提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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446話 陸奥と1日夫婦 ② 0cmの愛

 

 

陸奥はイタズラそうに笑っていた。

その顔が何だか頭から離れない救だが、陸奥に引っ張られ街を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

いつのまにか夜になってた。

あのあと、はぐらかした陸奥とデートは順調に進んだ。

 

 

今は陸奥の作る夕飯を待つ。

 

 

 

 

 

「夜もお姉さんに任せてね」そう言った。

私は今度こそ美味しい夕飯を作って喜んでもらうんだと意気込んで始めたのに…自分の出来なさに嫌気がさす。

何がいけないのか?私はただ喜んで欲しい…いや

負けたくないのに

と頑張って覚えたメニューを作って行く。

やはり苦手な料理に時間がかかり、食べ始める頃には最初に作ったものが少し冷えていた。

 

 

いただきますの声でご飯をはじめる。

陸奥はバツが悪そうに座って救を見ている。

 

 

「……ごめんね?鳳翔さんのとこに行く?」

目の前に並んだ料理にごめんねと言う陸奥。

 

「ううん、いただきます」と口に運ぶ救。

魚の焦げが、彼の口から聞こえるジャリっと言う音で理解できる。

野菜炒めは冷えたのをレンジで温めたので出来立てとは言い難い。

卵焼きにも殻が入っていたらしい。

 

「美味しいよ?」

 

 

 

 

 

「………」

陸奥は黙り込んでしまった。

 

そんなはずないでしょ

皆の方が美味しいに決まってる

また私は負けたんだ

 

 

「陸奥?」

 

「……やっぱり勝てないわ。私は」

ポツリとそんな本音が漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は何かいつも我慢してる気がするんだ。何が原因か…いや、俺にあるのかも知れないが」

「俺は本心の陸奥が知りたい」

そう言いながら彼が隣にやって来た。その距離は20cmだ。

 

 

「…ッ」

その距離が30cmに開いた。

後退りして50cmになった。

 

「私はそんなに綺麗じゃないわ」

 

「可愛くないわ?強くないわ?優しさも中途半端よ?あなたが大好き。でもあなたを守れなかった。あなたに勝利をあげられなかった。私は弱いの。だから虚勢を張ってないとだめなの」

 

「なんで?」

 

「なんでって…私はビッグセブンで戦艦だから」

 

「それってそんなに大切か?」

 

「…ッ!!あ、当たり前でしょう!?だってそれが私の存在理由なのよ!?」

 

 

「陸奥は陸奥だろう?」

「大人しくて、でも活発に動きたくてウズウズしてて…可愛いもの好きで、皆のことが大好きな負けず嫌いの女の子だろう?」

 

「……ッ!…ッッ!!」

 

「な、なんで…そう言えるのかしら?」

きっと私の声は震えてるだろう。

じわっと溢れてくる熱い何かを無視してその言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「いつも君を見てるからね」

 

 

彼は笑顔でそう言った。

 

 

 

 

 

あなたとの距離は60cm

この距離が埋まらない。埋めたいのに…

いつも隣を歩いてもその10cm、15cmが埋まらない。

 

負けたくない。

わかってるもの…あなたの一番は金剛だってことは…

でもね?あなたの笑顔を見るとね、期待しちゃうんだ。

もしかしたらその1番の席が私になるんじゃないかって…

 

だから必死に努力した。

血反吐を吐いても何があっても…でも埋まらない。

この距離と一緒!あの子との差が埋まらない!!!

 

 

でも

負けたくないんだ!!

私だってあなたを愛してるから!!

埋めてみせる!!負けない!!

私だって!!私だって!!!!!!!

