ブラック・ブレット―楽園の守護者―   作:ひかげ探偵

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気付いたら20000文字超えてた……。

とりあえず分割して削ったら14000文字超えてた……。


……これ以上分割するのも何だからこのまま行きますよ!?


第四話 依頼

天童民間警備会社――――――知る人ぞ知る隠れた幻の事務所。

 

 

 

 

…………なんてことはなく、経営ギリギリのボロい事務所である。

 

「失礼すぎるわよッ!!」

 

おっと失礼。

 

 

 

 

天童民間警備会社――――――それは己の全てを犠牲にしてでもその場所にたどり着きたい、そう決意した者にしか足を踏み入れることの叶わない聖域。

 

 

第一の聖域、そこで待ち受けるは人を惑わす変幻自在の生物『ジン』。

 

ある時は巨大で恐ろしい怪物、見た者を恐怖のどん底に陥れその夢にまでも現れ安息を奪い去る。

 

ある時は真実の愛の伝道師、何も知らぬ子羊達に愛のあるべき姿、その全てをあまさず伝え導く。

 

しかしてその実態は。

 

 

 

――――筋骨隆々な体躯

 

 

――――綺麗に生え揃った顎鬚

 

 

 

そう、すなわち愛の求道者(ゲイ)

 

自ら真に望む自分を渇望(望み)続けると誓い至高に至らんと願う者達。

 

気の弱い男が近づけば容易にその身を魔窟へと誘われ、女性すらもその身に確かな強い心が宿っていなければ近づく事さえ出来ない。

 

ここで試されるのは、ずばり愛する者への思いの強さ。

その思いに嘘偽りがあれば、真実の愛ではないとみなされこの聖域(ゲイバー)を抜けることは許されない。

 

 

 

 

 

第二の聖域、そこで待ち受けるのは男を惑わす『サキュバス』。

 

その者の持つ全てを――

 

金も――

 

名誉も――

 

名も――

 

最後の一滴まで絞り取る。

 

一歩だけで戻れるならば傷は浅い。

しかし……もし深く踏み込んだのならもう戻ることは許されない。

 

 

 

――――偽りの夢

 

 

――――幻想の楽園

 

 

 

そう、すなわちキャバクラ。

 

もしその楽園の使徒(キャバ嬢)によって魅惑の聖水()を与えられ惑うものなら名も財も家族さえも失うやも知れぬ。

 

ここで試されるのも愛する者への思いの強さ。

愛する者への思いが変わらずその身に宿るというのなら一歩すら踏みこむことはないだろう。

 

第一、第二の聖域共に心の弱き者には抜けることは出来ない。

 

何よりこの聖域に入るまでに決めねばならぬ覚悟……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……知り合いに見られたら絶対に噂されるということを厭わぬこと。

 

学生や会社員がこの聖域に近寄っただけで翌日から――――。

 

「ほら一組のあいつ、昨日ゲイバーにいたよぉ」

「うっそぉ!?じゃあゲイなんだ、やば~い」

「うわっwwwwwゲイに声掛けられたしwwwww」

「あの~、○○君がゲイってホントぉ~?」

「あいつぅキャバクラ通いしてんだってぇ、カモられてるっしょ絶対」

「貢ぐ君誕生wwwww」

 

人の噂は七十五日というが、その七十五日は大概、噂がいじめや無視という第二段階に移るまでの準備期間でしかないのだ。

 

今一度問おう。

 

 

……あなたに耐えきれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、冗談はこのくらいにしといて。

二つの聖域を抜けた先、そこには一人の女性が椅子に座りその前に里見蓮太郎と藍原延珠の両名は立たされていた。

机の上に肘を置き組んだ手で口元を隠す女の名は『天童木更』言わずもがな天童民間警備会社の社長にしてゲイバー、キャバクラの上に事務所を置いた経営才の無いお馬鹿な女だ。

 

「木更さん……なんでそんなに不機嫌なんだよ」

 

俺は目の前に座るしかめっ面の木更さんにそう尋ねた。

 

「逆に聞きたいわね。貴方はどうしてそんなに平然としているのかしら」

 

「別に……平気じゃねぇけど」

 

「……同じ民警に、一方的に、格下と侮られたのよ?」

 

どうやら木更さんは俺が今朝の民警、そのイニシエーターの少女に馬鹿にされて何も言い返せず帰ってきたのが気に食わなかったらしい。

 

「んな事言われてもなぁ」

 

「言い訳しないの!!」

 

「いや、木更よ。実際あやつらは強かったぞ」

 

話の通じない木更さんの一方的な様子を見かねたのか延珠が話に割って入ってきた。

……精神年齢は延珠が一番高そうだな。

 

「大体、そんな民警は国際イニシエーター監督機構(IISO)で照会しても分からなかったわ。槍や鎖を使う民警は少なからずいるけど……彼らではないんでしょう?」

 

事務所に来てすぐ木更さんならばと思い話して調べてもらい上位にいるペアの幾人かをリストアップしてもらった。

しかし、それは別人であり一向にあの二人組に関する情報を得られることは出来なかった。

少年のプロモーターと銀髪のイニシエーター、ただでさえ目立つ要素が満載なのにこうも見つからないとは……。

 

「……民警だと思ったんだけどな」

 

「女の子の方はイニシエーターだったんでしょ?」

 

「ああ、間違いない。瞳が赤かった」

 

「凄く怖かったぞ。視線を向けられた時、背筋が震えた!」

 

