提督の鎮守府生活 〜最果てと呼ばれた西波島鎮守府での日々〜 作:ふかひれ
「ねえ!戻ってきてよ!お願いよ…」
「無理よ…わたしはもう…」
「アンタはそんなに弱く無いでしょう!」
「あなたに何が分かるのよ!もし…もしまた皆に矛先を向けるなんて事…私は耐えられないわ!」
「…ッ…それでも………お願いします…」
「勝ち逃げなんてしないでよ…。私はアンタが憎たらしく思うわ…でも!いつでも冷静で仲間思いな先輩が………ッ」
「アンタが居ないと…あの人が!!…皆が!心の底から笑えないのよォッ」
「皆を助けたいの…一緒に戦って下さい」
あのプライドの塊の瑞鶴が…地に頭をつけている。
「お願いよ……アンタに憧れてんのよ…死ぬまで…憧れさせてよ!こんな形でアンタに追いつきたくないわよ!」
「頭を上げて…瑞鶴…」
期待を込めた顔で瑞鶴がこちらを見る。
「ごめんなさい…瑞鶴…無理よ…帰って頂戴」
瑞鶴の表情は一瞬で絶望に変わった。
俯いたまま瑞鶴は言う。
「……わかったわ…ごめんなさい…」
「……………………この!意気地なしッ!アンタが居なくても…私が!あの人達を守ってみせるわよ!!」
瑞鶴は走って行った。
加賀は思い返す。
ーー加賀…よろしくな。
ー空母はカッコいいな
ーお前の艦載機発艦は…本当に綺麗だ
ー俺に見せてくれるその笑顔が好きだな
ー加賀さん!さぁ、行きましょう?
ー先輩!今日こそ負けないわ!
ーあら?加賀?どうしたの?ふふふ
ーヘーイ!加賀!ダーリンは渡さないヨー!
ーそうか…なら退役でも仕方ないが…俺は…待ってるからな。お前との約束…忘れないからな。
ーアンタに憧れてんのよ
ー意気地なし!
…て、提督…。
皆…。
ズキッと痛む…。
「お待たせッ!」
と、瑞鶴が戦地に戻ってきた。
「戦況は!?」
「芳しくないわ…加賀さんは?」
首を横に振る瑞鶴。
「仕方ないわ…」
「大丈夫!私が頑張るからッ!」
「瑞鶴…」
「くっ…大淀!各方面からの帰投は?!」
「まだ時間が必要です!」
「皆…耐えてくれ…」
「加賀……」
提督は飾られた写真に写る艦娘を見る。
無意識に足が向かう。
だって…痛いから。
「皆…」
私は来てしまった。
遠巻きとは言え、なんの資格があって来たのか…。
皆が押されている…。
わたしは…私は…。
「きゃぁあ!」
赤城か被弾する。
赤城さん!!!
助けなくちゃ…!!
水面に立とうとする。
しかし、浮かない…
水に入ってしまう……膝まで波が来る。
何で!?どうしてーーーー。
そうだ…私は…
艦娘を辞めたんだった…。
今更…よね。
なのに…何でこんなに胸が痛むの…。
ひゅっと風が吹いた。
はっと前を向く。
幻影が見える。
艦娘としての私。
凛として…向こうをじっと見つめていた。
その
「
いきなり周りが暗くなる。
…え?
「情け無いわ…哀れ過ぎるわ…
私?
「そうよ…あなたが置いて行った
艦娘としての…私?
「何度…挫けようと立つのが私じゃないの?」
でも…。
「あの人への愛も…それに負けるくらいなんだ…。ならその身体…頂戴?私がうまくやってあげるわ?」
それは…嫌よ。
「何で?いいじゃない…思い出も何もかも受け継いで戦ってあげるわ」
この思い出は…私だけのものなの。
「
……そんなの…わかってるわ。
「待ってるのよ
「そこまで信頼されてるのよ?今も昔も…」
だって…私は!!
「その程度で負けるものなの?
そうだー…。
約束してたんだ、私…。
愛してますと。
あの人を側で守ると、添い遂げると。
何をやってるんだ私は…ッ
自分の心の弱さに負けて…大切なものを見落として…。
弱さを棚に上げて…理由を取り繕って…逃げた!!
