提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
それは書き換えられた姿。
本来なら歪みを正す存在。
正さねばならない
それが俺の役割だから
白–––
全てが白色の自分に似た人は言う。
もう君の役割は終わる…と。
『やっと…やっとだなあ』
「何なんだ!!お前はッ!!」
睨みつけながら問いかける救に対して彼は大袈裟に笑いながら言う。
『おいおい!自分の事がわからんてか?俺はお前だよ』
「俺はお前じゃない」
頭が痛い
『ずうっと一緒に居たが?』
「俺はお前を知らない」
ズキンと痛む
『こんなにも同じ姿をしているのに?』
「はっ…騙されるかってんだ。俺はお前なんか…お前の姿はまるで深海s ––––––
ズキン!!と痛みがさらに強くなる。
同時に胃の奥底から何かが迫り上がって口から吐き出される––––あの黒い何か…だ。
はぁはぁと息を切らしながら白い自分を見上げる救。
『もう保たねえだろ…。回りくどいことはもうしない。早く元に戻ろうや』
『お前は俺が何かわかってるんじゃないのか?』
「バカなことを…お前なんか知らない」
『…悲しいなあ。俺とお前は同じ存在なんだがなあ』
「ダーリン?」
金剛の声が部屋の外から聞こえた。
「…ッ!?」
安心感のある声が返って俺を焦らせる。
今の状況を彼女達が見たらどう思うかは誰でも見当がつくからだ。
『…』
『随分とタイミングが良いなあ…』
『奴らもお前の事をよく知ってるからなぁ…そりゃ知られてしまっては困るからなあ』
ニヤリと笑うそれは俺に言葉を投げつける。
艦娘達は俺が知ってはいけない秘密を知っている…と。
ガチャリ…とドアが開かれ、数名の艦娘達が笑顔で部屋に入ってくる。
そう、いつもの日常のはずのことが「提督!疲れてるんですよ」と笑い飛ばしてくれると思っていたのだが、金剛の「ダーリン…?その鏡に映ってるのは…?」という言葉で目の前の存在が確固たるものと理解する。
ハッとした金剛はその鏡を吹き飛ばす。
耳をつんざく爆音と飛び散る破片は俺に不安を煽る奴を吹き飛ば…せなかった。
不敵に笑うそれは尚も言葉を続ける。
『おいおい…随分な挨拶じゃないか?」
鏡にいたはずのそいつは目の前に立っていた。
『…まぁいい』
『もう充分だろ?理を捻じ曲げるのは』
呆れたようにそう語る白救。
「…ッ!!」
その言葉に明らかに金剛達は動揺している。
救にはその状況がよく理解出来ていなかった。
しかしながら彼らが昔から面識があることだけは理解できた。
「お前等…こいつを知ってたのか?」
俺の問いに苦虫を噛み潰したような顔を見せる面々。それが俺に更なる焦りをもたらす。
「なあ…なんとk『言ってやれよ。いい加減さ』
金剛達は尚も暗い表情をする。
『…あくまでそれを貫くんだな…。なら俺が言ってやる。』
やめて!と言う彼女達よりも大きな声で白は言う。『そうだ!!神崎 救こそ!深海棲艦を全ての人をこの世界に引き摺り込んだ張本人だッ』
『いや!この狂った世界を作った張本人だッ』
「何を…俺がこの世界を?訳の分からない事を…」
俺が全てを引き込んでるのはわかる。
『思い出せよ。本当の自分はどうなってるか』
ザッ…と視界にノイズが走る。
誰かがこの世界を描いていて
いや、あれは俺じゃない。
『んーーあれはお前の心象風景みたいなもんなんだがなあ…そういう事にしてないと思い出したら潰れちまうからなあ!!!』
ギロリと桜信濃や金剛の方を見る白。彼女達からの反論はなく、ただ静寂だけが続き「…ッ!!」と、皆が苦虫を噛み潰すような顔をしていた。
『なぜ深海棲艦を従えるか
なぜ世界を跨ぐことができたか
なぜ時を跨ぐことができたか』
『お前が根源だからだッ!!!』
この世界の全てはお前が引き起こしてるのだから。
『お前がこの世界に居る限り…いや!存在する限り!この戦いは終わらないッ!全てはお前を中心に動いてるから!!!』
