提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜   作:ふかひれ

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提督の夏 4

 

やっぱり優しいね

 

うん

すっかり…甘えちゃったね

 

 

 

 

 

淡い夏の夢

 あの日に終わるはずだった…夢の……泡沫の続き––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽めの執務に、演習、艦娘達との交流…

ここに来て数日が経った。だいぶ艦娘達と打ち解けてきた。

今では轟沈する艦娘も居なくなった。

 

しかし、ふとした時に少し寂しそうな顔をする彼女達がいるような気がした。

 

 

 

 

 

 

そして同時に俺もやはり寂しさを感じる。

 

「ダーリン」ではなく「テートク」なのだ。姿は全く一緒の金剛ではあるのだが…。 

きっとダーリンと呼んでと言えばそう呼んでくれるだろう。

しかしその理由を言ってしまえば彼女はどう思うだろうか?

 

俺にとってこちらの皆も大切に思える存在になっているのに

やはりあの指輪をあげた金剛に会いたい。

 

 

 

なんて思いながら書類に目を戻す。

 

くそう

減る気がしないこの書類の山ッ

深海棲艦が居なくなるのが早いかこの書類の山が無くなるのが早いか……

なんて考えていても仕方ない…!

やるか!やってやるぞおおおお!!!

 

と、昨日全力で執務を終わらせて今日は休み…!!

 

 

 

 

 

 

フーーっと一息をつき椅子に腰掛ける。

今日は少し涼しいな…。

窓から鎮守府の様子を見る。

 

 

その時だった。

 

「テートクー!今日はゆっくり休めましたカ?」

ひょこっと現れた金剛が言う。

だいぶ慣れたのか紅茶を差し出しながら近寄ってくる。

 

 

「いい…夏だな」と返す。

 

「ハイ!みんな…テートクにこんな夏を過ごして欲しかった…ううん、過ごしたかったんデス!」

 

「過ごしたかった…か…」

 

「はい!」と答える金剛。

 

ちらりと金剛を見る。

屈託のない笑顔でこちらを見てくれる。

 

この笑顔が好きだ。

金剛のこの笑顔が……。

 

 

 

ダーリン♡と聞こえるはずのない声が聞こえた。

不意に重なる金剛の姿。

 

 

あぁ……なんて俺は酷いんだと罪悪感に苛まr「ありがとうございマス」

 

 

金剛がお礼を言った。

少し……困ったような笑顔で。

 

 

 

 

 

 

まるで金剛はこちらの考えがわかっているかのように言う。

その罪悪感を打ち消すように…。

 

「何がだ?」

 

 

 

「皆…テートクに…いえ、ダーリンに感謝してマス」

 

「えっ…どういう…と言うか…今、ダーリンって…?」

 

 

 

えへへと笑う金剛は

少し…さっきよりも少し困った顔をして………

 

 

「楽しい数日間でしたよ…提督」

いつの間にか居た加賀が言う。

 

「…え?すまない。理解が………

 

 

「わかるはずですよ?」

ニコリと困ったように笑う加賀。

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界には男性が少ない

 

この世界の艦娘は…男に耐性がない

特に…俺には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界でこの鎮守府以外の何かを見たか?

 

 

 

 

 

この世界で西波島の艦娘…以外の艦娘を見たか?

 

 

 

 

 

 

何故……俺を一目で提督になる人だと理解できたのか???

 

 

 

「お前達……は一体…」

 

 

 

「もう終わりが近いので……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは夢

泡沫の…ほんの一瞬の我儘の夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女達は…

それでも彼に会いたかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私たちは…あなたに力を貸したあなたの2隻目の艦娘デス」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの間にか並んだ艦娘達はこちらに笑顔を向ける。

 

 

 

「なっ……」

彼は彼女達を見渡す。

確かに…覚えている。

あの子は…演習のところに…あの子は……強化の……

あの子は…ドッグの最後のページに…

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかの影の神通が言った。

ドッグの片隅で今か今かと出番を待つ彼女達が居る––と。

 

主力にはなれない。

少しの希望を抱きながら暗い運命を待つしかない彼女達が居る––と。

 

 

 

 

 