約束からも…皆からも。
あの人に…解体してとお願いして…。
どれ程、苦痛だったろうか。
どれ程悩み、自分を責めただろうか。
あの小さな背中で…どれ程の…。
私は…
いいえ
私は…正規空母 加賀…。
例え、艤装がなくとも…。
心は…。
こんなのに負けない…誇り高き一航戦…。
いや!
誇り高き西波島鎮守府の航空戦隊の加賀!
行かなきゃ!
私の在るべき所へ!
「……遅いのよ…全く…でも、分かったようね。なら、私はまた貴方と一緒に戦えるわ…」
「いい?
目の前が晴れた。
私の足は…海の上にあった。
慣れた艤装が私に装備されている。
あなたも…泣いていたのね…。ごめんなさい。
もう、離さないから。
行かなくちゃ…。
「来ると思ってたけど…。遅かったじゃないか…」
あの人の声が後ろから聞こえた。
提督…
「貴方は本気で私1人が帰ってきたら…この戦局が覆ると思っているの?」
「当たり前だろう」
「私より優れた加賀を建造すればいいのに」
「それはお前じゃない…。俺が好きで…ケッコンカッコカリして…時間を共にしているのは…お前じゃないか。お前以外の加賀は…俺にとっては意味がない。」
「約束守らなかったのよ?」
「誰だって同じさ。逃げたくなる時もあるさ…ここから取り返そう」
責めないのね。
本当に…甘いんだから。
だから私は今度こそ…貴方の気持ちに応えるわ。
「…ごめんなさい…私!行くわ!」
「忘れ物だぞ?」
と、私を呼び止める。
艤装はついてる…わよ?
左手を取り…私の穴を埋めるように…また証をつけてくれる。
軽くなったはずの左手が…またその重さを実感した。
「待ってるぞ…ここで」
行ってきますと…キスをする。
あぁ、これで頑張れる。
待ってて…今度こそ、あなたの声に…全力で応えるから!!!
艤装がキラリと光ったような気がしたー。
いや、気のせいじゃない。
加賀…改二 護ーー
「…いいじゃないか、行ってらっしゃい…加賀」
「行ってくるわ!提督!」
「くううっ…」
血が滴る…。
こんなにも奴との差があるの?私には…。
あぁ…死の足音が近付いてくる…。
ドロリと流れる血は其れを強く感じさせる…。
「アノコシヌケガ居ナイダケデナ…」
「コシヌケ…ですって…?」
「おい…!」
瑞鶴が空母棲姫を睨みつける。
ふざけるな…あの人は…腰抜けなんかじゃない!
いつだって私達を引っ張ってくれた艦娘なんだ!!
「あの人を馬鹿にしていいのは…後輩の…私だけだッ!お前が…あの人を語るなァァ!!」
「全ク…挑発ニノリヤスイ奴ダナ」
「しまっ…!!!」
ドオオオオン
「きゃぁぁあ!!」
敵の一撃が瑞鶴を襲う。
「フフフ…ブザマネ」
あぁ…
体が海に溶けてゆく。
敵に乗せられるなってよく加賀に言われたなぁ…。
やってやるわ!って言ったけど…私じゃ…先輩の替わりには…なれるわけないか。
悔しいなあ…。
沈められるより…私、あなたを馬鹿にされて…何も出来なかった事が…悔しくて仕方ないよ。
先輩……。
瑞鶴ー!と呼ぶ声が聞こえる。
「サア…逝キナサイ」
加賀も、悩んでたよね…苦しんでたよね。
ごめんね…意気地なしって言って…。
私…本当は……。
本当は…。
届かぬ水面に手を伸ばすーーー。
音が聞こえる。
ズドドドド…
ドゴォン!!!!
「ヌウウウ!?」
「ナンダ!?」
と、退く空母棲姫。
「立ちなさい…瑞鶴」
誰かの手がが沈み行く私の手をを掴んだ。
水の中でもわかるその温かな手は、私をもう一度水面に引き上げた。
その人が私の前背を向けて立つー。
「ゴホッ…ゼェ…ゼェ」
前を見る。
ーこの背中は…?
…ッ!
