ブラック・ブレット―楽園の守護者―   作:ひかげ探偵

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第十話 現在

この世界において、人と人との協力、信用、信頼など――――絆というものを声高く主張する者がごまんといる。なるほど、実に聞こえのよい言葉だろう。だが、そんな中で実際に手を取り合い信頼し合う者が何人いるのだろうか。1%、いや0.01%ほどもいればいい方だろう。

 

事実、人間という生き物はよく争うのだ。それは女のためだったり、金のためだったり、権力のためだったり、宗教のためだったり、夢のためだったり、理由などなんでもいい。ただそれにもある一つの共通点が存在する。

 

 

 

それはすなわち――欲望を満たすため。

 

 

 

しかし欲望を満たすこと、それは全ての人間が持つ権利ではない。

 

 

 

ある者が言った。

 

万人は生まれながらに平等だと、人に上も下はない、と。

 

 

 

事実か? 真実か? 現実はそうなのか?

 

否。

 

 

 

生まれた時、赤子は既に育つ環境が決定している。

 

所属するコミュニティで、人間のもつ格差が浮き彫りになる。

 

社会で、人には上と下の関係が存在している。

 

 

 

頭脳、身体能力、美醜、愛、社会、貧富、権利、全てのものには上と下がありそこには埋めることのできない差がある。

 

 

 

下の者は上の者によってその行動を制限される。

 

下の者は上の者によってその思想を制限される。

 

 

 

それはある種の摂理であり、人間の産み出した法則である。

 

しかし下の者はそれを享受してきたわけではない。

 

不満を持ち、目的を持ち、思想を持ち行われるものがある。一揆、下克上、言い方は数多あるが、自分はこう言おう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――革命と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある部屋の一室、そこには二組みの男女の姿があった。

 

「エラそうなこと言ってやがったのに。結局あいつもただのガキってことですね」

 

伊熊将監は昨夜の出来事を思い出しながら悪態をつく。

それがいつも鋭い目つきを更に攻撃的な様相へと変え異様な威圧感を醸し出させている。

 

現在、彼のいる場所は外周区の一角、かつてビルだった建物だ。人が住まなくなって何の手入れも加えられることなくコンクリートがむき出しの、しかしその中でもマシな一室――おそらく社長室だった場所――である。

 

そして将監の隣に立つのはどこか冷めたような雰囲気を纏うイニシエーター、夏世。

 

「彼らは序列十二万程度……仕方がないと思いますよ、将監さん」

 

その発言にジロリと鋭い視線を浴びせる将監。

夏世はそれに対して特に反応を示さずに目の前にいる男女に問いかけた。

 

「お二人はどう思いますか」

 

「分相応、身の丈に合わない夢を抱いて潰れた。それだけです」

 

そう冷たく言い放ったのは銀髪の少女――銀丹。

その顔には何の感情も見られず先ほどの言葉に嘘はなく淡々と事実だけを述べたように見えた。

そしてその視線を唯一この部屋で座っている自分の主へと向けた。

 

「………」

 

何も語ることなく視線の先の鉄災斗はただ顔を俯かせていた。

 

 

 

 

『里見蓮太郎・藍原延珠ペアが昨夜、テロリストの蛭子影胤・蛭子小比奈と交戦、重傷を負った』

 

 

 

 

将監はそれに憤り、夏世は当然の事と受け止め、ギンは斬り捨てた。

そして災斗は声を出すことなく俯き、しかしその雰囲気が醸し出すのは落胆。

 

「どんな怪我?」

 

「二発の弾丸を受け、あとは腹部に刺し傷、それと肋骨など複数個所を骨折あるいは罅が入っていたようです」

 

「……回復の見込みは」

 

「完治はそう遠くないと言っていました。人間とは思えない異常な回復力だそうです」

 

その様子を見た将監は小さな声でギンへと声をかけた。

 

「……ギン姐さん。災斗さんとあのガキって面識あったんですか? 何かへこんでるみたいなんすけど」

 

