提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
441話
幾星霜の月日が流れたかわからない。
何度生まれ変わったかもわからない。でもこの魂も想いも錆び付かずにいた。
「.…あー…えと俺は…」
俺は死んだはずだ。
なのに呼ばれてる気がした。
目の前に白がいた。
『…アホだな…お前の艦娘達は』
「お前の艦娘でもあるんだろ?」
『俺すらも救おうとしやがった」フッと笑いながら言う白。
「そりゃ俺だからなあ」
『…だからよ、俺はお前の元には帰らねえとなあ』
『待ってるだろうよ、ずーっと』
「そうだな…生まれ変わってもきっと」
何をしたいのか?と聞かれたので
あの場所にと言った。
例え夢だろうと、紛い物の偽物と呼ばれた世界だろうと…
あの場所が俺にとっての何よりの居場所だったから。
何のために?と聞かれたので
皆に会いたいと言った。
なら行けと言われた。
どこに?と返したらとにかく真っ直ぐと言った。
アイツらとは最後どうなった?と聞いたら
白は『これは俺の…俺だけの特別だ』と言って何ひとつも語ってくれなかった。
とにかく真っ直ぐいけと言われた。
そこには門があった。
二つの門の前に誰かが立っていた。
周りの明るさのせいか、その人は影になってよく見えなかった。
「この門をくぐったらあなたは還れます…新しい人生を歩めます。あちらの門をくぐれば…あなたが望む者達の元へ…あの世界へ行けます。」
鎮守府の正門と、もう一つは真逆の位置にある裏門が目の前にはあった。
普段はそうそう使うことは無い門は今は異彩を放っている。
『この世とあの世を繋ぐ門』
一度だけ…たった一度だけ開くことのできるそれは
あるべき所へとその魂を還す門らしい。
誰かわからない人はそれを俺に教えてくれた。
「そんな幸せな選択肢ありなんですか?」
という俺の問いにその人は頷いた。
迷う事なく俺はもう一つの門へと走って行った。
『…行きなさい。誰にも知られない世界を救った英雄よ。願わくば、あなたの人生に幸あらんことを』
気付いたら正門に居た。
西波島鎮守府と書かれた大きな門。
我ながら目を疑った。まさか…ねと。
正直騙されてると思った。
これもまた死んだ後の偽物なのではないか?と。
でも同時に心が高鳴る。重い門はギィと音を立てて開いて行く。
門に入り一歩、また一歩とその感触を踏みしめて進んで行く。
あのままじゃないか…と。
ふと、微かに目に映った光景があった。
泣いている金剛と鳳翔。
その先で『貴様らは解体だッ!!』と時雨の頭を掴みながら怒鳴る大石が居た。
周りの加賀や愛宕達は彼に土下座をして処分するなら私だけを…!と、泣きながら懇願していた。
俺がこの世界に最初に来て見た光景がそこにあった。
気が付いたら駆け出していた。
そしてあの時と同じく、その幻を殴り抜いて––––––
その幻はフッ…と消えた。
自然と足が食堂へと向かう。
彼女達との始まりは入渠後のカレーから始まった。
なら俺も…カレーを作って彼女達をいつまでも待とうと思ったから。
何日も、何回も同じカレーを作って待った。
作れば作るほどに…彼女達への想いが強くなる。
食堂に見える幻影は…あの時と変わらない様子をずっと映していた。
それでも彼はずっとその扉が開くのを待っていた。
セピア色の彼女達も同じ鎮守府で待っていた。
同じ世界のはずなのに重なり合わない彼女達はずっと待っていた。
色のない世界で資源を貯めて、いつか会えるであろう彼をずっとずっと想いを募らせながら待っていた。
彼女達にも以前の幻影が見えては、それを追いかけて幻と知り涙を流す。
毎日毎日。
ある日だった。
間 がとぼとぼと食堂に向かっていた。
彼女もまた、毎日皆と彼の為にご飯を作っていた。
いつ帰って来てもいいように。いつでも手料理を出せるように。
皆の頂きますの声の響く食堂にポツンと空いた席に出す料理も作るために。
「…?」
しかしその日は何か違っていた。
ぼんやりと誰かが居る気がするのだ。
「…れかし ?』
この世界である以上、敵の可能性もある。いや、いつもの幻かな?
