただきますの言葉と共に彼がパクリと卵焼きを食べた。

 

そして、ジッと私の方を見る。

 

 

 

 

 

「美味しい」

「とても美味しい」

 

「ほんと?良かった…」

「次はもっと綺麗に作るから」

 

 

 

 

確かに見た目はめちゃくちゃ綺麗な形とは言えない。

しかしそれが何だ。

それ以上に伝わってくるこの温かさは。

あぁ………あのオムライスはオークランドなのか。

 

食堂にあったオムライス。

一口食べたら分かる、誰かを思って作っただろうその味は………ずっと俺宛だったのか…。

 

 

「美味しい」

「うん……とてもとても美味しい」

 

 

 

 

「ありがとう!元気出たよ!」

欲しかった指揮官の言葉…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ」

結論から言う。

蒼オークランドは彼の療養中にオムライスを作れなかった。

いや、厳密に言うと作らなかった。

 

料理の練習に納得がいかなかったわけではない。

しかし…この夫婦生活で彼の復活を祝う為にその練習期間を延ばしたのだ。

もっと美味しく、よりもっと美味しくできるように。

 

 

 

 

 

 

 

 

その結果が目の前に今出た。

彼は満面の笑みで美味しいと言いながらそれを食べている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オークランド」

 

「ん?何?」

 

「指輪貸してくれない?」

 

「え、う…うん…いいよ?」

左手からそれを外して彼に渡す。

 

 

途端に失われる"何か"。それは言葉では形容し難い何かだった。

安心感?多幸感?分かんないけど…大切な何か。

 

 

不安な彼女を横に彼はそれを大切にクロスで磨いた。

そしてゴソゴソと何かをして私の方を向いた。

 

 

 

「オークランド」

 

 

 

 

「もう一度…次はこの手で君にコレを渡したい」

「もう一度受け取って…貰えるかな」

 

 

 

 

 

 

目の前に差し出された小さな小箱が開かれる。

途端に思い出される教会での景色(あの時の思い出)

 

 

「どうして今?」

なんとなく出た言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は言う

 

今日は初めて君と会った日だから…と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ。

今日は…初めてあなたと会った日だ。

 

 

「そうだったね…あはは。指揮官に言われちゃった」

「…覚えていてくれて嬉しいな。うん!喜んでもう一度受けます!」

 

 

 

 

指輪が…彼の手から…

私の手に入る瞬間…だった。

 

 

 

 

 

 

 

「…命懸けで君を守ってみせる」

 

 

彼は言った。

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 

「私も…守るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「幸せな毎日を君に」

 

 

 

え…

その言葉は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦争が終わっても…」

 

 

 

あなたが私に誓ってくれた…

 

 

更なる誓いの言葉…

 

 

 

 

 

 

 

「死が2人を分つまで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはゲームの台詞…そう、指揮官のゲームでの台詞。

 

でも…

 

ただのゲームの台詞ではない。

俺が俺の意志で言うんだ。

だから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が君を幸せにしてみせる」

 

 

 

 

 

 

 

そう誓うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦力を強化するための誓いではない。

照れ隠ししなくても分かる。

 

この言葉は本気の言葉だっ…て。

 

 

 

 

「指揮……官…?」

 

 

 

「どんな困難が待ち受けていようと、どんな高い壁が俺達を隔てようとも…きっと乗り越えてみせる。君と共に」

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

手先が温かくなった。

あなたが手をギュッと取ってくれている。

もう一度左手に誓いの指輪が収まった。

 

自然と熱いものが込み上げてきた。

この感じは……

 

 

呆然としたままで涙だけが私の頬を伝った。

 

 

「え!?お、オークランド!?」

なんて彼は言わなかった。

 

ただ、優しい優しい表情で私を見つめてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その指輪は今日2度目の一歩を踏み出す勇気を私にくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、私も誓う。あなたを絶対に1人にしないって」

「どんな困難があっても、壁もあなたと乗り越えてみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛してるッ!」

 

