特急ロンパ―冤罪の殺人鬼とコロシアイ特急列車―   作:ノドクル

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(非)日常編その二……悪夢と希望と

 俺の周りには何人もの人間……がいた。

 

 顔はモノクマのマスクを着けてて、わからない。

 

 だけど数はわかる、わかってしまう。

 

 三十人……そしてこの廃倉庫は、俺が冤罪をかけられたあの……

 

 マスクを着けた誰かが鉄パイプを振りかぶって襲いかかってくる。

 

 俺は咄嗟にそれを避けて、手に持っていたナイフで……ナイフ!?

 

 ま、待ってくれ、なんでナイフなんか……

 

 俺の困惑をよそに俺の身体はナイフで襲いかかってきた相手の首を切っていた。

 

 俺の顔や身体を濡らす大量の血飛沫、崩れ落ちる相手の身体……もう生きてないのは明白で。

 

 するとフラッシュが光って俺の視界を照らす。

 

 見ればカメラを構えたモノクマがペンで何かを書いていて……

 

 書き終えたモノクマがばらまくのは新聞……【凶悪殺人犯皐月翼!再び犯行!】と書かれた新聞。

 

 う、嘘だ!俺は殺してなんか……という叫びはさっき撮られた写真に否定されて。

 

 その後も心と身体がバラバラになったみたいに、俺は次々とその場にいる人達を殺して、その度にモノクマは写真を撮って新聞をばらまいていく。

 

 嫌だ、やめてくれ、俺はこんな事したくない!

 

 どれだけ叫んでも止まらない、止まらない、止まらない……そして、気付いた時には二十九人の死体が周りに転がっていた。

 

 俺は返り血で真っ赤になりながら怯えた様子の最後の一人に向かって歩いていく。

 

 そして、そのままナイフを心臓に突き立てた。

 

 なんでだ。

 

 俺は殺したくないのに、なんでこんな事したんだ。

 

 なあ、誰か教えて……

 

 ザクッ

 

 激痛、振り返ると……俺が殺したはずの二十九人がナイフを持って立ち上がっている。

 

 ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ、ザクッ

 

 顔、腕、身体、脚。

 

 身体中に突き刺さるナイフ……痛みなんかもう感じない。

 

 残った片目で見ると、最後に殺した三十人目がナイフを持って近寄ってきている。

 

 

 それを見て俺は笑う。

 

 俺はやっぱり誰も殺してなかった!

 

 あはっ、あははははははは――

 

 ザクッ

 

 

 身体中にナイフが突き刺さった、糸で吊られた皐月クンの身体がドサッと倒れます。

 

 それと同時に糸で操られた三十人の死体も倒れ……

 

 倉庫に【殺人鬼皐月翼!狂った末に自殺!】と書かれた新聞が落ちてきます。

 

 それを最初は興味深げに読んでいたモノクマはすぐ興味を失ったのか新聞を丸めて捨てていなくなり。

 

 倉庫には誰もいなくなったとさ。

 

 

※※

 

 

「うわあああああああああっ!?」

 

 な、なんだ今の夢!?

 

 処刑、まさかあれが学級裁判の処刑だっていうのか!?

 

「うぐうっ」

 

 こみ上げてきた嘔吐感に慌ててトイレに入る。

 

 吐いても吐いても、気持ち悪さがこみ上げてきてもう何も出ないのにひたすら吐き続けて。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 それからどれだけ、経っただろう。

 

 ようやく吐き気が消えた頃には、俺はグッタリして何をする気力も湧かなかった。

 

「……」

 

 処刑……つまり俺は、夢の中で誰かを殺したのか?

 

「……うっ、ぐっ」

 

 あり得ない、俺は誰かを殺したりなんてするわけない。

 

 冤罪をかけられてあれだけそういうのが嫌だったんだぞ。

 

「あり得ない、あり得ないんだ……」

 

 だけど時々思いそうになる。

 

 もしかしたら俺は自覚がないだけで本当に殺したんじゃないかって。

 

 今の夢は、俺の本性を反映した未来の姿なのかもしれない。

 

 あり得ないはずの馬鹿げた考えも、今の俺を揺さぶるのに十分過ぎた。

 

 だから俺は何回も言い聞かせる、あり得ないと。

 

「あり得ない、あり得ないあり得ない……」

 

 俺は、殺人鬼なんかじゃ……

 

 ピンポーン

 

 そんな考えを遮るように部屋のチャイムが鳴る。

 

 誰だ、誰が来たんだ?

