実力至上主義の学校でも計算していたい!   作:ひよこのたまご

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第6話

茶柱先生が去って行ってから、綾小路君と志村君は2人とも無言だった。特に志村君なんかは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 

「じゃ帰るか。早く帰って寝たい」

「ああ同感だな」

「待って」

 

2人は帰ろうとするが、私は2人に聞かなければならないことがある。

 

「何だ?堀北。俺は今、お前と話したい気分じゃないぞ」

「あなた本当に志村君?さっきまでと口調とか雰囲気が全然違うけど」

 

私がそう言うと、どことなく彼の顔に陰がさした気がした。

 

「気のせいだろ」

 

それだけ言うと、志村君は帰ってしまった。残っているのは綾小路君だけ。

 

「...彼の口調が変わったのって、茶柱先生が『志村孝和』って人の名前を口にしてからよね?息子って言ってたけど...」

「知っているのか?」

「どこかで聞いたことがあるような気がするのだけれど、思い出せないわ。そんなことより、あなたはどうしてあんなことをしたの?」

「あんなことって?」

「とぼけないで。テストの点数のことよ」

「だからあれは偶然だ。根拠も何もないだろ」

「根拠はないけれど...綾小路君、よく分からないところあるし。それに、Aクラスにも興味なさそうだし」

「そう言うお前は、本気でAクラスを目指すつもりか?」

「ええもちろんよ。まずは学校側に真意を確かめるつもりだけれど、もし本当に私がDという判断をされたのなら、私はAクラスを目指す、いえ必ず上がってみせる」

 

ええそう。私はAクラスに上がらなければならない。絶対に。

 

「そこで...綾小路君に協力をお願いしたいの」

「協力ぅ?」

 

彼は露骨に嫌そうな顔をするが、敢えて無視する。

 

「断りたいの?」

「俺に協力出来ることがあるとは思えないけどな」

「大丈夫。あなたが頭を使うことはないから。私が作戦を練るから、あなたは身体を使ってくれればいい」

「どんな策があるか知らないが、俺以外に頼れるようになれよ。ほら、平田とかいるだろ」

「彼ではダメね。確かに一定の才能はあるけれど、私がそれを受け入れられない」

「悪いがやっぱり断る。俺には出来そうにもない」

「考えがまとまったら、連絡するから」

 

あとは志村君ね。彼にも言っとかないと。

 

 

 

 

 

今日は散々だった。早く帰って寝て、このストレスを浄化したい。寝らずに無心で算盤弾くのもいいな。思いついたらちょっと楽になってきた。うむ、いいことを思いついた。

しかし、俺はともかく綾小路は何であんなことしたんだ?全教科50点で調整するなんて、普通できないぞ。

水泳の授業の時から、只者では無いことは察していたが、ここまでとは思ってなかった。何か秘密でもあるのだろうか?

それと気になるのが茶柱先生。何故俺の父さんが『志村孝和』であることをバラしたのか...堀北は『志村孝和』に心当たりがなさそうだったが、調べられたら1発でアウト。もうあの場で名前を出された時点で、手遅れだった。もうあの二人の前で繕っても意味が無いだろう。

 

「くそっなんでこんなことに...ん?」

 

1人の女子生徒がうずくまっている。時折しゃくりあげているから、泣いているのか?いけないところを見てしまった気分だ。ここは見て見ぬふりをした方がいいだろうか...

 

「ひっく、うー...あ」

 

まずい。目があった気がする。思わず大きく目を逸らしてしまった。

 

「あの、もしかして見てました?」

 

もしかせずとも見てました。ハイ。

 

「いや、それはまあ、えーっと...すんませんでしたっ!」

「いえ、いいんですけどね...すみません。お恥ずかしい所をお見せして」

「いやこちらこそ、盗み見るような真似してしまって...」

「いや、それはいいんです。私がこんなところで泣いてるのが悪いんですから」

「何かあったんですか?」

「いえ、ちょっと仕事で失敗をしてしまいまして、また会長に迷惑を...」

 

仕事?会長?ああなるほど。

 

「生徒会の方だったんですか」

「はい。私は生徒会書記、3年Aクラスの橘茜です」

「3年生だったんですか。俺は1年Dクラスの志村豊です。それより橘先輩は仕事の途中だったんですか?」

「え?あ、はいこの書類を運んでまして...」

「この量をですか...運ぶの手伝いましょうか」

「え、そんな、悪いですよ」

「どうせ暇なので。それに仕事でもして、憂さ晴らしでもしたい気分だったんです。よっこらせっと」

 

やはり意外と重い。細いのに意外と腕力あるのかなこの先輩。

 

「これをどこに運ぶんですか?」

「あ、えっと生徒会室です」

「了解しましたー。で、生徒会室ってどこですか?」

「あ、1年生ですもんね。こっちですよ」

 

橘先輩の案内で、生徒会室に向かう。

 

意外と距離があり、荷物もそこそこ重かったので、結構疲れてしまった。

 

