提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
さて、変わらず何のために存在するのかわからない書類とにらめっこしている日々です。
睨んだら減ったりしない?しないか…そうですか。
にらめっこは笑ったら負けだが、その膨大な量に笑いたくなるし、逆に書類の方がニコリと笑いかけてくる気がする。
win_winには到底なり得ないのでひたすらに真面目に執務をこなしておく。
ただ、変わらない日常が戻ってきたのだなあと思う。
この椅子に縛られたに近い状況を除けばな!!
俺の右にベルが、左に大淀が、目の前には秘書艦の加賀
極め付けは後ろに鈴谷がいる。四方をガッチリと固められた陣形が完成していた!深海棲艦どころかネズミすら通る隙間はなさそうだ。
まあこれなら可愛いもので済む。
目の前の加賀は鋭い眼光を常にこちらに無言で向けてくるし、ベルと大淀は俺同じ机を使ってる始末だし、一度ストレッチの為に立とうとすると鈴谷が抱きついてくる
なんならトイレすらな!!
提督の帰還と着任で鎮守府は天にも昇る気持ちのお祭り騒ぎだった。
片っ端から酒が空き、料理が出され雪崩を起こすように救は皆にもみくちゃにされていた。
そこで悪魔の一言『もう、急にいなくなったりしない?』が発さられた。
時間停止能力が発動したかのようにピタッと止まる時間。
自分の鼓動どころか血流すら聞こえてきそうな静寂。
全員がこの世の終わりと殺気に似た何かの目線に刺される救。
「ぁ…ぇと」
知ってるか?
圧倒的強者…もとい捕食者を前にした奴は声が出なくなるんだぜ!!
生まれて初めて(?)味わう恐怖は生まれ数日内に味わうことになったぜ!!
ゆら〜〜っと誰か修羅らしきものが立ち上がった。
続けて羅刹も立ち上がった。
ハイライトがごーあうぇーしたドス黒ーーーい目で何かをブツブツと仰っておられた。
どこかに行ってしまうのではないだろうか?
またふらふらと彷徨うのではないだろうか?
幾星霜の時間は寂しさを募らせた。
微かな希望と大きな大きな喪失感の中で彼女達は待っていた。
そして俺と再会した……が!!!
彼女達がこれまでに積み重ねて来た寂しさは俺に会う事により不安へとレベルアップを遂げて「あっ!そうだー!なら常に監視しておけば安心よねえ」の結論に至ったらしい。
秘書艦という存在は以前から存在していたのだが…今回から新たに世話役という物が新設された。
秘書艦は執務に関しての補佐を行う第二の大淀ポジであったが世話役は違う!!
おはようからおやすみまでずーーーーーーーっと一緒なのだ。
朝起こすのも!
朝の支度も!
ご飯を食べさせるのも!
執務室へ行く時も!
トイレも!
昼飯も夕飯もお風呂も!何もかも!!
初めて「トイレ…」と言った時にトイレの中まで「榛名!お供します!」と、着いてきた榛名にはただただ驚かされた。やんわりと断ったら「榛名は大丈夫ですよ?」なんて真顔で言ってたからね!
それでも断ったら明石が「しょうがないですねえ」って尿瓶を持ってきやがったから本気のDO!GE!ZA!スタイルで懇願してトイレと風呂は何とか1人を保っている。
「ねえ?倫理ってないの?」って聞いたら
「消え失せました」って返ってくるんだもの。
風呂に入りながら一息つく。
とはいえ、めちゃくちゃ気配は感じるんだけどねえ!!!
個人的に怖いのが世話役争奪戦である。
夫婦の日以外はオフでも誰かが基本的には居る形になりつつある。
そう、世話役という大義名分で俺を独占できる時間が発生したのだ。
前の日にクジで決めるのだが…それはまあ地獄絵図の一言に尽きる!