昨夜、蛭子影胤と蛭子小比奈の襲撃に遭い重傷を負っていた蓮太郎をそのイニシエーター藍原延珠に導かれ、それを助けたのは他でもなく伊熊将監・千寿夏世ペアだった。

雨によって消えかけていた血の痕を追い川の下流にてその姿を発見したのだった。

しかしそれを踏まえても自分達はこの話をどちらかと言えば蛭子影胤達の方を焦点にあて話したつもりであった。

しかし災斗は予想外にも里見・藍原ペアの方に大きな反応を示している。

プロモーターとしての蓮太郎の序列は下位、将監にはとても災斗と接点があるようには思えなかった。

返ってきたのは予想外な答えだった。

 

「先日から幾度か話す機会があったので、それなりに面識はありますね」

 

「マジですか!?」

 

災斗、ギンの二人が東京エリアを本拠にしている事は知っていた。

しかしその動向は全くと言っていい程分からないのである。

比較的、他人に比べて会う機会の多い自分ですら出会えるのはよくて月に一、二度。

なのに里見蓮太郎は出会って間もないのに何度も会っているという。

その心情は推して知るべし、言うまでもないだろう。

 

すっと将監の手が背負う大剣の柄に添えられる。

 

「ちょっとイってきますわ」

 

「すぐに向かいますか」

 

「ああ」

 

夏世もその言葉を聞いてすぐに移動できるよう足元の鞄を両手で掴んだ――ところで頭を叩かれた。

将監と共に軽く悲鳴を上げる。

 

「でッ!?」

 

「っ!」

 

「少し落ち着きなさい。少なくとも今回の一件が片付くまでは私達はこの外周区の付近にいますからいつでも来てください」

 

「ッ――うっす!」

 

「なら……分かりました」

 

それぞれ嬉しそうな反応をする二人を眺めたギンはため息をついた後、ふたたび話を進めた。

 

「それで……ここに来た目的は何ですか? まさかそんな話をしに来たわけではないでしょう」

 

そう言われ流石だ姐さんだ、と感嘆する。

この二人に会いに来た理由、それはテロリストについての情報を届けるという事もある。

しかし本当の目的は違う。

本当の目的、それは東京エリアのトップ――聖天子からの伝言を届けるという事だ。

本来なら高序列である将監にこのような使い走りのような真似をする義務などはないのだが相手側の人物が災斗達と聞いた時、それに自推した。

 

「災斗さん、いいすか」

 

将監が災斗に向き直り声をかけると、それに反応し顔が上げられる。

 

「これがもう一つの要件っす」

 

将監の手から災斗の手に何かが手渡される。

 

「……携帯電話?」

 

渡された物体は携帯電話というには随分大きく災斗の手に収まりきっていなかった。

 

「軍用のトランシーバーみたいなもんらしいっす」

 

「政府で開発された最新式の物ですね。かなり広範囲、具体的には各エリア間でも通信が可能なようです」

 

「それで聖天子からの指令があるらしくて連絡は向こうからする、って言ってました」

 

「それは……随分と自分勝手ですね」

 

正式な民警ではない、どちらかといえば傭兵という形容が正しい災斗達に対してこの態度。

本来なら自分から赴いて一言でも断りを入れるのが最低限の礼儀である。まあ、それに自分達が協力するかは別として。

それに自分のマスターを軽んじられたと感じたギンから不機嫌な雰囲気が漂う。

 

「今回は仕方ない」

 

トランシーバーを懐へとしまった災斗はそう言って立ちあがる。

そして胸元まで上げた拳を軽く開けながら呟く。

 

 

 

 

「……でも、今回限りだ」

 

 

 

 

「「――っ!」」

 

明らかに周りを威圧する意思をもって放たれた強者のプレッシャー、それは二人の身を竦ませ、底冷えするかのような冷たさを宿した声音はそれは聞いた二人に自分の背が凍ったように感じさせた。

 

災斗は開いた拳を握りしめこれから先の未来を幻視するように虚空に視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

 

 

ギンはわきあがるその感情に表情が綻ぶことを止めることができなかった。

 

