提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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410話 提督と艦娘と悪魔 ②

 

どこで用意したのか?と言いたくなる小舟を操作して彼は行く。

というか…彼女達からすれば信じられない光景である。

 

夜の海を1人…ましてやこんな小舟で行くなんて無謀にも程があるのが私達の世界の常識だった…。

……まあこの人たまに灯台とか行ってたけど…

 

ここら辺のセイレーン達は大人しい。

それは先の作戦での傷が影響しているのか…

最大戦力の母港近くだからか…

 

どちらにせよ、平和に越した事はない。

しかし、やはり考えてしまうのでソワソワしてしまう。

いや…絶対何があっても守り切るんだけれども、やっぱり少し怖いのと…お出かけが出来る嬉しさが……うん…。

 

 

都合の良い感じに用意された提督が契約しているらしい船着場に船を止める。

私達が船から降りるってのもシュールだけれども…うん、気にしないでおこうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……」

 

「あっ」

 

「むっ」

 

 

 

 

 

港の近くにパン屋はあった………が、少なくとも15人以上は並んでいた。

 

一目で分かる。

これではプリンパンを買う事はできないだろう…と。

 

 

なんやかんやで今は5時少し前。

救の当初の予定であるモーニングを食べてから並ぶと言うのは叶いそうにない。

 

 

2人は苦い顔をした。

もし、自分達が時間を掛けずに提督を行かせていれば間に合ったのではないか?と考えられずには居られなかったのだ。

 

 

 

 

 

「仕方ない、モーニングでも食べてからパン買って帰るか」

と、彼は飄々と言う。

「えっ」「あっ」と言葉にならない言葉しか出ない2人は恐る恐る救の顔を覗くが救はケロッとしていた……のが逆に怖くて申し訳なかった。

 

「ご、ごめんね…提督」

彼の前に出て頭を下げる。

 

どんな言葉でも甘んじて受けようと思った。

でも彼は私達の頭にポンと手を置いて撫でてくれた。

 

「気にするな……っても無理か」

よしよし…と愛おしそうにその両の手で撫でてくれる。

そして、「行こう」と私達の手を引いてモーニングへと向かった。

 

 

ぼんやりと明るくなってきた中、周りはまだ暗い中でポツリと明るい所があった。

提督の目指した喫茶店である。

店先ではほんのりとコーヒーとパンの焼ける匂いがお腹に突き刺さった。

 

 

「…くっ!何で美味しそうな匂いなんだ」

初月は口元を拭いながらジイッと店を見つめた。

 

「この匂い…ぱない」

眠さからか…語彙力の低下が見られる鬼怒であった。

 

 

 

 

「…あぁ、君か…いらっしゃい」

 

「マスター、おはようございます」

 

マスターと呼ばれた初老の男性が救達を迎える。

 

「…今日は女の子連れか」

厳粛そうな雰囲気を醸し出すマスターはそう言う。

きっと厳しい人なんだろう…。私達居ていいのかな…と不安になる。

 

「いつものでいいか?」

 

「はい、オススメで」

 

 

 

慣れた手つきで粛々とコーヒーを淹れる。

焼き上がったパンと同時にコーヒーを出される。

「甘いのが好きなら牛乳と砂糖を入れるといい」

「パンは熱いうちに食べるといい」

 

無愛想な感じに説明してくれるのを不安気に見る私達。

提督は少し笑っていたような気がした。

 

 

 

ある程度食べたところでスッとマスターが何かを出した。

女の子が写った写真だった。

 

ゴクリ…と唾を呑む私。

ま、まさか…

 

「次はこの子が?」

 

まさか…殺すリスト……?