あの時…彼女達は俺に力を貸してくれた。

俺の為なら日陰からでも力を貸す…と。

愛する俺のために全てを預けてくれた彼女達。

 

強化艦娘として…誰かの力になって行った彼女達。

 

もう二度と会える事ないはずの……彼女達だった。

 

 

 

 

 

 

 

「そんな…お前達…」

 

 

 

「怒ってなんか…恨んでなんかありませんよ?」

と浜風が言う。

 

 

 

 

 

「少しのわがままでした」

そう加賀は言った。

 

「はい、どうしても…もう一度あなたに会いたくて」

鳳翔が言う。

 

「夏の…最後の思い出ですね」

と、伊勢が言う。

 

 

 

「この数日間凄く楽しかったです」

吹雪が言う。

 

あの時みたいな(ゲームの時みたいな)あなたとの触れ合いが…

直にできなかった…あなたの温もりを感じられたこの数日間は私たちにとって何よりもかけがえの無い…宝物になりました。

 

ええ、もう二度と会う事はないでしょう。

これは本当にズルした我儘ですから。

 

あなたにもう一度会いたくて

触れたくて、感じたくて…

 

 

 

 

「終わりって…??」

 

 

「…夢は覚めるものですから」

 

 

そう

いつか夢は覚める。

あなたの目覚めによって…。

だから…私達に引導を渡して…見送るのもあなたであって欲しいから。

 

それが叶ったから私達は…笑顔で逝けます––––––。

 

 

 

 

 

 

逝く…?お前達…?

 

 

 

 

トトト…と音が聞こえてくる。

北上だ、北上が来た。むぎゅっと俺に抱きついた。

 

 

おっと…と彼女を受け止める。

「えへへ……」と泣き笑いながら彼女はこちらを見上げ…背伸びをして俺に唇を重ねる。

「…ッ!北上!?」

 

まぁっ…とか、ずるい!とか色んな声が北上の向こうから聞こえる。

彼女はこんなにも…クールさを見せないくらいに甘えん坊だったのか?と思ったが…やはり西波島の北上と重なる。

 

彼女は…彼女…北上なのだ。この彼女もあの北上も…同じ……

 

唇から涙が…俺の口に少し流れ込む。

紛れもない現実が目の前にあった。

 

 

「やった!私が1番だね……大好きだよ!ずっと…ずっと大好き」

ぐしゃぐしゃの顔で笑顔で彼女はそう言う。

 

 

「北上………お前ッ」

彼女は淡い光となって行く。 

 

 

「…ありがとうね、提督さん」

 

 

「ッ!!北上…!北上!!」

 

「お願い…このまま…見送って?私を最初に」

 

 

…後のことは…もう1人の私に任せるね。お願いね私!

あの人を…守ってね。 大好きな私の提督さんを…。

ううん…やっぱりごめんなさい。あなたに…傷をつけさせて?

 

「提督さん…私の提督さん!私のこと…忘れないでね?」

 

 

「勿論だ!お前の事は絶対二度と忘れないから」

 

 

えへへと言う涙声と共に彼女は光となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ッ…北上……」

 

 

呆然と皆を見る。

なのに何故か皆はにこやかだ。

 

 

あぁ…そうか…

皆はもう一度俺に会いに来てくれたんだ……

 

なら…俺はー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どん!と言う衝撃と共に吹雪が飛び込んでくる。

「……私はあなたの最初の初期艦娘の吹雪じゃないですけど…それでも私は…!!あなたをずっと…ずっと…うっ…ううっ」

吹雪は泣きながらポスポスと俺の腹を叩く。

 

よしよしと頭を撫でる。

「たくさん助けてくれたな…お前も」

 

「……ばい゛!!」

 

「私も…吹雪でず!あなたと苦楽を共にした…吹雪でず!!あなたを…愛しています!!!!!」

 

お別れのキスの後に彼女は光となって消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなた…」と俺を呼ぶ鳳翔さん。

「ダーリンさん」と呼ぶ榛名。

「あなた」と呼ぶ間宮さん。

「提督さん!」「司令官」「しれえ」「司令」「提督ー!」

「くずー!」「でいどぐゔ」

各々好きなように呼んでは飛び込んでくる。

 

 

