提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
ほろりと頬を何かがつたいながら光を目指す。
思い起こされるのはあの子達のあの笑顔。
ごめん…
本当にごめん。
目が覚める。
穏やかな夏の午後
珍しく暑くない午後の目覚め
ぼやーっとした目が次第に慣れてくる。
穏やかな顔をした彼女が窓辺から俺を見ていた。
「ダーリン?いつまで寝てるノー」
いつの間にか寝てたらしい。
「ん、あぁ」
夢を見てた気がする。
眠たげに目を擦る。
「どんな夢見てたノ?」
ねぼすけさん♩と笑いかけてくる金剛。
「えっと……」
思い出さなきゃ…
あれ?
必死で思い出そうとすればするほどその夢の輪郭は曖昧になってボヤけて行く。
いつか思い出すだろうと考えようとした。
大切な何かを見ていた気がする
忘れちゃいけない約束をした気がする
ぼんやりした頭の中はただ良い夢を見てた気がする…とだけ俺に語りかけてくる。
「思い出せない…」
「……そう…デスカ」
少し残念そうな顔をする金剛に申し訳なさを感じる。
ポッカリと穴が空いたような…この喪失感を…なんだろう
頭をガンガン叩いてみても思い出せない。
それが全てを失ってしまいそうで怖いのに
思い出せない
「だ、ダーリン!?」
思い出せない
思い出せない
「……提督さん」
「ん、北上…?」
北上が部屋にきた。
ザッと何かが頭をよぎる
「––––れないで」
北上がこちらへくる。
ドン…と俺の胸に頭突きをする。
「北上……?」
「忘れちゃ…ダメだよ」
「みんなの事…忘れちゃだめなんだよ!!!」
本人も訳が分からずに居た。
何故か分からないけどそれを伝えなくちゃならない気がして足が執務室に動いた。
いや…分かる。
彼女が伝えたがっているんだ。
私に全てを託した…私が–––––––––!!!!!!
その瞬間に頭に何かが駆け巡る。
「忘…ないで』
『置いてい……で」
忘れていい
そんなはずはない
忘れていい約束な訳ない
俺は誓ったはずだ。
君達を覚えてると。
力強く北上を受け止め抱きしめる。
「…提督?」
不安そうに北上が彼を見上げる。
金剛達も不安そうに両の手を握ってこちらを見る。
ポツリと彼が喋り始める。
「みんなに…会ったんだ」
「みんな?」
金剛達が聞き返す。
「あぁ…金剛に北上に…吹雪に…皆に」
「夢の中で…デス?」
「あぁ…忘れちゃいけない…俺の大切な…大切な艦娘達」
「みんな…居たんだ…この手の中に、胸の中に…」
「居たんだ…触れたんだ…確かに」
膝をついて泣く。
別れ際は泣かなかったのに…涙が溢れて仕方ない
皆の顔を見たから。
北上も吹雪も…皆居た。
皆確かに俺に触れて飛び込んできて…笑顔で泣きながら消えていったんだ。
「ごめんよ…!!寂しいって思って…!!お前達に気付かなくて…最後まで優しくされて……!!ごめん…!ごめん」
心の堰は外れて今更に悔恨が口から溢れでる。
今更もう遅いのに。
何でもっと早く気付かなかったのか。
何でもっと色々出来なかったのか。
何でもっと…深い愛情を–––––––––––
顔を上げたら皆が居た。
ボヤッとあの子達が見えた気がした。
目を擦ったら消えた…あの幻影。
西波島の皆は笑顔で何も言わずに立っていた。
「…ありがとう提督」
「いいや、お礼を言うのは俺の方なんだ。」
「ううん…」
「あの子達…嬉しかったと思う」
「わ、わかるのか?」
「もちろん」
わかるよ…
だって…
「だって…あの子達は私達の中にいるから」
あの時、改修として皆の力となったもう1人の艦娘達。
その気高き魂は今もなお…彼女達の中でその力を貸しているそうだ。
「忘れたままなら拗ねちゃうけど…思い出してくれて…ありがとう…」
ポロポロと泣きながら北上が言う。
いや
暖かい思い出をありがとう
こんな俺を……ありがとう
ドスン!と金剛が…飛び込んできた。
「…ならあの子達の分まで…私たちをよろしくね!!」
と一斉に飛び込んでくる。
むぎゅむぎゅと押し潰される。
「泣いてる暇なんて…ないよ!」
「…そうだなあ」
私達も一緒に覚えてるから
絶対に忘れないから!
あの子達の分まで…あなたを守り抜いて見せるから––––
この身にしっかりと皆を感じながらこの時を噛み締める。
当たり前じゃない
この幸せな瞬間を…。
そして…あの子達を感じる。
きっと側に…居てくれてると。
夏の暑い日は俺の体を焼いてゆく。
風鈴の音も涼しくなんか感じない今日の日。
ふと、呼ばれた気がして窓から外を見る。
窓から見える鎮守府で1番大きな木。
ふと、鎮守府の門の近くの木の下に皆の幻影を見た気がする、
夏の陽炎でも良い…それでもいい
彼女達が笑顔でフッと消えた。
皆…提督のことが大好きな偽物
あなたを守ることが出来るのなら…
あなたの力になることが出来るのなら
私達は喜んで日陰から力を貸すわ!!
だって私達は…あなたの……神崎 救の艦娘ですから。
とある敵によって作られたコピーの素体は彼女達だった。
偽物ーと自分達も思っていた。
でも、それでも彼の力になりたかった。
それは魂に刻まれた彼女達の想いが引き起こされたから。
奇しくも彼女達は救達の力になることによって己達の存在を改めて理解した。
あぁ…よかった…
私達は…彼の元で…彼らの中で生きて行ける…と。
それで満足だった。
でも…それでも抱いてしまった小さな憧れ。
ほんのひと時。
西波島の今の艦隊の面々に比べたら…本当に微々たる、小さな小さなほんの一瞬。
しかし、それは…彼女達にとって何よりも、何よりもかけがえのない思い出になる。
–––提督!
少しの間だったけど幸せでした!
もう少しほのぼのした世界でも良かったけど提督は色々信じてくれてよかったです!!
–––いつかまた会えるよね?
私達はずっと…信じてます––––––
そこに向いて手を振る。
さよならなんかじゃない。俺は忘れない。
……
またいつか!!俺は待ってるから。
ずっと…ずっとここで待ってるから。
夏の暑さが…また俺の肌を焼いた。
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