特急ロンパ―冤罪の殺人鬼とコロシアイ特急列車― 作:ノドクル
皐月翼という少年
「今、容疑者が警察車両に乗せられます!」
その日、日本中はその報道に釘付けとなった。
一人の犯罪者が逮捕され、警察に連行されていく……そんなよくある、しかし別世界の出来事だと思わせる光景。
「かつて世界を震撼させた【人類史上最大最悪の絶望的事件】。それを思い起こさせるような学生による大量殺人がまた起きてしまいました」
だけれど、【学生による大量殺人】……そのキーワードは今や一般常識として語り継がれる【絶望】を想起させるには充分過ぎた。
人々は恐怖した……かつての惨劇を知る者、それを体験したわけではない者達も。
だからその【殺人鬼】の名前を明らかにする事を誰も躊躇わなかった。
それが誰かもわからない恐怖に比べれば、殺人鬼のプライバシーなど考慮するにも値しない。
「今詳細が明らかになりました。今回逮捕されたのは――」
そしてそれが真実かどうかも、誰一人考えはしなかった。
※※
人生ってやつは、なかなかどうして不思議なものだと思う。
少なくとも俺、皐月 翼【サツキ ツバサ】にとってみれば今のこの状況は信じがたい物で。
一年にも満たないたったそれだけの間に、俺を取り巻く環境は劇的に……
「おい、着いたぞ!さっさと降りろ!」
そんな風にあれこれと考えてると、車のドアが乱暴に開けられて引きずられるように外に出される。
息苦しくて、思わず呻き声を漏らすと……それが気に入らなかったのか、背中に蹴りを入れられて俺は地面に倒れ込んだ。
「おいよせよ」
「だけどな!なんでこんな屑を……」
「仕方ないだろ……上からの命令だ」
「くそっ!」
転がったままの俺を助け起こすなんて素振りもなく、一緒に乗ってきた人達は話している。
俺も今さら助けなんて期待してないから、自分で立つ……その時見えた手首にある銀色を視界に入れたくなくて、目の前にある建物を見上げた。
「希望ヶ峰、学園」
目の前に佇む巨大な、本当に学園なのか疑わしい建物。
【私立希望ヶ峰学園】
世界中から選りすぐりの高校生達を集めた学園だ。
集めるって言うのはその名の通りスカウトするって事。
要するにこの学園、スカウトされないと入学すら出来ない。
スカウト基準は【超高校級】の才能がある現役高校生。
まあ才能がなくても特別選考の【超高校級の幸運】で選ばれる可能性もあるんだけど。
俺がここに来た理由……それは今日から俺もここの一員になるから、だ。
「……」
ちなみに俺は何か特別な才能があるわけじゃない。
昔は人より少し友達が多かった……ただそれだけ。
かと言って【超高校級の幸運】ってわけでもない……というかもしそうだったら皮肉過ぎてこっちから辞退したいくらいだ。
「……はあ」
俺がスカウトされた理由……それは。
【皐月翼様。
あなたを希望ヶ峰学園第100期生・超高校級の殺人鬼としてスカウトします】
そんな、嬉しくもなければ慣れきって悲しくもならない勘違い。
そんな俺の心境を嘲笑うかのように、手首にある銀色……手錠がキラリと光った。
一応言っておくと、俺は産まれてからこのかた誰一人殺した事なんてない。
ただ、あの日……友達が悪い噂の絶えない不良グループにさらわれて。
俺はそれを助けるために急いで不良グループのアジトになっていた廃倉庫に乗り込んで。
そうしたら、中で友達も不良グループも全員死んでいた。
自分でも荒唐無稽過ぎて何言ってんだとは思うし、信じられない気持ちもわかる。
だけどそれが現実なんだからしょうがない。
だけど、いくら訴えてもなぜだか俺が犯人にされて警察に捕まって……あっという間に俺は三十人を殺した凶悪犯。
そしてついこの間、死刑が確定して。
後はいつ執行されるかもわからない死刑に怯える殺人鬼……それが今の俺の立場だった。
もちろん俺だって素直にそれを受け入れたわけじゃない。
きっと届くと信じて冤罪を訴えた、違うんだって叫び続けた。
だけど俺のその心の底からの叫びを……誰一人信じてくれなかった。
やる気のない弁護士には面と向かって無駄だから諦めろって言われて。
少し前まで一緒に笑っていた友達だったはずの皆には、死んだあいつを返せって罵倒されて。
俺を育ててきてくれた親には……産むんじゃなかったって、言われた。
俺は人殺しじゃないのに。
冤罪だったのに。
どうして誰も信じてくれないんだって思えたのは、最初の頃だけ。
もう怒りも悲しみもない……何もかもどうでもよくなった所で、俺は希望ヶ峰学園にスカウトされたんだ。
皮肉にもこうして殺人鬼としてスカウトされた事で、その間は死刑執行をされずに済んだって事。
ちょっとしたロスタイム……最もそれを喜べるような環境に俺はいなかったけどな。
「ほら、さっさと行くぞ。抵抗したら射殺していいらしいから変な動きはするなよ」
警官の言葉を聞き流しながら、俺は最近考えていた事を思い浮かべる。
どの道、このままならどこに行ったって俺を信用してくれる人なんていない。
だけど、個性的な面子が多いらしい希望ヶ峰学園なら……もしかしたら。
――俺を、信じてくれる人がいるんじゃないか?
だから俺はここに来た。
誰でもいい、俺を信用してくれる人を、俺が死刑を執行された時に少しだけでいいからそれを悲しんでくれるような人を探しに。
せめて……最期にそれぐらいの希望を抱くぐらい、許されるだろ?
「……」
警官に連れられて、校門に向かう。
朝早いから校門周りに誰もいないのだけは助かった……罵倒も石も、もうたくさんだからな。
「……」
もう一度希望ヶ峰学園を見上げる。
学校で習った【あの事件】で滅んで、復活した学園。
俺はその時産まれてなかったから知らないけど、その事件……【人類史上最大最悪の絶望的事件】のあった時代はとても絶望的な時代だったって聞く。
だけどそれは過去の話で、今はもうそんな面影はない。
そんな学園ならきっと、俺も……俺だって……
俺は学園に向かって歩を進める。
それは俺にとって希望を探す第一歩。
そして……
「あ、れ……なんか景色が……」
絶望へと進む、第一歩だった。