提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
『ヤメロぉ!!ビスマルク!!』
間一髪だった。
指揮官が…西波島艦隊がやって来たのだ。
桜フッドを退げさせて明石が手当に入る。
『ビスマルク…お前…』
『指揮官…来てしまったの?』
『来るさ、俺はお前達の指揮官なんだから』
『なあ、やり直そう』
『全ての責任は俺が取る』
彼は両サイドに頭を下げた。
指揮官がそう言う。
ビスマルクは軽くため息をつく。
『指揮官が居るなら…この世界でも私に意味があるわ…』
『フッドは致命傷を避けてるから…大丈夫なはずよ…でもごめんなさい』
幸いフッドは言う通り軽傷だったらしく、痛かったですよ?と文句を笑いながら言っている。
『信じて良いんだな?』
『ええ、全てに誓うわ』
『私は…何があってもアズールレーンの一員で、指揮官のKAN-SENよ』
レッドアクシズ…鉄血と重桜がニコリと笑う。
全ては私達の抱いた期待と同じ事だった、彼女達は仲間だった。
今からでも立て直せる。
なんて事は起こり得ない。
そんな漫画みたいな事は起こらない。
目の前に映る現実こそが全てなのだ。
それ以外は全てが虚構であり妄想であり幻想である。
「…あ…あぁあ……
急いで駆け寄り、水面下へと飛び込む。
いくらもがけども体は上へと引っ張られ、代わりに微かに見えるフッドが暗い海の底へと引っ張られるように沈んで行った。
「ぷはぁ…ハァッ…ハァッ!!」
彼女と引き離されるように水面へと上がった彼女。
立ち上がりながらギロリとその元凶を見上げて睨みつける。
私と彼女の居る海を見つめる彼女の目は…もう私の知るビスマルクではなかった。
「…うっ……うっ」
「諦めなさい…」
ビスマルクは諭すように優しく声をかける。
やめてくれ、やるなら徹底的に冷たく徹してくれ!
私に…これ以上お前との思い出を頭にちらつかせないでくれ!!
「仲間が…死んだんだぞ」
「………私にとっては元仲間…いえ、同僚かしら」
「何も感じないのか?!」
「運命の歯車というのはそういうものよ」
その一言でブツン…ときた。
「ビスマルクゥゥぅぅうあああッ」
エンタープライズが怒気を露わにして飛びかかる。
「桂馬の高跳び歩の餌食……だったかしら?」
「…空母が前に出過ぎたら……戦艦に討たれるのよッ!!」
ズドォン!!!
主砲が思い切り掠って飛んで行く。
エンタープライズはきりもみしながら後方へと吹き飛ばされて行く。
「ガッ…グフッ…うっ…」
ギリっと拳を握りしめる。
フッドが何をした?再現?
お前は運命なら争う為に指揮官と共にセイレーンと戦ったのではないのか?!
信じた私が馬鹿だったのか!?
教えてくれ…ビスマルク
教えてくれ…指揮官
私は何を信じて戦えばいいんだ!
「うわぁぁああ!!」
軋む身を起こして再度殴りかかる。
ヒラリと避けられ、腹に一撃を食らう。
ビスマルクは淡々とエンタープライズを殴って蹴って…
ガシャン…
と主砲を構えた。
「くっ……ビス…
ズドォン!!!
容赦なく発射された。
艤装でカバーしたが、爆発には耐えられなかった。
後方へと吹き飛ばされるエンタープライズ。
何度も何度も海に叩きつけられながら己の無力を感じた。
「……うっ…くっ」
体が動かない、弓も構えられない程に、指先を動かすのでさえ激痛が走る。
視界の端にビスマルクの足が見えた、彼女が近付いて来てるのだろう。
後ろからは立って!逃げて!との声が…叫び声が聞こえる。
お前達もレッドアクシズに囲まれてると言うのに…
「…頼む…ビスマルク」
「なに?」
「ここは私の命ひとつで許してもらえないか」
「都合が良い事だとはわかっている。未だにお前達が敵になったと信じられない…信じたくない奴等も沢山居るんだ」
ビスマルクは悲しそうな顔をする訳でもなく
そう…とだけ言った。
「……無様ね…グレイゴースト」
「見なさい」
ビスマルクはエンタープライズを掴んで言い放つ。
「……皆…」
大破や轟沈こそしてないものの、殆どの仲間が傷付き、涙を流している。
「お前達が弱いからだ。運命は乗り越えられないのに…抗おうとするからだ」
「でも…ビスマルク!お前はッ」
「黙りなさい。嫌が応にも分かってしまうのよ」
「いかに残酷な運命でも…それに逆らう事は出来ないって」
「なら…最良の選択をするしかないじゃない」
「この母港は我々が占拠させてもらうッ!!」
「今すぐ…この死にかけの白い奴を拾って無様に背を向けて行くが良い!!」
その言葉に皆が狼狽える中で「……何なのアンタは…何がしたいのよ!!」と、エリザベスが吠える。
「味方だと思ったら敵で…殺したと思ったら見逃して…何がしたいのよ!アンタはどこの所属なのよッ!!」
「私はレッドアクシズのビスマルクよー…」
その今までに見たこともない眼と声にエリザベスは思わずヒッ…と声を上げた。
「別に…今ここで殺しても構わない」
「ただね…あなた達みたいな羽虫如きが飛び回ったところでこの未来は変わらないし、どうにもならないのよ」
「…くっ!!仲間に向けてそんな言い草!!」
「だから言ってるでしょう?仲間なんかじゃないって」
「あの人の側に居るから…そう思い込んでいたのね…哀れ」
「さあ、どうするの?」
「少しでも変な気を起こすなら、ここで皆…海の藻屑となって貰うわ」
「逃げたとしても…最期までの時間が少し伸びるだけだけどね」
エリザベス達の指示の下、ロイヤルやユニオン達…残されたアズールレーンは負傷者を抱えて撤退した。
母港の執務室の指揮官の椅子に彼女の姿はあった。
「……これでよかったの?やり過ぎじゃない?ビスマルク」
「赤城…。私はレッドアクシズの旗艦だ、皆を守る義務がある」
「その為ならセイレーンに頭も下げるし、何でもする」
「そう…」
「まぁ…そうね、指揮官様の居ない未来に意味はないものね…重桜も協力するわ……」
「奴等はまた来るでしょう……皆を呼んで、今後の説明をするわ…」