唐突に世界はその有り様を変えた。
『ガストレア』
ガストレアウイルスによって遺伝子を書き換えられ巨大化・凶暴化した生物の総称。
ウイルスの感染力は強大であり、人間さえも例外ではない。感染すれば誰であろうと人類の敵となる。
―――2021年、人類はガストレアとの戦いに敗北した。
かつて平和で賑わっていた町並みは見る影もない廃墟と化して、人類はモノリスと呼ばれる黒い巨大な壁の内へ閉じ込められた。
一歩でもモノリスの外へ出ようものなら、異形の化け物が闊歩する地獄のような光景が広がっている。
しかし人類もいずれ訪れる滅亡を受け入れている訳ではない。
『民事警備会社』
ガストレアに対しての『武力』による対抗手段を持った集団。
プロモーター=イニシエーターのペアで行動し、壁を越えて襲い来る脅威に対して備えている。
世界規模で20万を超える民警達だが、圧倒的物量を誇るガストレアの来襲に間に合わず一般人への被害も少なくない。
毎日、世界中のどこかでガストレアによる被害は起き続けているのだ。
東京エリアの一角、かつての名残が残った高層ビルに囲まれた路地。そこでは40歳半ばのスーツ姿の男性が必死に逃げ惑っていた。
「た、助けてくれぇ!!」
大声をあげ走り続ける男。
しかし男の後ろには何もない。傍目にはただ意味もなく奇声を荒げているようにしか見えない。
「はぁっはぁっ! ッーー!?」
突如、闇に染まった虚空から『何か』が飛び出す。それにより男性の右足が絡め取られ転倒する。
盛大に打ちつけた顔の痛みを無視して背後を見ると、右足に白い糸のようなものが絡まっていた。
「くそっ! くそっくそぉっ!!」
恐怖に震える手を必死に動かし、何とか取り外そうとするも、粘性を帯びた糸はむしろ複雑になり、解こうとした手を絡めとる。
はやく、はやくはやく―――!!
焦燥する男性とは裏腹に、糸が解ける気配はない。
「ふざけんなよ、取れろ! 頼むから……取れてくれよぉ!」
それでも必死になって手を動かす男性、ふと自分の頭上から音が漏れていることに気付いた。
ぐちゃりぐちゃりと寒気を催すような、そんな……伸びた糸の先を辿るように視線を動かすと、暗闇から巨大な蜘蛛の頭部が覗いていた。
口元の突起が不快な音をたて蠢き恐怖心がよりいっそう掻き立てられる。
「ヒ、ヒィィィッ!!」
恐怖に身を任せ這って逃げようとするも、蜘蛛と自分を繋ぐ糸が絡まり、それを許さない。
「ああああぁああああ!! やだやだやだ!」
何とか糸を千切ろうとするも粘着力が強くとれる気配がない。
そんな男を尻目に、蜘蛛のガストレアがはゆっくりと暗闇の中から姿を現しその全貌を晒した。
「ぁ―――」
体長は優に5メートルを超え、二対の蜘蛛の脚に加えて大人一人分はあろうかという巨大で鋭利な鎌が二つ。
『恐怖』
金縛りにでもあったかのように体が硬直し指一本すら動かせなくなる。目の前にいるこの化け物は人一人など容易に殺せてしまう。当然、自分も……。
「ひィ―――なっ……ア―――」
叫び声すらまともにあげられず、口からは掠れ声が漏れる。
化け物の口が開かれて凄まじい臭気が顔に浴びせられる。そこには蜘蛛とは思えない不揃いに並んだ巨大な歯が見えた。
食前にナイフを研ぐかの如く二つの鎌を打ち合わせ音を鳴らす。
「ぅ――だれ、か――だれか……!?」
必死に絞り出した声は誰にも届くことはなく。
二つの鎌が男の背後へと突き刺さり、完全にその退路を断った。
蜘蛛の開かれた口がゆっくりと近づいて男の上半身が完全に覆われた。
食われた
諦めと共に、そう思った瞬間――――轟音とともに視界が開けた。
唐突に明るくなった視界の眩しさに耐えきれず目を瞑ると、顔全体に生温いものが付着しているのが感じられた。
何が起きたのか分からず、それ触れ気付く。腐臭のする青黒い液体———それはガストレアの体液だった。
理解できない事態に唖然と周りを見回し、怪物の残骸を挟んで二人組の少年少女が立っている事に気付く。
「…………」
「
円状に肉片の散らばる、その爆心地で槍を掴み静かに佇む黒コートを身に付けた黒髪の少年。
その傍らには寄り添うように真っ白なセーターを着た銀髪の少女が立っている。
絶望から一転助かった男は呆けたままに、よろよろと立ちあがり二人組に近づいた。
「あ、あんたら、助かったよ、ありが――」
「口を開くな」
少女が消えた――そう思った瞬間、男の身体は地面に這いつくばり上から少女の足に踏みつけられていた。
「なっ、なにをっ!―――」
「三度目はない、口を開くな」
突然の少女の暴行に抗議しようとするが、少女の痩身に似合わぬ力で身体を踏みつけられ動けず、冷ややかな声で宣告され口を閉じる。
「マスター、この男はガストレアの血を浴びました。ウイルス感染の疑いがあります、今すぐ殺しましょう」
「ッ!?」