 

マスターが他人に従うというのは私にとって耐えがたい苦痛だった。

家族のなかで私が恒常的なマスターの相棒として選ばれているから、だからマスターを支えるのは私の役目だとそう考えている気持ちもある。

 

だが違う。

実際、全てにおいてマスターは聖天子(あの女)を勝っているのだ。

マスターの方が強い。

マスターの方が賢い。

マスターの方が優しい。

マスターの方が人を助けている。

 

今までは仕方なかった。

理由があった。

それはマスターから課された制限であり約束であった。

だからこそ受け入れていた、我慢していた。

 

でもマスターは今回限りといった。

これで最後。

もうマスターは自由に動ける。

 

自分の主が誰かに従わなくていい、その事実がギンを歓喜させていたのだ。

 

(まずはテロリスト、ですね)

 

自由への為の第一歩としてこの事件を終わらせるためギンは思考の海へとその身を沈めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

 

 

俺、こと鉄災斗は真剣に考えていた。

 

これは俺の今後の人生を決めかねない思考の命題。

 

ここで全てをさらけ出すという選択をしても、真実を隠すと言う選択をしてもおそらく俺の家族達はそれを受け入れてくれるだろう。

 

だが違うのだ。

 

これは俺自身が俺だけの為に選び抜かなければならないもの。

 

 

 

どっちだ。

 

 

 

どっちなんだ。

 

 

 

俺は。

 

 

 

俺はっ。

 

 

 

――――俺はっ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スパッツ派なのか、ブルマ派なのか!?

 

 

 

 

 

 

――――スパッツとブルマ。

 

 

それは古来より学び屋の子女が身にまとう聖衣として互いに覇権を争い続けてきた神代の遺物。

今では邪道(俺の中では)の第三勢力・TAN☆PANによってその王位を簒奪され消えかけていた。

 

だが―――だがしかし、今ここにその片割れ、すなわち″スパッツ″を身にまとう夏世さまがご降臨されておるのだ。

 

まあ、夏世は今回ファッションとして″スパッツ″を着ており、本来ならこの場合には体操服という枠組みに囚われることなくホットパンツ、ジーンズ、スカートスタイルなどといったものからガーターベルト装備あるいはニーソといったものにまで無限に派生していくものではあるのだ。だが今ここでそれら下半身装備をすべて語る事をしてしまったら作者は確実にあとがきなども含めた80000文字では収まりきらぬ、と断言できるので泣く泣く!残念ながら!……妥協しよう。

 

 

 

 

『スパッツ』

 

それはとどのつまり下着の一種である。

多くの者からは女性の肌の面積が減る、もっとエロいのがいい、てか何それなどと言った下らない戯言をほざかれている。

 

ごほんっ!

だが敢えて言おう――カスであると。

 

肌面積? 

エロいのがいい? 

そもそも、それ何?

 

HA? 

ヴァカな奴らだ。

無知蒙昧、とそう断じさせてもらおうか。

 

 

確かに昨今、多くの男性は女性の肌面積の多さ、つまり露出の多さに多大な関心を寄せている。

では聞こう。

 

 

露出=エロなのか?と。

 

 

確かにぃ、露出もええよぉ!

スパッツにしたらパンチラの可能性も消えるしぃ、生ふとももも見れなぃ、ニーハイの三角による絶対領域が形成される可能性すらも消えるぅ!

 

だが……だが、しかしだ!スパッツを装着すれば衣服と肌との密着度が他の衣服よりも劇的に上がるのだよ、つまり、そのエキセントリックな試みにより生み出されたものは、奇跡と呼んでもおかしくはないものであり、事実その行為によって本来は隠されていなければならない真の魅力を衆目に晒け出すという相乗効果。それを経て顕現したソレはまさに至高の芸術品であり―――まあ……この作品を読む紳士なら理解しただろう。

 

もちろん、分かったよな。

は?

分からないだと。

 

ふん……つまりだっ!