彼に飛びついた。唇を重ねる。泣きながら重ねる。

わんわん泣いた。でもいい。

あなたの胸の中で泣けるなら、あなたが受け止めてくれるなら、どんな私もあなたに曝け出そう。

 

あなたを失って流す絶望の涙なんかより、あなたを思って、あなたに流す涙の方がずーーっと良いから。

 

 

「俺も愛してるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しい時間も終わりはやってくる。

朝よりも肌寒く感じる帰り道。

 

 

「やっぱり夜は寒いね」

と言うと、やっぱり上着を掛けてくれる。

 

「指揮官…寒いでしょ?」

 

「意外と着込んでるから平気さ」

朝と同じ返しをしてくる。

 

 

だから

 

「ダメだよ」

「2人で……でしょ?」

 

私は彼の腕に抱きついた。

ごめんなさい。これしかできないけど…

「ほんの少しでも温かくなって…くれたらいいなあ」

 

 

 

その言葉がたまらなく嬉しかった。

だから俺からももっと引っ付いてみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の私室にて……。

 

 

 

「……どう?」

ドキドキと緊張しながらオムライスを彼の前に出す。

 

「ん……変わらず幸せな味だよ」

 

「そっか…!良かっ–––––え?」

「変わらずって……何?私は今日初めて指揮官に出したんだよ!?」

 

「全部食べてたからね。置きっぱなしのオムライス」

 

 

「え…」

 

「優しい…なんて言うかさ、一生懸命頑張って作ったんだろなって思ってた。オークランドが作ったって分からなかったけどね」

 

「ならなんで今わかったの?」

 

「もっと前だよ。お弁当食べた時かな。あぁ…この感じは…オークランドだったんだ……って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…本当はね?療養中の指揮官を元気つけたくて始めたんだ」

「でもね…あはは…。全然納得できるのが作れなくて…諦め掛けたんだ」

 

「でも…鳳翔さんに励まされて……もう一度頑張れたんだ」

 

「間に合わなかったけど…復活第一号で食べて欲しかったから!今日作ったの」

 

 

 

 

 

『包丁の使い方は…』

 

『火加減!弱すぎです!』

 

『とにかく落ち着いて?焦っても上手くならないですよ。食べてもらう人に沢山愛情を込めて…ね?』

 

 

 

 

 

鳳翔さん……ありがとう。

目の前に…あんなに思い描いた表情があるよ。

 

 

「えへへ…なんでも……グスッ…私に任せてよ!」

 

「ずっとあなたを支えるから」

 

彼女は親指を立てて言った。

 

 

ピトッと横に座って彼の肩に頭を預けた。

幸せだって感じる。

うん…

ずっとこうしていたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛してるよ」

 

「うん、愛してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日…。

 

 

「鳳翔さん!」

 

「あら、どうでしたか…って聞くまででもなさそうですね」

満面の笑みで言葉を交わす2人。

 

「はい!ありがとうございました!」

「鳳翔さんのおかげです!」

 

「そんなことないですよ?アレは蒼オークランドちゃんの頑張りです」

「あなたの気持ちが通じたんですよ」

 

「えへへ…でも鳳翔さんのおかげだよ」

「だからね?約束の…パフェ…行こう?」

 

「ふふっ…冗談だったのだけれど…ご馳走になります」

「沢山お話聞かせてくださいね?」

 

「妬かないでね〜?」

笑うオークランド。

 

「自信ない」

暗い笑みを浮かべる鳳翔。

 

2人は笑いながら間宮へと向かう。

その足取りは軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

一息つく救。

 

頭から帽子を取って帽子掛けに掛かる。

 

「ふふん」

その制服に似合わないキャスケット帽子が実はえらく気に入っている。

 

 

「さぁて……コーヒーでも飲むかな」

 

「そこは紅茶でしょ」

 

「……いつから居た?金剛」

 

「今来たばかりデース!」

 

「仕方ない。紅茶淹れてくれる?」

 

「デートの話聞かせてね」

 

「妬くなよ?」

 

「無理」

 

 

 

 

鎮守府の朝はまた始まる。




4月7日でブルーオースが2周年になるので…
少し早めの…

少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです!!

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