特急ロンパ―冤罪の殺人鬼とコロシアイ特急列車―   作:ノドクル

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謎多き列車と十六人の乗客

       PROLOGUE

 

    【絶望列車出発進行!】

 

 

「…………」

 

 暗い、何も見えない。

 

 いったい俺はどうしてしまったんだろう?

 

 何か大切な事が抜け落ちたような、そんな喪失感。

 

 駄目だ、このままそれを喪うのは、それだけは――

 

ユサユサ

 

 そんな焦る俺を誰かが揺さぶってる。

 

 その揺さぶりに合わせて、俺の意識はゆっくり覚醒していって――

 

 

※※※※

 

 

「……ん、うっ?」

 

 あ、れ?

 

 

「ここ、どこだ?」

 

 俺は確か希望ヶ峰学園に来てたはずだ、そこで確か……目が回って、どうなったんだ?

 

 それに手に、手錠がかけられてない……目が回る前は確かにあったはずなのに。

 

「よかった、目を覚ましたんだね!」

 

「……やっと起きたわね」

 

「えっ」

 

 知らない場所、外れた手錠……わけのわからない状況に混乱する俺の耳に二つの声が聴こえてくる。

 

 そちらに視線を向けると、二人の女の子がそれぞれ近くと遠くにいた。

 

 どうやら俺を揺さぶってたのは近くにいた方の子みたいだな。

 

 

 上下紺のパンツスタイルにグレーの上着を羽織って、肩にかかった髪を後ろに流すその子はまだ少し心配そうに俺を見つめている。

 

 あれ?この子どこかで見覚えが……

 

「大丈夫?気分悪いとかない?」

 

「あ、ああ、大丈夫。えっと、君は……」

 

「あっ、怪しい者ってわけじゃないんだ。ぼくは下田慧。演劇の世界だとちょっとばかり名を知られてるつもりなんだけど」

 

 

〔下田 慧〕

〔シモダ ケイ〕

 

〔超高校級の演劇部〕

 

 

 下田慧。

 

 確かプロにも匹敵、もしかしたらそれ以上の演技をする〔超高校級の演劇部〕。

 

 中性的な容姿と華奢な身体で女性役も軽々こなしてしまう演劇界の新星。

 

 見覚えがあるはずだ、だって俺は一回だけその舞台を見た事があるんだから。

 

 あの時やってた役も凄くて衝撃を受けたのを思い出す。

 

 そういえば、今さっきまで女の子だと思ってたけど下田慧って……

 

「男だったような……あっ、悪い!変な事言った!」

 

「あはは、いいよいいよ。女の子役もよくやるし周りから時々性別忘れるとか言われるしね」

 

 それは、笑って話すような事なのか?

 

「でも目を覚ましてよかったよ。あのまま目を覚まさなかったらどうしようかと思ってたからね」

 

「心配かけたみたいだな……あっ、俺の名前、は」

 

 名乗り返そうとして、急に喉に物が詰まったみたいに声が出なくなる。

 

 俺も彼みたいに名前を知られてる……だけどそれはいい意味じゃない。

 

 今はこうして心配してくれてる下田慧も俺の名前を聞いたら、きっと手のひらを返したような態度になるんじゃないか?

 

 そんな事ないなんて言えるほど俺は下田慧って人間を知らない。

 

 いや、たとえ知ってても親や友達が全員信じてくれなかったのに、言えるわけないじゃないか。

 

 そんな事が頭に引っ掛かってただ名前を言うそれだけの事が、出来ない。

 

「どうしたの?」

 

「あっ、いや……」

 

 だからってこのまま名前を言わないでいるなんて出来るはずもなくて。

 

 偽名を使う事も考えたけど、それが出来るほど演技に自信もない。

 

「俺の名前は、皐月翼って言うんだ」

 

 だから俺には、正直に名乗るしか選択肢はなかった。

 

「皐月翼……」

 

 心臓が高鳴る。

 

 いったいどんな反応が返ってくるんだ?

 

 そんな俺の頭が痛くなるような時間は……

 

「いい名前だね!言いにくそうだったから、とんでもない名前がくると思ってたよ!」

 

 そんな言葉と笑みで終わりを告げた。

 

「あっ、えっ……」

 

「とにかくよろしくね皐月くん!ああ、ぼくの事は呼び捨てでいいから!」

 

「あ、ああ、よろしく下田」

 

 手を差し出してきた下田と戸惑いながら握手を交わす。

 

 下田は……俺を、知らないのか?

 

「ちなみに、下田ってニュースとか見るか?」

 

「ニュース?稽古に忙しくてあんまり見ないかな?」

 

「そう、か」

 

 下田は超高校級らしく忙しい日々を送っているからこそ、俺を知らなかったって事か……

 

「もういいかしら、それじゃあね」

 

 少し安堵しながら下田と握手していると、もう一人の女の子が出ていこうとする。

 

 向こうは、なんだか興味もないって感じだな。

 

「えっ、ちょっと待って笹山さん!?」

 

「何?私興味がない事に割く時間はないんだけど」

 

「きょ、興味がないって……」

 

 どうやら当たっていたらしい……冷たい目をした彼女に下田も何を言ったらいいのかわからないみたいだ。

 

 よし、ここは俺が……

 

「あの、とりあえず名前くらいは教えてくれてもいいんじゃないか?」

 

「……はあ」

 

 めんどくさいと言わんばかりのため息……それでもこっちに身体を向けてくれたから、自己紹介はしてくれる、のか?