簡単に言うと!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――透ける。

 

 

 

 

 

おぉ……。″透ける″……その一言がなんと奥深いことか。

その事実だけでそこから広がっていくのは未知の可能性への探求心。

 

 

 

 

赤。

 

青。

 

黄。

 

緑。

 

紫。

 

ピンク。

 

黒。

 

白。

 

ストライプ。

 

マーブル。

 

柄物。

 

クマパン。

 

レース。

 

シルク。

 

T。

 

 

 

HA☆I☆TE☆NA☆I

 

 

 

 

 

ヒィィィィィィィィィ――――――――――――――ハァァァァァァァァァアアアアアアアアア――――――――――――――――ッッッッ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まあハイテンションが続くと思われた俺にショッキングなニュースが飛び込んできたのであった。

 

 

 

 

 

【悲報】原作主人公がかませだと思ってたキャラに半殺し

 

 

 

 

1:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

未だに現実を受け止めきれてない俺がいる

 

 

2:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

誰情報よ?

 

 

3:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

マッチョ舎弟

 

 

4:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

アイツさとみんの事嫌ってるやん、ガセネタ疑惑ふじょー

 

 

5:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

それとスパッツたん

 

 

6:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

事実だな

 

 

7:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

(笑)

 

 

8:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

つーか、さとみんってパピーに負けたのかよww

 

 

9:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

俺、パピーって序盤にしか登場しない雑魚キャラだと思ってたわ(^q^)

 

 

10:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

え、ちょ、待てよ。主人公半殺しって……え、もしかしてだけど、あの人って超えるべき壁兼ライバル的立ち位置?

 

あの燕尾服のヘンタイ仮面が? うそーん。

 

 

11:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

というか、さ……これって俺がいるから、原作が変わってる的なやつですかい?

 

 

12:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

アリエール

 

 

13:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

つまんな

 

 

14:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

実際、ギャグじゃなくて普通にヤバ気な件について

 

 

15:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

なんで?

 

 

16:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

ピンチ到来→原作主人公が死んでおりご都合主義発動なし→人類滅亡

 

 

17:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

・・・・・・・・・

 

 

18:以下、幼女を視線で愛でる会の会長でお送りします

・・・・・・・・・

 

 

18:以下、幼女を素手で愛でる会の会長でお送りします

\(^o^)/

 

 

 

 

 

 

 

 

……おら達の物語はこれからも続きます――そう貴方の心のなかで。

 

 

 

ブラックブレット―楽園の守護者―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

い、いやステイステイ!

もしかしたら重症とかいいつつ、実際そうでもないかもしれないじゃないですかー(汗)

そこんとこどーすか、スパッツさん!

 

「二発の弾丸を受け、あとは腹部に刺し傷、それと肋骨など複数個所を骨折あるいは罅が入っていたようです」

 

結構真面目にやばい怪我だったお。

普通に即死してもおかしくないレベルですね、はい。

 

半分諦めた心持で質問を続ける。

 

「……回復の見込みは?」

 

「完治はそう遠くないと言っていました。人間とは思えない異常な回復力だそうです」

 

信じてたぜ!

さっすが原作主人公、みんなのさとみん♪

……え、ていうか本当にすごくね……いやすごいっていうか、やばい。

人外だろ、もはや。

 

里見蓮太郎=人間じゃない説が今ここに浮上しました。

原作から判断するにガストレアの因子を埋め込んだ人間…かな?

いやでもそれにしては弱すぎるような……。

 

『……ター●ネーター……強化人間……ま、まさか…Gエクス●リエンs――』などと考え込んでいたら将監に名前を呼ばれた。

驚いて顔を上げたらケータイ渡された。

 

 

ケ、ケータイだぁ―――――っ!!!!!

え、マジで?

これもらっていいの!?

 

驚きのあまり動揺しちゃうが仕方ない。

何を隠そう、僕ちんケータイ持っていないのです。

というか……うん、そもそも戸籍がないのです。

下水道に住んでるのも実はそれが理由のひとつだったりする。

松崎の名前で家を購入するという手もあったのだが、まだウチの幾人かは一般人に対して強い嫌悪、あるいは恐怖感を持つものもいる。

彼女たちのためなら僕は下水道でも大丈夫です(キリッ

 

などとふざけていたらギンたんからめちゃくちゃ不穏な気配が漏れ出していた。

ちょい待ってーな、ギンさん!

