提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
真っ暗な何も存在しない世界
『言い得て妙だけど…いつだったかな…?あいつらの言っていた"あの人の居ない世界に色は無い"ってのはあながち間違いじゃあないね』
『結局のところ…どの話も…こう言う結果になっちゃうんだね』
「私だけはずっと見てるよ』
彼女はそう彼に笑いかけた。
彼は書き続けた。
彼女達を笑顔にしたかった。
神崎 救という男を通して、彼にできなかった事を成し遂げたくて…
しかし、失敗する。
『大丈夫さ』
その失敗を怒ることなく彼女は笑う。
しかし、砂浜に描いた絵が波にかき消されるように…彼の書く理想の物語は何をどうやってもバッドエンドに変わる。
ある時は艦娘に殺され、ある時は艦娘達が全員沈み…
その度に彼は紙を破り捨てた。
だから小さな綻びすら無いように物語を紡いだ……が、その補強をすればするほどに酷い結末を迎えてしまう。
『ねえ?君は何をここにしに来たんだい?』
『……わからないか…』
問いかけられたあなたはくしゃくしゃになった紙を広げてはその物語を見つめる。
「え?運命は変えられないのか?って?』
『当たり前だ。運命は変えられない』
『それは僕達がずっと見てきたからわかる事だ』
『…あっ!おい!無駄だぞ!…』
『そいつに話しかけても答えは返ってこないぞ』
その言葉を無視してあなたは彼の元へ行く。
そして、あなたは彼に問いかけた
何故…書くのか?と。
しかし、彼はその問いには答えない。
『…だから言っただろう?無駄だって』
『彼には届かない…きっともうすぐ僕の声すら届かなくなるからね』
『君の声すら届かない…なんてね』
あなたは必死に呼び掛ける…声にならない声を張り上げながら、伝えなきゃいけないはずの…何かを
あれ?
何を伝えなきゃいけなかったんだ?
『……あの世界はもう存在しない』
『だって…彼が創り出した虚構の世界だからね』
『艦娘という存在を幸せにしたい』
『本当に世界の海を取り戻したい』
『そんな願いを文字に託して生まれた
『でも運命はいつだって決まってる』
『沈んだ命はまた引きずられるんだ』
『でもあの世界なら、それが可能だと信じ、別の世界から別の陣営を呼んで……』
『ここには無い別のお話だって数え切れない程にあるんだ』
『ほら見てご覧?あの奥で浮いていたのが…**の』
彼女は説明し始めた。
ある物語はブラックな鎮守府からの始まり。
ある物語は現実へとやってきた艦娘とのお話。
ある物語は………
そうやって紡がれた話がここにはたくさんある。
彼がふと自分の方を見て言葉を発した。
「…開かないか……」と。
最初は自分に話かけられていると思ったあなただが、その目線が自分の後ろに向いていることに気付く。
そこには大きな扉があった。
あなたはその扉の前に立ち、押して引いてを繰り返してみた。
『開かないよ、その扉は』
彼女がなんだか残念そうに話かけてきた。
『どこへ通じているかもわからない扉』
『でも彼は信じている。いつか、最良の結末が書けた時、そこに通じる扉が開くって…ね』
扉から彼に目線を戻すと、やはり彼は頭を抱えながら書いては破りを繰り返していた。
「違うっ!違う!!」
一際、近くにあったボロボロの紙を拾い上げて覗いてみた。
「彼女達を幸せにする」
と、掠れた文字で書かれていた。
どれほどの月日が流れていたのだろうか
どれほどの思いが込められていたのだろうか
ただ、その気持ち一心で彼はペンを握り、現実へと向かい合っていたのだ。
『私もどれだけの時間が経ったかなんて覚えてないなあ』
『ただ、アイツがそうしたいって言うからここに閉じ込めたけど…さあ』