昼休みになった。俺と綾小路君は、須藤くんたちが何処かに行ってしまう前に、真っ先に話しかけに行った。
「須藤、ちょっといいか?」
「お?なんだ?綾小路と、志村だったか」
綾小路君でさえ覚えられているのに、俺はうろ覚えだった。悲しい。これも俺の社交性の無さがなせる技か...
「話があるなら手短に頼むぜ、バスケの練習しなきゃならんからよ」
「分かった。須藤お前、今回の中間テストどうするつもりだ?」
「...その話か。正直テスト勉強とか、ほとんどしたことないからわかんねえ」
「そうか、それならいい話があるぞ。今日から放課後毎日、勉強会を開くから参加してみないか?」
「勉強会?お前がするのか?お前テストの点数そんなに良くないだろ」
「安心しろ。勉強会を開くのは堀北だ」
「堀北?尚更胡散臭え。断る。放課後にまで勉強なんてしてられっか。俺はバスケで忙しいんだ」
綾小路君が説得しているが、これは普通に断られる流れだな。口添え頼まれたし、ちょっと口挟むか。
「須藤君」
「あ?なんだよ」
「ほんとに一夜漬けで、赤点を回避出来ると思っているのか?」
「...なんとかなるだろ」
須藤君の顔が少し歪んだ気がした。やはりまずいとは思っているのか?
「一夜漬けと言っても、せいぜい費やせる勉強時間は、7時間が8時間くらいのものだろう。それを5教科に均等に振っても、1時間とちょいしか出来ないんだ。ほんとに、中間テストの範囲をその時間でカバーしきれるのか?」
「だぁぁぁ!うるせえな。やりゃ出来んだよやりゃ」
「...そうか。それならいいよ」
これ以上言ったら殴られそうだ。やっぱり無理だな。
「用はそれだけか?」
「ああ」
「そうか、じゃあな」
そのまま須藤君は行ってしまった。これはマズイんじゃないか?
「どうする?綾小路君」
「とりあえず池にも聞いてみようと思う」
そう言って池君の机の方に行くと、
「なあ池...」
「断る!須藤にしてた話聞いてたぞ。放課後に勉強なんてしてられっか!」
そのまま返答を待たずして、スマホをいじり始めてしまった。全員やる気がないな...無策で説得しようとしても無理だなこれは。
「志村」
「ん?なんだ?」
「お前だったら、何て言われたら勉強会に参加したいと思う?」
「え、俺?そうだな、俺だったら難しい数学の問題があったら、参加したいと思うな」
「...お前は特殊だったな」
「え?」
「いやなんでもない。じゃああいつらだったら、何て言われたら参加したいって言うと思う」
「んーあいつらかあ」
あの絶対勉強したくないマン達が、勉強会に参加したくなる...
「何かご褒美があればやるだろうな。エサだ」
「エサか。じゃあ何で釣る?」
「そうだな...」
ふと見ると、池君は女子とのチャットを楽しんでいるようだった。ほんとにこいつら女子好きだな。女子...女子?
「そうだ、女子で釣ろう」
「女子?」
「ああ。例えば櫛田とか人気の女子と一緒にやるって言えば、参加するんじゃないか?」
「なるほど...じゃあ櫛田に頼んでみるか」
教室を見渡すと、櫛田はおらず、どうやら友達と食堂に行っているようだったので、放課後に打診することにした。
...まだ時間があるな。
「綾小路君、ちょっと用事ができたから行ってくる」
「分かった」
俺が向かったのは職員室だ。扉の前に行き、覗いて見ると茶柱先生は...いるいる。デスクワーク中だな。
さて行くかと1歩踏み出した所で、目の前に誰かが来た。
「あら、志村君じゃない。またサエちゃんに呼び出されたの?」
「あ、星乃宮先生。いえ今回は俺からです」
「え、そうなの?面白そう。着いて行ってもいい?」
「嫌ですって言っても来ますよね...別にいいですよ。聞かれても困る話じゃないんで」
そのまま星乃宮先生は無視して茶柱先生の机に向かう。
「茶柱先生今よろしいですか?」
「ん、ああ志村か。それと、なんで星乃宮がいるんだ」
「面白そうなんだもん。志村君には許可取ったからね〜」
「はあ。それで志村、何の用だ?」
「ええ、まあ大した用ではないんですが、1つ言いたいことがありまして」
「なんだ」
「もしもの話ですが、もし、テストの範囲が変わった場合、ちゃんと忘れずに言ってくださいね?」
この意地悪い教師な事だ。これくらい言っとかないと、何されるか分からない。茶柱先生は一瞬目を見開き、
「ははははは。面白いなお前は。ちゃんと言うさ」
「今、言質取りましたから。忘れてましたではもうすみませんからね。証人は星乃宮先生です」
「え、もしかしてそのために私の同行許したの?」