 

 いや、誰でも、いい。

 

 この際、墨染じゃなければ……一人でいたらおかしくなりそうなんだ……

 

「こんばんは♪」

 

 だけどそんな願いも虚しく、扉の前にいたのは墨染で俺の身体は強張ってしまう。

 

 なん、で、よりによってこいつが……!

 

「おやおや、なんか変な臭いしますね?もしかして吐きました?」

 

 固まった俺を押し退けて部屋に入ってきた墨染は何が気になるのか部屋を見回している。

 

「……何の、用だ」

 

 早く出ていってほしいと匂わせながらそれだけ口にする。

 

 だけどそれが通じてないのか墨染は笑いながら椅子に座った。

 

「言いましたよね?取材するって♪」

 

「……俺には話す事なんてない。そもそも、怖くないのか?俺は隔離した方がいい殺人鬼なんだろ」

 

 隔離しろと言ったかと思えば一人で部屋に来る……何がしたいんだよこいつは。

 

「ご心配なく♪皆さんレストランにいる状態で来ましたから。何かあれば犯人は確定、あなたは処刑ってわけですよ」

 

 殺人鬼なら処刑されたって構わないから殺すとは、考えないのか。

 

 抜けてるのか、舐められてるのか……どちらにしても居座る気満々の墨染を追い出すのが容易じゃないのだけはわかる。

 

「それでは取材させていただきますね」

 

「話す事なんてないって、言ったじゃないか」

 

「そんな勿体ぶらないで教えてくださいよ。人を初めて殺した時の感想とかどんな感じなのかとか、質問はたくさんあるんですから」

 

 そんなものに答えられるはずがない、だって俺は誰も殺してないんだから。

 

 さっきの夢もあって苛立ちがどんどん頭の中を占めていって、俺は無意識の内に机を殴り付けていた。

 

「いいかげんにしてくれ!!話す事はないって言ってるだろう!?」

 

「きゃー、怖い怖い。でも怒鳴ったくらいで怯むと思ってるなら無駄です♪」

 

 ああ、こいつは何を言っても無駄なのか。

 

 だったら、もう取れる選択は一つしかない。

 

「あっ、ちょっとなにするんですか!?まだ取材は」

 

 墨染の腕を掴んで無理矢理立たせると突き飛ばすように部屋の外に追い出す。

 

 その勢いのまま扉を閉めて、俺はベッドに潜り込んだ。

 

 連打されるチャイムの音から逃げたくて耳を塞ぐ。

 

 早く消えろ、あっちに行けと何度も何度も心の中で念じて……どれぐらい経ったかもわからない頃にようやくチャイムの音は消えた。

 

「なんで、こうなるんだよ」

 

 思い出すのは、俺が捕まってすぐ家に大量に来たらしいマスコミの話。

 

 捕まっていた俺はその場にいなかったからわからないけど毎日毎日チャイムを鳴らされて、家族も相当辛かったらしい。

 

 俺が殺人なんかしたからそんな事になった、お前なんか産むんじゃなかったって言われたのは面会の時だったっけな……

 

「くそっ、くそっ、どうして……」

 

 俺が、何をしたって言うんだよ……!

 

 

※※

 

 

 ピンポンパンポーン

 

「ただ今より夜時間となります!」

 

「食堂車には入れませんので気をつけるように」

 

「それじゃあおやすみー……」

 

 モノクマの耳障りなアナウンス……その中にある夜時間って言葉。

 

 記憶にあるルールから同じ単語を引っ張り出した俺は、墨染を追い出してから何時間も経ってる事に初めて気付く。

 

「……もう夜の十時、か」

 

 あれからずっと、眠る事も出来ずにじっとしていた。

 

 外に出たらまたさっきと同じ目に遭うんじゃないかって思うと、怖くて……かといって眠ってまたあんな夢を見るかもしれない。

 

 だから何もせずにただ時間が過ぎるのを待つしかなかったんだ。

 

「……お腹、空いたな」

 

 それでも空腹は訪れる……どうにかするには外に出るしかない。

 

「さすがにもう誰もいないよな」

 

 まだ外に出たくない気持ちを抑えてゆっくりベッドから出た俺は、貨物車にある保存食を取りに部屋を抜け出した。

 

「……?」

 

 部屋を出てすぐ、薄暗い廊下に何かがあるのを見つける。

 

 それは食事と、手紙だった。

 

「誰が……あ」

 

〔墨染さんが謝りたいって言うのを信じて行かせてしまったせいで、皐月くんを傷つけてしまってごめん。

今は誰にも会いたくないだろうし、チャイムを鳴らされるのも嫌だろうから食事を置いていくね。

また明日。

下田慧〕

 

