提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「…ッ!?奈々!?」
波止場のうづきが絶望的な目でこちらを見る、鎮守府からわらわらと皆が出てくる。
『ハァッ…はぁっ…』
殺せ
死ね
消えろ
こんな世界消えてしまえ
消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえ消えてしまえきえてしまえ
消してしまえ
『うグあ…あぁぁぁあ!!』
『金剛ぉ…逃…ゲテ』
「奈々!」
必死に呼びかける金剛。
『消しテヤルッ!!』
あたり一面に砲撃を始める奈々…いや、タ級。
その姿は今までに見た深海棲艦そのものだった。
「何だよう…やっぱり奈々は悪なの?」
「やっぱり深海棲艦なんか……」
ギリッと握りしめた手を見ながら言ってはならない一言を発そうとした時だった。
「……あの子を信じてあげてほしい」
そう言って私の横を駆け抜けて行ったのは姫ちゃんの後ろに乗る救提督だった。
「……ッ」
暗イ…
深イ…憎い海…
皆消し去ロウ…
私ゴト…
皆ガ…ヒテーする私ゴト…
いいや
そんな訳にはいかない。
私が死ねば…
私が倒されれば…ッ
みんなは助かるんだからッ
起爆装置はこの身体。
爆弾もこの身体。
皆を傷つける訳にはいかない!
鎮守府を…皆の場所を壊すのも、皆の栄光に傷をつけるのもダメだ!
なら
彼女はその小さな、今にも潰されそうな心で…腹を括った。
「うわぁあああああッ」
彼女は大好きな皆へと走る……砲撃を行いながら。
私が敵なんだ!と叫びながら。
『わ、私を倒さないと…ここら一帯吹き飛ぶぞッ!!』
タ級…奈々が発した言葉は金剛達の耳に入る。
『私が爆弾だ!あと1時間もしない間に爆発するぞ!!そうなりゃ…ここら一帯…鎮守府も吹き飛ぶぞ!あなた達の居ない間に深海棲艦が街に攻め込むぞ!!』
「奈々…まさか」
そう、彼女の意識は闇に飲まれてはいない。
大切な人達を守りたい––
その心だけで押し潰されそうなほどの悪意に耐えているのだ。
「奈々!きっと助けるから!!」
『そんな…夢物語な話があるかッ!私はお前達の敵だぁぁ!!』
ギリッと歯を食いしばる金剛。
助けたい。
しかしその術がない。
ここまで無力なのか。
こんなにも…手を伸ばしたら彼女に触れられるのに…私は助けることもできない。
『なんで来ないんですか……』
誰にも聞こえない声で奈々は言う。
なら……
「こんごおおおおおおッ!!」
「あな…お前はッ私が沈めてやるぅぅううう」
「お前が大嫌いだった!!」
ズキンと何かが痛んだ。
それが何かわからない。
視界がなぜか歪む。
何故かわからない。
「いつでも…底抜けに明るくて」
「優しいお前が大嫌いだったんだぁぁぁあ!」
皆が艤装を構える。
やめろと言う救さんの声が聞こえた。
バッと金剛が手を出す。
"手を出すな"の合図だ。
金剛も分かっていた。
彼女が今何をしようとしているのか、分かりたく無かったが分かってしまった。
「…………」
「…私も…イジイジしたお前がッ!大嫌いだったァァ!!」
きっと皆にも見えているだろう。
私もきっと酷い顔をしているだろう。
涙でぐちゃぐちゃな顔をしているだろう。
「「うわぁあああああっ!!」」
ドコッ…という生々しい音がして…
拳がお互いの頬に突き刺さる。
涙と血が飛び散る。
「ガッ」
「ううっ」
数秒の間時が止まった。
あなたの温かさが…こんなにも伝わってくるのに…。
「「うおおおおおっ」」
凄惨…心が痛む殴り合いが続く。
あの小さな体に…なんて力を持ったのだろう。
あの小さな体で…なんて覚悟を背負ったのだろう。
ただ見守るしかなかった。
それを選んだ彼女
それを受け止めた彼女
両者を止められる者は居なかった。
「馬鹿姉貴ィィイイ」
「この馬鹿妹ォォオオ!!」
金剛は涙目でタ級の顔面に拳を叩き込む!
奈々は…その拳を払い除けて同じように拳を金剛に叩き込む!
