提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
『フフフ…』
その者は彷徨った。
ポツリと生まれ落ちたその娘は、あるものを探して彷徨った。
フラフラと誰かを探すように彷徨う彼女。
大侵攻があったかも分からないくらい平和な小々波のとある店。
うづきの店には2人の姿があった。
「……寂しいですね」
「………うん」
店主であるうづきと金剛の姿だった。
特に奈々を可愛がっていた金剛にとってこの喪失感は想像に出来ないほどのものだろう。
カラン…とドアを開けて入ってくる客があった。
「ごめんなさい…今日はお店……ッ!?こ、金剛さん!!」
うづきが怒鳴り声のような声を上げる。
無理もない。
そこに居たのはタ級と呼ばれる深海棲艦だったのだ。
ガシャン…と砲門をコチラに向けるタ級。
金剛はすかさずタ級に飛びついて外に飛び出して行く。
間一髪のところで砲撃は海の方へと放たれた、そして金剛もタ級にタックルしたまま海…街から離れるように海上へと進んで行く。
「お前達のせいで…奈々は!奈々は!!」
金剛の目が血走った。
バチッと音を立てるように彼女の周りはピリピリとした空気が漂う。
馬乗りになるように彼女に乗り掛かり、その右拳を振り上げた。
『オネェ…ちゃん』
「……は?」
絶望的な声が聞こえた。
絶望的な言葉が聞こえた。
決して開かれることの無いはずの彼女の口から…あの日から聞けなくなった声が聞こえたのだ。
騙されている、弄ばれていると思おうとした金剛は更に拳を上へと振り上げる。
「大好きなシスターの声で…お姉ちゃんと呼ぶなッ」
『オネェ…ちゃん……ごめんね』
だが、再度その口から放たれた言葉は…
どう足掻いても失ったもう1人のイモートの声そのものだった。
「な、なら!!なら!!お前の名前を言ってみろ!!」
嘘だと言ってくれた方がいい。
いや、本当だと言ってくれた方がいい。
そんなぐちゃぐちゃな思考に頭をかき混ぜられながら金剛は叫ぶ。
『な……ナ…だヨ』
「…〜〜ッ!!」
金剛はその拳の力を解いて…ギュッと彼女を抱きしめた。
『オネェちゃん。泣かないで?』
例え悪魔だろうと、天使だろうと、何でもいい。
会いたかった。
ただ愛しい妹な会いたかった。
ごめんねとありがとうと言いたかった。
「…こ、金剛さん!?」
「……奈々なんだよ…この子は」
「え…?!そんな、嘘ッ」
うづきは目の前の金剛に驚きを隠さずに居た、泣き腫らした顔でタ級をうづきだと言って連れて…手を繋いでいるのだ。
うづきにとっても敵の姿。憎き敵の姿。
ずっと…ずっと心の底から敵だと思っている。
仲間を死に追いやって、大切なものを奪って行く…
「いくら金剛さんでもッ!!許しませんよ!!」
「ほ、ほんとデース!うづき」
「いや!あり得ないッ!!そんなことあるはずが無い!艦娘になりたいって言ってた子だけど、そんな!深海棲艦を奈々だなんて言わないで!」
「姫ちゃん達も深海棲艦デース!艦娘として戻ってきた子もいまス!」
「……ぐっ」
確かにそうだけど。
いや、どこかでは姫ちゃんとか鬼ちゃんとか言われるあの2人にも嫌悪感は少なからずあった。
でも…
でも!!