『どうしてこの世界の闇がお前を襲う?』
『怨念はお前を狙う?』
『奴等は世界を超えて貴様と対峙した?』
「それは…」
『全てはお前というイレギュラーを正すためだ!!!』
『なのに艦娘達はそれでもそれを邪魔するッ!!何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!!命すら捨てて!ニセモノが貴様を助けるッ!!正しいのはこちらなのに!!』
『本来貴様はもう死んでる…いや!死ななければならないのに』
『あの事故で!』
『死に行くお前が生み出した妄想の世界が!艦娘が!!今お前の目の前に広がる世界だろ!!!!』
そうだ。
俺は死ぬはずだった。
生きていて、いつか死ぬ。
ただそれだけのことだった。
ただ、決して…幸せとは言えない死に方をして人生を閉じるはずだっただけなのに。
”生きたい"と死の刹那に願うことは当たり前のはずなのに…
この世界は…
ガン
その歪な音は1人の男の人生が閉じて行く始まりの音。
駅のホームに小さくこだました音は、神崎 救が電車に当たる音だ。
飛ばされ、ホームに叩きつけられる彼は瀕死の中…確実に死に向かっていた。視界は血に染まり歪み、周りの音や声も聞こえない。
痛みすら感じなかった。
生きたかった。
もっと普通の幸せを、生き方をしたかった。
ゆっくりと確実に死に向かう彼が作り出した空想の世界。
永遠の刹那の中にその光景を見ていた。
ここではないどこかで幸せになる自分を––––
故に与えられた使命。
神崎 救は願う。
神崎 救に幸せに行きて欲しい…と。
同時に思った。
許せなかった。
ただ、普通に生きたかった。
それだけの思いすら閉ざしてくる世界に。
壊れてしまえと思った。
その願いは混ざり合ってしまった。
1人の人間
そう、たった1人のちっぽけな人間の願いは大きな空想を産んだ。
持てる願いを投影したそれはかつて彼が羨んだゲームの世界。
もしもそこに自分がいられたら
彼に役割が与えられた。
何故、彼が生きているか。
彼は願った。
自分の役割の外側を
ただ生きて死ぬだけでなく何か特別な何かでありたかったから。
そしてそれは海の底に眠る悪意に晒された。
彼は本来、深海棲艦を率いる提督として艦娘達に打ち滅ぼされる運命の下にいた。
しかし彼は捻じ曲げてしまった。世界を造る上では造作もない事だろう。
更に言うなら彼に対峙する白い神崎 救は本来、世界の歪みを正す存在であった。
捻じ曲げた歪みを正す存在…。
彼が鉄底海峡で死んだ日にその手を伸ばした。
『終わろう…延長戦は終わりだ』と。
しかし、その手は空を切る。掴もうとした手をすり抜け彼は艦娘達によって引き上げられてしまったのだ。
『バカな…!!』白救は叫んだ。『お前達ッ!そんなこと許されるはずがないッ!!ただでさえ今際の際の…泡沫の夢のはずだ!!それを更に捻じ曲げるなんて…!!』
彼の意思とは関係なく…艦娘達は救を助けようとしていた。
『…ごめんなさい。この泡沫の夢は…終わらせたくないの』
救の魂は海底から上がって行く。
白い救を残して。
本来戻るべき場所、運命から逆らって。
『俺だって、お前なのに』
だから壊す。
もう正しいとか、奴の本来の運命とかどうでもいい。
ただ全てを破壊したい。
やつも、やつのだいじにしたせかいもかんむすたちも
「……あーあ』
ぱりん
ピキ
ぱりん 崩れ お
チ
テク
「ダーリン!聞いて!あなたはあなたなの!」
艦娘や皆がそう叫ぶが白の高笑いだけが耳に入る。
膝から崩れる俺の耳に「指揮官が離任しました」と聞こえ、同時に白に光が集まる。『この感じだ』と実態を得た白がニヤリと笑う。
そうだッ!!!
これ正しいッ!!!!
憎き艦娘や有象無象のニンゲンドモをこの世から滅するこの世界こそッ!!!!!!
『さあ…終わりにしよう』
『世界はそれを望んでいる』