提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
『……お主…我輩を殺さぬのか?』
『我輩は生きたい。何があっても…生きたいのじゃ』
彼女は限界ながらも駆けた。
初めて立つ海の上に…
友達を守りたい…この一心で踏み出した!!
ズドォオン!!
その勇気も優しさも何もかもを…1発の砲弾が砕いた。
腹に風穴が空いたらしい。
幸い…砲弾は友達には当たらなかったようだ。
だから何だッ!!
彼女は感覚のない左腕を食い千切って投げつけた。
ガァン!!と鈍い音がした、戦艦棲姫の顔面に当たったらしい。
戦艦棲姫が後ろに倒れた。
彼女も膝をガクガクと震わせて倒れ込んだ。
古鷹が駆け寄ってくる。
「大丈夫!?なんで!?何で!!」
彼女は最後の力で古鷹の顔に手を添えて言う。
その身をぼろぼろと崩れ落としながら彼女に言う。
「トモダチヲマモル……ナニヨリタイセツナ…」
「外に出るんでしょ!?一緒に!!ねえ!生きて!まだ間に合うからッ」
「アリガトウ…」
「アノ…シンダ…トネモユルシテアゲテ……アノコニモイキタカッタアシタガアルハズダカラ…」
「何を…言って……って!重巡ちゃん!それ以上喋らないで!あなた!死んじゃうからッ!!」
「イイノ…」
「アナタノ…アナタタチノオカゲデワタシハ…」
少しとは言え、楽しい時間を過ごせた。
波打ち際で毎日見える水平線の向こう側に思いを馳せていた。
人とは…分かり合えない。
艦娘ともきっと分かり合えない。
そう教えられていた日々。
でも…
見てしまったから。
死にかけの体で必死に彼を庇いながら泳ぎ切り、目の前の私の前に立ち震えながら彼を守ろうとしていたあなたを。
『我輩が間違っておったのじゃ…せめて…せめて此奴らは……死なせたくないのじゃ』
彼女は悔いたのだろう。
その在り方を。思い出したのだろう…最後の最後に…誇りある生き方を。
目覚めたあなた達は…その残された目は、聞いていた侵略者の目でもなかった。
ただ、ひたすらに仲間を守ろうとする綺麗な目だった。
あなた達は私に武器を…憎しみを向ける事なく、感謝の言葉を向けた。
私に居場所をくれようとした。
友達と言ってくれた。
ありがとう。
言葉を出すほどにこの身は崩れ落ちて行く。
それでも良いと思った。
あなたは私の知らない"愛"を持っている。
この気持ちは…今までに抱いたことのない感情。
トモダチっていうものを教えてくれた。
生まれが違ってても…通じ合えるんだって教えてくれてありがとう。
本当は…もっと友達で居たかった。
でもその約束は守れそうにない。
あなた達の素敵な鎮守府ってのにも行けそうにもない。
頭の中でしか描けなかった…
いや
いや、それは見た。
今見ている光景がまさに…手を取る瞬間なんだ。
なら…1つでも夢は叶ったんだ。
なら
私は…
この全てを使って
喜んであなたの力になるわ。
「ウケトッテ」
重巡棲姫は光へと変わって行く。
使い物にならない折れて千切れかけの古鷹の右腕から彼女に入って行く。
「ワタシガアナタノ
「嫌だ…見えなくていいよ」
「アナタノミライヲキリヒラク
「嫌だよ!私が頑張るから!!」
「アナタノマモリタイモノヲマモルタメノマモル
「嫌よ!!もう充分守ってくれたよ!!」
「……」
彼女の手をとって嫌だと泣きながら叫ぶ古鷹。
そんな古鷹に彼女は…一喝した。
「イキナサイッ!!」
「…ッ!!」
それは…行きなさいであり、生きなさい。
彼女が1番そうしたかったであろう…その言葉。
「トモダチノナカデイキラレルナラ…ソンナシアワセナ…シ…イエ」
「コレハ…"死"デハナイワ」
「私は…あなたの中で生き続けるんだもの…」
「あなたの中から…ずっと夢見た景色を見るの」
なぜか言葉がカタコトに聞こえなかった–––
懐かしい…懐かしい何かをその声から感じた。
「ウケトッテ」
「ソシテワタシヲ……
彼女は満面の笑みで伝える。
命を賭して…友へと伝える。
思い描いても…出られなかった海へ…
頭の中でしか行けなかった…平和なところへ
あなた達の話の中でしか行けなかった…
街や…服屋さんとかコーヒーやさんとか……
それは飴玉のように甘いのかな?
それは太陽のように眩しいのかな?
それは月明かりのように優しいのかな?