 

「笹山ミチル。ダンサーよ」

 

 

〔笹山 ミチル〕

〔ササヤマ ミチル〕

 

〔超高校級のダンサー〕

 

 

 笹山ミチル。

 

 海外を拠点に活動している〔超高校級のダンサー〕。

 

 その踊りは華麗にして妖艶。

 

 彼女のダンスは見てる者全てを魅了するって、前にテレビでやってたな。

 

 彼女は、どうなんだろう。

 

 下田との自己紹介は見てたみたいだから、俺の名前も聞いてるはずだけど。

 

「……」

 

 何を考えてるか気になってついつい笹山さんを見てしまう。

 

 それにしても、スタイルいいな……へそ出しファッションのせいか余計際立ってる気がする。

 

「……ちょっと」

 

「さ、皐月くん?」

 

 深めに被ったキャップから覗く顔もちょっと冷たい感じはあるけど、美人だし……

 

「…………」

 

「……………………ちょっと」

 

「皐月くん、ちょっとジロジロ見すぎだって!」

 

「はっ!?」

 

 しまった、初対面の女の子をジロジロと見るなんて変態じゃないか!?

 

 失敗した……ただでさえ俺は爆弾を抱えてるっていうのに。

 

「あ、あのごめ」

 

 だけど慌てて謝ろうとした俺を遮るように、笹山さんは俺に近寄ってくる。

 

 ど、どうしたんだ?

 

「……いいわ」

 

「笹山、さん?」

 

「探索なんて興味がないから残ったけれど、正解だった。こんなにも熱烈な視線を浴びるなんて、久しぶり……」

 

「ああ、身体が火照ってきたわ……!」

 

 な、何だこの展開。

 

 そういえばネットで、笹山ミチルはとんでもない享楽主義者だって聞いたような。

 

 確か視線に異常なまでに興奮と快楽を覚えて、それを追求するためにダンサーになったとか、なんとか……

 

「噂、本当だったみたいだね」

 

 そう耳打ちしてくる下田に俺は頷くしかなかった。

 

 

「……あなた、確か皐月と言ったわね。毎日一時間あの視線を私に浴びせるなら付き人にしてあげてもいいわ」

 

「え、遠慮しておく……」

 

「そう……興味がある内はあなたの事は覚えておいてあげるわ」

 

 どうやら俺は笹山さんのお眼鏡にかなったらしい……まあ嫌われるよりはいいよな、うん。

 

「よかったね、皐月くん」

 

「ところであなたは誰だったかしら」

 

「あっ、下田と笹山さんはまだ自己紹介してなかったのか」

 

「……」

 

 なんだ、下田がすごく肩を落としてるぞ?

 

「さっき、自己紹介したんだけどなぁ……」

 

「そうだったかしら」

 

 下田……ドンマイ。

 

 

「あ、あはは……ところで二人に聞きたい事があるんだけど」

 

「なにかな?」

 

「何?」

 

「ここどこなんだ?希望ヶ峰学園の中って感じは……しないんだけど」

 

「さあ?興味がないから知らないわね」

 

 どうも笹山さんは、興味がない事にはとことん無関心みたいだ。

 

 さっき探索がめんどくさいみたいな事も言ってたしな……

 

「それなんだけど、ぼく達も皐月くんと同じように気がついたらここにいたんだよね」

 

「そうなのか?」

 

「うん。だからぼくと笹山さんが皐月くんの目が覚めるのを待つ事にして他の十三人が探索に行ってるよ……ちなみにその人達も〔超高校級〕みたい」

 

 十三人もいるのか……俺達三人合わせて十六人。

 

 それだけの人数が、どこかもわからない場所にいるっていうのか?

 

 しかもスカウトされた俺も含めれば全員が〔超高校級〕だなんて。

 

「そろそろ戻ってくるかもしれないわね。私興味がないから代わりに聞いておいて」

 

 笹山さんはソファーに座ると目を閉じてしまった……本当に自由だな彼女。

 

 そこで初めて俺は落ち着いて周りの様子を見る……まるで前にテレビで見た豪華列車のサロンって感じだ。

 

「列車のサロンみたいだなって思った?」

 

「もしかして下田も?」

 

「うん、だからぼく達が今いるのは列車なんじゃないかって話も皐月くんが起きる前にしてたんだよ」

 

 列車の中?

 

 なんで俺、学園じゃなくてそんな所にいるんだ?

 

「おっ、どうやら目が覚めた感じ?」

 

「あっ、おかえりみんな」

 

 俺が困惑していると扉がガラッと開き、人がたくさん入ってくる。

 

 男子が五人、女子が八人か。

 

「おや、笹山さんは?」

 

「寝てるにゃあ……」

 

「全くしかたないなぁ、氷の女王は……」

 

 眠ってる笹山さんに呆れたような空気が漂う。

 

 俺が目を覚ます前にも、自由人っぷりを発揮してたなこれ。

 

「みんな、彼は皐月翼くん。探索結果の前にぼくと笹山さんは済ませたからみんなも自己紹介をしてあげてくれないかな?」

 

「またすんのかよ……めんどくせえ」

 

「でもその方がいい……現在の人物把握も大事」

 

 どうやら皆も自己紹介してくれる事になったみたいだ……下田って結構引っ張るのが上手いタイプなのか?

