実力至上主義の学校でも計算していたい!   作:ひよこのたまご

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第4話

「お前ら席につけー。今日はちょっと真面目に受けてもらうぞ」

 

入学してからもう3週間がたとうとしている。その間何かあったかというと、お察しの通り特に何かあることもなかった。結局綾小路君ぐらいしかまともに喋ってない...

あ、でも坂柳さんとはまたチェスをした。今度は勝てるかと思ったが、また負けてしまった。強すぎるよあの子。

 

「どういうことっすかー。紗枝ちゃんセンセー」

 

茶柱先生は、既に1部の生徒から愛称で呼ばれている。もちろん俺は呼んでいない。

 

「月末だからな。小テストを行うことになった。後ろに配ってくれ」

 

そう言って、テスト用紙が前から配られてくる。見てみるといかにも小テストって感じの代物だった。

 

「今回のテストはあくまでも今後の参考用だ。成績表には反映されることは無い。ノーリスクだから安心しろ。ただしカンニングは当然厳禁だぞ」

 

「成績表には」か。やけに含みのある言い方するな。気にしすぎたろうか?まあ成績に入らないなら気楽にやろう。

問題に目を通すと、1科目4問、全20問で、各5点の100点満点だ。さーて何点取れるかな?

 

 

 

 

なんだこれ?これは首を傾げずにいられない。なぜなら、ほとんどの問題が非常に簡単だったから。中学レベルの問題も見受けられる。と、思っていたら最後の3問だけ、明らかにレベルが違った。数学のラストなんて明らかに高3内容だ。「極限」使うだろこれ。まじで何がしたいんだ?今の実力を測るためのものだと思っていたが、これでは難易度に差がありすぎる。

結局学校の真意は全く分からないまま、テストは終わった。何だったんだ?あれ。

 

 

 

 

5月を目前に控えた4月最終日、俺は坂柳さんと3回目となるチェスをするべく、ケヤキモールに来ていた。場所もおなじみ例のカフェだ。最近知ったのだが、このカフェはパレットと言うらしい。それに、毎回チェスをすると周りが見えなくなるので、全然気づかなかったが、非常に女性客が多い。

 

「志村君はこの学校についてどう思いますか?」

 

坂柳さんから質問された。今日俺たちは勝負というより、娯楽としてチェスをしている。本気でやると毎回時間の進みを忘れるし、疲れるからな。

こうやって雑談しながらやるのもいいものだ。

 

「そうだなー。不気味な学校だと思っているよ」

「不気味ですか?それはまた珍しいですね。大体の人は親切だとか、優しいだとか、肯定的な意見が多いのですが」

「だから不気味なんだよね。」

「はい?」

「いやだからさ、学校側からしたら、俺たちになんの見返りもなく10万円出すなんてデメリットしかないだろ?1クラスの人数が40人として、1学年に1600万円だよ?なんかおかしいと思うし、この学校の施設の予算、フェルミ推定してみたんだけど百億超えてたしね。いくら国管轄って言ってもちょっとなーって思ってね。なんか怖い」

「.....」

「どうかした?」

 

坂柳さんが固まっていた。すごいレアな所を見た気がする。

 

「...予算をフェルミ推定したんですか!?」

「え?うんまあ暇だったからね。数学は割かし得意なんだよ。」

「そうですか...」

「どうかした?」

「いえ、なんでもありません。」

「そう。ならいいけど。あ、チェックメイト」

「えぇ!?」

 

やっぱり動揺してたみたいだ。なんか可愛いぞ。

 

「もう1回しません?」

「え?いやでももう遅くなるし...」

「じー」

 

ふくれっ面でこっちを見てくるが、ただ可愛いだけだった。しょうがないなあもう。

 

「じゃあもう1回やろうか」

「ええやりましょうやりましょう」

 

めちゃくちゃ嬉しそうだった。どんだけチェス好きなんだこの子。

 

