提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「女の子に戦わせるな! 艦娘にも自由を!!」
「提督はー!今すぐに!艦娘を自由にするべきだー!」
「いいや!彼女達は兵器だ!提督はその地位を使って武力を独占している!徹底的な管理が必要だ」
「そーよ!いつ反乱が起きるかわからないわ!」
また来てるよ…
この西波島鎮守府には、鎮守府以外のものは無い。
彼らはご苦労なことで毎回呉越同舟のように同じ船でやってきた。
鎮守府の目の前でこのようにデモを行い、また同じ船で帰る。
大淀が帰るように促すが、帰らない。
時給制なのか?と言うくらいしっかりと17時まで居る。
何度目なんだよー…この集まりは…。
俺達は仕方なく話の為に門外へと出て行った。
遠征帰りのメンバーも合流したのでそれなりの人数での会合となった。
「我々はこの世界を守る為に…海を取り戻す為に戦っています」
「だからって女の子を戦場に送るのか!保護対象だろ!」
「いいや!兵器は確実な管理の元で運用されるべきだ!感情を持った兵器は危険だ!」
うーん…いつにも増して面倒なパターンだ…。
「おいクソガキ… お前はコイツらが絶対安全と言えんのか!?え?!」
「ワシの息子はな…お前達と同じ事を言ってな…深海何ちゃらに殺されたんだ…」
松さんと呼ばれるリーダー格のこの男の息子は深海棲艦との戦いで死んだらしい。
恐らく…鎮守府に攻め込まれた際に亡くなったんだろう。
俺の家族も!友人も!恋人が!!と、色んな声が聞こえている
はてまた
「しかし!年端もいかない女を戦場に送り出すなんてあまりに外道だ!」
「見ろ!こんなにボロボロで…彼女も軍人に毒されているんだ!この悪魔!」
と石が飛んできて頭にあたり少し血が出た。
「このっ!!」
と足柄が怒っている。
やめろ…平気だと言う。
足柄のファンであろう男が言う。
「足柄ちゃん?そんな男なんて捨ててこっちにおいでよ!君達は戦わなくていいんだ!そんな悪魔の手先にならなくても」
「いいえ、行かないわ…戦うのが私達の使命なの。そして私達にしかできないことなの」
「分からず屋だなあ…なら!その男でなくても良いじゃないか!」
「この人でないとダメなんです…あなたじゃダメ」
「何言ってんだ!奴らこそ!悪魔の手先だ!人間の敵だ!」
「俺たちの家族を返せ!」
と1人2人が艦娘に石を投げる。
「やめろ!」
と両勢力が小競り合いになる。
「やめてください!」
と大淀が言うが聞かない。
どんどんヒートアップするご一行様…
兵器だ化け物だ、いいや!保護対象だ!
「くだらん…やめて欲しいものだ…」
と俺はボソリと言った、俺はこの手の話題が嫌いだった…。
実力行使でも、大きな声で文句を言うことも可能だが、それは火に油を注ぐ事になるのであまり出来ない。
また同じようなやり取りをして、小競り合いをして帰るのだと思っていた。
だが
「うぁあああああ!!!兵器が!!俺達の家族を返せ!!!」
と1人の男が走ってくる。流石にこれは見逃せないと思い。
足柄…下がれ…と言い足柄の前に出た。
「危ないっ!」
と誰かの聞こえた。
男は俺に体当たりをして来たようだ。
腹部に焼けるような痛みが走った。
いいのを貰ってしまったようだった。
男は
「…お前が…お前が悪いんだ」
と言う。
何だ?
腹部に違和感があるな…
どうやら俺の腹に包丁を刺したらしい。
男の手に血だらけの包丁があった。
「おいおい…マジかよ」
何て日なんだ…。
「きっ…貴様らぁあぁあ!!!!!」
と艤装を展開させる…足柄。その目は完全に血走っていた。
「そら見たことか!それが本性だろうが」
「ひっ!ほら!やっぱり悪魔なのよ!敵なのよ!」
「違う!お前らが…余計なことを…!目を覚ましてくれ!お嬢ちゃん達…」
「やめろっ…」
と艦娘達を止める。
「しかしっ!提督…」
「この人たちは守るべき対象なんだ…今お前達が手を出してしまったら…」
「人を撃とうとしてるわ!やっぱり化け物なんだ!!」
「いや!洗脳されてるんだ!」
「よくも!提督を」
「化け物の指揮官も血は赤いんだな」
「なあ…やりすぎじゃないのか?」
「いいんだ!正義はこちらにあるんだ」
ワイワイと言いたい放題を言う奴ら…
正義と言ったか?