 

 そんな事を考えながら笑顔の下田に背中を押されて、俺は集団の方に歩いていった。

 

 名前を下田に言われたからか、さっきみたいな感覚はない。

 

 それにもしかしたら……ここにいるのが全員〔超高校級〕なら下田や笹山さんみたいに、俺を知らないかもしれない。

 

 そんな願望にも似た考えが、俺の中にはあった。

 

 

「ちょっとこっちこっちー」

 

 誰から話そうかと考えてると呼ばれたのでそっちに向かう。

 

 呼んでいたのは最初に入ってきて俺が目を覚ましたのを確認していた人だった。

 

 肩にかけた大きなケース、パンク系のファッション、長い黒髪のツインテールが特徴的なその人は上から下まで俺を見るとニッと人懐っこい笑みを見せる。

 

「体調は悪くないみたいで良かった良かった」

 

「えっと、心配してくれてありがとう」

 

 冤罪かけられてから、こんな風に心配してくれた人いなかったからなぁ……さっきの下田といい正直感無量だ。

 

 

「ハハッ、そんなにお礼言われたら気恥ずかしいっしょ……っと自己紹介だったね」

 

「あたしは平野夢!フリーのベーシストやってんで、よろしくー!」

 

 

〔平野 夢〕

〔ヒラノ ユメ〕

 

〔超高校級のベーシスト〕

 

 

「皐月翼です。よろしく平野さん」

 

「かったいなー、もっと気楽でいいよ翼!」

 

 平野夢。

 

 色んなグループから誘われてはベースを弾いてる〔超高校級のベーシスト〕。

 

 彼女の演奏は一人だけでも凄いけど、グループで一緒にやるのが好きだからって基本的に一人での演奏はしないらしい。

 

 面倒見がいいから慕ってるミュージシャンも多いって聞いたな。

 

「んー、よし決めた!翼、あたしの事は夢って呼んでくれていいから!」

 

「えぇっ!?」

 

 い、いくらなんでも急に距離を縮めすぎじゃないか?

 

「だからさ、そんな辛そうな顔するぐらいなら甘えてきなよ?」

 

 平野さんのその言葉が、戸惑っていた心に突き刺さる。

 

 だって、そんな事言われたのは……本当にいつ以来、だったかも覚えてないぐらいだったから。

 

「まっ、そういう事だから!」

 

「……ありがとう、ございますっ」

 

「だから気恥ずかしいってばー!」

 

 照れ臭そうにツインテールを弄る平野さんに、俺はスカウトを受けてよかったって思える気がした。

 

 

「ほら翼、次はあの子にしなよ!和音ー!」

 

 次は誰と話そうか……そうして周りを見る俺の前に、平野さんが女の子を連れてくる。

 

 黒っぽい服に帽子……これは、車掌の服だ。

 

 ここがもし列車なら何か知っているかもしれない……後は若い二人になんて言って平野さんは行っちゃったし、とりあえず話しかけよう。

 

「あの、車掌さん?」

 

「えっ、あっ、はい!」

 

「聞きたい事もあるけど、とりあえず自己紹介いいかな」

 

「は、はい!」

 

「俺は皐月翼、よろしく」

 

「じ、自分は岩崎和音!車掌、やってますです!」

 

 

〔岩崎 和音〕

〔イワサキ カズネ〕

 

〔超高校級の車掌〕

 

 

 岩崎和音。

 

 確か、現役高校生で新幹線の車掌をしてる〔超高校級の車掌〕だったよな。

 

 彼女が車掌をすると乗客が増えるわ、事故やトラブルは全くないわで鉄道会社からは救世主みたいな扱いらしい。

 

 しかも運転だって出来るとか……まさに超高校級だな。

 

「それで、ここってもしかして……」

 

「列車だと、思います」

 

「思いますって、岩崎さんが車掌じゃないのか?」

 

「ち、違います!何度も言いますが、自分は乗客のみなさまの知らない間に列車に乗せるような事はしません!」

 

「わ、わかった!わかったからちょっと落ち着いてくれ!」

 

「あっ、すみません……でもこんな事になって自分も本当に戸惑ってるんです」

 

 目を伏せる岩崎さんが嘘を言っているようには見えない。

 

 どうやら、岩崎さんも知らない間にこの電車に乗せられたみたいだな。

 

 まあ、そもそもこの疑問は他の人も当然抱いたはずだしな……何度もって言ってたしこうして聞かれたのも一度や二度じゃないんだろう。

 

 だとしたら、少し悪い事しちゃったかもな……

 

 

「うっ、ぐすっ、うううっ……!」

 

 ……泣き声?

