提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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その華一輪 誇らしげに咲いて 2

 

風荒ぶ防波堤に人の姿を見た。

 

 

 

「冷えますよ、提督」

 

「…あぁ」

 

提督に寄り添う艦娘。

何を言ってるかは聞こえないがー…

そっと提督に上着を掛ける姿を見た。

 

『…』

 

岩場の陰から見えた鎮守府(かつての家)は温かそうな雰囲気をより濃く感じた。

 

 

なぜ声をかけないのかって?

前の私ならきっと声をかけただろう。

あの鎮守府は…出来損ないの私を優しく迎えてくれたから

 

 

私は裏切ったのに

 

『奴をここに誘き寄せろ』

『そうすれば…大切な家族に会わせてやる』

 

 

その甘い言葉に私は惑わされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば出会いもあそこだった…。

 

 

「……私は…ウォースパイト……よろしくお願いします」

荒んだ眼、ばさついた髪、ボロボロの衣服

到底、栄光あるイギリス艦隊の姉とは思えない出立ちであっただろう。

 

以前に所属していた鎮守府では道具のように扱われた。

唯一の妹とも引き離され生きる希望を失いながら…各地の鎮守府を用済みになりながら転々とし妹を探した。

私より妹の方ができる子だったから重宝されていた。

 

だからこそ私が疎ましかったのだろう。

妹と碌な会話もできないまま私は…

 

 

妹に会いたい

そんな気持ちをずっと胸に秘めて耐えてきた。

 

 

 

 

どうせここも同じだろうと思っていた。

この底抜けにバカみたいな人を見るまでは

 

「ウォースパイト!?よろしくな?!…って!その前に!!大淀おお!入渠!!入渠!!」

 

不思議だった。

大体の提督は「フン」と一瞥をして蔑んだ目で見てくるのに

ニヤニヤと私の体を弄ぼうとしてくるのに

目の前の男は「大丈夫か!?移動中に襲われたのか?痛いとこは…たくさんありそうだな?」なんて言う。

 

目の前の男は慌しかった。

「えっと…あの?わ、わたしは−––––」

大淀と何やら見たことのない…でも懐かしい感じのするメイドに担がれて私は風呂に投げ込まれた。

 

 

 

潮風が滲みた痛みも

あの戦いの傷も癒てゆく…心の傷以外は全部。

温かさは私に染み込んで行く。高速修復であるのが少し惜しいくらいの温かさだった。

入渠が終わっていつぶりかの真新しい服に着替えたらあの人が優しく迎えたくれた。

「とりあえずカレーでも食べながら」なんて言ってくれたよね。

 

なんでヘラヘラしてるんだと思った。

彼の目を見る私の目はどす黒く濁ってたと思う。

彼の話に「ええ」「はいそうですね」と淡々と答えていた。

 

「…昔のことを忘れることなんてできないと思う」

唐突にカレーを食べながら彼が言った?

 

「綺麗事ですか?」

嫌味を言う私に大淀が目の色を変えるが彼は「まあまあ」と彼女を宥めて続けた「綺麗事かもしれない」と。

 

「でも」

 

「それ以上に君を幸せにしたいんだ」

 

「なら…妹を探してください」

それだけポツリと言い放った私に彼は分かったと言った。

 

 

 

 

 

 

艦隊の皆は優しく、少しずつ…少しずつ打ち解けて行った気がした。

日々の仕事の中で確かに彼は、彼女達は私の妹に関する情報を集めていてくれた。

だが見つからない。

 

色々な鎮守府を見てきた。

だからこそ妹がどんな目に合うかというシナリオすら考えてしまうのだ。

 

少しずつ幸せという何かを感じれば感じるほどに妹のことを思うとその幸せの分の焦燥感が私の心にのしかかる。

 

「まだ…まだなんですか!?」

つい、提督にあたってしまうこともあった。我ながら最低だと思う。

その度にすまんと頭を下げる彼を見るのも心が痛んだ。

 

 

そして…だ。

私は聞いてしまった。

 

「……ウォースパイト」

 

「……君の妹なんだが…」

「深海棲艦との戦いで…

 

 

 

 

嘘だ

 嘘だきっと嘘だ

 

取り乱した私は海へと走り出していた。

海の上で泣いている私に声をかけたのが深海棲艦だった。

 

「オット!テキイハナイヨ」

「イモートヲサガシテルンダロ?」

「シッテルヨ」

 

「アワセテアゲヨウカ?」

 

「なにいってるの?妹は死んだのよ」

 

「ウソ、カレラハシラナイノネ」

 

「え?」

 

「ワタシタチガホゴシタノよ、生死の境をサマヨッテイタケドナントカモチコタエタワ」

 

「生きてるの?」

 

「…?アノコモアイタガッテタワ」

 

 

「会いたいに決まってるでしょ!遭わせてよ」

私には妹しかいなかった。

悪魔にでも縋りたくなるほどに…

たとえそれが間違ってるとわかっていても

 

「ナラ…オネガイガアルノ…キイテクレルワヨネ?」

 

 

 

 

奴らの話はこうだ。

 

妹を連れて行くから提督と2人で迎えにきて欲しいというものだ。

理由を聞いたら私たちも鎮守府に迎え入れて欲しいからだという。

他の艦娘たちがいてはダメなのか?と聞くと「コウゲキシテコラレタライヤダカラネ」と言った。

彼女達も戦いに疲れ、妹は怯え切っている…と。

 

