提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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435話 いつか夜は明けるから –––

 

 

「ネ?逃げちゃあだめデース!」

 

手を引く金剛。

その手は温かくて心地よかった。

 

周りの皆もニコニコと笑顔で「提督さん」と、語りかけてくる。

 

先程まで見ていた鹿島や天龍は?小春姉は?

 

 

「何言ってるんデース?」

 

「寝ぼけてんのかー?」

クスクスと笑う天龍。

 

「いや、俺はさっきまで…え」

 

 

 

「ほ、鳳翔!!」

咄嗟に鳳翔の名前を叫び、彼女の元へと走って行く。

 

「??」

ポカンとしながらこちらを見る鳳翔。

 

「いや、確かにさっきまで…鹿島から俺を逃す為に…!!」

ズキンと頭が痛む。

 

小春は?未冬は?夏海は?

あれ?

 

 

ここは

どこだ?

 

なっちゃんが死んで

   俺は逃げて

 

 

 

鹿島が

 

   小春姉さんが

 

 

ぐるぐると頭を過ぎる微かな記憶。

 

俺が深海棲艦の…

 

 

あれ?

 

 

俺は誰だ?

 

鏡に映る俺は…

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は喚き散らした。

またふざけてると最初は誰しもが思った。

しかしその彼の切羽詰まった表情と言動に違和感を覚え始めた。

 

誰のことかわからない人の名を、有りもしない話を彼は口から吐き出して行く。

 

 

 

「明石!明石を呼んで!」

誰かがそう叫んだ次の瞬間、彼は盛大に嘔吐した。

ドス黒い何かを吐き出した。

「何だよ…これ」

彼はそれを恐怖の表情で見、そしてそのまま倒れ込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うーん。特に異常は見られませんねえ」

 

 

明石はカルテを見ながら唸った。

結論から言うと彼は至って健康体なのだ。

 

 

 

「すまん、迷惑をかけた」

起きた救に明石が説明する。

ここ最近、救が鎮守府を留守にすることも消えることもなく、平和な日々だった。彼にもその記憶がある。

 

救としては悪い夢でも見たのかと納得せざるをえないのだ。

 

 

 

 

 

 

吐き出した物を除けば…の話だが。

 

「あの黒いのは?」

心配そうに桜赤城が明石に尋ねる。

「あんなの心霊映画でしか見たことないわよ?」

 

「…」

明石は険しい表情をする。

 

「な、なによ。呪いとでも言うわけ?」

桜赤城が半分冗談混じりで投げかけた言葉にピクリと明石が反応する。

 

「そうですね…。どちらかと言うとそれが近いかと思います。腐ってるとかそういうんじゃないです。アレは…深海側の物のように思えます」

 

 

「いや、私…そんなつもりじゃ…」

 

「いえ、あなたが言わなくても私が言っていたと思います」

 

「そも、提督の世界を渡る話は何件か報告を受けてます。桜信濃さんとのデータによれば、夢渡り…みたいなものですね」

「今回もそのケースではないかと思いますが…そこが謎なんです」

 

「謎?」

 

「はい、基本的には何かしらのフラグがあってこちらに帰れるはずなんです。原因の解決とかですね。しかし、今回の話を聞くと途中なんです」

「ましてや…私達と同じ存在の話だとすると……」

 

「まだ何か…起こりそうな気はしますね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、色々と俺も考えてみるよ…」

明石の部屋を後にする救。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どちらが本当の世界か分からなくなりそうですね」

 

部屋を去る際にぽつりと明石が漏らしたこの言葉。

それがやけにひっかかり、耳鳴りのように頭の中をこだました。

 

桜信濃は「やりのこしたことがあるのでしょう、

あなたの信じるままに…」的なニュアンスの言葉を俺にかけてくれた。

 

 

 

 

 

部屋に戻り、椅子に腰掛ける。

 

 

 

夏海も未冬も小春姉さんも確かに存在している。

いや、していた。

秋姉さんも含めて四季姉妹。

なっちゃんも。

この手に残ってる感覚も…まだリアルに感じられるのに…

 

 

 

 

 

 

 

そして何より…

鹿島の言った「信じていいのですか?」

 

あの時、西金剛…つまり夏海は何かを隠す為に俺を彼女から遠ざけた訳だが…この艦隊には何か俺に知られては不味いことがあったのか?

 

 

いや、わからない。

考えども答えが浮かばない。

 

ふうっと息を吐き…ふと鏡を見る。

疲れ切った顔をしている。

甘いものでも………

 

そう考えた時、ふと疑問に思った。

なんで俺はプリンを食べる為だけに抜け出そうとした?

皆はなぜ俺を外に出そうとしてくれなかった?

 

ぐるぐると余計な思考が回ってゆく。

 

どれが本当なんだ?

何を信じたらいい?

 

そう考えれば考えるほどに頭が痛く–––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡に真っ白な自分が映っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

『幸せな夢は見られたかなあ?』

 

ギョッとする。目の前に居たのは紛れもなく俺自身だった。

それが語りかけてくる。

『全く…途中で軽く邪魔が入ったが…まぁいい。結局は思う通りに行ったもんだ』

 

 

『お前の役割はもうすぐ終わりだよ』

それはニタリと笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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