 

 

 

 

 

 

 

「来年、下の子が高校に入学するんじゃあああ!!!」

「見てみ?見てみ?めっちゃかわええじゃろ?」

 

 

「「ええっ!?」」

 

先程までの雰囲気は粉々にぶち壊れ、写真を見せびらかしながらクネクネする爺さんが目の前に居た。

 

 

 

厳粛そうな雰囲気のおじさまは…ものっそいお茶目なおじさまだった。

なんでも…

「やっぱり雰囲気とかって大切じゃろ?ロマンスグレーなお爺さまで居たいんじゃー」…だとか。

 

「カワイイデスネー」

 

「でもやらんからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モーニングを終えてパンを買う。

皆にも買って帰ろうという事で、食パンを買えるだけ買って帰る。

 

「帰ったらズルイって怒られるかな…」

 

「僕は大丈夫。お腹いっぱいになったからね…。多少の小言には耐えられる」

不安がる鬼怒に初月は堂々と言い放つ。

多分意味はズレてるんだろうけれども…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?お帰りなさい指揮官」

出迎えてくれたのは桜鈴谷達だった。

 

「デート?…羨ましいです…私の事も誘って…欲しいんですけど」

 

「ごめんね…次は行こうね」

 

「はい、鈴谷は分かってますから」

 

 

「で…出迎えてくれたのには理由があるんだろ?どうした?」

 

 

 

「ふふふ…指揮官?指揮官に見せたいあるのよ?」

 

「ん?なんだ??」

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達が差し出したのはプリンパン。

「……え?」

 

驚く彼等に彼女達は笑いかける。

 

「こういうの好きでしょう?」

 

「え?え…え?え?」

 

 

 

 

 

 

「あ、ありが––––––––

 

受け取ろうとする救の手は空を切る。

「あげるとは言ってませんよ?」

 

そのプリンパンを手にした者達がズラリと並ぶ。

そう、並んでいたのは西波島の面々だったのだ。

 

「1人抜け駆けして食べようとした…までは良いとしても、他の女を連れて夜な夜な出て行くのには…ねぇ」

 

「ならばいっそ買い占めてやろうと…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このプリンパンがぁ欲しければぁ〜?」

 

「「今日の夜のお供は私達に決定…でなければねぇ?」

 

悪魔の如き顔をする桜シリアスと桜鈴谷。

 

「そ、そんな卑怯な手に提督g「何なりと…!!」

 

正義は悪の枢軸の手に堕ちた。

むしろ、即オチした。エロ漫画でも驚く程の速さの堕ち方だった。

 

 

しかしながらソレを食べる提督の顔は幸せそのものであり、私達も少しにこやかになる。

 

 

 

 

 

……それ以上に悪魔のような笑みを浮かべるアズレン組には私達も少し戦慄する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、恐ろしい速さだったね…。というか提督はそんなにスイーツが好きなんだね」

 

「ん?まあね」

 

「どうしてそんなに好きになったの?」

 

 

「どうして………かあ」

 

考えたこともなかった。

何で好きになったのか…なんか。

いや、本当は知ってるんだ。

 

 

 

 

孤児院の生活は決して裕福では……いや、貧乏だった。

その中でたまに、本当にたまに食べたホットケーキが好きだった。

その日は皆が笑顔で嬉しそうに、幸せそうにそれを食べていたのが強く印象に残っている。

 

『甘いものは皆を幸せにしてくれるんだ』そう思っていた。

 

大学で一人暮らしをした時も、社会人になってからもそれは変わらなかった。

良いことがあったら…辛いことがあったら…ご褒美に…

甘いものを食べるようになった。

もちろん、孤児院にも贈った。

 

きっとこれが皆を幸せにしてくれると信じていたから。

 

 

 

「子どもっぽかったかな」

 

ポツリと彼が言った。

 

えぇ、きっと甘いでしょう。

砂糖菓子よりも甘い理想でしょう…。

 

 

でもそれはこの世界だから。

彼が生きていたのは今とは程遠い世界…。

だから……

 

 

 

 

 

 

 

いいえ

 

でもその理想こそがあなたなのです。

それでいいんです。

 

「私達はあなたと一緒にいられて幸せですよ?」

「見てください?あの皆の笑顔を」

鬼怒は皆を指差す。

 

 

 

 

 

 

 

初月は顔を逸らす。

 

 

 

 

 

 

 

「……悪魔のような笑顔だけど?」

いいことを言った鬼怒の前には悪魔が列を成していた。

 

 

 

 

「………悪魔に魂を売ったのは提督ですから…」

鬼怒はそう言うしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

え?この後ですか?

指揮官狩りか母港で繰り広げられたらしいですよ…。





入院してました…
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