と、止めてみたはいいもののギンたんの機嫌は回復する気配なし。

 

ふぅ……でもそろそろ限界かな。

もともとギンたんは聖天子が嫌いっぽかったし。

俺が聖天子に従おうとするとイライラオーラ出してたからなぁ。

いい人だと思うけどなぁ、ロリじゃないこと以外。

 

あ、とりあえずこれは貰っとくね。

懐にケータイをしまう。

 

でも我慢は美容に悪い。

ギンたんの肌が荒れたら大変だ……仕方ないか。

  

 

 

 

 

この事件が終わったら()()を実行に移そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■千寿夏世■

 

 

 

 

私のなかでは恐怖と高揚感が混じり合っていた。

目の前の災斗さんが放つ周囲の気温が下がったのではないかと思うほどの冷徹な威圧感に対し隠しきれぬ恐怖感があり、それを隠すことなど私には到底できなかった。

 

 

鉄災斗――単騎では確実に東京エリアで最強、イニシエーターの銀丹とではー正式な民警ペアではないがーおそらく、いや確実に世界でも上位に入るであろう実力者。

そして私達をある一件で精神的な意味でも身体的な意味でも救ってくれた人達でもある。

その時に私はこの二人のあり方に憧れの感情を抱いていのだ。

 

 

その内の一人が普段は見せない自分の強さを露にしてくれている。

それが与えるのは純粋な驚き、未知への恐怖感はそれに負けないくらいの好奇心という高揚を私に与えていた。

 

そんな私とは違い自分のプロモーター伊熊将監はおそらく喜び、そして悔しがっているのだろう。

 

将監さんはずっと強さを求めている。

求める強さ(カタチ)は変わっても強さを求めるもの(ホンシツ)は変わらない。

今も昔も変わらず未だに届かないそれに手を伸ばし続けているのだ。

そしてこれからもそれは変わらない、変えられないのだろう。

 

だから私も、将監さんのプロモーターである″千寿夏世″も変わらない。

今も昔もただずっと―――。

 

 

 

 

 

 

私、千寿夏世は他人より優れた知能を持っていた。

モデル・ドルフィンのイニシエーターである私はイルカの因子を持ち、他と違い前衛で活躍する攻撃的な能力を持たない代わりに知能指数、記憶能力が優れていたのだ。

だからという訳ではないが物事を冷静に見て、なおかつ人の感情を察することが出来た。

とはいっても私達に向く感情にプラスのものはなかったが。

 

 

 

当時、国際イニシエーター監督機構に加入していた私はそこから派遣される形で三ヶ島ロイヤルガーダーに来ていた。

前と後ろにいる二人の屈強な男性二人――イニシエータ監督機構に所属し私をここまで届けるまでの監視役――に連れられ通路を歩くと一つの扉の前に辿りつく。

前に立つ男性がノックしすぐに男性の声が聞こえた。

 

「入りたまえ」

 

扉を開き中にいたのは先ほどの声の主である一人の男性、三ヶ島ロイヤルガーダー代表取締役。

 

「ご苦労だった」

 

監視役の二人にそう言って部屋から退出させる。

 

「ようやく来たか、うちもイニシエーターが不足していてね。助かった」

 

「はい」

 

私は一言相づちをうつが目の前に立ち話しかけるこの人は私を見ながらも″千寿夏世″を認識してはいなかった。

挨拶も自己紹介もなしに進むそれはただの確認、独り言のようなものである。

礼儀を欠くその行為を、しかし私の心を掻き立てる事はなかった。

 

″まだどれ程役に立つのかすら分からない化け物″

 

それが、この人の私に対する認識なのだろう。

その事をひどいとは思わない。

むしろ世間一般からすれば、それなりにましな認識だろう。

 

