提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「おねえちぁん♪救さん♪」
「あ、いらっしゃい」
えへへ…と笑うのは花の入ったカートを押して来た奈々ちゃん。
「いつもお疲れ様です!」
小々波の孤児院に居た彼女は先月くらいから、うづきの花屋…もとい、お店で働き始めたらしく…鎮守府と街のイベントの時に花屋のスタッフとして来ていた時に出会った。
同じ境遇…と言うのもあってかすぐに仲良くなれた訳で、特に金剛多々と仲が良くお姉ちゃんと呼んでいる。
今では、ウチに花や物資を卸しに来る兼遊びに来る子になった。
『今日からはこの子が西波島に納入にくるからね』
『お、うづきちゃん。その子は?』
『えと、奈々って子だよ』
「だいぶウチにも慣れてくれたねぇ」
「うん、お陰様で!」
「でも…いいなあ…ここの人は…皆が家族みたいで」
「まあ…家族みたいなものだからね」
「そうデース!じゃない!そうだよー!ワタシとダーリンは夫婦ですからー!ファミリーですよー!もちろん奈々も私達のシスターでーす!」
いつもの金剛の軽いノリの"妹"と言う言葉に目を輝かせる奈々。
「榛名もダーリンさんのお嫁さんです!」
え?みたいな顔でこちらを見てくる奈々ちゃんから目を逸らして会話を変える。
「そ、そんな事より今日の花は何かなぁ?」
「あ、今日はバラです」
「おー!さっそく飾るようにするよ」
「あ!奈々ちゃん!うづきさん!おはよー!」
「あー!麗ちゃん!おはようー!」
「んー?誰?」
ひょこりと当たり前のように現れる2人。
「紹介するね!この子は奈々ちゃん。街の花屋さんで働く子だよ」
「へぇ…僕は幸って言うの、よろしくね」
「はい!奈々です!よろしくお願いします」
「折角なんだし3人で鎮守府の中ふらついて間宮に行って来たら?」
救達がニコニコしながら言ってくる。
「まも君は来ないの?」
「俺は仕事があるし…納入のことでうづきと話もあるしね」
「そうだね、いいよ!奈々、行っておいで」
「いいんですか!?やった!」
「じゃあ…女子会しようかー!」
3人が意気揚々と執務室を飛び出して行く様子を見ながら「男子は俺だけだもんなあ…」と、呟いてみる。
「99%が女だもんね、毎日女子会だよね」
「奈々ちゃん、いらっしゃい…って、あら!今日は麗ちゃんと幸ちゃんも一緒なのね」
「私も居るよー!!」
「あら、金剛さんも!」
「特製パフェ4…いや、5つ!!」
「誰が2人分たべるの?」
クスクスと笑いながらオーダー票に書き込む間宮に4人がニヤニヤと「間宮さんも一緒に!」と言う。
「あらあら、嬉しいお誘い。ならお言葉に甘えようかな」
パフェが皆の前に出されて、和気藹々とガールズトークに花が咲く。
「んー!これが間宮さんのパフェ?!すごくおいしー!」
「でしょー!?他の鎮守府のパフェと全然違うんだよねぇ」
「煽ても何も出ないわよー?」
「でもこの鎮守府は他のに比べて…うん、本当に幸せそうだけどね」
「間宮さんはここの人だからそう感じないだけだよ」
「そう?だとしたら、あの人のお陰ね」
間宮にとっては他の鎮守府の事は知らないことの方が多い。
組合で他の間宮の話を聞くことも多々あるが、そこでも同じような事を言われる。
「羨ましいなあ…」
それも、麗や幸からすれば羨ましいのだ。
日常の中に彼が居ると言うことがどれだけ幸せか彼女達はよく知っている。
「っても、2人もほぼウチに入り浸ってるでしょー」
だが、それ以上にそれを羨ましがる人物が居た。
奈々だ。
彼女は知らない。
物心つく前から孤児院に居た彼女は愛を知らない、贅沢なんか知らない、交流も知らない。
お世辞にも良い生活でなかった彼女にとって、今のこの状況も不思議体験の一つだった。
『あ、あの…うづきさんの所でお世話になることになりました奈々と申します』
『ん?あぁ!花屋だけじゃなくてウチ関連の物資も手掛けてくれるようになったって言ってたね』
『はい……あの!』
『ん?』
『提督様…閣下も孤児院の出身と聞きました』
救はこれまでの歩みを彼女に話した。
荒唐無稽と言ってしまえばそれまでのお話、まるで昔見た本の内容のような人生。
それでも彼は笑顔で話した。
『閣下は幸せですか?』
彼女は問いかけた。
『幸せだな』
彼はスルリと答えた。
『私は……幸せになれますか?』
彼の心の中に一番残っている言葉だ。
不安そうな…切ない目で訴えかけるように投げかけられた言葉。
『幸せ…ね、なれるよ』
彼は笑顔を崩さず…それでも真剣な眼差しで彼女に語りかけた。
『幸せにしてみせるよ…………なんてね』
ドキリとした。
今までに感じたことのない…なんだろう。
『気軽に遊びに来てよ!仕事のついでにお昼とか夕飯とか一緒に食べて行ってよ!』
『でも、そんな…私は他人ですよ?!』
『ならアナタは私のイモートでーす!かわいいー!』
ヒョコと現れたのは金剛と榛名。
金剛は奈々を抱きしめてヨシヨシと頬擦りをして頭を撫でる。
『ほえ!?こ、金剛さん!?』
『誰がなんと言おうとあなたは私達のイモートでーす!』
『はい!榛名も賛成です!霧島の妹です!』
それを見つめる救さんに、大淀さん達。
なぜか無性に嬉しくて嬉しくて…
「それって…何!?え!?いつの間にそんな話を?!」
「救君ったら……私がいるのに……ウフフフフ」
「アハハ…それで奈々ちゃんもオチちゃった…と」
「え!?あ、えと…そんなのはよくわからないけど…会えると嬉しいというか…ここら辺があったかくなるんだよ」
「…おおぅ!寒気が」
「今日は暑いくらいですよ?」
「…きっと噂されてるのですね。ご主人様は誰にでもお優しいですから…」
「ええ…」
「皆を愛するといっても、競争率は高いのですよ?」
「まあ…薄々勘づいてたから一緒に行ってないんだけどね」
さて、休憩でもしようかな…と言う時にバァン!とドアが開かれる。
「執務室のドアはアレだな、無い方がいいのかも知れないな」
「では、ちょうど良い機会ですね。たった今壊れましたから、修理はやめておきますか?」
「そうする…」
幸が救に飛びかかってブンブンと彼を揺さぶる。
「ちょっと!まも君!?何?!幸せにしてみせるって!?」
「ち、ちょ!幸様!?ご主人様が漫画みたいにブンブンとなっております!!」
「僕は!?僕はぁぁ!?」
「ダーリン!?奈々もだけど私を忘れちゃノーよ!?」
「こ、金剛様まで…!?」
この日から執務室のドアは無くなったとか…?