提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「何で…ッ!!何で!!!!」
「しょうがないだろ…体が勝手に動いちまったんさ」
2度も目の前で失いたくないのさ
爆弾を抱えた深海棲艦が孤児院を目指して飛んでいた。
俺は走った。
大事な家族を守りたくて…
しかしシスターもこちらに走ってきて、
俺の目に映ったのは
俺に向かってくるシスターだった。
真っ直ぐにその爆撃は孤児院に向かっていた。直撃はどう考えても避けられない。
でもそれから逃げるためじゃない。
飛び散る破片から、迫り来る熱波から
身を挺して俺を守ろうとしたのだ。
「うわぁぁあああッ!!チビ達が!家が!!」
「早く助けに行かなくちゃ!ねえ!シスター!なっちゃん!!」
痛い…!助けてお兄ちゃんと言う声が聞こえる。
助けてシスターと言う声が聞こえる。
「なっちゃ–––––––––––––
ドロリとした生暖かい感触と硬い何かの感触が手に伝わった。
ハッとしてすぐさま覆い被さるシスターから退いて彼女を座らせて見る。
その背中には無数の破片が刺さっていた。
「何してんだい…」
「そんな顔して…アンタらしくないじゃないか」
彼女は息も絶え絶えにも関わらず笑顔で言う。
「待ってて!今助けを––––––
なのに体が動かなかった
–––いや、動けなかった。
決して怖いからではない。
彼女は彼の手を掴んで行かせなかったからだ。
彼女は彼の手を握って言う。
「間に合わん事はわかるだろう?私よりもアンタがすべき事を…ガフッ」
炎に包まれた拠り所からの声は止んでいた。
外で遊んでいた2人だけのチビ達が泣きながらこちらに寄ってきた。
「チビ達ッ!」
「お兄ちゃん…無事?」
息も絶え絶えにコチラを心配する2人。
「な、何言ってんだよ!間に合うよ!」
「自分の事は自分が一番分かんのさ」
「まあ…あんたが助かってよかったよ……」
「い、嫌だッ!!何で俺なんかを庇ったんだよ!他のチビも居ただろう!!?何で俺なんかを!!俺が代わn「馬鹿言うんじゃ無いよッ!!!」
久しぶりに聞く彼女の怒号が彼の頭を揺さぶった。
「アンタはアタシが助けた命を軽んじるのかい!?アタシが助けた命は…そんなにどうでも良いものかい!?」
「………なっちゃんが皆が居ない方が………重くて辛いよ」
「…なぁに言ったんだい!……アタシもね、そう長くは無い命だったんだ。それがね…アンタを助けられるために使えたなら本望さね」
「それに…仕方ないだろう…体が先に動いちまったんだよ」
「2度も大事な子を失ってたまるもんですか」
「2度って…秋姉さんのこと?」
「……今のアンタにはきっと何か意味があるんだろねえ」
「何言ってんだよ…訳が…」
「だってお兄ちゃんは………だから」
飲む薬は前より増えた。
動ける時間も少しずつ減っていった。
代わりに他の子の負担が増えた。
あぁ…本当は…そりゃ皆に見送られながら逝きたかったさ。
でもね
アンタを守れたなら、それ以上に嬉しい事はないんだよ
冷たいアンタに2度と会いたくなかった
アタシが今まで生きてきたのはこの時の為だったと思うくらいにね
だってアンタはアタシにとっては大切な息子なんだから…
アンタはどう思ってるかは分かンないけどさ
アタシはアンタを胸張って送り出したんだ
気に病むだろう
引き摺るだろう
きっと悲しい現実が待ってるんだろう
苦しい壁が待ってるんだろう
でもね
胸張って生きてほしい
アタシが守った命だって
きっとアンタなら乗り越えられる
あぁ
目が霞んできた…
お別れ…の
「ありがとう……母さん」
「………ッ」
もはや目は霞ぼやけて見えない。
周りの喧騒も耳に入らない。
でも
その一言だけは耳に入った。
例え見えなくとも顔も分かった。
「な、何言ってんだぃ…」
「たとえ血が繋がってなくても……なっちゃんは俺をこんなに育てて愛情をくれたんだ」
「ずっとそう言いたかった。でも恥ずかしくて言えなくてごめん」
彼は嗚咽を伴って泣きながら言う。
バカだね、死ぬ前の奴を泣かしに来る奴がいるかい…
ポスっと頭に手が置かれた。
「…生きるんだよ…可愛い息子…馬鹿息子……」
「母さん!母さんッ!!俺!俺ッ!!」
「……どんなに暗くたって、長い夜だって明るんだ」
「明けない夜は無いよ」
「アンタならきっとあの娘達……と……………っ!!行きな」
「ここは私達に任せて…ね?」
3人をぎゅっと抱きしめる。
分かってる。
もうダメだって…
でも、皆の言葉を裏切れなくて…
ごめんと一言だけ言った。
「行ってらっしゃい」
消え入りそうな声でそう聞こえた。
泣いた。
叫んだ。
どんどんと冷たくなって行く彼女を抱きしめて泣いた。
沢山の思い出が蘇った。
沢山の公開が押し寄せた。
沢山のまだ伝えてない言葉が口から溢れでた。
泣きながら走った。
「行ったね…」
「シスター…お兄ちゃん行ったよ」
「そうかい…」
「お兄ちゃんは提督さんなんだから」
「そうさね」
「忘れてるみたいだよ?」
「きっとあの子達が…真夏達が思い出させてくれるはずさ」
「……やっと言えたね、行ってらっしゃいって」
「さて…残念だったね…アンタ達…狙いの息子はここには居ないよ」
『………』
「行かせやしないよ」
「だめ!」
「いかせない!」
『離せ』
「離すもんか!!」
「お兄ちゃんを守るんだ!!」
奥から現れた深海棲艦とやら。
彼女達は咄嗟に理解した、奴の狙いは救だったと。
だから彼女達は深海棲艦にしがみついて行かせないようにした。
息も絶え絶えだった。
チビ達の内1人はズルリと倒れ落ちた。
それでもシスターともう1人のチビは離さなかった。
パンという音が2回
辺りに響いた
寒い夜の事だった。
満天の空に目が奪われて…
自然と外に足を運んだらアンタが居た。
あぁ…この子はきっと輝く星の下に生まれたんだろうねと思った。
我が子じゃない…いいえ、あなたは私の子供。
辛い時には現れてくれる優しい君。
前回に女の子達と来てくれた時は病気と言われて落ち込んでた時だったね…
生きる気力を貰えたよ…
それに
アンタが寂しくないって分かって嬉しかった。
もう見えない我が子
暗い暗い景色もいつか晴れるから
その場にアタシ達は居なくても、きっとアンタの周りには………
「…ッ!!」
走れと言われた。
何故か走っていた。
体が本能がそうさせていた。
ギギギと音がした。
後ろに深海棲艦が追いついていた。
立ち止まって振り返る
「よくも…みんなを!大人しく海でいろよ!!皆が何したって言うんだッ」
『お前がお前だから…』
「…クソッ」
どうすれはいい?
立ち向かうか?––––––貰った命なのに?
逃げるか?––––追い付かれるのに?
俺のせいで皆は死んだのに?
秋姉さんも死んで……
あれ?
秋姉さんは……
目の前に迫る深海棲艦。
でも頭がこんがらがって体が動かない。
あれ…俺は……ー
「何してるんですか!早く逃げて下さい!!」
どこかで聞いた声が後ろから響いた。
「民間人を発見!吹雪!深海棲艦との戦闘に入ります!!」