「チッ、時間を過ぎているぞ。将監め、何をしている」

 

焦れたその声が私の耳に届いた。

壁にかかる時計を見れば時刻は9時01分。

おそらく召集していた時間は9時なのだろうが、それよりも一分過ぎていた。

私にはまだ誤差の範囲に思えるがこの人は時間に厳しい性格の様だ。

もう一つ、情報が手に入った。

しょうかん、それが私のプロモーターの名前か。

 

耐えきれなくなったのか、机の上に置かれた電話を手に取るとどこかに電話をかけた。

 

「おい!まだか将監―――ん、何―――だから今何を―――」

 

そんな時、廊下側からドタドタと荒い人の歩く音が聞こえてきた。

それは次第に強くなり、ドンッとこの部屋の扉が開けられた。

 

「だから、すぐ行くっつっただろう!」

 

携帯を片手に入ってきたのは一人の男性。

筋肉質な体にはタンクスーツ、口元をドクロのモチーフの刺繍の入れられたスカーフで隠しているのが印象に残る。

 

「すぐ、だと? 既に予定時間に遅れているではないか」

 

「数分くらい変わんないすよ」

 

もめそうな雰囲気が漂い始める中、部屋に入ってきた男性の目が私を捉えた。

 

「三ヶ島さん、こいつが?」

 

「ああ、君のイニシエーターだ」

 

「お前、名前は?」

 

「……千寿夏世です」

 

「俺の名前は伊熊将監。夏世、てめぇみたいな道具を使うのは三ヶ島さんが言うからだ。邪魔だけはすんじゃねぇぞ」

 

将監さんと正面から会話してみて初めに抱いた印象は″よく分からない人″だ。

目つきは悪く、話し方も粗暴、体格も大きく、そこから与えられるのはとても攻撃な印象だ。

少なくともいい印象を与えないそれらの雰囲気、しかし私を見るその眼は他の人達とは違っていた。

 

嫌悪、憎悪、侮蔑、怒り、憐憫―――どれも違う。

これは……同情、ですか?

 

私達とは違う一般人、なのに私に対して同情している、何故?

今まで見てきたどんな人達とも違う。

この人は何なんだろう?

 

よく分からない、でも―――――

 

 

 

 

 

 

戦闘時は私の能力と将監さんのスタイルから将監さんが主に戦闘をし私がそのサポートになる事が多かった。

日々の戦闘を通し将監さんはガストレアとの戦いを自分から望んでいる、そう感じてはいた。

しかし私にはそれについて尋ねることは出来なかった。

将監さんは私を道具だと言っていたし、答えてくれる気がしなかったから。

そんな私達に訪れた転機は″鉄災斗、銀丹との出会い″だろう。

 

私達はその日、外周区に現れたガストレアの討伐に向かっていた。

対象はすぐに討伐したが私達はそこでさらに別のガストレアを見つけた。

推定ステージⅡのガストレア、問題なく倒せる相手だったが、ガストレアのいた場所が問題だった。

 

 

――未踏破領域

 

人類を守るバラニウムの巨壁″モノリス″の外、ガストレアの跋扈する死の大地。

 

 

私は躊躇った、自分達にはそこまでの力が無いと考えたからだ。

しかし将監さんは倒すと言って、私もその言葉に従った。

 

私はイニシエーター。

 

私は消耗品。

 

私は道具。

 

流されるままに私は未踏破領域への一歩を踏み出したのだ。

 

 

結果、私が得たのは絶望だ。

人類を蹂躙する化け物″ガストレア″、その最高位(ハイエンド)の存在、すなわちステージⅣ。

巨大な体躯に凶悪な再生力、そして人類など到底及ばない膂力。

私のハリボテの戦意など一瞬で掻き消えた。

 

身体がガストレアに吹き飛ばされた。

目障りな羽虫を払うが如く、簡単にだ。

 

将監さんはガストレアに捕まった。

もがいて抵抗して、しかし駄目だった。

助けなければいけないとそう思った。

銃を手に取り発砲した。

しかし、それもガストレアにとっては何でもないものだった。

ガストレアの一撃が私を襲った。

 