 

 まさか岩崎さんを泣かせてしまったのかと彼女の方を見てみたけど、向こうもこの泣き声に戸惑ってるみたいだ。

 

 岩崎さんと別れてその出所を探ってみると、隅で赤いベストを着た小学生ぐらいの子供が泣いているのが見える。

 

 おいおい、こんな小さな子供までここにいるのか……

 

「だ、大丈夫か?ほら、ハンカチあるから涙拭いて……」

 

「うるさぁい!!泣いてなんかいない!!」

 

 大きな怒鳴り声と一緒に手を弾かれる……というか、泣いてないって嘘だろ。

 

 現に今だって、ポロポロ涙溢してるじゃないか。

 

「なんだよその目はぁ!この安田順様が泣くわけないだろぉ!!」

 

 

〔安田 順〕

〔ヤスダ ジュン〕

 

〔超高校級の監督〕

 

 

「なんだよ、なんなんだよぉ!!うわあああああんっ!!」

 

 安田順。

 

 監督業をやらせたら右に出る者はいないって言われてる超高校級の監督、だったよな。

 

 スポーツチームの監督、映画やドラマの監督……普通なら両立なんて無理だろう事も出来てしまう天才。

 

 って、高校生だったのか!?

 

 そういえば下田がここにいるのは全員〔超高校級〕、つまり高校生だって言ってたのを忘れてた。

 

 危ない危ない、完全に小学生だと勘違いしてたぞ……

 

「……おい、お前」

 

「えっ」

 

「改めて名乗るぐらいしたらどうなんだよ。まさかボクには言う必要がないって言うのか!?僕を子供だと思ってるな!?そうなんだろう!!うわあああああんっ!なんなんだよぉ、どいつもこいつも馬鹿にしてさぁ!」

 

 口を挟む事も出来ない、泣き声と怒鳴り声の混ざりあった叫び。

 

 確か安田って感情の起伏が激しくてすぐ怒鳴り散らすって噂だったけど……こ、この様子からして当たってるみたいだな。

 

 今でこれなんだから小学生だと勘違いしてたのがバレた時はどうなるのか、正直想像したくない。

 

 と、とにかく泣き止ませないと!

 

「ち、違うって!俺は皐月翼!ほら、名前言ったぞ安田!」

 

「……ぐすっ、言われる前にさっさとすればいいんだよのろま!」

 

 こ、こいつ……天才だか知らないけど腹が立つな……

 

 

「ぐっ、ぐぉぉ……」

 

「なっ」

 

 安田から逃げるように離れると、うずくまってる男がいた。

 

 もしかして、何かあったのか!?

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 

「だ、大丈夫だ……ただ、少し……」

 

「少し?」

 

「おなごの香りに反応しただけだ……!」

 

「……は?」

 

 おなごって、女子の事だよな?

 

 女子の香りに反応って……えぇ?

 

「ふっ、ふふっ、さすがだ希望ヶ峰学園……鍛錬したこの吾【われ】ですら反応するおなご揃いとは!」

 

「しかし負けぬ!この石原カイはこのような……このような誘惑には屈さぬぞぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

〔石原 カイ〕

〔イシハラ カイ〕

 

〔超高校級の卓球選手〕

 

 

 石原カイ。

 

 卓球で相手に全くポイントを許さずに全国を連覇した〔超高校級の卓球選手〕。

 

 他にも色々優れてるって噂の天才アスリートだって聞いたけど……まさか、こんな変態だったなんて。

 

「うむっ!少しは落ち着いたようだ……世話をかけたな!お主の名はなんと言うのだ?」

 

「えっと、俺は皐月翼。よろしく石原」

 

「皐月殿か!うむっ、よろしく頼むぞ!」

 

 ま、まあさっきのを見なかった事にすればフレンドリーそうだし、仲良くなれそうだな!

 

「にゃーん!何話してるの?」

 

「なっ、ぐぉぉ……!」

 

 だ、大丈夫だよな?

 

「にゃ、にゃあ?大丈夫?」

 

「うぐおおっ!?」

 

 石原にばかり気を取られて気づかなかったけどあの子の頭に着いてるあれは……ね、猫耳?

 

 

 しかも動いてる……どんな仕組みなんだ?

 

「あ、あのさ、石原はちょっと取り込み中だから、俺と自己紹介いいかな?」

 

「あっ、いいよぉ。えっとねぇ、ミーちゃんは、美影団居って言うんだにゃん♪」

 

 

〔美影 団居〕

〔ミカゲ マドイ〕

 

〔超高校級の放送委員〕

 

 

 美影団居。

 

 不良校をその放送だけで全国屈指の優秀校にした〔超高校級の放送委員〕。

 

 いったいどんな人なのかとは思ったけど、こんな感じの子だったなんてな。

 

「俺は皐月翼。よろしく美影さん」

 

「はーい♪よろしくにゃん翼ちゃん♪」

 

「つ、翼ちゃん……ところでその猫耳って……」

 

「ミーちゃんは猫ちゃんの化身だから♪耳も当然猫ちゃんの耳だにゃあ♪」

 

 全く躊躇う事もなく、そう言い切る美影さん……もしかして、そういうキャラなのか。

 

 普段から徹底してるのは、プロ意識ってやつなのかそれとも……

 

「にゃ?どうしたにゃ、翼ちゃん?」

 

「い、いや、なんでもないよ」

 

 どちらにしろ個性的なのは間違いないな……さすが希望ヶ峰学園。

 

 