何でもないことのように自分を殺すという少女に対して「ふざけるな、やめろ」と、そう言うつもりで視線を上に向けた。
それによって少女の赤く光る双眸が男の視界に入った。
赤い瞳———それはこの時代においてはあまりに大きな意味を有していた。
『呪われた子供達』
ガストレアウイルスとその抑制因子を持ち、それによって並はずれた回復力と高い運動能力を得た者達、その特徴は赤い瞳と全員が少女だということ。
そんな彼女たちはその特徴と人外じみた身体機能、そして人類の敵ガストレアウイルスを持っている事により赤眼、赤鬼などと呼ばれ迫害・蔑視されている。
つまり、この少女もまたガストレアウイルスをその身に宿しているのだ。
「あ、赤眼ッ……!?」
その言葉を聞き少女の瞳が細まり、冷徹なものとなる。
男を踏みつける足にこもる力も強くなり男の骨が軋みをあげる。
「ガッ!?」
「……今すぐ殺しましょう」
少女の手が振りあげられる。
普通に見れば何の力も持たない少女の軽い一撃、しかし呪われた子供達の一人である少女の一撃は人を容易に殺しうる力を持つ。
「…………待て」
マスターと呼ばれていた黒髪の少年が初めて口を開いた。
その言葉を聞いた途端、少女の手が下がり男の身体に置かれていた足もどけられた。
槍から手を離した少年はこちらに近づいてくる。
自分を殺そうとした少女と共にいる少年、こちらをみるその表情からは何の感情も感じ取ることが出来ず、彼は自分に何をするのか?と男は言いようもない恐怖感を感じた。
男の前まで来た少年はこちらにゆっくりと手を伸ばしてくる。
「やめっ! 助けてくれぇ!!」
眼を瞑り頭を抱える。
しかし、いくら待っても何の衝撃も襲ってこずに恐る恐る眼を開いた。
目の前に差し出された掌、その上に何かがのっている。
「……抑制剤」
言葉少ないまま、男に掌にのっていたガンタイプの注射器具を渡す。
「こんなゴミにも施しを……マスター、何てお優しい。ギンは感動しました」
少女は先ほどとは打って変わって別人のように瞳を輝かせキラキラした目線を少年に送る。
「あ、ありがとう」
「泣いて感謝しろ、ゴミ野郎」
「あ、ああ……」
本当に人が変わったかの如き少女の豹変具合に思わず素直にそう答えた。
少年は用はもうないとばかりに槍を引き抜き立ち去ろうとする。
少女もそれにつき従い少年に「ステージⅡを一撃とは、さすがマスターですっ!」「マスターと一緒にいられるなんて、私は幸せ者です」などと嬉しそうに話しかけている。
そのまま立ち去っていく二人―――
「ま、待ってくれ」
自然と、男は二人を呼びとめていた。
少年の方は変わらず無表情に少女の方は不機嫌そうな顔をしながらこちらを向いた。
「あ、いやその………あ、あんたらは一体何なんだ」
少女の視線に最初は口ごもったが、やがて一大決心でもしたかのような表情でそう問いかけた。
「そういえば名乗りをあげるのを忘れていましたね」
男の心情をよそに少女は意外なほど簡単に質問に答える体を示した。
一度深く深呼吸をした後、少女は真っ平らな胸を張りながら男に言った。
「その薄汚れた耳でよく聞くといいでしょう
私の名は銀丹、モデル・ウルフのイニシエーターにして、マスターに使える忠実な戦士。
そして私のマスター。
寡黙にして冷静沈着。
如何なる猛威を受けても微塵も揺るがず。
銃槍を振るえば如何なる脅威も屠る。
故に常勝不敗。
黒い外套に身を包み巨大な銃槍を持つその姿に人はマスターを『
最堅にして最強のプロモーター、
「ブラック……ガンス……」
聞いたことがある名前だった。
集団行動を好まぬ性質から特定の警備会社にも属することなくガストレアを狩り続けるフリーランス。
正式にイニシエーター監督機構に加入していないが故に本当の序列はないが、非公式な格付けでは序列一桁には確実に入ると言われる実力者。
男は呆けたように少年、鉄災斗を見た。
聞いた噂から大男を想像していたが実際は驚くほど線が細く背も高くない。
驚異的な力を持つガストレア、それをこんな少年が一撃で殺した。
常人では到底不可能。
しかしそんな不可能を可能にする人間の事を人はこう呼ぶ。
「―――――英雄」
銀狼の少女を連れた漆黒の英雄、しかしこの物語は決して英雄譚などではない。
もっと酷い、とても残酷なお話…………。
■鉄災斗■
銀髪美少女の尊敬のまなざしウマ━(●゚∀゚●)━イ!!!! ギンたんかわええーっ、くんかくんかprprしたいおっ。
すまぬ……勘違いモノを書きたくなってしまったんだ。
アニメ見て書きたくなっちゃいました、すいません。
この作品はアニメと公式ホムペの用語説明だけで書いてるので悪しからず。
バイト代入って原作買うまではアニメに合わせて進みます。
アリア、キリカの方もゆっくりと書き進めているので待っていてください!!