正義?これが?
ふざけるな
うるせええぇえええ!!
と本気で叫んだ。
ピタッと音が止んだ…。
「提督…?傷が…」
腹から血が余計に流れる…
が、そんなこと知るかと俺は言う。
「なあ…あんたら… これがあんたらの正義か?
正義の名の下なら殺しも厭わないのが正義なのか?
と問うた。
正義はその人によって違う。
だが見る角度によっては正義は悪になり得るし悪もまた正義となり得る。
俺は今の仕事を正義と振りかざすつもりはない。
確かに女の子を戦場に送り、戦わせるのは見方を変えたら悪だろう…だがな、俺だって辛い…。
ただな…お前らだってそのお陰で安全に暮らせてるんだ。
お前らが寝ている間も…夜の海に出て戦い、お前らが普段通りの生活をしている中戦っているんだ!」
1人を指差して言う。
「お前!お前は武器を持って深海棲艦に対峙できるか?!」
「いや…」
とその艦娘反対派の男は言った。
別の人を指差し
「お前は!海の上で敵の砲弾魚雷を躱し立ち回れるか?!」
「…無理だわ」
と艦娘擁護派の女が言った。
「誰にも!出来ないんだよ!!!!
そして…それは、俺が1番わかってるんだ!!!!そんなこと!!!いかに自分が無力かと言うことも!
彼女達にしかできないんだ!
お前らは
口では"艦娘に自由を!"と言う
"兵器だ化け物"だと言う。
自分達が危なくなったら、なぜ守ってくれない!そのための存在だろう?と言って、平気で艦娘に石を投げる。
彼女達が何をしたんだ!!
戦ってるんだよ!平和の為に!!
なぜ…代わりに戦ってくれたありがとう、お疲れ様…と、誰1人として言えないんだ!
ならお前らが戦ってみろよ!
深海棲艦と戦えるから化け物なのか?兵器だ?人間だ?
そんなくだらない話なんぞ しなくていい!!
彼女達は彼女達だ!!!兵器でも化け物でもない!!
見ろ!この子達を!
こんなにボロボロになっても…戦ってるんだ!
涙を流そうと!お前らと同じ赤い血を流そうと!
こんな馬鹿げた俺達のために命を張って戦ってるんだ!
それは否定させない…。
俺も今、お前らが憎いよ…。
だって守るべき者に殺されかけてるんだからな
お前達の方が化け物じゃないか!!
でもな…憎む…それじゃあ意味がないんだ。
彼女達は誰かに感謝される為にやっているんじゃない…。
感謝されるのは海軍でも執務室に座る俺でも…上でふんぞり返ってる
本来なら1番感謝されるべきは彼女達なんだッ!
非難される事なんかひとつもないんだッ!!!
今すぐ分かって帰ってくれとは言わない。
でもな…
少しでいい…少しでいいんだ…
彼女達と言う存在を分かって欲しい」
と俺は頭を下げた 血が止まらない。
「小僧…」
と松さんとやらが言った。
「俺はこの子達が大好きだ…心から愛している…だから私は…俺は、命を張って彼女達を守る。一緒に世界を平和にする!その為にここに居る
なあ見てくれよ…お前らが化け物と言う彼女達を…本当に化け物か?
頼む… 少しでいい…
わかって… く れ… 」
ドサリと提督は自らの血溜まりへ倒れ込んだ。
「提督!?」
「提督!提督!!!」
「まずいわ!血を流しすぎている…このままじゃあ!」
「嫌よ!死なないで!お願い!置いていかないで!」
艦娘達が泣いていた。
たった1人の小僧の為に涙を流していた。
松さんこと、松田にはそれが不思議だった。
息子は深海棲艦との戦いで死んだ…それ以来艦娘がそう言う存在だと決め付けてきた。嫌いだった。所詮は兵器なんだと…
しかしどうだ、目の前のそれらは、ワシらの無礼に耐え、提督の心配をし涙しておる……提督兵器は涙を流すのか?