 

 

 

 

痛みが消えて、私の意識は薄れていく。

 

 

――もういいよ。休んでも大丈夫だよ――

 

 

眠りたい、だってこんなに眠いのだ。

きっと私は死にはしないだろう、化け物の血を宿したこの身体は今も再生を続けているから。

 

 

――目を閉じて休もう――

 

 

うん、休もう。

ゆっくりと休もう。

 

 

――目を閉じて、そしたら全てが終わってるから――

 

 

うん、目を閉じて、そしたら全てが―――終わってしまうのだ。

 

 

 

掴んで放さなかった銃を片手に持って立ち上がり、しかし身体は限界を迎えてよろめく。

近くの建造物を支えに銃を構え狙うのはガストレア。

トリガーを引いて銃弾が放たれる。

しかし与えた傷は何でもなかったかのように再生していく。

既に私に戦意などない、それでもトリガーを引き続ける。

 

 

 

――無駄なことだ――

 

 

分かってる。

 

 

――ただの自己満足だ――

 

 

分かってる。

 

 

――意味はない――

 

 

それはっ――ちがうっ!!

意味ならある。

将監さんを一秒でも、すこしでも長く死なせたくないんだ。

 

 

私はイニシエーターとしては実に無能な存在だった。

ガストレアという化け物を殺すために存在を許されたのが私達。

なのに私が持っていたのはイルカの因子だ。

 

知能が高くなる?

 

記憶力が優れている。

 

「なんだそれは、なんの役に立つ?」

「存在価値のないイニシエーターだな、お前は」

「私達を不快にさせるだけ、むしろ有害だな」

「お前はなんで生きてるんだ」

「この世界に必要ない存在だな」

 

存在を否定され、価値が無いとされ、いっそ有害だと言われた。

 

しかし将監さんは私を″道具″と言った。

将監さんは私の事を何かに使える、価値のある存在だと言ったのだ。

本人にその気は無かったのかもしれない。

でも言われたのだ、私はそう思った。

だからそれで、それだけで――私は将監さんを救いたいのだ。

 

しかし無情。

現実は残酷で私は死ぬだろう。

ガストレアの一撃が私に振り下ろされる。

終わる―――終わった。

 

 

 

 

 

だが救いの手は突然、私達に差し伸べられた。

圧倒的な力でガストレアを蹂躙し、私達は救われた。

将監さんは心までも救われてしまった。

 

否定された。

見失いそうになった。

 

見せつけられた。

目標を与えられた。

 

将監さんは自分の知らなかったその力に憧れた。

そして変わったのだ。

暴力ではなく英雄としての力を求めたのだ。

 

それは簡単な道ではない。

今までの将監さんの生き方と、求めたものとはある意味正反対なものだからだ。

挫折するかもしれない、また戻ってしまうかもしれない。

それでも私は変わらない。

 

 

ただ支えて、守るんだ、不器用で強がりなこの人を。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで第十話でしたー、わぁー!

夜寝ぼけながら書いたからおかしいところあったかもしれません……ここおかしくね?などといった部分があったらご報告頂けると助かります。



それと最近アカメが斬る!に激ハマりしております。
どれくらい好きかというと一日でアカメが斬る!のss20万文字書いちゃうくらいハマっております。
そのうち投稿すると思うので、そちらも見てくれると嬉しいです♪ヽ(´▽`)/

ちなみに作者はエスデス将軍とボルス家族が大好きです。
ワイルドハント許せねぇです、美人未亡人とロリ娘は必ず俺が救います( ☆∀☆)キュピーン

あ、あと……実は活動報告で言ったようにストパンにもハマってまして(汗)
ストパンはまだ5万文字程度で鋭意執筆中であります(^q^)

マルセイユかっけぇ。
シャーリー女神。
坂本さんかっけぇ。
サーニャかわええ。
エイラまじでおかん。

そしてなにより!

EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!EMT!
イエ───(σ≧∀≦)σ───ィ

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