「この角を右に曲がったとこです。すぐそこですよ」

「橘、遅かったな」

「せ、生徒会長。すみません遅くなりました」

 

橘先輩が生徒会長と呼んだ人はメガネをかけた、いかにも優秀そうな男だった。

 

「いや大丈夫だ。問題ない。それよりそこの生徒は?」

「か、彼は1年Dクラスの志村豊君です。書類を運ぶのを手伝ってくれていたんです」

「ほー1年Dクラスのね。お前、名前は?」

「はあ、志村豊ですが。会長さんのお名前は何でしたかね」

「生徒会長の名前を知らないんですか!?」

 

橘先輩が驚いている。すみませんね。興味なかったんですよ。

 

「俺は堀北学だ」

「そうですか。堀北ね...」

「なんだ、どうかしたか?」

「いえ、なんでも。では書類も運び終わったんで、俺はこれで失礼します。橘先輩お疲れ様でした」

「あ、うん今日はありがとう。助かりました。今後学校生活で、困ったら遠慮なく声をかけてくださいね。今日のお礼に、連絡先でも交換しておきましょうか?」

「え、いいんですか?じゃあ遠慮なく貰います」

 

橘先輩と連絡先を交換した。上級生とのパイプができるのはいいことだ。

 

「では失礼します」

「うん、またね」

 

さーて善行もした事だし、帰って寝ますかね。今日は本当に疲れた。

 

 

 

 

5月に入ってから、すでに1週間が経った。現在日本史の授業中。Ms.茶柱のご講義の最中である。5月初日はあんなこともあったが、案外穏やかな生活が送れている。

 

「たうわ!」

 

急に叫び声が左から聞こえた。何だ?と思って見てみると綾小路君が右腕をさすっている。

 

「どうした、綾小路急に叫び声をあげて。反抗期か?」

「いえすみません。急に目にゴミが入りまして...」

 

目にゴミが入って叫び声をあげたのか?あの、綾小路君がねえ。ん、堀北さんなんかコンパス持ってない?え嘘だよね?本当だったら怖すぎるんだけど。

現在Dクラスは、クラスポイントが0ポイントなこともあって、ポイントを落としかねないことに敏感だ。よって、綾小路君も、数人の生徒に睨まれている。、堀北さん鬼だな...

 

 

昼休みになった。さて、パンでも買ってこようか。

 

「志村君、お昼暇?もし良かったら、一緒に食べない?」

「え、堀北さん?もちろんいいけど、なんか怖いな。何も企んでないよね?」

「企んでないわよ。何か奢ってあげるから、好きな物食べていいわよ」

「山菜定食とか言わないよな?」

「そんなことしないわよ。人の好意を素直に受け取れなくなったら、人間おしまいよ」

「そ、そう。じゃあお言葉に甘えて頂こうかな」

 

タダで貰えるなら貰っておこう。俺は堀北さんと食堂にやってきた。ちょっと気が引けるが、スペシャル定食を食べてやろうではないか!

ほくほく顔でスペシャル定食を両手に持ち、席に着くと堀北さんがこちらをじっと見ている。なんだ?やっぱり惜しくなったか?やらないぞ。

 

「どしたの堀北さん。食べたいの?」

「違うわよ、死にたいの?」

「ごめんなさい、まだ生きていたいです」

 

普通に怒られてしまった。

 

「それより志村君!あなたこの前の時の口調の方が話しやすいわ。戻して」

「え?この前の口調って何のこと、堀北さん」

「つべこべ言わずに戻しなさい」

「...いやごめん、あれ無意識だから」

 

戻すも何も意識的になるものでは無い。そう言うと堀北さんはニヤッとした。

 

「じゃあ、『志村孝和』って言えば、戻るのかしら?」

「...やめろ。その名前は俺の前では禁句だ」

「ほら、できた。そっちの方がいいわよ」

「お前、俺を脅すつもりか?」

「何のことかしら」

 

こいつ、十中八九調べたな。知っているのに素知らぬ振りをしている。

 

「で?こうやって餌付けして、脅して俺に何をさせるつもりだ?」

「話が早くていいわね。彼とは大違いだわ」

「彼って誰だよ」

「綾小路君」

 

綾小路?何故?

 

「私は必ずAクラスに上がらなければならない。そのために綾小路君に協力してもらうのだけれど、彼だけじゃ心もとないから、あなたにも協力をお願いしたいの」

「はあ、協力ねえ。俺なんかが協力しても、何の役にも立たないと思うけどね」

「大丈夫よ、考えるのは私。あなたと綾小路君には足を動かして貰えればいいから」

「わかったよ」

 

そもそも弱みを握られている時点で断れない。

 

「じゃあこれからよろしく。何をするかは追って連絡するから」

「連絡って言っても、俺はお前の連絡先知らないぞ」

「そうね。じゃあ仕方がないから交換しましょう」

 

ついに堀北の連絡先をゲットしてしまった。とても不本意な形で。

その後、会話も程々に、昼休みは終わった。

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