提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
"最近提督がカレンダーを見てそわそわしてる気がする"
そんな噂が少しずつ秘書艦から立つようになった。
「実は聞いちゃったんだ。電話で誰かと話してるの…」
「やっと会える…だとか早く俺のものにしたいー!とか言ってたよ」
「「「「「は?」」」」」
「いやいやいや麗ちゃんか、幸ちゃんとデートだろ?」
「だとしたら私達に言うでしょ?」
「まさか街の人とデート?」
「人妻とか?」
「法律的にアウトな年齢なのかも知れないのです」
「おい、ロリッ娘…鏡見てこいや」
「あん?」
「お?」
「まさか…かなりの歳上…?」
「ここにいるみんな殆どが還暦越してるけどね」
「むしろ…100歳……やめとこ」
そんな不安な会話が為された数日後…
「明日は少し出てくるよ」
少しウキウキそうに大淀に伝える救。
「明日は非番ですね。えと…誰か付けますか?」
「病み上がりですし…この前のようなことがあっても不安ですから…」
大淀や桜シリアスが言う。
もちろん本音だ。
20%くらい。
後の80%は『誰とどこに行くつもりだ?あ?浮気か?』である。
「んー…大丈夫だよ」
「たまには1人で……ね?」
怪しい
とは思いながら、結局は何も聞けずに1日を終えた。
翌日、救は朝に一人で出掛けて行った。
鎮守府では悶える艦娘達が後を絶たず、まさに地獄絵図だった。
そんな心配を他所に救は…
お目当ての子とご対面していた。
キタキタキタキタキタ!!!!
遂に来たぁぁぁあ!!
輝くぼでー!
低重心かつ、大きな見た目。
ベントハンドル…!
二本出しマフラー…!
自己主張のある黒革サイドバッグ…!!
なんと言っても目立つV型エンジン!
そう
バイク♡
遂に買っちゃいました♡
「はぁぁぁぁあ♡念願のバイクだぁあ♡」
バイクのタンクに頬擦りする救。
確かにそんな姿を見られるわけには…いかないよね。
「はうーー!ずっと大切にするからねえええええ「て…ていと…く?」
「ん?加賀どうした?」
救はいたって冷静に…声をかけられて0.001秒で普段モードに戻る。
「いや、今ので無かったことにはならないわよ」
しかし見逃してくれない一航戦。
「随分とご執心みたいだけど……まさかあんな姿を見られるとはね」
「何のことかな?」
「あら?あくまでシラを切るのね?」
「なにもなかったからね」
「そう……」
ピロン
「ん?」
スマホが鳴って画面を見る救。
加賀からメッセージが来たよ…う…………!?
『はぁぁああ♡念願のバイクだぁ♡』
死にたくなるほどの甘い声でバイクに頬擦りする俺の姿が。
「さらにこれを……」
ピロン
もう一通届くメッセージ。
恐る恐る開くと…
『はぁぁ♡加賀↑ずっと大切にするからねえ♡愛↑してる↓ー』
加賀の名前を呼びながら何かに頬擦りする俺の映像があった。
つまり、映像編集された動画が添付されていた。
「んんんんんん!?」
「このくらい朝飯前ですが」
「この指先ひとつで……皆のグループに送ることもできますが?」
「すみませんでした」
「……で?」
「見ての通り、バイクの納車だよ」
「………少し妬けるわ」
「え!?なんで!?」
「だって…あんな顔しないでしょ?」
「皆相手にあんな事してたら…ヤバいだろ…」
「それでも…よ。それでもあなたの持ち得る限りの全ての愛だとか…感情だとかを欲しいのよ」
「私達が見てないところで、私達に見せない顔なんか…嫌よ」
「でも、やりすぎね…ごめんなさい」
加賀は素直に頭を下げた。
「素敵なバイクね。ゆっくり楽しんで」
そう言いながら去ろうとする加賀に声をかけた。
「今日暇か?」
「えぇ…暇だけれど…」
「なら…一緒に行こうか」
「………?」
「…ッ!?……ッ!?」
「しっかり捕まってろよー!!」
提督の背中にしがみついた私を乗せて提督のバイクが走る。
未知の感覚–––
電車や船と違う…海の上とも違う感じ…。
人より早く海の上を走ることができる私だけれども…
海の上とも…自転車…の感じとも違う。
『ほら』
提督が私に何かを投げた。
それを両手でキャッチした。
ヘルメットと呼ばれるものだった。
艦載機の妖精さんが似たようなものを被ってたような気がする。
『乗っちゃいなYO』
と、クイッと後部座席を親指で指した。なんかもイラッとした。
『シートベルト…はないわね。どこに捕まればいいの?』
『俺にしがみついてたら良いよ』
あなたの腰に回した手に力が入る。
あなたの後ろから見る景色は放つ矢のように過ぎ去って行く。
怖くない。
怖くないけれど…
振り落とされないようにあなたにしがみついた。
過ぎ去る景色は…街から山道に変わって…
木々も緑色のカーテンのように見えた。
「楽しめてるか?」
「は、速すぎて……ッ」
「しっかり捕まってろよー!!」
それから山道を少し走って峠の喫茶店に着いた。
「到着ですよ……っと」
地面に足がつくと…少し…ほーーんのすこしだけ震えていたかも知れない。
「怖かった?」
「…………少し」
「そうか…あはは」
「何か?」
「ううん」
「何ですか」
「楽しかったなら良かった」
「??」
楽しいなんて一言も加賀は言っていない。
しかし…彼は見ていた。
ミラーに写る彼女のヘルメットから覗く表情を。
初めて綺麗なものを見るような…瞳をキラキラさせる彼女を。
「………楽しかったわ…」
「バイクに昔乗ってたの?」
見晴らしのいいテラス席でコーヒーを飲みながら加賀は尋ねた。
「ん?少しね」
彼は少し寂しそうに言った。
「……こーやってさ、走ってる時は嫌な事も忘れられたんだ」
「風になった気分でさ…全部何もかも置いてきぼりにして走ってる時がね」
「今も…忘れたい事があったの?」
「ん?!あー……いや…」
「雑誌でバイク特集を見てな?乗りたくなって…」
「誰かを後ろに乗せて走ってみたかったんだ」
「そう……」
「私で良かったの?」
「何が?」
「最初に後ろに乗せるのが…」
「1番最初にバイクの事を知った子に乗ってもらうつもりだったんだよ」
「そう…」
「光栄だわ。あなたの1番になれたなら」
「しがみついてる君は可愛かったぞ」
「か、からかわないで!」
ブラックのコーヒーが甘く感じた加賀だった。
帰り道は新鮮だ。
先程までの明るい道でなく、緋色の夕焼けから星空に変わった。
手の届いてしまいそうな満天の星空を感じながらあなたの後ろに座る。
私達が風を切る音とエンジン音と時々あなたの声を聞きながら幸せなバイクツーリングは終わりを迎えた。
あなたの温もりを感じながら…
ずっとあなたに抱きついていた。
降りるのが名残惜しかったから「いいよ」と言われても少しの間抱きついて降りなかった。
「また行こうな」って言ってくれたから仕方なく降りた。
私が1番最初…
それがとても…とてもたまらなく嬉しかった。
お待たせしました…。
少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです!
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