まみ はフライパンを手にその方へと向かい…
「…あ た?』
と手に持つフライパンをカラァン!と落とす。
目の前に居たのは信じられない光景があったから。
ぼんやりと映るそれは幻のはずなのに…カタカタと震える肩をギュッと抱いて声を–––「間宮…か?」
「間宮」そう呼ばれた瞬間に彼女は色を得た。
途切れ途切れの言葉は力を得てと伝えたい言葉を伝えられるようになった。
「会いたかった…会いたかった!!」
間宮は走って彼に飛びつこうとしたが、その手は空を切った。触れられないのだ。
嘘!嘘!?と狼狽する間宮。
「いや!消えないで!お願い!お願い!!」
救にはボヤけた間宮が見えていた。
重なった世界なのに触れることはできなかった。
ただただ間宮が必死に救に触れようと、彼も間宮に触れようともがき…。
間宮は考えた。
私は色を得た。どうやった?何が…言葉も出るようになった!
なのに!何で彼は!!!
そして彼女は気づく。
名前を呼ばれた事を。
名前を呼ばれて私がこの世界で色を得たことを。
「……あなた。あなた!神崎 救さん!!」
久しぶりの感触は暖かくて…
待ち焦がれた暖かみは私を優しく包んでくれた。
そしてカレーを作る彼を泣きながら見つめていたら皆がやって来た。
独り占めの時間は少し短かった。
カレーを食べた後に
「もうどこにもいかない?」と、誰かが言った。
その一言でその場はシン…と静まり返った。
彼女達は待っていた。気の遠くなるほどの時間をずっと…
しかしそれは彼女達がそう臨んだからだ。
いつか会えたら嬉しい。かなりかなり少ない希望…。
そして会えた…のだが彼女達には1つの疑念があった。
もしかしたら、また私達が彼を引き寄せてしまったのではないか?という疑念だ。
彼の意思は関係なく、私達の想いが彼を引き摺り込んだのでは?と。
「いかないよ」
「俺はもうどこにも行かない」
「ずっと…お前達と共に生きて行きたい」
「喧嘩するかもしれませんヨ?」
と金剛が言う。
「仲直りできるさ」
「…私達が嫌になるかもしれませんよ?」
加賀が言う。
「ならないさ!逆にお前達が俺を嫌になるかも?」
と返す救に首を横に張る面々。
「また色んな敵が出てくるかも知れません」
鳳翔が言う。
「お前達となら乗り越えられる」
当の本人は帰る気など更々無い。
もう、妄想でも何でもない…本当の本物のこの世界なのだから。
彼女達は本物になったのだ。
もう覚めることはない…夢ではない現実のこの世界。
この後泣きながら揉みくちゃにされたのは言うまでもない。
「ただいま」
そう声をかけながら懐かしい椅子に座る。
机と椅子が答えるなんて事はないが、この感じは…本当に…
ニコリと大淀やベルファストが微笑みかけてくれ––「ダァァァルィィイイイイイン!!!!」
ボゴン!と執務室の扉はぶち壊され、机近くの窓をブチ破り飛んで行った。更にその破壊主は俺に飛びついてひたすらにチュッちゅー!とキスを浴びせてくるらしい。
「チィッ!!先を越されたッ!!」の言葉と共に飛び出してくるバーサーカー達が壁、天井、床下、はたまた俺の机の下から、戸棚から、絵の裏から出てくる。
側から見れば微笑ましい!愛されてるのね!なのであろうが実際には水面下では足を踏みあったりする勢いの小競り合いが繰り広げられている。
俺の所に飛び込んでくる…をゴールとするなら、まず引っ付いている金剛を引き剥がすのが彼女達の共通目標となっているようなので、その矛先は金剛に向けられている。
「どきなよー!金剛さぁん!自分だけずるいー」
なんて言うのは北上である。お前キャラ変わってね?ってくらいガツガツ来るじゃん。
「あなたとてここは譲れません譲れません譲れません譲れません譲れません譲れません譲れません譲れません譲れません」と、目のハイライトを暗闇に放り投げたであろう加賀は平常運転であり、この部屋の温度を下げる貴重な要因となっている…と思ったが瑞鶴と徒手格闘を始めやがった。やっぱり通常運行だ。
「みんなずるいんよ!」と、浦風ですら矢矧を退かそうともみくちゃになっている。もうね、獲物を狙うハンターの眼なんよ。
青葉は笑いながら写真をとっている。ジャーナリズムは崩れないらしい。
あ、こっち見て笑顔でピースをしてる。
可愛いやつだなと思ったら2秒後に翔鶴が飛びついてきた。
そういう意味だったのか?貴様っ!!