「……下田」

 

 食事の乗ったトレーを持って部屋に戻る。

 

 まだ温かいそれに下田がさっきまでいたのは容易に察する事が出来た。

 

「ありがとう、下田……」

 

 大丈夫、俺はまだ頑張れる……明日はちゃんと食堂車に行こう。

 

 空っぽの胃に食事を流し込みながら、俺はさっきよりも気分が軽くなってるのを強く自覚した。

 

 

【二日目】

 

 ピンポンパンポーン

 

「朝ですよ!」

 

「今日も列車は通常運転だよー!」

 

 

 モノクマのアナウンスと同時に目が覚める。

 

 どうやら悪夢は見ずに済んだみたいだ。

 

「よし、行こう」

 

 昨日決めたんだから、鈍らない内に食堂に行こうと部屋の扉を開ける。

 

「あっ」

 

「あっ」

 

 すると壁に寄りかかっていた下田と、バッチリ目が合った。

 

 下田の部屋は一番食堂車に近かったはず……もしかして、俺を待ってたのか?

 

「皐月くん!昨日は本当にごめん!まさかあんな事になってたなんて思わなくて」

 

 そんな事を考えてると下田が深々と俺に頭を下げてくる。

 

 下田が謝らないといけない事をした訳じゃないのに、なんで謝るんだ?

 

「し、下田のせいじゃないから謝らないでくれ」

 

「いや、せめてぼくが一緒に行くべきだったんだ……チャイム鳴らしてる墨染さんを見つけてようやく察した自分が情けないよ」

 

「本当に下田は悪くないから……ところで、あの後墨染は?」

 

「一応そんな事はしないでって言ってはおいたけど……ごめん、あんまり効いてないと思う」

 

 だよ、なぁ……墨染が言ってわかるような人間とは思えない。

 

 だけどこの状況じゃ墨染を避けるにも限界がある。

 

 どうしたら、いいんだろうな……

 

 

【食堂車】

 

 

「おはよう」

 

 下田と一緒に食堂車に入ると、空気が少し重くなった気がする。

 

 殺人鬼扱いの俺が来たんだから、これぐらいは仕方ないか……

 

「おはよ翼、昨日の事聞いたよ」

 

「墨染には、本当に参った……そういえばその本人は?」

 

 また昨日みたいに来ると思ってたから拍子抜け……というよりそもそも食堂車に墨染の姿がない。

 

 どこに行ったんだあいつ。

 

「あー、優里ねぇ……」

 

「あの子なら部屋にいるよ。心理的に人を追い詰めて悪びれもしないからね。罰としてベッドに縛りつけちゃった」

 

 平野さんが視線を向けた神崎さんは事も無げにそう答える。

 

 ベッドに縛りつけたって……いや、正直助かるけど。

 

 部屋で騒いでる姿が脳裏に浮かんで、少し寒気がしたのは黙っておこう。

 

 

「あ、あんまりやりすぎないでね?」

 

「わかってる。反省さえすればすぐ解くよ……いつになるかわからないけど」

 

 どうも墨染の認識は共通化しつつあるみたいだ……

 

 下田がやりすぎないように言っても、縛りつけた事自体には何も言わないのが答えみたいなものだよな。

 

「あっ、それと皐月君昨日はごめんね。私もちょっとキツい事言っちゃった」

 

「……昨日?」

 

 神崎さんの謝罪に思い返してみても、全く心当たりがない。

 

 彼女、俺に何かを言ったっけ?

 

「……言われた自覚なし、かぁ」

 

「えっ?」

 

「なんでもない!さーて、今日のご飯は何かなー!」

 

 神崎さんが席に向かうのを俺は首を傾げながら見送る。

 

 よくわからないけど、とりあえず俺も座るか。

 

「あの、そういえば美影様はいらしてないんですか?」

 

 俺が席につくと同時に霧ヶ島さんがそんな事を呟く。

 

 そういえばあの特徴的な猫耳を着けた姿がどこにも見当たらない。

 

「立木さんと起こしに行ったけど……彼女はまだ寝てるみたい」

 

「はい、チャイムは鳴らしたんですが全然出てこなくて」

 

 まだ寝てるのか……こんな状況なのにすごいな。

 

 そんな呆れにも似た心境は……

 

「ふん、寝ているだけならいいがな」

 

 伊方の言葉で文字通り一変した。

 

「えっ、それって……」

 

「ど、どういう意味だよ!?」

 

 ざわつきだす食堂車。

 