 

 

「陸奥」

彼は変わらず笑顔で私を見てくれている。

 

あぁ…わかったわ。

あの子も…自分に正直なのね…

私は…私かぁ

 

艦歴も…戦績も関係ない

私だからあなたは私を見てくれてるのね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無言で飛び込んだ。

 

その距離が0になった–––

 

 

 

 

 

「うおっ!陸奥…おm……

自分の胸の中で小さな消え入りそうな声を上げて震える彼女は小さな女の子だった。

「…クッ…うっ…」

 

「ううっ…ぅああ…」

「ぅわぁぁぁぁぁぁあ」

 

 

 

きっと誰もが驚くだろう。

鎮守府の提督の部屋で泣いてるから?   違う。

部屋で抱き合ってるから?    違う。

 

陸奥という子が泣いているからである。

普段絶対に出さない表情で大好きな人を見上げてわんわん泣いているからだ。きっと長門も金剛…加賀達ですら驚くだろう。

 

「で、でいどぐぅ…わだじね、わだじね」

 

「あなだが大好ぎなの」

 

「ずっとあなたの隣にいだい!!1番でいだい!!」

 

「たくさん努力した!!毎日毎日!!でも…少しの差が縮まらないの!!」

 

「負けたくないのに」

 

「料理も美味しいものが作れない!!」

 

「演習でも負けちゃった」

 

「あなたの最期も私は何も出来なかった!守れなかった」

 

「でも」

 

 

「でも」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでも私はあなたが大好きなの!!!ずっと…ずっと隣にいたいのぉ」

 

 

 

 

 

姉ですら気付かなかったその想いと距離。

たった少しの距離が無限のように遠い。

しかし彼女はその距離を飛び越えた。

 

 

 

 

 

 

 

「……陸奥」

ぽす…と頭に手を置く。

そのまま優しく…優しくその頭を撫でる。

 

「こんな私を撫でてくれるんだ?」

 

 

 

 

 

 

戦艦だから。

 強いから。

ビッグセブンだから。

 

艦種が何か大きな意味を持つわけではない。

でも、そうあるべきと思っていた。

 

『お姉さんに任せなさい?』

 

それが口癖になっていた気がした。

 

 

 

史実の最期(あの時)鉄底海峡の時(あの時)蒙武との演習の時(あの時)も…あなたの最後の時(あの時)だって私は何も出来ていない。

勝利をあなたに捧げられていない。

『勝ちたい』はあなたに勝利を捧げたいから。

あなたの守りたいものを守りたいから。

 

私はそれを自分に課して

 果たせていないから。

 

あなたが遠くに行ってしまう気がして。

あなたが私を見てくれなくなるような気がして。

落胆させるのが怖くて、幻滅されるのが怖くて…

 

 

 

「ありがとうな」

彼はそう言った。

 

 

 

 

「うっ……っ…」

 

ひたすらに努力をした。

「頑張ったな」と言って欲しくて、見て欲しくて。

 

 

金剛には勝てない、姉にも…勝てない。

そう自分にレッテルを貼って。

でもそれでも諦めたくなくて頑張った。

 

 

料理も

掃除も

 

何もかも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり陸奥は陸奥じゃないか」

 

 

 

 

 

 

「……沢山頑張ってくれたんだな」

 

コクンの頷いた。もう取り繕う必要はないから。

 

「…俺達の…いや、俺の為にありがとうな」

 

ブンブンと首を振る。私がしたくてやったことだから。

 

「朝ごはん…美味しいよ、ありがとう。俺は世界一幸せな奴だな」

 

ばっと目を見開く。抱き抱えられ頭を撫でながら愛おしそうにこちらを暖かく見てくれる目がそこにあった。

誰かを見るわけでもなく、逸らすわけでもなく…

ただそこに私だけを見つめるあなたがそこにいた。

涙を殴ってくれるその手に触れ、頬に当てる。ぐっちゃぐちゃの頬を彼は嫌な顔ひとつせずそっと撫でてくれる。

ずーーっと近くにあったその温かみが何より嬉しい。

 

「えへへ…」

思わず頬が緩んだ。

 

 

 

 

 

「料理下手よ?」

 

彼女の視線は自らが作った料理へと向かう。

朝と同じく…お世辞にも料理が上手とは言えないのは姉と同じである。

味も…間宮達と比べれば劣るだろう。

しかし

 