その質問にはスルーした。
「分かってる。『もし』、範囲が変わったらちゃんと言うさ」
「それを聞いて安心しました。ではこれで失礼します」
これで心配が1つ消えたな。さてと、ここからが忙しいぞ。
「...サエちゃん、志村君って何者?」
「あいつは...ってお前に言うか!さっさと去れ」
「え〜。いけず」
放課後になった。
「綾小路君、櫛田さんに頼みに行く?」
「ああ、今から行こうと思う。志村も来るか?」
「いやすまん、俺はこれからやることがあるから、綾小路君に任せてもいい?」
「ああ分かった。こっちで言っておく。どうなったかはメールで送る」
「悪いな。頼んだ」
綾小路君はそのまま櫛田さんのところに向かった。さて、
「平田君、ちょっといい?」
「ん、志村君か。珍しいね。どうしたの?」
「放課後に勉強会をやってるって聞いてね。参加したいんだけど、大丈夫?」
「もちろんいいよ。ぜひ参加して欲しいな」
「ありがと。ちなみに聞きたいんだけど、この勉強会に参加してない人って誰がいるかわかる?」
「えーっとね、高円寺君、堀北さん、綾小路君、...」
ちゃんと参加してない人のことも把握してるのか。さすがだな。
全部で10人程しかいなかった。だが、その中には赤点候補の人もいる。
「ありがとう。助かった」
「そうなの?何の役に立ったのか分からないけど、お役に立てたようでなによりだよ」
さすが爽やかイケメン。笑顔が眩しいぜ!
程なくして5時となり、勉強会がスタートした。この勉強会は、1日1教科でやっているみたいで、今日は数学の順番だった。やったぜ。
俺の右側には、女子3人が机をくっつけて座っている。名前なんだっけ?確か1番左が佐藤さんで、真ん中が篠原さん、そして1番右が...松下さん?確かそんな感じだ。
俺はこれから、最難関ミッションをクリアしなければならない。それは...
ズバリ!『複数でいる女子に話しかけること』である。凄く腰が引けるがやらなければ目的が果たせない。
1回深呼吸しよう。スーーハーーー。
よし。
「こんにちは、えっと篠原さん達だよね?」
「え、うんそうだけど、君は確か...志水君だっけ?」
「違うって、志村君だよ」
松下さんが訂正してくれた。泣きそうだがこらえる。
「それで?志村君どうしたの?」
「あ、ああ。さっきから問題に手こずってるみたいだったから、気になって話しかけたんだけど...」
「え、志村君って頭良かったっけ?」
「数学だけ得意なんだよねって言っても、すぐ信用してくれないと思うから、物は試しに1問だけ教えさせてくれない?」
「そんなに言うならまあ。ここの二次関数の問題なんだけど...」
なるほどね。最大値、最小値で定数が動くタイプか...
「これは、まずaの場合分けから始めるんだけど...」
口調が早口にならないように心掛ける。そして基礎のところから丁寧に...
「というわけで、最大値が5a^2、最小値が0になるってことね。大丈夫そう?」
どうした?3人とも黙りこくっているけど、よっぽど分かりにくかったか?
「だ、大丈夫...?」
「すごいじゃん志村君!めっちゃ分かりやすかったよありがとう!」
「うんうん。なんで今まで分からなかったんだろうって感じ」
「志村君、教えるの上手いよ絶対」
「そ、そう?ありがとう。他にもなんかあったら言ってね」
良かった、上手くいったみたいだ。
「あ、志村君あとこれも!」
「ん、ああこれはね...」
その後順調に勉強は進んだ。だが、俺が1番気になったのは松下さんだ。解答の作り方が数学が苦手な人のそれじゃない。確かに答えは出てないし、出来てないんだけどなんか違和感を感じる。まあでもいちいちそんなことに気にしてられない。
必死にコミュニケーションを取りながら数学を教えた。
午後7時、勉強終了。疲れた...
「志村君ありがとう!分かりやすかった。助かったよ」
「どういたしまして。分からない所があったら、いつでも聞いていいよ」
2時間の勉強の間、参加している人のほとんどに教えることができた。目的は達成されたと言っていいな。うん。
「志村君」
「ん、ああ平田君。どしたの?」
「今日は助かったよ。みんな感謝してたよ?教え方がよっぽど上手だったみたいだね」
「それは嬉しいな。ただ、俺が教えられるのは数学だけなんだけど、明日も参加して大丈夫かな?」
「もちろんだよ。明日も同じ時間だから是非来てね」
平田君...お前良い奴だな。今までイケメンだからって毛嫌いしてごめんよ。
さて、帰るか。
「志村君!」
帰ろうとすると、誰かに呼ばれた。