私は歓喜し、必ず迎えに行くと伝えて帰った。

 

 

帰ったら怒られると思ったけど、それ以上に妹に会えるのが嬉しかったから怒られても耐えられると思った。

 

けど怒られなかった。

懲罰もなかった。

 

心配したんだぞ!とごめんなと言われた。

なんだか少し心が痛んだけど…私は…

 

 

 

 

 

 

そしてある日、約束の日…

提督に迎えに行きたいとお願いをしたらあっさりとOKを貰えた。

「そこまで言うなら…うん、深海棲艦にもいい奴はあるからな」って言ってた。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

そこで私は現実を突きつけられた。

 

「キタワネ」

 

「君たちか?うちに来たいって子h−–––––

小舟載っていた彼は肩を撃ち抜かれ海に落ちた。

 

「ヨクヤッタワ!ウォースパイト!作戦ドーリネ」

 

「なっ…ぐぅ…ウォースパイト!?」

必死に小舟に乗り上がった彼は私をみた。

 

「え…嘘よ何をしてるの?!妹は!?なんで彼を撃つの?!」

 

 

 

 

 

「イモート?シンデルニキマッテルダロ?」

 

「嘘よ…だって会わせてくれるって」

 

「ダカラウソダッテ!!ハハハハハ」

 

「トックニシンデルサ」

たしかーー

「ボクハネエチャンノトコニカエルンダーッテイッテタカナア」

ゲラゲラ笑う彼女達に砲撃を繰り出した。

 

 

ズガアン!!という音と共に一体を沈めた。

 

「許さないッ!!」

半狂乱になりながら男体も何体も屠った。

 

こちらにも攻撃が当たるが知ったことではない。

許さない奴らを許さない

私は私の生きる意味を奪った奴らを許さな「ウォースパイト!!」

 

ハッとした。

我を忘れてたが提督の存在も忘れていた。

振り返ると肩を押さえて息を切らした彼がいた。

 

「お、落ち着け!このままじゃお前もやられてしまう!救難信号をだした!皆も来る!」

一旦こちらに引けという彼は私を恨んでなかった。

 

「なんで?なんであなたは私の心配をしているの?」

「撃たれたのよ?騙されたのよ?私にもアイツらにも」

「私はあなたを利用したのよ!?」

 

「だまされたのはお前もだろう?」

「切り抜けて帰ろうぜ!家族が皆が待ってるぜ」

 

「なにを…私の家族は妹だけよ!?」

 

「皆家族みたいなもんだぞ」

 

 

 

 

 

 

「あなたは妹が死んでるのを調べてくれてたのよね」

 

「ああ」

 

「なら何でここに来てくれたの?一緒に」

 

「失う悲しみは知ってるから」

「それに…君のことを何より信頼してるから、君が信じるというのなら俺も信じるんだ」

 

「……ッ!!」

 

そういえばこの人にも家族はいなかったといってたわね。

ジンゲーは血のつながらない姉だったかしら?

 

「信じてるって…出会ってあまり経ってないのに?」

 

「俺にはそれでも十分なんだよ」

 

……この人はこういう人なのね。

底抜けのバカ、優しさの塊のバカ。

 

 

 

 

背中の方から砲撃音が聞こえた。

「させないッ!!」

 

私は身を挺して彼を庇った。

ドガァァン!!と背中で音がした。

「ぐっぅ…ッ」

 

「ウォースパイト!!」

 

「だ、大丈夫よ」

 

戦況は最悪だ。

艤装は半壊、私も割とダメージを負っている。提督は肩を撃ち抜かれてるし…

 

 

「……あなたを逃すわ!私が命をかけて」

 

「んなことできるわけねえだろう!!一緒に逃げる!!」

 

 

 

ごめんね提督

「そうね、あなたのことを騙したものね」

 

「…ッ!そうだ!その分俺に英国式のティータイム開催してもらうからな!」

 

「ええ…そうね、フフそれも良いかもしれませんね」

 

「おう!よし、俺が指揮を–––––

 

ごめんなさい提督

もう一度だけ騙させて

 

彼女は右拳を彼の腹にぶつけた。

「なっ…ぅウォースパイト?」

 

「フフ…ごめんなさいね?やっぱりそれも嘘です」

苦悶の表情を浮かべ気絶した彼を小舟に優しく寝かせて船を反転させ出航させた。

 

もうすぐ救難信号を見た彼女達はここにくるだろう。

 

スゥーと息を吸って吐く。

私は彼に背を向けた。

 

「ここは通さない」

 

 

「コノ!テイトクヲニガシヤガッタ!!」

 

「させるものですか」

 

「ナァニイマゴロ!!」

「オマエハウラギリモノトシテナヲノコスダケナノニ」

 

「……ええ、生きて帰ったら…ね。どんな罰でも受けるわ」

「バカな私を信じてくれた提督をバカのまま死なせはしない。私が命懸けで彼を守ってみせる」

「そうすればあなたたちは…提督も殺さないまま作戦を失敗したバカな人たちになるもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう提督

ごめんなさい提督

豆粒のように小さくなる彼を見送りながら私はその命を散らした。

 

 

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