 それが全員の脳裏に最悪の可能性が浮かんでるからなのは明白で。

 

「……様子見に行く?」

 

「そだね。ちょっち様子を……」

 

 いてもたってもいられないのか神崎さんと平野さんが席から立つ。

 

 俺もそれに続こうとしたその時。

 

「ふにゃああああっ……おはよ、にゃあ」

 

 眠たげな声をした美影さんが食堂車に入ってきた。

 

「……見に行く必要なさそうって感じ?」

 

「いくらなんでも遅いぜぇ」

 

「ごめんにゃあ……ミーちゃん朝弱くて……んうっ……」

 

 どうやら本当に今の今まで眠ってたらしい……今も少し眠そうだ。

 

 そんなちょっとした混乱を引き起こした伊方は向けられる視線に何も言わずコーヒーを飲んでいた。

 

「墨染さんはいないけど美影さんも来たし……みんなちょっといいかな?」

 

「どうした下田?」

 

「ぼく達はこうして列車内に監禁されて、コロシアイを強要されてるわけだけど……当然コロシアイなんてするわけにはいかないよね?」

 

「うむっ!その通り!」

 

「……コロシアイとか興味ないわね」

 

 下田の言葉に口々に肯定が返ってくる。

 

 コロシアイをするわけにはいかない……それはきっとこの場にいる全員の共通の思いのはずだ。

 

「そのためにはまとめ役、リーダーが必要だと思うんだ。だから男女でリーダーを決めたいんだけど、立候補する人いないかな?」

 

 リーダー……確かにこの状況だと意見をまとめたりする人間は必要かもしれない。

 

 でも立候補する人はいないかと下田は言うけど俺は……

 

「立候補も何も慧でよくない?」

 

 俺の気持ちを代弁するかのように平野さんが声をあげる。

 

 そう、今まさに率先して話し合いをしようとしている下田こそ俺はリーダーにいいんじゃないかって思ったんだ。

 

「確かに下田君ならいいリーダーになってくれそうです!」

 

「えっ、いや、ぼくは冷静な伊方君とか監督の安田君とかの方がいいと……」

 

「そんなの押しつけられてたまるか!ボクはごめんだ!」

 

「俺はしてやってもいいが……ふん、真の希望はリーダーなどしないものだ」

 

 伊方と安田に断られて、下田は俺達を見る。

 

 本当に自分でいいのかという目に誰も反対しようとはしない。

 

 それで覚悟も決まったんだろう、下田は力強い瞳で大きく頷いた。

 

「……わかった。ぼくが男子のリーダーをやるよ。みんなよろしくね♪」

 

 おどけてウインクする下田に空気が少し冷える。

 

 敏感に察したのか下田も頭をかきながらごめんとだけ呟いた。

 

 下田って和ませようとして失敗する事があるな……

「そ、それじゃあ女子のリーダーを決めようか」

 

 空気を変えたいらしい下田が話を次に進める。

 

 だけど女子は誰も立候補しようとしない。

 

 

「私はいやよ」

 

「私もちょっと……」

 

「リ、リーダーなんて柄じゃありませんから……」

 

 振ってみても拒否だらけの状態にどうしたものかと沈黙が漂い始める。

 

 墨染なら引き受けそうな気はする……だけど絶対にろくな事にならないのをわかっているのかそれを口にする人はいなかった。

 

「あの、私は平野さんがいいと思います」

 

 そしてくじ引きになりそうな雰囲気にさえなった頃、岩崎さんから推薦があった。

 

 推薦された平野さんはまさか自分に来るとは思ってなかったみたいで目をパチクリさせている。

 

「……あたし?」

 

「昨日の件、皐月さんが怪我をした時すぐに動いていたのは平野さんでしたから」

 

 確かに痛みでよく覚えてないけど、昨日の平野さんは指示もすぐ出してたよな。

 

 平野さんはマジで?なんて言ってるけどこちらも誰も反対しない。

 

 みんな昨日の平野さんの姿を見ているから……だろうな。

 

「わ、わかったよ。あたしがリーダーやるって感じでいくよ!」

 

「あの、墨染様の意見は聞かなくてよろしいのでしょうか?」

 

「……必要なの?」

 

「いらないに一票」

 

 そんなやり取りもありつつ、リーダーは下田と平野さんに決まった。

 

「こほん。とにかくぼくも平野さんもリーダーとして頑張るから!」

 

「まっ、ちゃっちゃと脱出しましょー!」

 

 よし、俺も手伝おう……脱出のために。

 

「リーダーになって早速なんだけど、みんなに提案があるんだ」

 