 もう少し石原の様子を見ているらしい美影さんと別れる。

 

 さっきの石原の様子に少し不安はあるけどな……

 

「ちょっといいかな」

 

 石原達を気にしているとスーツっぽいブレザーを着た女の子に声をかけられる。

 

 興味深そうに俺を見ている彼女の目に、何か探られているようで落ち着かない。

 

「私は神崎真夏だよ、よろしく」

 

 

〔神崎 真夏〕

〔カンザキ マナツ〕

 

〔超高校級の心理カウンセラー〕

 

 

 神崎真夏。

 

 現役高校生で既に何人ものカウンセリングを行ってきた〔超高校級の心理カウンセラー〕。

 

 そういえば、刑務所にいる時に時々彼女の名前を聞いた事があったな。

 

「一応カウンセラーなんてやってるから、何かあったらいつでも相談していいよ」

 

「あ、ありがとう」

 

「最も、君のした事がなくなるわけじゃないけどね、皐月翼君?」

 

「……!」

 

 細められた目と最初とは違う声に金縛りにあったみたいに身体が動かなくなる。

 

 それは、今までの皆が俺を知らない様子だったから油断してたせいなのか……全員が知らないなんてあるはずないのに。

 

「あれ、どうしたの?名前が知られててビックリしたなら、私は警察にもよく行くから知ってて不思議じゃないよ」

 

 神崎さんの言葉には敵意があるわけじゃない、かといって友好的でもない。

 

 ただただ、淡々としたその言葉には何か言い様のない何かを感じさせられて。

 

「まあ、君は有名人だからむしろ全然知らないって感じの他の皆がおかしい気もするけど」

 

 俺が有名人……下田に話しかける前に考えた事。

 

 神崎さんが言ってるのも、当然いい意味ではないんだろうな……

 

「でも人は見かけによらないって、本当に正しい言葉だね。君、殺人鬼には見えないもん」

 

 その言葉に俺は殺人鬼じゃないと叫びそうになって、だけどどうせ信じてもらえるわけがないって諦めが結局何も言えなくさせる。

 

 そんな俺を少しの間見つめて、神崎さんは言い回るつもりはないとだけ言って立ち去っていった。

 

「…………」

 

 大丈夫、わかってた事なんだ。

 

 面と向かって罵倒されたりしないだけ、全然ましだ……それに言い回るつもりはないなんてありがたいじゃないか。

 

 大丈夫、大丈夫。

 

 

「……皐月翼君ね。まだ要観察かな」

 

 

 よし、少し落ち着いた。

 

 改めて誰かに話しかけよう。

 

「……んっ?」

 

 巫女装束を着た子が辺りを見回して困ってるな……とりあえず今度はあの子に声をかけてみようか。

 

「あの、大丈夫か?」

 

「あっ、はい……ありがとうございます」

 

「俺は皐月翼。君は?」

 

「霧ヶ島司と申します……よろしくお願いいたします皐月様」

 

 

〔霧ヶ島 司〕

〔キリガシマ ツカサ〕

 

〔超高校級の巫女〕

 

 

「えっと、見た限りだと巫女さん……なのかな?」

 

「はい。巫女としてお仕えしています」

 

 やっぱり見た目通りってわけか。

 

「霧ヶ島さんは〔超高校級の巫女〕だったりするのか?」

 

「はい、そうですよ。わたしは〔超高校級の巫女〕として村から出てきました」

 

 〔超高校級の巫女〕か……でも巫女の〔超高校級〕ってどういう事なんだ?

 

「あのさ、〔超高校級の巫女〕ってどんな事をしてるんだ?」

 

「そうですね、わたしは代々村に伝わる神様にお仕えしている一族の出身なのですが……」

 

 なるほど、つまり家柄って事になるの、か?

 

「ちなみにわたしがお仕えしている神について少々お話させていただきますと……一族に伝わる書によりますとわたし達の一族が神に仕えるきっかけとなったのは千五百年ほど前に遡ります」

 

 ……んっ?

 

「その当時村では飢饉と流行り病が同時に訪れ、滅亡一歩手前だったそうです。そこで当時の一族代表……わたしのご先祖様ですが、村の外れにおられると語られていた神に祈りを捧げるために」

 

「き、霧ヶ島さん?」

 

 

「……あっ、すみません。わたし〔超高校級の巫女〕として、つい神の良さを知っていただこうとしてしまいまして……」

 

 話を始めてしまったと。

 

 職務熱心って事なんだろうけど……ちょっと自分の世界に入り込んじゃうタイプなのかもな。

 

「ま、まあ、今度聞くからさ」

 

「はい!その時はよろしくお願いいたしますね!それではわたしはこれで」

 

 満面の笑みを浮かべて去っていく霧ヶ島さんに、今度は本当に聞かないといけないなと俺は思った。

 

 あの喜びよう見てると聞かないっていうのは、ちょっと罪悪感がな……

 

 

 

 次は誰に話しかけようか……なんて考えていると俺を見ていたのかカーディガンを羽織った女の子と目が合う。

 

 ちょうどいい、次は彼女にするか。

 

「えっと、ちょっといいか?」

 

「……えぇ」

 

「俺は皐月翼。君は?」

 