本当の化け物はどちらなのか…?
艦娘が人間か兵器か?と言う話題は尽きなかった。
松田は艦娘は危険な兵器と思っていた。感情を持った兵器なぞ危険極まりないからだ。なら今のワシらはどうだろうか?感情のままに動き剰え人を殺そうとしている。
提督の叫びはは彼の心を少し動かした。
「ワシが診る」
と松田が言った。
「こんなに人の為に涙を流せる彼女達が兵器なわけが無いかも知れん…」
「しかし!松さん…」
「やかましいっ!!どっちが化け物か?ワシらじゃろうが!!平気で人の領地に土足で踏み込み、荒らし…それでも彼女達は耐えておる!本当に化け物なら今頃ワシらも殺されておるわ」
「お嬢さん方…謝罪はあとでさせてくれい。今はこの小僧…いやこの男を救う事に協力させてくれ」
「お願いします…!お願いします!!」
と頭を下げる艦娘達
「おいっ!手の空いているものは手伝わんか!医務室はあるんじゃろ!運ぶぞ!!」
…
……
鎮守府の一角で手術は行われた。
幸い、軍設備故に機器類等は充実していた為に素早く取り掛かることが出来た。
松さんと呼ばれる医師と、助手であろう青年。
明石と夕張がサポートに入った。
傷は予想以上に深く難航を極めた。
そして、数時間後のとある大部屋にて…。
「出来ることはやったわい.、後はコイツの生命力次第かの…いかんせん血を流しすぎたわい」
「ありがとう…ございました」
と艦娘達はずっと頭を下げていた。
だが、全員のいる大部屋は通夜状態に静まり返っていた。
そうだろう。デモのつもりがこんな結果になったのだから…。
重い空気が漂う。
そこに間宮達が入って来た。
「皆さん…軽食をお持ちしました お召し上がりください」
とおにぎりと味噌汁を持ってきて、1人ずつに配って行った。
住民達はわからなかった。
ここまで私達がめちゃくちゃにしているのに何故彼女達はこうもできるのか?
「提督ならきっとそうすると思いまして」
さっきまで睨みをきかせていた艦娘ですら…どうぞ、と差し入れを渡している。
そればかりか
「提督を助けようとしてくれてありがとうございます」
と頭まで下げている。
さぞ悔しいだろう、さぞ憎いだろう。
でも、この提督と呼ばれる奴は、きっとそう言う男なのだろう。
私たちが憎くても…それじゃダメだから…と、少しでも良いから理解して欲しいと言った。
だから艦娘達は付いて行くのだろう。
だから艦娘達は守ろうとするのだろう…。
おにぎりも味噌汁も温かった、美味しかった。
自分達が作り、食べるのと変わらなかった…。
「私達が…間違っていたのだろうな…お嬢さん達は化け物なんかじゃない…私達と変わらない人だ」
と1人の住民が言った。
「そうだ…すまなかった…」
と松田が頭を下げた。
頭を下げる人も…少し難しい顔をする人もいた。
「…正直、あなた達が死ぬほど憎いです。今すぐ消してやりたいと思うところもあります…ですが、私たちは皆さんを守る為に戦っています。
提督も言いましたが…少しで良いんです…少しでもいいので私達を認めてください」
と艦娘も頭を下げた。
住民達は何度も謝りながら帰って行った。
後日改めて謝罪に来るらしい。
提督を刺した人は憲兵に連行されるとのことで、夜なので見送りに数名が護衛に回った。
これで少しは変わるといいな…と思ったその時だった。
青ざめた明石が飛び込んできた。
「て…提督が!提督が!!」
「目覚めたの?そんなに慌てなくても…」
「違うの!心肺…停止したのよっっ!」
「え…」
皆が駆けつけると夕張が泣きながら心肺蘇生を行っているところだった。
提督ッ!提督ッッ!!ダメ!行かないで!!
心電図は蘇生によって一瞬動くが、無機質なピーという音が室内に響いていた。
正義の定義とは何なのでしょうか?
正しい事とは何なのでしょうか?
正義と言う大義名分は人の箍を外すようです
そんなお話を書きたかったです