「提案?」

 

「みんなも乗客手帳をもらってるだろうからルールは把握してると思うんだけど……昨日のモノクマがアナウンスで言ってたように夜十時になったらこの食堂車には入れないんだ」

 

 そういえば昨日見たルールにそんな事が書いてあったし、モノクマもアナウンスで食堂車に入れないって言ってたな……

 

「なんとそうであったのか!だから朝入れなかったのだな!」

 

「アナウンスがあったなんて、知らなかったにゃあ……」

 

「あら、そうだったの」

 

「あの、乗客手帳とはなんですか……?」

 

 当然全員把握してると思っていたルール……だけど今聞いたと言いたげな反応もいくつか返ってくる。

 

 霧ヶ島さんに至ってはルールとかそれ以前に手帳の存在も把握してないらしい。

 

「なんかリーダーやるのやめたくなってきたんだけど、マジで」

 

「引き受けなくて良かったよ……」

 

 そう言った平野さんや神崎さんを責める事は誰にも出来ない……下田でさえちょっと顔がひきつっていた。

 

「後でルール周知しないと……えっと、とにかく十時になったらここには入れないのは理解してもらったとして……そうなると男女の客室が完全に分断されちゃうんだよね」

 

「どういう事だぁ?」

 

「男子は二号車から六号車、女子は八号車から十三号車にいたまま十時になった場合部屋に戻れないという事だ陸海」

 

「ルールによると異性の部屋で寝るのは禁止とありますから……サロンで寝るしかないですね」

 

 サロンで寝るか……部屋と違って鍵もかからないみたいだし色々問題があるよな。

 

「マジかぁ!だけどよぉ……やっぱり自分の部屋で寝たいぜぇ……」

 

「うん。だからそういう事がないように十時少し前になったら点呼を取ろうと思うんだ」

 

「点呼ぉ?」

 

「十時少し前にぼくが男子のみんなと霧ヶ島さん、平野さんが女子のみんながいるか確認するんだよ。それをぼくと平野さんが食堂車で報告しあってから戻る」

 

 確かにそれなら自分の部屋がない方に取り残されるのはなくなりそうだ。

 

「ったく、めんどくせえなぁ……」

 

「そう言わないでクロードさん。ルール違反の可能性は潰しておくべき」

 

 反応は様々だけど積極的な反対意見はない。

 

「平野さんもそれでいいかな?」

 

「オッケー。リーダーらしく点呼しちゃうからねー」

 

 点呼か……まるで修学旅行だな。

 

 もちろんこれはそんな楽しい物では、ないけど。

 

 きっとこの点呼はもう一つ目的があってそれをみんなも理解してる。

 

 安全確認って目的……だから反対意見がなかったんだ。

 

「後食事当番も決めたいんだけど……食事作れる人はいる?」

 

「にゃ?この朝ご飯みたいに自動で出てこにゃいの?」

 

 美影さんの疑問も最もだ。

 

 こうして用意されてるのに食事当番なんて決める必要があるのか?

 

「いや、それ空助が作ったんだよ団居」

 

「にゃ!?空助ちゃんが!?」

 

 陸海が作ったと知らなかったのか、美影さん以外にも驚いて陸海を見る。

 

 無論俺もその一人だ。

 

「なんか身体が覚えてたんだよなぁ……僕は〔超高校級の料理人〕だったのかぁ?」

 

 確かに美味しいけど……どうなんだろうな。

 

 記憶喪失だからいい刺激になるかもしれないけど。

 

「じゃあリクカイに任せればいいじゃねえか」

 

「陸海くんにだけ任せるのも大変だからね……メインは頼むにしてもお手伝いもいてほしいんだ」

 

 一人で十六人の食事を作るのは大変だもんな……

 

「あっ、だったら私やります!人並みには出来ますから」

 

「うむっ!ならば吾も手伝おう!」

 

 手伝いを申し出たのは立木さんと石原の二人。

 

 石原も出来るのか……正直意外だ。

 

「出来るのかよ……見た目からして無理だろお前」

 

「これでも卓球部の合宿でカレーを作っていたからな!カレーなら出来る!」

 

「石原っち、毎日カレーはしねえよぉ……」

 

「なぜだ!?美味いではないかカレー!」

 

「お前には飽きという言葉がないのか……」

 

 その後話し合った結果、陸海を中心に石原、立木さん、それに岩崎さんが手伝う事になった。

 

 石原、厨房で立木さんや岩崎さんと一緒になって大丈夫なのか?

 

「それは考えても仕方ないか……」

 

 さてと、解散になったけどこれからどうするかな?