「物述かぐら……しがない小説家」

 

 

〔物述 かぐら〕

〔モノノベ カグラ〕

 

〔超高校級の小説作家〕

 

 物述かぐら。

 

 今まで出した本は五十以上、しかも必ずベストセラーになっている〔超高校級の小説作家〕。

 

 特にデビュー作【希望の花束】は今でもランキングに載るほどの大ベストセラーだ。

 

 俺の周りにもファンは数多くいて、そういえばあの事件で殺されたアイツは、人一倍彼女の小説が好きだったな……

 

「どうしたの?」

 

「あ、ああ、いや……友達に物述さんの大ファンがいてさ、思い出してた」

 

「……そう、なの」

 

「…………」

 

 なんだか、気まずい空気にしちゃったな……話題を変えよう。

 

「……まるで小説」

 

 それは物述さんも同じだったらしい、絞り出されたような彼女の言葉に俺は乗る事にした。

 

「今の状況がって事?」

 

「そう、そしてだいたいこの後起きる展開は……杞憂で済めばいいんだけど」

 

 杞憂?

 

 物述さんはこの後に起きる事をなんとなく予想してるのか?

 

 いや……正直に言えば、俺も頭のどこかで何かを思い浮かべている。

 

 だけどそれはモヤモヤしたままつかみ所がなくて、でもはっきりさせると……何か良くない事が起きる気がして。

 

 結局俺も物述さんもその正体をはっきりと口にはしなかった。

 

 

 モヤモヤした物を抱えたまま、次に話す相手を探す。

 

 すると頭に帽子を被った鋭い雰囲気の男がいて、俺は背中を向けているその男に……

 

「……動くんじゃねえ」

 

 近付く前に手のひらを向けて制止させられた。

 

「クロード・イーストウッド。この名前を知ってるなら、それ以上背中に近付いたら死ぬと理解しな」

 

 

〔クロード・イーストウッド〕

 

〔超高校級のガンマン〕

 

 

クロード・イーストウッド。

 

銃を使わせたら世界一と言われてる〔超高校級のガンマン〕。

 

射撃に関しては普通の射撃から狙撃まで何でもござれ……大統領暗殺を企んだ狙撃手の腕を撃ち抜いた事もあるらしい。

 

「え、えっと、俺は皐月翼。よろしくイースト」

 

「クロードでいい。長くてイライラすんだよその名前」

 

「わ、わかったよクロード」

 

 俺に振り返ったクロードは眉をつり上げていて、いかにも不機嫌だといった感じだ。

 

 まあ、いきなりこんな所に連れてこられたんだ……無理もないよな。

 

「しっかしなんなんだ、この状況は?オレが気付かない間にこんな場所に連れてこられたとかよ……ありえねえ」

 

「言われてみると、確かにおかしいよな」

 

 超高校級のガンマンが知らない間に列車にだなんて。

 

 しかもクロードはさっきみたいに後ろから近付こうとしただけで、反応した。

 

 そんな相手をどうやってここに連れてきたんだ?

 

「……キナ臭え」

 

 

 ポツリとこぼされたその呟きは、もしかしたらその場の誰もが思っていた事なのかもしれない。

 

 

パシャッ!

 

「うわっ!?」

 

 黙り込んだクロードから離れて次に話す相手を探していると、いきなり目の前が光る。

 

 これは、カメラのフラッシュ?

 

「うん、なかなかいい写真が撮れましたね」

 

 上機嫌といった感じの声をあげてカメラを弄っているのは、髪を後ろで結んだ女の子。

 

 だけどなんだ、この視線……すごく、胸が締め付けられるような。

 

「あっ、ボクは墨染優里です」

 

 

〔墨染 優里〕

〔スミゾメ ユウリ〕

 

〔超高校級の新聞部〕

 

 

 墨染優里。

 

 高校生でありながら数々のスクープを報道してきた〔超高校級の新聞部〕。

 

 当然ながら敵も多いけど、政財界も弱みを握られて彼女には手出し出来ないらしい。

 

「あっ、俺は……」

 

「いらないです。知ってるんで」

 

 えっ?

 

「皐月翼。サラリーマンの父親と専業主婦の母親の間に産まれた17歳」

 

「好きなものは鮭のおにぎり。嫌いなものはイクラ」

 

「特技は特になし、趣味は友達とする事なら何でも趣味にする」

 

「そして」

 

「三十人を残虐な方法で皆殺しにした凶悪殺人鬼ですよね♪」

 

 ニヤニヤ笑って再びカメラを向けてくる墨染さん……ああ、わかった。

 

 彼女の視線から感じていたこの胸が締め付けられるような感じは、俺を取り囲んだマスコミのあの無遠慮な、人を獲物みたいに食らい尽くそうとする視線から感じたのと同じ物。

 

 緊張、恐怖……そして不快感。

 

「いやー、ありがとうございます。リアルの写真が欲しかったんですよ!報道するには顔写真もしっかりないといけませんから」

 

「報、道……?」

 

 何を、言ってるんだこいつ……?