その後本気出した坂柳さんにまた僅差で負けた。だから強すぎるってこの子。

 

 

 

 

 

「じゃあもう暗いし帰ろうか」

「ええそうですね」

「寮まで送るよ。暗いし危ないし」

「それはどうもありがとうございます」

 

女子と2人で下校?する。俺の子供の時からの夢が今叶っている!感無量ってこういう時に使うんだな。

 

「明日から5月だね。坂柳さんはポイントいくら位使った?」

「私は2万とちょっとくらいですね。あんまり買いたいものもありませんでしたので。志村君はいくら位ですか?」

「俺も同じくらいだね。10万円は多すぎるよ。」

「そうですね。高校生には多すぎる気がします。何かあると怖いですね」

「うん。ただ、ポイント絡みで何かあるとしたら月替わりの明日だろうね。まあ今いくら考えても明日にならないことにはわかんないかな」

「それもそうですね。では明日を楽しみにしておきましょう。では寮もすぐそこなので私はこれで」

「ああじゃあまた今度」

 

こうして4月最終日は穏やかに過ぎていった。このまま平穏に学校生活が送れるといいなあ。

 

 

 

 

 

5月1日。ついに月が変わった。毎月10万ポイントが振り込まれるなら、俺のポイントは17万1052円になっているはずだ。

しかし、見てみると7万1052円のままだった。おかしいな、振り込みが遅れてるのか?まあ今気にしても仕方がない。登校したらわかる事だ。

 

始業チャイムが鳴った。程なくして茶柱先生がポスターの様なものを抱えて入ってくる。その顔はどことなく険しかった。

 

「これより朝のホームルームを始める。が、その前に何か質問はあるか?気になることがあるなら今聞いておいた方がいいぞ?」

 

数人の生徒がすぐさま挙手をする。

 

「あの、今朝確認したらポイントが振り込まれてないんですけど、毎月1日に振り込まれるんじゃなかったんですか?今朝ジュースが買えなくて焦りましたよ」

「前に説明しただろ、その通りだ。ポイントは毎月1日に振り込まれる。今月も問題なく振り込まれたことは確認されている」

 

ということは、振り込まれるはずのポイントが0になったということか?

 

「お前らは本当に愚かな生徒たちだな」

 

愚か...なんだろう、今までの疑問が少しずつ解けている気がする。

 

「ははは、なるほど、そういうことだねティーチャー。理解できたよ、この謎解きがね」

 

どうやら高円寺君は分かったみたいだ。

 

「簡単なことさ、私たちDクラスには1ポイントも支給されなかった、ということだよ」

「はあ?どういうことだよ」

「全く、これだけヒントをやって自分で気がついたのが数人とはな。嘆かわしい」

「...先生、質問いいですか?腑に落ちないことがあります」

 

平田君が手を挙げた。さすがにクラスのリーダー。

 

「振り込まれなかった理由を教えてください。でなければ僕達は納得出来ません」

 

「遅刻欠席、合わせて98回。授業中の私語や携帯触った回数391回。ひと月で随分とやらかしたもんだ。この学校ではクラスの成績がポイントに反映される。その結果お前たちは振り込まれるはずだった10万ポイントを全て吐き出した。それだけのことだ。入学式の日に直接説明したはずだ。この学校は実力で生徒を測ると。そして今回、お前たちは0という評価を受けた。それだけに過ぎない」

なるほどね、遅刻欠席96回に私語と携帯を触った回数391回か、となると...