 

 

※※

 

 

「ああー……」

 

「陸海君、ほら、リラックスリラックス」

 

「でもよぉ……」

 

「大丈夫だって!私を信じなさい!」

 

「うーい……」

 

 サロンに顔を出してみると、陸海と神崎さんが何か話していた。

 

 ソファーに座った陸海の肩を時々神崎さんが揉んだりしている。

 

「何してるんだ二人共?」

 

「ああ、皐月君。もちろん陸海君のカウンセリングだよ」

 

「カウンセリング?」

 

「そうそう。陸海君記憶喪失でしょ?精神的な物なら私の得意分野だからね」

 

 そうか、神崎さんは〔超高校級の心理カウンセラー〕だもんな。

 

「神崎っちならきっと僕の記憶を戻してくれるぜぇ……」

 

 そう言う陸海はリラックスしきってるのかソファーに深く身体を沈めている。

 

 まだ二日なのにこんなになってるのは陸海の性格か神崎さんの力か……

 

「確かに神崎さんなら安心かもな」

 

 その手のプロがやってるんだ、俺はあんまり余計な口出ししない方がいいだろう。

 

「それじゃあ今陸海君が覚えてる事を整理しようか。はい、思いつく限り言ってみよう!」

 

「えーっとぉ……僕は陸海空助でぇ……希望ヶ峰学園にスカウトされてぇ……」

 

 陸海の記憶、早く戻るといいな……

 

 俺は邪魔にならないようにそっとサロンを後にした。

 

 

※※

 

 

「皐月殿!」

 

「うわっ!?」

 

 廊下を歩いていると誰かに呼び止められる。

 

 振り返ろうと思った次の瞬間、俺は肩を掴まれてガクガクと揺さぶられた。

 

「怪我はもう大事ないか!?昨日は吾も色々あって聞けなかったが!」

 

「ま、まだ少し痛むけどまぁ……」

 

 強いて言うなら今揺さぶられて、時々痛む。

 

「ならば良し!!」

 

「うるせぇ……こっちまで聞こえてきやがるぞ」

 

 心配はしてくれていたんだろう石原、反応に困って苦笑いを浮かべていると廊下の向こうから不機嫌そうなクロードがやってきた。

 

 そ、相当大声だったもんな……近くにいたからよくわかる。

 

「むううっ!?どうしたクロード殿!今度はクロード殿が何かあったのかぁ!」

 

「誰かこいつ何とかしろ……!」

 

「い、石原、とりあえず落ち着こう」

 

「むっ、すまんかった!」

 

 なんとか落ち着いたけど、このままだとまた騒ぎかねないな……話題を変えよう。

 

「石原こそ、昨日倒れたけど大丈夫なのか?」

 

「うむっ、身構えてはいたがやはり女体の柔らかさは我慢出来ぬな」

 

「そういう話かよ……何お前、ムッツリってやつか?」

 

「クロード殿、ムッツリとはなんなのだ?」

 

「……辞書で調べろ」

 

「えっと、昨日は本当に美影さんに抱きつかれたから……」

 

 はっきり言ってあそこまでになるなんて信じられない。

 

「うむっ、恥ずかしながら吾は常人よりおなごへの欲が強くてな……男ならば問題なく過ごせるのだが……」

 

 だけど石原はあっさりとそれを肯定した。

 

「そうだったのか……」

 

 デリケートな話だから正直なんて言ったらいいのかわからないな……

 

「要するにイシハラは性欲が強いんだろ?難儀な話だな」

 

 み、身も蓋もないなクロード……

 

 

※※

 

 

「ふん、つまり心当たりは全くないわけか」

 

「はい……」

 

 食堂に行くと伊方と岩崎さんが話し込んでいた。

 

 伊方は〔超高校級の車掌〕の岩崎さんにこの列車について何か心当たりはないか聞いていたらしい。

 

「なるほどな。やはり今回の犯行、ただの愉快犯ではなさそうだ」

 

「伊方もそう思うのか」

 

 愉快犯でここまでするとは思えなかったけど……

 

「〔超高校級の車掌〕である岩崎の証言だ、事実とみていいだろう。最も岩崎が黒幕の回し者なら話は別だがな」

 

「わ、私は回し者なんかじゃ!」

 

「わかっているさ……仮に回し者ならお前はすぐさま処分されるほどの存在という事になるからな」

 

「っ……」

 

 昨日の恐怖を思い出したらしい岩崎さんの顔が青ざめる。

 

 伊方ももう少し言葉を選ぶべきじゃないか……?

