提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
崩壊して行く–––––
「こんなところで………負けるなんて…
金剛は薄れ行く意識の中で誰かの影を見た。
吐く血は海に紅い色を広め、1人また1人と暗い海へと還って逝く。
最後に見たのは
誰かの笑顔だった。
くしゃくしゃ…
男はページを消して行く。
「はぁ…まただめだ」
男は溜息を吐きながらまた紙へと視線を戻して行く。
そこは真っ暗な部屋だった。
机がポツンとあって、その上にはパソコンと紙とペンがあるだけだった。
男は物語を書き続けていた。
彼の周りにはくしゃくしゃに丸められた紙屑達が溢れかえっていた。
それは
ごめん
ごめんよ
今度もダメだった。
また最初から…なのだ
男は描いていた。
救えなかった命を救たくて…
あり得なかった未来を掴みたくて…
男は戦っていた。
提督として艦娘と共に戦っていた……はずだった。
輝かしい経歴も戦果も、永い悠久の時を経ては何の意味も持たず、彼を覚えている者は最早この世には存在しない。
いや、もしかすると…彼が覚えている存在も最早、曖昧なものになっているのも知れない。
ただ彼はひたすらに書く。
救えずその手から零れ落ちた命を
あの笑顔を
あの輝かしい日を
取り戻したい一心で
名前も思い出せない彼女達と彼の話を紡ごうとする
『……もう限界かい?』
彼を唯一知る…
そして彼も唯一知る####が彼の前にストンと座り話しかけてくる。
「……まだ」
彼は力無くそう言った。
『そうか…まぁ、時間はまだまだあるからね』
彼女はそう皮肉混じりに言って彼から立ち去って行く。
彼はまた1人取り残される。
『む?………君は』
彼女はあなたに気付いて満面の笑みで寄ってくる。
『ほうほう、へぇ…へぇぇえ』
あなたを舐め回すように見つめる彼女。
その満面の笑みのまま彼女は言う。
『おっとごめんよ?悪気はないのさ。何せ………えと…忘れるくらい久くヒトに会ってなかったからね』
『え?ここはどこかって?』
『うーん…可能性の始まりとも言えるし、終わりの始まりとも言えるし……うーん』
そう彼女は考える仕草をしながら、あなたの周りを指差す。
『ほら!そこに転がってる…今となっては紙屑を広げてごらん?』
あなたは言われた通りにそれを開く
神崎 救と艦娘達のお話
また別の紙を広げる
神崎 救と##のお話
「…ッ!?」
何枚も何枚も広げてみる。
どれにも途中で掻き消された神崎 救と艦娘達の話が書かれていた。
『それはね、彼がずーっと何年も、幾星霜を掛けて書きたい…いや、書きたかったお話だよ』
『ここはね、そんな世界なんだ』
『僕はね、ヒトの進化を見たかった』
『幾度となく困難に打ち勝って進んできた、抗ってきたヒトの進化をね』
『でも…やはり運命には敵わない』
だから彼は書いた。
彼の理想の物語を…。
だってそうだろう?
死んだ奴が蘇る事なんてあるかい?
世界を渡って…世界を救うなんて事あるかい?
ないだろうさ
うん
ない。
え?
彼はどうなるのか?って?
さあね?
書き続けるかも知れないし…
書くのをやめるかも知れないし…
ある男がいた。
歴史好きな男だ。
かの大戦の話が特に好きで、心を痛めながらその話を擦り切れるほどに調べ尽くした。
現存した三笠を見て、軍艦防波堤を見て、様々な資料に当時に思いを馳せた。
もっと駆けたかっただろう。
もっと存在意義を全うしたかっただろう…と。
しかし、彼にはそれに実際に触れる事はできない。
だから始めたゲーム。
–艦隊これくしょん–
彼は決めた。
誰1人として死なせない…そして、勝利を暁の水平線に刻む…と。
しかし、ゲームとは言え、沈むのだ。
テシオニカケテ育てた艦娘達は自らの手によって再度海の底へと沈んだのだ。
彼は後悔した。
だから書いた。
どれほどの時が経っただろう?
書いた話はハッピーエンドのはずなのに、どんどんと暗く重くなる。
そして彼女達は3度目の死を迎える。
なぜだ?
彼は思った。
そう、確かにハッピーエンドへ向けた話のはずなのに、何故かそれが既定路線のようにバッドエンドに向かう。
狂ったように物語を書き続ける彼を周りは気味悪いと近付かなくなり、やがて彼は1人になった。
…たった1人の##を残して