 

 俺は、もう既に散々報道されて……

 

「ニュースだとせいぜい名前だけでしょう?だからここから帰ったらボクがあなたの顔写真付きで、家族構成から好きな人まで全て丸裸な記事を書くんです♪」

 

「なに、言って……」

 

「あっ、安心してください!先人達にインパクトで負けないように殺害人数は増やしておきますから!とりあえず五十以上は鉄板ですかね?」

 

「あっ、今度どんな風に殺したか一人ずつ取材しますね♪その時は心境もしっかりお願いしますよ!」

 

 まるで人の事なんて考えてない、人の心をグシャグシャにするような言動。

 

 情けない事に、俺はそんな墨染さ……墨染の態度に冷静ではいられなくて。

 

「ふざ、けっ……る、なよっ!?なんで俺がそんな!」

 

「キャー怖い怖い!図星を突かれて殺人鬼逆ギレ!記者を恫喝!ふふん、ネタには困りませんね♪あなたは」

 

 笑って逃げていく墨染にムカつきが抑えられない。

 

 なんなんだ、なんなんだよあいつは!

 

 今まで色んなマスコミを見てきた、だけど全部あいつよりはましだった!

 

 墨染優里……あいつだけはどうあがいたって仲良くなれない、したくもない!

 

 

「……」

 

 墨染のせいで荒れた心を必死に、落ち着かせる。

 

 大丈夫、大丈夫……俺は大丈夫だ。

 

 あんな事で心を乱すな、俺は信じてくれる人を、悲しんでくれる人を見つけるんだろう?

 

 大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫……俺は、大丈夫……

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 

 大丈夫だと言い聞かせる俺を見かねたのか、誰かが声をかけてくる。

 

 顔を上げると、セーラー服を着た女の子が心配そうに俺を見ていた。

 

「あ、ああ……俺は、大丈夫。心配かけてごめん」

 

「い、いえ、大丈夫だったらいいんですけど……」

 

 どこかぎこちなく会話が途切れて沈黙が俺と彼女を包む。

 

 どう、すればいいんだこの空気……

 

「あ、あの、自己紹介しましょう、か?」

 

 お互い沈黙に耐えられなくなってきたころ、女の子の方が手を叩いてそう問いかけてくる。

 

 それを断る理由もない……俺はその彼女の言葉に甘える事にした。

 

「あ、ああ、そうしようか。俺は皐月翼」

 

「た、立木亜里沙です、よろしくお願いしますね」

 

 

〔立木 亜里沙〕

〔タチキ アリサ〕

 

〔超高校級の読書家〕

 

 

「……ふふっ」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、なんだか変な自己紹介になっちゃったなって」

 

 正直それは俺も思ってた。

 

 俺も立木さんも普通に名乗ればいいだけなのにな。

 

「でもよかった……皐月君がいて」

 

「えっ?」

 

 いてよかった?俺が?

 

「あの、私〔超高校級の読書家〕なんて呼ばれてるんですけど、他の皆さんも同じ〔超高校級〕でさらに個性的で少し圧倒されちゃって。普通にお話出来る人がいないかなって思ってたんです」

 

「皐月君なら普通に本のお話が出来そうで……そういう人がいてくれたのが嬉しかったんです」

 

 俺がいて、嬉しい……は、はは、そんな風に言われるとは、思わなかった、な。

 

「あ、ありがとう」

 

「お礼なんていいですよ。その代わり仲良くしてくださいね皐月君」

 

「こちらこそ、立木さん」

 

 多分短い付き合いに、なるだろうけど。

 

 そんなふとよぎった考えは、喜ぶ立木さんには到底言えなかった。

 

 

「う、ぐうっ……!」

 

「きゃあっ!?」

 

 立木さんの悲鳴、どうやら倒れていた誰かを踏んでしまったらしい。

 

 その誰か……モジャモジャした髪の男は相当痛かったのか倒れたまま呻いている。

 

 だ、大丈夫……じゃないよなこれ?

 

「り、陸海君ごめんなさい!大丈夫ですか!?」

 

「痛え、痛えよぉ……あ、頭……さっき壁に打ち付けすぎたぁ……」

 

 立木さんに踏まれたのが痛かったわけじゃないのか……って頭を壁に打ち付けた!?

 

「な、なんでそんな事をしたんだ!?」

 

「だ、だってそうすれば思い出せるかなって思ったんだよぉ……僕の、記憶ぅ……」

 

 

〔陸海 空助〕

〔リクカイ クウスケ〕

 

〔超高校級の???〕

 

 

「記憶って……」

 

「あ、あの皐月君。この人は陸海空助君って言うんですけど……名前以外思い出せないらしいんです」

 

「希望ヶ峰学園にスカウト、されたはずなんだけどさぁ……ううっ」

 

 ただでさえこんな状況なのに、さらに記憶喪失だなんて。

 

 倒れたまま落ち込んでる陸海を見ていると、何と言えばいいのかわからない。

 

 それでも何も言えない人間には、なりたくなかった。

 

「えっと陸海だったよな。俺は皐月翼、困ってる事あったら手伝うから」

 

「わ、私も踏んでしまったお詫びにお手伝いします!」

 

「ありがとうよぉ、皐月っちに立木っちぃ……」

 

 何が出来るかまではわからないけど、ほっとけないもんな……

 

 

「ぐえっ!?」

 

「陸海!?」

 

「陸海君!」

 

 とりあえず起こそうとしゃがんだ瞬間、陸海がまた誰かに踏まれたみたいで苦し気な声を漏らす。

 

 陸海を踏んでいたのは眼鏡をかけた切れ長の目の男……何かを言おうとしたけど、その目に気圧されて俺は何も言えなくなる。

 

「……遅い。いつまでも来ないからこちらから来たぞ」

 

「ご、ごめん」

 

 ……いや、なんで謝ってるんだ俺は!?