 

「しかし……そうなると助けは来ないと思った方がいいな」

 

「な、なんでだ?」

 

「簡単だ。ただの愉快犯でないなら今回の犯行は大がかりな計画という事。そこまでするような奴が、邪魔を許すはずがない」

 

「そ、そんな……」

 

「じゃあどうしたらいいんだよ……」

 

「……ふん、安心しろ、この俺がいる。〔超高校級の希望〕であるこの俺がな」

 

 わからない。

 

 伊方はなんでここまで自信に満ち溢れてるんだ……?

 

「〔超高校級の希望〕ですか……」

 

「くくっ、お前達は本当に恵まれている。俺は必ず黒幕に勝利する……運が良ければその瞬間を見られるかもしれないんだからな」

 

 運が良ければ……そこにそれまでに死ななければ、と伊方が言いたいのが言葉にしなくてもわかる。

 

 それはつまり……

 

「も、もしかして伊方さん、あなたはコロシアイが起きると思ってるんですか?」

 

「さあな」

 

 伊方は、誰かが死ぬって本気で思ってるのか?

 

 いったいどうして……

 

 

※※

 

 

 昼の時間になって、俺は平野さんと同じテーブルにいた。

 

「……はあ」

 

「どしたの?ため息つくと幸せ逃げるよ?」

 

「あはは、ちょっと……」

 

 平野さんに笑顔を返そうとして、その向こうにいる安田と目が合う。

 

 その瞳には、はっきりと敵意が宿っていた。

 

「んー?どしたのさ順。全然食べてないじゃん」

 

 俺の表情の変化に気付いたのか平野さんが振り返って安田に声をかける。

 

「意味がわかんないんだよ……」

 

「何が?」

 

「そいつとなんでそんなに普通に話せるんだよ!?そいつは殺人鬼なんだぞ!?」

 

 安田の叫びに視線が集中する。

 

 それが余計に癪に触るのか安田の俺への口撃は止む気配がない。

 

「いや、だからさぁ……それはなんかの間違いなんだって」

 

「なんで言い切れるんだよ!!そいつは今も殺す機会を探ってるのかもしれないんだぞ……そ、そんな中で飯なんて食えるかよ!?」

 

 そうだ。

 

 墨染が強烈過ぎて気を取られてたけど、安田だって昨日の様子からこうだったじゃないか。

 

 そもそも俺に対してこんな風に思うのが一人だけなわけがない。

 

「平野さん、ごめん。俺向こう行くよ」

 

「えっ、ちょっ、翼!?」

 

「ボクは悪くない……悪くないからな!!」

 

「順もどこ行くのさ!?」

 

「もう無理だ!殺人鬼と同じ部屋で飯なんて食えるか!部屋に戻る!」

 

 忘れてたわけじゃない、自分の評価は殺人鬼のままだって事を。

 

 それでも油断してたのかもしれない。

 

 ああ、本当に。

 

 この影はまとわりついて離れない……

 

 

※※

 

 

 昼の一件の後、俺は当てもなくブラブラしていた。

 

 正直な話、その前の伊方の不穏な言葉もあって相当疲れを感じている。

 

「それじゃあ、立木さんはワタシの本を全部?」

 

「はい、読んでます!私物述さんの書くお話、とっても好きです!」

 

「ふふっ、ありがとう。私はこれでも尽くすタイプなの」

 

「そうなんですか?」

 

「そうなの。だから困った事があったら言ってね」

 

「えへへ、ありがとうございます!」

 

 そんな中で目に入ったのは仲良く話す立木さんと物述さん。

 

 うん、さっきの後だと余計に眩しく感じるな……

 

「あっ、皐月君!」

 

「疲れてるみたい……さっきの事?」

 

「いや、まあ……色々あって。それより二人はもう仲良くなったんだな」

 

「読書家と小説作家ですからね。相性バッチリなんですよ」

 

「ふふっ、ここまでのファンはそうそういないから……」

 

「なるほど……」

 

 立木さんもイキイキしてるし、物述さんも嬉しそうにしてる。

 

 友達になるのに時間は関係ないって感じだな。

 

 友達、か……

 

「皐月君?どうしました?」

 

「えっ?」

 

「泣きそう、だったけど」

 

「あ、あはは。何でもないよ」

 

 泣きそうだったのか俺……

 

 ふう、やっぱりまだまだ引きずってるな……

 

 俺を信じてくれなかったあの人達は、友達だったんだろうか?