しかし

そこにはあった。

 

何時間も掛けて一生懸命に作った彼女の愛情そのものがあった。

誰にも劣らない負けない愛情そのものが

 

「俺の事だけを考えて作ってくれたんだろう?」

 

「…」何かが込み上げてきて頷く事しかできなかった。

 

「愛情こめて作ってくれたんだろう?」

 

「…ッ」

大きく大きく頷いた。

 

そうだ。

私だって負けてないんだ。

あなたはそれを知ってくれているんだ…。

 

「だから俺は世界一幸せ者なんだ」

「ありがとう陸奥、めちゃくちゃ美味しいよ、ありがとう」

 

 

 

 

「好きな人と食べるから余計に美味しいんだ、幸せなんだ」

 

 

「あ、ありがとう…でいどぐぅ」

その言葉に、暖かさに泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うぅーー」

その後、恥ずかしさで情緒が崩れた陸奥が布団の中からこちらを睨んでいる…可愛い!!

多分猫みたいな感じなんだろうな…とか思ったら「なんか考えてるでしょ」とか言うんだもの

 

「むーつ」

 

「…むう」

 

「むーつ?おいで?」

 

「うー!」

 

くそっ!めちゃくちゃ可愛い!

両手をひらけ陸奥を待つ

 

ずるずるとやってくる陸奥にクスッと笑ったらまた布団にこもった。

ほんとに猫か?コイツは可愛いな

 

それを何回か繰り返してたらめっちゃ睨まれた

 

 

「陸奥」

真剣な顔で彼女を呼んだ。

 

「何かしら?」

彼女も真剣な顔で俺に向かった。

 

 

私と座って向かい合う距離は30cm

「これを…」と彼は懐から…

 

 

「…いいの?」

また涙が出てきた。

 

「君に贈りたいんだ」

 

ありがとう…と泣きながら手を差し出した。

その手に彼は優しく指輪を出してくれた。

 

その左手が重くなるのを感じた。

ずっと欲しかった。

縮まらない距離は指輪の分だけ強く感じたから。

私だって!!と何度も何度も思ってその度に悲しくなった。いつかいつかと思いながら…

 

 

「待ったあ…ずっと待ってた」

 

 

「陸奥、愛してる」

 

「うん」

 

「ずっとずっとその言葉が欲しかった」

「私も愛してる」

 

 

スッと目を閉じて見る。

この距離だけは…あなたから来て欲しいから。

 

そしてその距離が0に––––––

どころか陸奥は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした…あなた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

叶うなら…ううん

ずっとずっと側にいてね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝はいつもより気だるげな起床になった。

陸奥が離してくれなかったもの

 

執務室に行くと数名が目から火花散らしてた気がする。

 

 

おはようみんなーと挨拶をしようとした時

「ふふっ…あなた♡」

陸奥がぎゅっと腕を組んでくる。

何か柔らかな感触が心地よ…やめてください睨まないでください

 

「え!?む、陸奥!?」

長門が驚いている。驚きすぎてご飯を落としかける程に。

 

「素直になったんデスネ」

 

一同が驚き、金剛達が微笑みながらそう問いかける。

それに陸奥はイタズラっぽく笑って言った。

「えぇ…私負けないわ!あなたにも皆んなにも!だって私は彼のことが大好きだから!!」

 

あらまぁ…と鳳翔達が驚く表情を見せている。

 

「……私だって負けまセーン!ダーリンの正妻はー私デース!!」

金剛もニヤリと笑って答える。

私だってー!と後ろから声が続き、皆が笑う。

 

 

 

 

「まだ夫婦だからねえー?あ、な、た♡」

皆に見せびらかすように胸を当ててくるのは嬉しいけどやばいよねえ

周りの目がねえ

 

 

 

「ね!今度スイーツたべに連れて行ってね?あなた」

またもやイタズラっぽく笑う彼女…。

今日も1日大変そうだ。

 

 

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