拳と拳が、脚と脚がぶつかり合う。
何度も肉薄してはど付き合い、血や涙を飛び散らせながら声にならない声をあげてぶつかり合う。
「何で金剛さんは泣きながら戦ってんだ?!奈々だろう!?」
「…奈々は金剛に倒されようとしてる」
「なんだって!?」
「奈々は呑まれかけてるのよ…闇に。でも何とか正気を保ってる。このままだと彼女に仕掛けられたモノが爆発するからって」
「だから彼女はそれを防ぐ為に戦ってるのよ…金剛とも自分とも」
「何だよ!それ!そんな酷い話があんのかよ!!奴は!アイツの心は…ッ」
「目の前にあるじゃないッ!彼女は…どれだけの苦悩の中に居るか…」
「何もできねえのかよ!?俺たちは!!」
「見守るしか…ないわよ…」
「金剛さん!その子を…とめてあげてええええ」
「ななぁぁぁああ!!負けるなぁぁあああ!!」
とある少女は泣き叫ぶ。
孤児院から彼女を引き取った少女は泣き叫んだ。
暗い子だった。
笑わない、ただ淡々と日々を生きて仕事をするだけ。
幸せを知らない、愛を知らない、普通を知らない壊れた心。
氷のように閉ざされた扉は…
私もよく知る彼らが開いてくれた。
笑うようになった、乙女の顔をするようになった。
艦娘への憧れや家族への憧れを持つようになった。
金剛さんや提督さんの話が増えた。
可能なら…鎮守府に行かせても良いと思った、彼女がそれを望んで幸せと言うのなら…。あの人を追いかけるのも良いと思った。
でも彼女は死んだ。
ヒトが艦娘に…ましてや深海棲艦になるなんて聞いた事がない。
しかし
ようやく明るくなれたのに…
ようやく希望を持てたのに…こんなのあんまりだ…と、うづきは泣き崩れる。
痛々しい乱打戦の一瞬の隙…。
金剛は奈々を足払いする。
立ち上がろうとするタ級…いや、奈々は動きを止めた。
ガシャン…と主砲が彼女に向けられた。
その主砲の先端は…ピタリと彼女についていた。
彼女は抵抗しなかった。
ただ…涙を浮かべて「負けちゃった…」と呟いた。
それでも金剛は撃たずにいた、当然だろう。
思い出と言う名の門が邪魔をする。
短くとも…濃い思い出が彼女にその一歩を踏み出す事を許さなかった。
「撃てない…よ」
金剛はぽろぽろとその心情を涙と共に吐露した…撃てるわけない…と。
あぁ…そこまで思ってくれているんだ。
嬉しいなあ…
「奈々ァァァア!!」
あの人が私の名前を呼んでくれている…。
あぁ…幸せにしてくれるって言ってくれたもんね…
うん
私…今、ものすごく幸せ。
なら…尚更、この大好きな人達を死なせる訳にはいかないなあ。
残り時間はもう無い。
彼女の震えが止まった。
空気が変わった。
それは金剛も感じとった。
彼女は叫んだ。
大嫌いだなんて言ったけど…
本当は
本当は大好きな
お姉ちゃんのような艦娘に叫んだ。
「テメェが撃たなきゃ死ぬんだぞッ!!」
「今すぐにでも…奴等を撃てるんだぞ!!」
「撃てぇぇええええええ!金剛ぉおおおお」
ガシャンと艤装を大好きな救の方に向ける。
カチリ…とトリガーをー…
ズドン…と
乾いた音と周りの叫ぶ声と
金剛の声だけがこだました。
倒れながら…彼女は見た。
『撃った!仲間を撃った!!』
遠くの戦艦棲姫がそう言った。
高みの見物?
最低ね…。
まだ…
せめて…あの女だけは…
倒れ行く奈々を金剛は抱き止める。
「なんで!!」
『こうでもしなきゃ…みんな死んじゃうから』
「そんな…でも!」
『…これしかなかった…ごめんね』
自らの命を引き換えに皆を守る事を選択した彼女。
妹として、敵として…暗い闇に打ち勝って…大好きな姉に倒される事を選択した彼女。
「「ほんとは」」
「お姉ちゃんができたみたいだった」
奈々…タ級は言う。
「妹ができたみたいだった…ううん、あなたはイモート!」
金剛は言う。
「……ごめんね、お姉ちゃん」
「………許してとは…言いません」
「ううん…怒ってないよ」
彼女はニコリと笑った。
「みんな…大好きッ!」
「金剛お姉ちゃんも…榛名お姉ちゃんも…みんな…てーとくさんも大好き」
「生まれ変わったら…」
「艦娘に」
お姉ちゃんの妹に…
今度こそ
皆の
なりたいな
彼女は再度、姉を弾き飛ばす。
「奈々!?」
彼女は最後の力を振り絞って進む。
嘲笑う戦艦棲姫の居る場所へ…
せめてお前を巻き込んで…散ってやる。
金剛達の視線の先にも戦艦棲姫が見えた。
『私から何もかも奪ったお前を許さない!!』
『お前の思い通りになんかなるもんか!!』
『お前なんかに負けるもんか!!』
『私がみんなを守るんだぁぁあああ!!』
どれほどの覚悟だろうか?
どれほどの勇気だろうか?
そんなものは本人にしかわからない。
だが、彼女は逝く。
その小さな全てに大きなものを背負って…
『来るな!1人で死んで行けッ!』
放たれる砲弾を躱しながら奴へと進む。
擦りながら…体を飛ばされながら
そして
あと一歩の所でワタシは力尽きた。
『……ごめん…お姉ちゃん』
でも見て…
この手は…アイツに届いたんだ…
悔しいなあ……
悔しいなあ…
彼女はドシャリと倒れ込んで動きを止めた。
ブクブクと沈み行く彼女。
『少し焦ったが……やっぱり貴様のような犬にはやられるものかぁ!!』
追いついた金剛達が見たのは…
沈み行く彼女と…あの時の戦艦棲姫。
「「奈々ぁぁあああッ!!」」
うづきも…金剛も誰もがその名を叫んだ。
「お前か…お前が奈々を!2度もッ!!」
『命拾いしたな!…しかし…利用価値もなかったな…』
「…許さない」
「何があっても…貴様がどれだけ謝っても」
「私は貴様をッ」
「絶対に許さない」
『まだ間に合うんじゃない?あのゴミの回収は』
その言葉に金剛は反応してしまう。
急いで海に飛び込む。
居ない。
息が途切れて水面に上がる。
『よく探してよ?くくく』
遠ざかる奴を無視して私はずっと妹を探し続けた。
暗い…
暗い…
ごめんね
ごめんね
少しでもお楽しみ頂けたなら…
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