 

 そんなの考えてもどうしようもない事なのに、な。

 

 

※※

 

 

 倉庫に行ってみると美影さんと笹山さんがいた。

 

 また珍しい組み合わせだな……

 

「にゃあにゃあ、ミチルちゃん!何か見つかった?」

 

「別に目をひく物はないわ」

 

「そっか、残念だにゃあ……」

 

 何か探してるのか?

 

 声を、かけてみるか。

 

「何してるんだ?」

 

「ふにゃあ!翼ちゃん!?」

 

 美影さんが驚いたのかおもいっきりその場から飛び退く。

 

 ただ驚いたのか、それとも俺だから驚いたのか……よくわからない。

 

「あら皐月、ここには何もないわよ」

 

「いや、笹山さん基準ではそうなのかもしれないけど……」

 

 一方で笹山さんは全く反応が変わらない……それはそれで困惑する。

 

「え、えっとぉ、ミーちゃんは目覚ましとかないかなーって」

 

「目覚まし?」

 

「今朝起きられなかったから。部屋の時計はそういうのないし」

 

 そういえば美影さんは朝弱いって言ってたな……

 

「笹山さんも目覚ましを?」

 

「私に必要に見えるかしら?」

 

 ない、だろうな。

 

「ミチルちゃん、いつも全く同じ時間に起きられるらしいにゃあ……」

 

「それは、すごいな」

 

「でしょでしょ!だからミーちゃんも……あっ」

 

 近かった美影さんがまた少し離れていく。

 

 かなり、歩み寄ってくれてるよな……うん。

 

 その後少しぎこちない空気のまま、俺は美影さんの目覚まし探しを手伝った……

 

 

※※

 

 

 倉庫から部屋に戻る途中、隣の部屋の前で下田と霧ヶ島さんが話し込んでいる。

 

 何してるんだ?

 

「えっと、部屋を開けるには……この札を使えばよろしいのですよね?」

 

「き、霧ヶ島さん。それは乗客手帳じゃなくてモノクマカードだよ……」

 

「あっ、も、申し訳ありません。こ、こちらですね……」

 

「うん。とりあえず電源を……ああっ、そんな風にしたら壊れちゃうよ!」

 

「だ、駄目でしたか?ううっ、難しいです……」

 

 なんか下田が苦戦してるな……

 

「二人共どうしたんだ?」

 

「あっ、皐月くん。霧ヶ島さんが部屋に入れなくなったらしくて……」

 

「こ、この手帳が、全く動かないのです」

 

「だから教えてるんだけど……あはは、結構苦戦してて」

 

「ううっ」

 

「えっと、昨日はどうしてたんだ?」

 

「それが霧ヶ島さん、そもそも手帳の存在に気付いてなかったらしくて昨日は開いたまま、電気もつかないままだったらしいんだ」

 

「食事時も開いたままで出かけました」

 

 な、なんて不用心な……男ばっかりの中で女の子一人だなんて危ないのに。

 

「先ほどまでモノクマ様も何度も説明してくださったのですが、最終的に諦めてしまわれまして……そこに下田様が」

 

 モノクマが諦めるほど、なのか……

 

「とにかくまずは電源だね。自分でやらないと覚えられないからスイッチを探してみて」

 

「は、はい」

 

 俺も隣だし気にするようにしよう……

 

 

※※

 

 

 【十一号車・皐月の部屋】

 

 ピンポーン

 

 夕食を何事もなく終わらせて部屋に戻った後、チャイムが鳴ったから出てみると下田が立っていた。

 

 もう点呼の時間なのか。

 

「やぁ、皐月くん。点呼の時間だよ」

 

「わかった……そろそろ寝るかな」

 

「うん、それがいいね。また明日皐月くん」

 

「また明日な下田」

 

 下田と挨拶を交わしてから少ししてアナウンスが鳴る。

 

 モノクマの言葉を聞き流しながらベッドに横になった。

 

 「明日で三日目か……」

 

 昨日はそれどころじゃなかったとはいえ手がかりは全くなかった。

 

 列車なんて、ずっと走りっぱなしってわけにもいかないはずなのに止まった気配もない。

 

「本当に……なんなんだろうな」

 

 そうして考える内にやって来た眠気に身を任せようとして。

 

 

 ゾクッ

 

 

 背筋に走った寒気に、慌てて飛び起きた。

「な、なんだ!?」

 

 今、誰かに見られてたような……いや、ドアは閉まってるしそんなはずは……カメラのせいか?

 

「……気味が悪いな。もう寝よう」

 

 改めて俺はベッドに横になる。

 

 今度は寒気が走る事なく、意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 カタッ

 

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