皆、そう呼びたくて仕方なかった。

最後だからこそ…最後だからこそ解き放つ心の底からの想い。

たくさん飛び込んできた。

 

涙で服を濡らし、しがみつく。

消えたくないよ…!もっと居たいんだ!って

もっとあなたとの時間が欲しかったって––––

 

 

でも…それでも

たくさんの子が涙と共にお礼を言い合い

涙の笑顔で光となって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダーリン?」

ぎこちなく金剛が言う。

残されたのは金剛1人だ。

 

 

「やっぱり金剛が最後なんだな…と言うかずるいな…このタイミングでのダーリン呼びは」

 

「えへへ…私も呼びたくなりました」

モジモジとする金剛においで…と両の手を広げる。

勿論…金剛は飛び込んで–––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逝きたくないデース…」

「ずっとダーリンと一緒に居たいデース」

ガシリと俺の服を掴んで胸に顔を埋め泣く金剛。

 

 

 

「もうこれ以上の我儘は言いまセン!何でもしマス!」

泣きじゃくり、恥も外聞も捨ててひたすらに我儘を…本音をぶち撒ける金剛。

 

「ど……ど…んな事…ひぐっ……でも…します…ううっ…カラ……ッ」

 

 

やっと会えたのに

やっと触れ合えたのに

お願い

 

 

お願い

 

離れたくないの

 

 

 

 

 

だから

 

だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行かないで…下サイ……私を…置いて行かないで…下さい…!!」

「ドッグの隅でもいいデス!!雑用でも!出撃したいなんて言いませン!!営倉暮らしでも何でも良いデース!!!やっと…やっと触れられたんデス!!嫌です!!離れたく……………ないデス」

 

言ってしまった…。

困らせたかな…?

困ってください!!

怒られても良い!1秒でもあなたと…居たいから!!!!

 

 

顔を上げる。

涙でぐしゃぐしゃな顔を。

 

全く…という少し困った笑顔のテートク…ダーリンが私を…

私だけを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

彼は彼女の顔を見つめ…唇を重ね、ありったけの力で抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺だって…行ってほしくない。ずっと…側に居て欲しい」

 

 

「…ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

あぁ…この人は優しい

底抜けに優しい

私の欲しい言葉をかけてくれる。

 

本当は…あの金剛に会いたいのだろうに…。

それでも、私を金剛と愛してくれる…。

 

 

 

ダメだ…

ダーリンをここから帰さなきゃ…

 

だってここは…

この世とあの世の境目みたいなものだから

 

 

言って欲しいことを言ってくれてありがとう

この手を取ってくれてありがとう

 

 

 

「……そう言ってくれて嬉しいデース」

彼女はその喜びを手放した。

大好きな人だからこそ…生ける者だからこそ、歩んで欲しいから

 

「ホラ!あの扉を行って下サイ」

「ダーリンのいた世界に帰れますから」

トッ…と彼から離れる。

 

「こ、金剛!?」

 

「私だけ我儘延長戦はダメデース!」

「後は…ダーリンが天寿を全うして…ヴァルハラで会って沢山……沢山甘えさせて下サイ」

 

 

 

「わかった…でも君を見送ってから…帰るよ」

 

 

 

 

「優しいですね…なら」

 

 

「もう一度だけ…」

「もう一度だけあなたの温もりを下サイ!!」

 

振り返る俺に飛び込む金剛。

わんわんと泣きじゃくり…唇を求め、抱きしめる手を離さなかった。

 

 

 

また…あの世でな

と言ってくれてありがとう…

 

「ダーリン!!愛してマス!好きと言ってくれて…我儘聞いてくれてありがとうデース!!!!バーニング…ラブ」

 

 

そう言って彼女も光となった。

彼女を抱きしめていた手は空を切る。

何度その手を握っても掴めない…光。

 

 

 

 

 

 

「みんな…ありがとう…ありがとう」

 

 

 

 

 

涙を流しながら扉をくぐる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚める。

穏やかな夏の午後

珍しく暑くない午後の目覚め

 

ぼやーっとした目が次第に慣れてくる。

 

穏やかな顔をした彼女が窓辺から俺を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダーリン?いつまで寝てるノー」

 

 

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