『うづき姉さん…心配カケテ…ごめんなさい』
『…お姉ちゃんヲ…助けたクテ……勝手にフネ…ヲ…』
「……ッ!!!」
確かにあの子の声を発するのはタ級だった。
認めたくない。
認めたくないけれども…それが現実らしい。
「………」
「ばか…ばか!ばかぁあ!!」
3人で泣きあった。
周りの通行人が店の前で足を止めるのも関係なしに泣いた。
2人は喜びのあまり鎮守府へと彼女を連れて帰る。
麗や幸も駆けつけて喜びに沸く鎮守府。
救はもちろんの事こと、皆も姫ちゃんの存在もあり、すんなりと受け入れるようだった。
『わぁ…ココがお風呂…広い…』
鎮守府でのお泊まり会となったようで、ガールズトークとはいかないが会話に花が咲いていた。
『この姿でモ…あの人ハ…私のコト認めてくれるカナぁ…』
彼女は不安そうに漏らす。
思えば、良い思いをした事が無かった人生だった。
親がいない。
必死に生きようとしても…誰もが訝しげな目でこちらを見てくる。
勉強もがんばった…でも学歴はついてこない。
贅沢なんかできなかった、それでも我慢した。
ある日の事だった。
カフェでバイトをしていた時のことだった。
お釣りを間違えて渡してしまい…お客さんにかなり喚かれた。
やれ、孤児だとか…低学歴だとか……頭を下げていたが悲しくなって泣けてきたが、それすらも否定される。
その時に彼が助けてくれたのだ。
「誰にでも失敗はありますよ。それをそこまで人間否定するように言うあなたはそこまで偉いんですか?」
「私は彼女の明るい接客でいつも元気を貰ってます。たまの楽しみになってるんです。だから彼女を一度の失敗でそこまで責めないでください」
客を嗜めた後、笑顔を私に向けてくれたあなた。
すみませんでした!と頭を下げる私に俺も同じだから…辛さはわかるよ!何かあったらいつでもいつでも言ってね!と言ってくれた。
ご縁があってうづきさんのところね働き始めたけども…
嬉しかったのはあの人が私の事を覚えていてくれたこと。
「あの人はそんなに小さな人じゃないデース」
「ダーリンは奈々の事も大切にしてくれまーす!」
もちろんうづきのお店も続けている。
海の上を移動できるようになったのと艤装?ってのがあるから仕事も楽になった。
むしろ、海の上でも一緒に金剛お姉ちゃん達と居られるのが嬉しかった。
そんなある日に…私はお姉ちゃん達と海にいた。
いまだに海の上にいる事が信じられない…。
深海棲艦…
よくわからないけども…そんなに恨みが強かったのかな。
でもあの人に会いたかった。
お姉ちゃん達とずっと居たかった。
いや
こんな世界が嫌いだった。
そう思った瞬間に頭の中にノイズが走った。
『自覚したわね?残された時間は…あと2時間よ…』
『何!?ドウ言うコト!?』
『アナタが生まれた時…仕掛けたのよ。深海棲艦になるなんてよっぽどこの世界に恨みがあるのねえ…』
『だからあなたごと大切なものも嫌いなものも消し去ってあげようと思ったのよ』
『一体ドウいうこと!?』
頭の中に響いた声。
いつだ?いつの声だ?誰の声だ?
頭が痛い。
膝をついて蹲るタ級…もとい奈々。
「どうしたの?!」と、心配そうに声をかける金剛。
そうだ。
昨日…私は……奴に…。
思い出された姿は戦艦棲姫が私に何かをしたこと。
『家族に会わせてあげるわ?』
『時限付きだけどね?その時が来たら…嫌でも一緒になれるわぁ』
『アナタが爆弾そのものになるのだからね』
『ひたすら破壊をしつくして自分ごと消えなさい?仲間にしてとこうとも考えたけど…人の分際で私に銃を向けたアンタを生かしてはおかないわぁ』
『さあ…逝きなさぁい』
途端に私の頭をとてつもない憎しみが覆う。
私の負の感情が一気に一気に広がり、ガクガクと震えてくる。
ワタシを…憎い感情ガ…染めテ行く…て
「大丈夫?」
「さあ帰ろう?」と金剛が優しく声を掛けてくれる。
私は…
金剛を突き飛ばして、鎮守府に砲撃を行った–––––
暗いお話。
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