この背中だ…。
私が、ずっと追い続けている背中は…。
私が超えなきゃならない背中は…。
もう、弱々しい…情け無い姿でないー
そこにあったのは…誇り高い一航戦の背中だったー
「遅い…のよぉ…」
「加賀!」 瑞鶴が
「加賀さん」赤城が
「先輩…」 翔鶴が
「oh加賀ー!」金剛が
「加賀さん!」58が
「加賀ッ」 長門や皆が
その名を呼ぶ…待ち望んだ、なくてはならないその艦娘の名前を。
「後で…たくさん謝るから…。まずは行くわよ…やられた分…取り返すわ!!」
「コトバデ操ラレル雑魚ガ…今更ァァ!!」
「全機構え!」
「「はい!!」」
赤城と翔鶴、が構える。
風向きが変わったーーー。
本当に…戦局をひっくり返すのよ!ここから。
「第二次攻撃隊…発艦ー!!!」
一矢乱れぬ発艦。
提督が綺麗だと褒めてくれた…私…加賀の自慢。
「よーーし!皆ー!やるヨー!!」
金剛が叫ぶ。
「加賀に続けええええ!!」
「行くぞおおおおおおおお!!!!!」
長門が吠える。
じわじわと…攻め返す。
「バーーニング!ラァブ!!」
「一斉射!!」
長門と金剛の砲撃が敵を屠る。
「水中は任せるでちー!」
「私達も…まだ!!」
「バカナ…」
たかが正規空母1隻…。
そう!たかが正規空母が1隻、増えただけだ。
それが、死に体の艦隊が…その1隻でここまで変わるのか?!
目の色が…変わるのか?
ありえないー。
「私の自慢の皆をめちゃくちゃにしてくれちゃって…」
「覚悟はできてるんでしょうね?」
「こ、コノッ!!ーーーーー」
!?ダメダ!サガレ!」
ドドドドと、スレスレのところを攻撃される。
この空母…早すぎる……!!!
一撃…せめて…、一撃…。
あの人を馬鹿にしたアイツに…せめて!!
例え…ここで散ってもいい!
弓を持つ手が、矢を張る手が震える。
「このっ…」
視界が…。
それすら…叶わないの?
瑞鶴…と手が添えられる。
「翔鶴…姉!?」
ーーーじゃない。加賀だった。
「加賀…」
「私が支えるわ…行くわよ」
暖かい…加賀の体温が手から伝わる。
ー2人で行くわよーー
この言葉が…こんなにも心強いなんて!
負ける気がしないわ。
私も…応えなくちゃ…この人に…提督に…皆の声に…。
お願い…提督…!私に力を…
もう一度…立ち上がる力を貸して!!
「瑞鶴…?」
瑞鶴…改ニ甲
「あなた…」
「先輩だけにいい格好はさせないわ!」
2人で弓をなお構える。
ギリギリと張る弓は二人の想いを乗せる。
「見せてやりましょう…西波島航空戦隊の実力を」
「遠かったって…当てる!……ーーー今よ!!」
弓から射られた1本の矢。
音すら置き去りにする程に空を切り、雷光の如く敵に向かう。
空母棲姫はゾクリとした。
まさか…
「サセルカ!撃チ落トセ!!!」
周囲の深海棲艦と共に対空射撃の弾幕が展開される。
「…まずい!次を!!」
と、瑞鶴は加賀を見るーーーーが、加賀の目は真っ直ぐに矢を見据えていた。
そして、一言。
「瑞鶴…貴方の腕を…私を……あの子を信じなさい」
矢は燃え上がり、爆撃機に姿を変えて空を飛ぶ。
ーー堕ちないーーー
迎撃を躱す爆撃機。
何故?何故堕ちない!!
何故何故何故何故何故!!
「バカナ!モット展開シロオオ!」
更に増す対空射撃。
それでも尚、針に糸を通すかのように掻い潜る爆撃機。
どれほどの熟練された艦載機でもあり得ない動きだろう。
それは…
優雅に舞うように
勇ましく突き進むように
閃光の如く
ただ、1つの敵に向かって…風を…空を切り駆け抜ける!
何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故?
空母棲姫は戦慄した。
その光景が恐怖でしかなかった。
弾幕という弾幕を掻い潜り、死神が空を切る音と共に自分に迫っている!!
