提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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409話 提督と艦娘 ①

 

 

影が部屋を出る。

そろりそろりと足音を立てずに部屋を出ようとすると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこへ行こうと言うのかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の朝イチはこの一言から始まった。

 

「ふぇぇ!?」

 

「もう一度聞くよ。どこへ行こうと言うのかね?」

強めの口調で問いただす。

 

「はぅ…」

片方はしどろもどろになっている。

 

「答えない……と」

「それとも……答えられない………?」

 

「いや…あのね?これは…ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

救と初月だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問い詰められているのが救であり、そのやり取りが行われているのは救の私室である。

 

 

 

「こんな早くからどこに行くって言うの?僕を置き去りにして!」

 

「お、置き去りィ!?そんなつもりは…」

 

「でも1人で行こうとしてるじゃないか」

 

「いやいやいやいや!部屋に…布団に入り込んでいたのはお前だろう!?」

 

「温もりが欲しいじゃないか!!」

 

「温もりならあるだろー!?その黒いスパッツ的なのがさ!!」

 

「人肌が恋しいんだよ!」

 

「スパッツ越しの温もり!?邪魔にならない!?それ!」

 

「………むぅ」

ぷくりと頬を膨らませモジトジとする初月。

 

 

 

 

「………いか」

ボソリと初月が何かを言う。

 

「ん?」

 

彼女は叫ぶ。

「破いたらいいでしょ!獣みたいに」

 

「何で俺が怒られてんの!?」

 

「さあ!破りなよ!オータムセンセーの本みたいにさァ!」

「大丈夫だよ!替えも沢山あるから!」

「部屋も涼しくしてたし、お風呂で綺麗にしてるから…その…匂いとかも大丈夫なはずだから!」

 

「い、いや…話がズレてる…」

 

そも、救は気付いていた。

誰かしらが布団に潜り込んでいた事は。

しかし、いつものこと過ぎて慣れを起こした彼は逆に潜り込んできた者を抱き枕にしたりしている。

今日も背中にしがみつく初月を感じながら抱き枕にしがみついていたのだ。

 

 

 

「まあ良いや…寂しかったんだな…初月」

初月を抱き寄せて頭を撫でる。

初月は顔を綻ばせて「はぅ…」と言っている、救は心の中で勝利を確信した。

「な?これで寂しくないだろ?」

 

「うん」

 

「よおし…良い子だ。お留守できるな?」

 

「うん」

 

「ベッドで寝てて良いから」

 

「本当?」

 

「あぁ!いいぞ!」

 

「嬉しい…」

 

「よし、俺は少し出てくるから…な?」

 

「……うん。…………うん?」

 

 

策士とは相手を読んで勝つものである。

彼は利用した。彼女達の弱点を!

私物である!

ぶっちゃけ追われる時もトリモチや捕獲ネットを放つよりも上着を投げつけた方が効果的なのだ。

それを知っている彼、故に負けない。

 

 

 

 

 

「だからどこに行くって?」

初月の目が赤く光る!

 

「チイィッ!!逃げられん…だと…!?」

 

 

––––だが、策士は策に溺れる。

勝利を確信し、油断した時点で負けは決まるのだ。

 

 

 

 

 

「良いのかい?提督…」

初月は声をワントーン落として言う。

 

「この手に有るのは…このスイッチは…対提督用緊急招集スイッチだ」

 

「…たい…ていとくよぉ?」

 

「これを押せば照月を始め…夕立や時雨達がすぐに駆けつけるぞ?」

 

「何でそこまでするの!?」

 

「僕は…!僕はぁっ!提督を独り占めしたいんだッ」

 

「おっと!動かないで!!押すよ?そうすれば…提督は外には出れない…よ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前も俺を独り占め出来なくなるけどな…」

 

「…あ」

 

「え?今気付いたの?」

 

みるみると苦悶の表情に変わって行く初月。

 

「そうかあ…。うん、押して良いよ?俺1人なら…初月を丸め込んで逃げられる気もするからな」

「でも…何で君がここに居るの?ってなるよね?」

 

「うぐっ…!!」

 

「そうしたら君は問い詰められるだろうな…」

「そして俺は正直に言うよ?初月が夜な夜な部屋に侵入して布団に潜り込んできたって」

 

「ふぐぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…鬼怒もいるんですが…」

 

 

「鬼怒ぅぅ!?」

 

 

伏兵は居た。

寧ろ初月よりも前から布団の中に居たッ!!

