提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
美しいものは好きだ。
キラキラ眩しく輝くそれが好きだ。
とくに散り行く間際のそれは、なおさら強く眩しく光るからもっと好きだ。
だから私は…守るんだ。
この誇り貴き魂を守るんだ
この世界は鈍色だ。
暗く冷たい海の底は真っ黒だ。
その2つしか知らなかった。いや、知らなくても十分だった。
人が憎い
生まれてからこのかたその感情を疑った事はなかった。
なぜ?と聞かれても具体的に答えは出せないけど…本能に切り刻まれてる感情なんだと思う。ずっと受け継がれてきた感情みたいなもの…
ただただ憎しみを心から滲み出すままに艦娘や人にぶつける。
悲壮な表情を浮かべながら沈んでゆく彼女達。
何でだろう?
私たちは貴女達を救おうと…迎えに行っているのに?
深海は良い、好きだ。
真っ暗で…何もないから…好きだ。
『……あれ?ここは?』
真っ暗な世界にまた1人その存在が目を覚ました。
『起きたのね。おかえりなさい、おきたばかりよ』
目覚めたらしい深海棲艦はキョロキョロと辺りを見まわし、自分の体を不思議そうに動かして伸ばしていた。
欧州棲姫は生まれたばかりだった。周りを囲う仲間達の中には喜ぶ者が多かった。
『……ソウ…助かったのね…というか……なぜそんなに私を見つめるの?』
声をかけられたのはタ級。
タ級は欧州棲姫を見つめていた。
その目はキラキラと光り輝いていて、少し眩しく煩わしく思うほどに。
見つめていたのは本当のことだ。
私は暗いのが好きだった。
悲壮なものを見るよりも…
なのに私はみてしまった。
欧州棲姫が深海に染まる前に、艦娘として戦う最後の散り際を見てしまったから。
話は少し前に遡る。
とある海域で深海棲艦と艦娘達の戦いが繰り広げられていた。
その中の撤退戦での話である。
とある艦娘が仲間を逃がすために殿を努めていた。
深海棲艦側からすれば勝ち戦の消化試合であった。
艦娘の方は息も絶え絶えであったが、これがまた抵抗が激しかった。
『この命が燃え尽きてもいいッ!!私はあの笑顔を守るためなら!!』
艦娘は吼えながら最後の戦いに臨んでいた。
笑っているように見えた。
弾薬も燃料も気力も体力も尽きかけ、肩で息を切りながら戦場を駆ける彼女。その最期に私は立ち会った。
弾雨を縫うように駆けた彼女も物量の前では最後は倒れるしかなかった。
もう死ぬだろう…意外な活躍ぶりを見せた彼女の為に撤退を余儀なくされ引き上げて行く仲間を横目に私は彼女を見下ろしていた。
ある意味満足気な
『…もう死ぬわ』
『…残念だが死ぬわね』
『……何で笑ってるの』
『私は私のすべき事をやったからよ』
『こちら側の方がいいのに?』
『あなた等にもあなた等の楽園があるようにね、私達も守りたいものがあるのよ』
守るものの為に命を懸ける事が美しい?意味がわからない。
理解し難いと言う表情を艦娘に向けるタ級に彼女は最後の意地を見せた。
『あなたこそ…こっちに来たら分かるのに…この気持ちが…大切さ–––
彼女は事切れながらタ級に銃撃を行った。
パチン!!
もはや壊れた艤装から放たれたそれは大した威力もなく、タ級の額に当たった。
『痛いわね』と言いながら彼女を見下ろした。当然、死を予感した故の腹立たしさとトドメを刺してやろうと思ったからだ。
…が、その思いはすぐに消え去った。既に彼女は生き絶えて沈んで行ったからだ。
『満足そうな顔で死んで…結局何も残ら–––––––
悔し紛れにそう呟いた時だった。ガンと頭の中で大きな音が響いた
殴られたような衝撃は先程の
何だこの感情は?
頭が割れるように痛む
何が
流れ こんで
『
あ ぁあ
あ
あ 』
目の奥が、頭がバチバチと音を立てているかのような感覚
頭の記憶の中で永遠と繰り返される あの艦娘の あの
美しさ
ゾクリと背筋に悪寒が走る。
美しいだって?!馬鹿馬鹿しい!!
え?涙?
これは何?
え?
灰色に染まる世界がおかしい
頭の中に映るそれは輝いて…
轟音と共に昇るその光は‥我らの放つそれと似通っているのにも関わらず、その光からは温かい何かと手に入れ難い何かを感じた。
私達の放つそれから感じられるのは怨嗟と死の音と光だった。
「……」
その日以来私の頭はおかしくなってしまったようで…
艦娘の生きる姿が輝かしく思えてしまった。
『何…この姿は?』
ガタガタと震えながら悲鳴をあげた欧州。
どうしたの?と声をかけられ、一瞬詰まりながら何でもないと返す彼女。
平静を装う彼女に向けるタ級の視線は他とは違った。
その冷ややかな目を欧州は見返すことができなかった。
果てのない戦い
沈めて沈まされてを繰り返す日々。
数多の艦娘が海の底に沈んで深海棲艦となり生きるものを憎む。
数多の深海棲艦が艦娘として生まれ変わり死去る者を救おうとする。
また今回も同じだと思っていた。
頭痛に悩まされながら彼女と会った時に私は驚くこととなった。
欧州棲姫は何か他と違うと思ったのだ。
生まれた彼女をひと目見て私の中にはある疑念が生まれた。
彼女は艦娘としての何かをまだ持っているのではないか?という疑念である。
己の姿を見て取り乱した欧州を見て、彼女の疑いは確信に変わっていた。
やはりこの子は艦娘の時の魂を引き継いでいる。
艦娘としての記憶を持つ彼女ならもっと輝かしいものを私に教えてくれるのではないか?
奴は敵だから消さなくてはならないのではないか?
私の中に渦巻く2つの感情がそう私に囁いていた。