不正のないように俺が作ったリアルくじ引きなのだが…ハズレを引いた者のこの世の終わりのような崩れ方…当たりを引いた者の雄叫び。その時点でまだクジを引いてない者の表情…全てが本当に地獄絵図なの。
まあ…世話役やった人は次のクジから除外されるから我慢してたらいつかは回ってくるんだけどね。
てな訳で目の前でなく後ろから俺を抱きしめるのは北上である。
「抱きつく必要はあるのか?」と頬をあてる北上に聞いたら「周囲警戒と北上様癒しパワー」と言った。秘書艦の駿河が血涙を流していたが目を逸らしておいた。
「では、私達はお昼ご飯に行ってきますね」
と3人は恨めし気に執務室を後にした。
執務室に2人きりになる。まあ…北上はそんなにぶっ飛んだ……奴ではあるが危険指数は少なめだろう…多分多分
引っ付いたままの北上に声を掛ける。
「なぁ…北k ––––
だが、その呼び掛けは最後まで発されることはなかった。
微かに…微かにだが、、啜り泣く声が聞こえたのだ。
「お、おい?北「少しこのままで居させて」
俺をつかむ北上…ぎゅっと力が強くなる。
「……ッ」
普段、北上はそこまで感情を顕にしない。
飄々とした感じ…というのが率直なイメージだろう。
その北上が泣いている。
ヒックヒックと肩を震わせ、顔を俺の背中に押し付けて泣いている。
「ど、どこにも行かないでね」
たった一言。
その一言は普段感情を出さない彼女が出した精一杯の一言だった。
ぐっ…と出てきた言葉を飲み込んだ。
これは背中に向けて発するべきでない。
だから…と振り返る。
「あっ…」と顔を背けようとする彼女の肩を掴んで言う「俺はもうどこにも行かない!」と…。
「ほんと?グスッ」
とポロボロと大粒の涙を流し頬を赤く濡らした彼女がか細く言う。
だから目をまっすぐ向けて言った。
「絶対に北上を置いてどこにも行かない」
分かってた。
彼はどこにも行かないと言ってくれる。
きっと言ってくれるのに不安になって押し潰されそうな心を抑えきれなくて泣いてしまった。
「絶対に北上を置いてどこにも行かない」
予想外だったのは私だけに向けてくれた言葉だったこと。
ずるい ずるすぎるよ…
その言葉に堰を切ったように涙が溢れてくる。
もう止められない、どれだけ蓋をしようと重しを載せようと…募りに募った想いは……彼の前で止めたくなかった。
「うっ……あぁ…うわぁぁぁぁぁあん」
彼女は大声で泣く。
あの北上が…大粒の涙を流し大きく口を広げわぁわぁと泣いていた。
「私も頑張ったんだよ!」
「あぁ」
「でも…置いてかれて…置いて行っちゃって…会えなくなって」
「…」
「寂しかったよ!!」
「うん」
「提督が居ないと…心が張り裂けそうになる!!」
「うん」
「ずっと側に居てよ!」
「いるよ」
「もうずっと…あなた無しじゃ生きていけなくなっちゃったんだよお」
「俺もさ」
「だからさ」
だからさ…
「一生に一度のわがまま聞いてよ」
「私を愛してよぉ……」
掠れた声で、真っ直ぐに、涙に目を歪ませながら彼女は想いをぶつけた。
「愛してる!俺は北上を愛してる」
その分かっていた返し…の勢いに目を見開く北上。
そして…一頻り泣いた。
だからその声に応えたい。
泣いていたから…という同情とかじゃない。俺がそうしたいからそうするんだ。俺にできる精一杯の事をやるんだ。
「北上?」
俺は優しく彼女名前にあるものを差し出し、彼女を待った。
「……ッ!!!」
北上は驚く…無理もない「…たくさん泣いちゃったよ」と顔を上げたら…指輪を構えた彼が居たから。
「泣くから同情?グスッ」
精一杯のいつも通りのニヒルさを出そうとするが…無理だ。
だって…胸の奥があったかくて…仕方ないんだぁ
「ちがう。俺がそうしたいんだ」
「もおおおー!!ずるいよおおおお」
ぐっちゃぐちゃの顔でニヘラと笑いながらそれを指に入れてもらう。
「愛してるよ、北上」
「えへへ…う、うれじぃなあ…」
そんな北上を愛おしそうに抱き締めて彼はそっとキスをする。
「ぇへへぇ」
その後、皆が帰ってくるまで甘える北上と時間を過ごした。
「…羨ましいなあ」
執務室のドアの前に居るのは駿河というか奈々を含めた3人。
血涙を流すのではなく、微笑ましそうな表情でその様子を聞いていた。
「もう少しだけ2人にさせてあげますか」
「北上さん?何だかいつもと……あぁっ!それは!?」
にへらーと笑う北上がその左手を見せる。
良かったですねと少し泣きながら大井もそれを祝福する。
その後その噂を聞きつけた面々が北上や救の下へと殺到したのは言うまでもないし、世話役のクジ引きの際のテンションが更におかしくなった。