 

というか彼が今日抱き枕にしてたのは鬼怒だった。

 

「鬼怒の方が先に提督に出会ったのに!お姉ちゃんの方が先に結婚して…ッ!嬉しいケド…!嬉しいケド!!なんか複雑っ!」

「だから潜り込んだの!」

 

「鬼怒…ぱない」

初月が鬼怒の勢いに圧されている!

 

「それは鬼怒の十八番!!」

 

 

まさかの伏兵の登場で戦場は膠着状態となっていた!

しかし、このままで困るのは三者三様である。

救は己の目的の為にこれ以上時間をかけていられない。

初月と鬼怒は時間をかけると他のメンバーがやってきて厄介になる。

2人きりだと思っていたらそんな事はなかった訳で…ライバルを排除しない訳にはないかないし、提督を流したくないし。

 

 

故に仕方がない。

ここは2人で提督をシェアすると言う考えに至る!

背に腹はかえられない!!

 

 

 

 

 

 

「そ、それより!提督はどこにいこうとしてたのかな?」

 

「そ、そうだよ!気になるよ!」

 

 

提督と一緒に居る…。

2人きりは叶わないとの考えには至ったが、目的は一致している。

強いて言えば、追い出されてショボンとした仲間を見たくないのと、泣き出して他のメンバーを呼ばれても面倒だから…穏便に済ませたいのだ。

 

そんな2人の問いかけに対して彼は思う。

正直に言うしかない…と!

 

 

 

 

「焼き立てプリンパンを手に入れたいッ…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「やきたてぷりんぱん?」

 

「プリンパン」

 

 

「て、提督はそれだけの為にこんなに早くから行動するのかい?!」

初月は驚いた。

彼が無類のスイーツ好きなことは周知の事実だが…まさかそこまでとは!

何故なら今は午前3時30分!

船で行くとしても…早すぎるのだッ!

 

「あぁ、早朝モーニングをしてる店があってな…。そこでコーヒーを頂いてから並ぼうと思っていたんだ」

 

 

 

 

 

朝の6時半からそのパン屋はオープンする。

しかしそこは地元で有名な影の人気店ッ!早朝とは言え…並ぶのだッ!人が!!

ましてや救の求めるプリンパンは週末だけの特別メニューッ!!限定10個のお一人様1個までッ!!!

 

弱いッ!……限定という言葉に…ッ!欲しくなる!

並ばないはずがないッ!人が!!

故に彼は早めに行動をしたのだ。しようとしたのだ。

 

3つも買えないから!

3人で行っても買えないかもしれないから!!

 

 

 

 

何としても食べなければならなかった!!

 

 

 

「……」

そのただならぬ闘気に気圧された2人。

最早、一般人から放たれるそれではない。

 

 

 

 

「あの…」

鬼怒が口を開く。

 

「それって鬼怒達もついて行ったら……ダメかな」

「あのね?ちゃんと鬼怒達も並んで買うから…買えなくても文句言わないから………だめ?」

 

「お、お願い!僕も行きたい!」

 

 

「な、何で…そこまで…」

彼はハッとした。

 

 

 

 

 

一緒に居たいから…。

布団に潜り込んで来るほどに、引っ付いて離れない程に。

例え、それが一緒に食べられなかったとしても…笑顔を見られるだけで幸せだから。

その時間が愛おしいから。

 

 

「……あー………」

そんなこと聞かなくたって分かるじゃないか。

 

 

 

「……行くか?」

 

その言葉に2人はパァッと明るくなる。

 

「「うん!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴソゴソと3人で母港を出る。

目指すはプリンパン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこまでうまく行くかは…別の話だが……。

 

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