「クルナァァァァァァァア!!!」
豪雷の如き一矢が空母棲姫を捕らえる。
2人が吠える。
「「いっけえええええええええ!!」」
2人の矢が届く…
反撃の一撃が喰らわされる。
ドゴォォォォオオオン!!!
確実に当たった。間違いない…。
煙の中から現れた轟沈寸前、大破状態の敵。
周囲の深海棲艦を盾にして。
「…マサカ、ココマデトハ…シカシ…マダ、死ンデナイ……」
撤退……。
「まだよ!退かせない!」
赤城達だった。
いや、それだけではない。
駆逐艦も、巡洋艦も、戦艦も…
全機がこちらに構えて発射していた。
「クソ………上手ク行ッタトオモッタノニナ」
本当に…たった一隻に………
「皆…ごめんなさい…」
深々と頭を下げる加賀。
「……」
許してくれとは言えない。
私は一度逃げたから。
今回のでチャラになるとは思ってない…。
私にできる償いはやるつもり。
「間宮のスイーツでいいですよ」
「…え?」
「あら!瑞鶴!いいわねソレ!先輩!ご馳走様です」 翔鶴?
「私は大盛りを所望します!」 赤城さん?
「私もネー!」 金剛?
「俺もそうしようかな」 提督…?
「何で?なんで責めないの?逃げたのよ?!私は」
「だから何?」
「戻って来たじゃない…私達を助けに…」
「それでも!」
「だから間宮のスイーツで勘弁してあげるのよ…」
「「「お帰りなさい」」」
皆が笑顔で言う。
瑞鶴が抱きついて来た。
「こっちこそごめんね…加賀ぁ…。辛かったよね、苦しかったよね…なのに私ッ…私…意気地なしって言って……ごめんね。助けてくれて…ありがとう…ううっ…一緒に弓を引いてくれて…ありがとぉ…うわぁあん……私ッ…あの時言えなかったけど……優しいアンタが大好きなのッ」
「…いいのよ…。ありがとう…瑞鶴」
泣きじゃくる瑞鶴を加賀はいつまでも優しく抱きしめていた。
「…提督?」
「ん?どした?」
「私…もう一度約束するわ…」
「二度とあなたから離れない。ずっとずっと守り続けるから。私はもう負けない、挫けない…だから」
「負けそうなら…挫けそうなら俺を頼ってくれ」
「…ッ!?」
「その為に俺はいるんだ…愛する人に頼られないのは寂しいかな」
「…ええ、わかったわ。ありがとう…提督」
ぎゅっと抱きしめてもらう…。
暖かい……。あぁ…何て幸せなんだろう…。
ごめんなさい…。
でも、これからは…。
私が帰投した時…。
「瑞鶴!!」
「提督?」
「無事か!?…良かった…」
「提督…その…ありがとう」
「どした?」
「沈みかけた時…お願い…提督、私に力を貸してと祈ったら…この姿になったから……」
「少しは力になれたか?」
と、笑いながら言う提督…。
「ええ、いつだってあなたは…私を支えてくれるわ」
「ありがとうな…瑞鶴…今日は…本当にありがとう」
「お前が沈まなくて良かった…本当に良かった…すまない、そんな時に近くに居られなくて。」
と、私を抱きしめてくれる。
「提督…その……大好きよ?」
「あぁ…俺もだよ」
「指輪…翔鶴姉と待ってるからね」
「もう少し…遠慮して食べてくれると嬉しいのだけれど」
財布の中身がもちそうに無いわね…。
「おかわり!」
「俺も!」
…容赦ないのね。
でも…皆の笑顔が……幸せだな。
「加賀?アンタも一緒に食べるのよ!」
「当たり前よ!私も食べるわ!」
「優しいアンタが大好きなのよお…」ボソッ
「なっ!まっ!ちょっ!」
「私も大好きよおー?瑞鶴うう?」
「うがーーー!!!」
「ふふふ」
と、間宮が笑う。
「何かしら?」
「何!?」
取っ組み合いをする2人が聞く。
「仲良さそうで何よりよ」
「「そんなことないわよお!!」」
甘味処は今日も賑やかです。
長くなりましたが…瑞鶴と加賀は終わりです。
お楽しみいただけましたでしょつか?
少しずつでもお楽しみ頂けたなら幸いです!
相変わらず戦闘描写は……
感想等お待ちしています(๑╹ω╹๑ )!!