きっと…飴玉のようにいい匂いで甘くて
きっと…太陽のように明るくて…輝いて
きっと…闇を照らす月明かりのように明るくて優しくて
私が恋焦がれた
『コノシマノ…ウミノサキニハ…ナニガアルノカナァ』
あの海の向こうへと
一緒に連れて行ってー…
触れた手が地面に落ちる。
その手を落とさせやしないと彼女はその手を受け止めた。
もう、右腕の痛みなんかどうでもいい。
掴む手から変わらず彼女が流れ込んで来る。
「……ッ!!…………わかった」
ニコリと…死に行く彼女は笑った。
「提督…」
「お願いです」
「力を貸してください」
「あなたの持てるありったけの力を…」
「貸してくださいッ」
「おう!!」
「2人に……誓う」
「俺がお前達を支えるッ!!だから!!」
「アリガ…トウ」
彼女が私に溶けて行く。
ありがとう。
こんな言葉しか…見つからないけど…
『…いいの。それが私の選んだ道だから』
『受け取って』
『私の全てをッ』
戦艦棲姫は見た。
失敗作と馬鹿にした奴が…
艦娘とも手を取り合えないか?と戯言を繰り返していた奴が…
光を浴びて艦娘に溶け込んでゆくのを
古鷹 改ニ
左眼の視力が戻ってきた。
右手も動く…本当に嫌と言うほどに軽やかに動く。
ホロリ…と涙が流れた。
それは古鷹の涙か––––重巡棲姫の涙か––––––
古鷹は涙を拭った。
それは友のために––
今を必死に生きてきた…誰かの為に命を差し出してくれた…親友と呼びたいその彼女の為に。
「行こう…」
「私が…あなたを連れて行くから!」
「…重巡……古鷹…行きますッ!!!」
拭ったその中から覗いたのは…開かれたのは…輝く眼。
彼女の意思を背負った金色に輝く眼。
「私は…お前を許さないッ」
聞いたことがないッ!!
艦娘と深海棲姫がひとつになるなんて…!
艤装に…強化になるなんて!!
自分の意思でそうなるなんて!!!
金色の眼が雷光のように私に迫った。
私は震えて動けなかった。
ドゴッー!!
古鷹の右拳か戦艦棲姫の腹にぶち込まれた。
『ぐぅぅ!!』
「おおおおおお!!!』
彼女は島から海へと戦艦棲姫を吹き飛ばした。
それは…今は彼女の中に眠る友達への手向け。
島の外に…あの水平線の向こうに憧れた彼女への…
「見てる?これが海の上よ……あなたの憧れた海の…島の外ッ!!」
あなたが私に力をくれたから…ッ
一歩
また一歩
確かに海を踏みしめながら駆ける。
『…ッ!?』
あまりの恐怖からか…戦艦棲姫には古鷹がボヤけて…重巡棲姫と重なって見えた……。
そしてその雷光は再び彼女に迫り…
その右拳を叩き込んだ–––。
『負け…る…かぁあ』
「行くよッ」彼女は言った。
「ええ…」彼女は答えた。
「「うおおおぉぉぉおおおッ」」
その拳は…戦艦棲姫を…重巡棲姫が超えられなかった壁を打ち破った。
皮肉な話だが、艤装が戻った事により仲間と連絡をとれるようになった。つまり、彼女は島を出ると言う夢を叶えた。
その身から魂が解放されて…。
古鷹という友達の中からその海に旅に出た。
一部の特殊な海流の関係で本来の海流とは逆方向に流された事と、艤装が壊れた事により捜索が困難になった。
もし、そうでなかったなら…重巡棲姫は助かったのか?
そう胸が潰れそうになったけど…
心からは温かいものが溢れてきた。
「そんなことないよ」と言ってくれているように…。
「無事でしたか!?すみませんッ!!」
「ダーリン!ごめん!!」
「って…古鷹!?その姿は!?」
古鷹達が事情を話す。
信じられないと漏らす面々。
だが、手当てされた跡や古鷹の様子を見るに真実だと理解させられる。
「……そんなことが…」
加古は泣く古鷹に寄り添って背中を摩る。
誰かが口を開いた。
「全員ッ」
「最後に己に打ち勝った…艦娘利根に!!」
「種を超えて…その誇りを示した…深海…いや…!!」
「艦娘の重巡棲姫に敬礼ぇぇぇえ!!」
古鷹はその両の眼で見た。
一糸乱れぬ敬礼だった。
彼女達は…友達を艦娘にと呼んでくれた。
艦娘も…深海棲艦も、KAN-SENもセイレーンも戦姫も赤も…
会わせたかった皆が背筋を張って敬礼をしている。
ドォン!と誰かが主砲を撃った。
手向けの砲音は寂しく…強く響いた。
左目からの涙が何故か止まらなかった。
「提督…喜んでこの指輪を受け取ります…。でも」
「ん?」
「お願いします。重巡ちゃんにも指輪を…友達に…私の中に生きる友達にも…」
「もちろん」
古鷹の指に指輪が通される。
もう一つは…首から下げて。
写真もないけれど…
2人しかその姿をみてないけれど…彼女は確かに居た。
「良かったな!古鷹」
加古が笑いながら古鷹に声をかける。
「うん…良かった」
「…いやー!羨ましいn–––––ん?」
「え?なに?どうしたの?」
「え……いや…なんでも……」
ゴシゴシと目を擦る加古。
加古には古鷹に笑う重巡棲姫が重なって見えたとか。
古鷹の左目をオリジナルにしたネタでした。
夕立も同じような感じでしたね
少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです!
感想などおまちしています!
投稿遅れます…
今流行りの…あれ