 

「あ、あの伊方君、陸海君が……」

 

「……何をしている陸海」

 

 何か得体の知れない物を見るかのような視線を向けられる陸海……踏んだり蹴ったりだな。

 

「まあいい、どうやら自己紹介とやらは俺が最後のようだな」

 

「俺は伊方五右衛門……〔超高校級の希望〕に最も近い男だ」

 

 

〔伊方 五右衛門〕

〔イカタ ゴエモン〕

 

〔超高校級の幸運〕

 

 

「お、俺は皐月翼。よろしくな伊方」

 

 気圧されたまま名乗ると、伊方の眉が微かに上がる。

 

 もしかして、伊方は……

 

「なるほど、お前があの皐月翼か」

 

 やっぱり、伊方は俺が何者なのか知ってるみたいだ……

 

 立木さんや陸海は何の事だかわからないみたいできょとんとしている。

 

「くくっ、まあお前が何者だろうと構わん。しかしお前達は運がいいぞ。〔超高校級の希望〕たるこの俺がいるんだからな」

 

「……さっきから希望がどうのって何の話だ?」

 

「俺は〔超高校級の幸運〕。そう言えばわかるか?」

 

 ちょ、超高校級の幸運だって……!?

 

 【人類史上最大最悪の絶望的事件】の首謀者を打ち倒した功績から、今の希望ヶ峰学園にとって最高の栄誉とされている才能。

 

 伊方は誰もが憧れるあの〔超高校級の幸運〕だっていうのか?

 

「くっくっくっ、舞台は整ったらしい。楽しみだ……この俺が〔超高校級の希望〕になる瞬間がな」

 

 笑う伊方からは絶対的な自信と誇りが感じられる。

 

 〔超高校級の幸運〕に選ばれたのは、伊達じゃないって事なのか……

 

 

※※※※

 

 

「……んっ、話は終わった?」

 

「今皐月君が、みんなとの自己紹介を終わらせたところだよ笹山さん」

 

「……」

 

 笹山さん、本当に寝てたのか……それとあの様子、まさか下田の名前をまた忘れたんじゃないだろうな?

 

「これからどうしようか……とりあえず探索結果でも報告しあう?」

 

「その前に。あたし、みんなにちょっと聞きたい事があるんだよねー」

 

 神崎さんが提案した探索結果の報告。

 

 それに待ったをかけたのは平野さん……聞きたい事があるらしいけどいったいどうしたんだ?

 

「なんだよヒラノ」

 

「ここにいるみんなってさー、もしかして希望ヶ峰学園第100期生としてスカウトされた感じ?」

 

 平野さんの言葉に皆が顔を見合わせる。

 

 急遽のスカウトだったから俺の他に誰がスカウトされたかまでは知らなかったけど……

 

「は、はい。私は〔超高校級の読書家〕としてスカウトされました」

 

「ミーちゃんも〔超高校級の放送委員〕でスカウトされたにゃ♪」

 

「た、多分そうかなぁ……覚えてないけどぉ……」

 

 その後も皆自分が希望ヶ峰学園第100期生であると口々に肯定していく。

 

 つまりこの人達が……俺の、クラスメイト。

 

「なるほどなるほど。つまりボク達はクラスメイトでなぜかこうして集められたと」

 

 いったいどうしてこんな……いや、待てよ。

 

 これに似た状況を、俺は知ってるはずじゃないか?

 

「……最悪の展開」

 

「えっ?学友の皆様と一緒である事がなぜ悪なのですか?」

 

 それはきっと物述さんが杞憂であってほしいと感じていたもの。

 

 俺も口にしたら現実になりそうで押し込めていたもの。

 

「霧ヶ島、お前は山奥の村で生きてきたから知らないだろうが昔同じような状況があったんだよ」

 

「あう、世間知らずですみません……」

 

「き、霧ヶ島さん、伊方さんも怒っているわけではないのですから泣かないでください」

 

「怒っているが?」

 

「ひぇ!?」

 

「い、伊方さん!」

 

 わざとか素なのかそんなやり取りが行われていても空気は余計重くなる。

 

 きっと皆気付いてるんだ、伊方の言う昔あった似た状況の名前を。

 

「ふん、冗談だ……とにかく昔にもこうして希望ヶ峰学園のクラスが集められた事があった」

 

「もしかして、それって……」

 

「あれ、だよね?」

 

 立木さんや下田はそれでもその名前を口にはしなかったけど……伊方はそのささやかな逃げすら許してはくれず。

 

 そして伊方は口にした。

 

 

 

「【コロシアイ学園生活】」

 

「今も公表こそされてはいないが、映像に残されている絶望的な惨劇の話だ」

 

 【人類史上最大最悪の絶望的事件】……その中でも一際絶望的と言われる事件の名前を。

 

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