 

いやさすがに無理か。情報が少なすぎる。せめて他クラスの情報があればだが。

隣の席で堀北さんも何かメモしている。さすがだな。

それから、平田君と茶柱先生の問答が続くが、平田君が完全に論破されて終わった。それもそのはず、茶柱先生の言葉は全て絶対的な正論だったから。

 

「どうやら無駄話が過ぎたようだ。大体理解できただろ。そろそろ本題に移ろう」

 

そう言って茶柱先生は白い厚紙を黒板に貼り付けた。

 

「これは...各クラスの成績、ということ?」

 

堀北さんがそう呟いた。恐らくその推測はあっているだろう。

俺たちDクラスは0。Cクラスは490。Bクラスは650。そしてAクラスが940だ。

これは...なるほどね。そういう事か。

もうクラスは阿鼻叫喚だ。それもそうか。大体の人が残りポイントが1万も無いようだったからな。

 

「よく見ろバカ共。Dクラス以外は、全クラスがポイントを振り込まれている。それも1ヶ月生活するには十分すぎるほどのポイントがな」

「な、なんで他のクラスはポイントが残ってんだよ。おかしいよな...」

「言っておくが不正は一切していない。この1ヶ月、全てのクラスが同じルールで採点されている。にもかかわらず、ポイントでこれだけの差がついた。それが現実だ」

 

クラスはもう騒然としている。だが気がついた人もいるみたいだな。

 

「段々理解してきたか?お前たちが、何故Dクラスに選ばれたのか」

「Dクラスに選ばれた理由?」

「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。ダメな生徒はDクラスへ、と。つまりこのDクラスは落ちこぼれが集まる最後の砦というわけだ。つまりお前たちは、最悪の不良品ということだ。実に不良品らしい結果だな」

 

やはり俺の推測は間違ってなかったみたいだな。当たって欲しくなかったが。しかし、堀北の顔が青ざめているように見える。そりゃそうか。担任から不良品とまで言われたんだ。堀北のようなタイプがすぐに受け入れられるわけが無い。

 

「さて、もう一つお前たちに伝えなければならない残念な知らせがある」

 

そう言って、もう1枚紙が貼りだされた。そこにはクラスメイトの名前と横に数字がずらりと並んでいる。

 

「この数字が何か、バカが多いこのクラスの生徒でも理解できるだろう。先日やった小テストの結果だ。揃いも揃って粒ぞろいで、先生は嬉しいぞ。中学で一体何を勉強してきたんだ?お前らは」

 

この前の小テストか。上から90、90、90、85...

平均点は64.4だな。

 

「良かったな、これが本番だったら7人は入学早々退学になっていたところだ」

「た、退学?どういうことですか?」

「なんだ、説明してなかったか?この学校では定期テストで1科目でも赤点を取ったら退学になることが決まっている。今回のテストで言えば、32点未満の生徒は全員対象と言うことになる、本当に愚かだな、お前たちは」

「は、はあああああああ!?」

 

32点未満を取った7人が全員驚愕の声をあげる。

しかし「今回のテストで言えば」か。ということは赤点は毎回変動するのか。

そうか、平均点の半分だな。今回の場合64点に切り捨てしてその半分ってとこか?なかなか上手く出来ている。とりあえず参考になりそうだし、全員の点数メモっとくか。

 

「それからもう一つ付け加えておこう。恐らくこのクラスの殆どの者が、目標とする進学先、就職先を持っていることだろう。が、世の中そんな上手い話はない。この学校に将来の望みを叶えて貰いたければ、Aクラスに上がるしか方法はない。それ以外の生徒には、この学校は何一つ保証することはないだろう」

「そ、そんな...聞いてないですよそんな話!滅茶苦茶だ!」

 

メガネをかけた生徒がそう言って立ち上がった。確か名前は幸村だったかな?幸村君は小テストの点数は90点で同率首位だ。はえー頭いいんだな。

 

「浮かれていた気分は払拭されたようだな。中間テストまでは後3週間、まあじっくり熟考して、退学を回避してくれ。お前らが赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している。出来ることなら、実力者に相応しい振る舞いをもって挑んでくれ」

 

そのまま茶柱先生は教室を後にした。

グッバイ俺の平穏な学校生活...




フェルミ推定というのは、一見予想もつかない数字を、論理的に概算することです。
例えば日本にはカラスが何羽いるか?や、アメリカにピアノの調律師は何人いるか?などが有名です。
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