破格の強さを誇るイニシエーターである延珠にしてもこう言わせる銀髪のイニシエーター。

しかし、俺は彼女よりもガストレアを一撃で倒した俺と同じプロモーターである少年の方が気になっていた。

 

「男の方はどう思った」

 

この問いかけに延珠は口を閉じた。

 

「……分からない」

 

ようやく発した答えを聞いて思わず木更さんと顔を合わせ首を傾げた。

延珠は動物の因子を持ったモデル・ラビットのイニシエーターである。

そのため、その遺伝子を強く受けつぎ野生の勘、動物的本能とも呼べる危険を察知する能力に優れ相手の強さがどの程度かおおよそ測る事ができるのだ。

 

「延珠でも分からなかったのか」

 

「いや、強いとは思うぞ、でも……」

 

「でも?」

 

「妾の方を見た瞬間、気配がどこか弱々しくさえ感じるものに変わったのだ」

 

どこか腑に落ちぬと言った表情でそう言う延珠に木更さんが「……もしかしたら」と言葉を繋げた。

 

「延珠ちゃん、というよりは呪われた子供達に何かしらの思い入れがあるのかもしれないわね」

 

「思い入れ、呪われた子供達に……」

 

状況から察するに怒りや憎しみといった負の感情によるものでは無いことは間違いない。

同情?

憐憫?

何故、あの少年が呪われた子供達に対してそんな風に思うのか。

考えれば考えるほど、あの少年に対しての疑問か涌き出てくる。

 

唐突に乾いた音が鳴り響き俺はいつの間にか俯いていた顔をあげた。

見ると木更さんが両手を合わせた状態でこちらを見ていた。

 

「その二人組について何も分からない以上、悩んでも無駄よ。私の方で調べておくから今日はもう帰りなさい」

 

確かに素性も、名前さえろくに分からない者のことをどんなに頭で考えても無駄だろう。

 

「そうだな……。帰るか、延珠?」

 

「うむ、帰ろう! 妾達の愛の巣へ」

 

「勘違いされる言い方をするんじゃねぇ!!」

 

漫才を繰り広げながら事務所から出ていく二人。

そんな彼らの背中を見送りながら一人残った天童木更は呟いた。

 

「序列のない民警……いや、まさかね」

 

思い立った可能性を自ら否定して首をふった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺は木更さんに呼び出されて共に庁舎の中、その第一会議室と書かれた扉の前に立っていた。

防衛省からの通達によるものであるそれは半ば強制的なものであり理由すら聞かされぬまま俺達はここに来ていた。

まあ天童民間警備会社は弱小であり、仕事は回してくるのはあくまでも上層部、そうあるからには上役に逆らうことなど出来るはずもない。

 

「無理矢理だな……」

 

「そうね、でもウチは里見くんの甲斐が無いせいで弱小だし、仕方ないわ」

 

「全て俺のせいみたいに言ってるけど、事務所の立地のせいだろ、絶対」

 

「あら遂に言い訳かしら、本当に良い事務所は場所を選ばないわ」

 

「出来たての事務所に良いも悪いもねぇだろ」

 

「里見くんが強ければ立地も関係なく依頼者が来るはずよッ!!」

 

「……今、立地が悪いって認めたよな」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……もう、いきましょ」

 

「……だな」

 

深呼吸してから、木更さんの代わりに扉を開けると部屋の全貌が視界に入った。

広い室内には中央に細長い楕円形のテーブル、奥には巨大なELパネルが壁に埋め込まれていた。

そして卓を囲むように何人ものスーツ姿の者達が座っており、その後方には様々な風貌の連中が幼い少女達を連れ添い立っていた。

 

「木更さん、こいつらは……」

 

「どうやら民間警備会社の社長のようね、後ろにいるのは所属するプロモーターとイニシエーター」

 

部屋に入ったことで全員の視線が俺達に集まった。

殆どの視線には物騒な雰囲気が篭っており、俺は木更さんをその視線から庇うように一歩前へ出た。

 

「はっ、ガキの分際で一丁前に騎士(ナイト)気取りかよっ」

 

一人の男がそう言いながら俺の方に近寄ってきた。

タンクトップの上からでもはっきり分かる鍛え上げられた肉体、逆立つ頭髪に口許はドクロのスカーフで覆われている。

何より男が片手に持っている十キロはありそうな巨大な黒い大剣、バラニウム製のバスターソードのようなものが相手の腕力の凄まじさをもの申している。

それを肩に担ぎながらつり上がった三白眼でこちらを睨み付ける。

 

「ここはガキの遊び場じゃねぇんだ。さっさと回れ右して帰れや」

 

目前まで来られると身体の大きさがはっきりと分かり俺よりも頭二つ分は確実に高い。

 

「俺も民警だ。部屋を間違えた訳じゃねぇ、チンピラ野郎」

 

震えそうになる足に渇を入れるように床を踏みしめ男を睨み返してそう言った。

 

「言うじゃねぇか、クソガキ……」

 

目の前の男の握力が強まり剣が軋みをあげる。

俺も咄嗟にベルトに挟んだXD拳銃に手を伸ばした。

 

「駄目ですよ将監さん」

 

いつの間にか将監と言うらしい男の背後に少女が立って上着の裾を掴んでいた。

 

「夏世か」

 

「そこまでにしておきましょう。短慮で良いことなど一つもありませんよ」

 

「ちっ。あ~分かったよ」

 

意外なほどあっさりと少女の言葉を受け入れ俺の方を一度睨み付けてから元いた場所へと戻っていく。

夏世と呼ばれた少女もペコリと頭を下げてからそれを追っていった。

 

「なんなんだよ、あいつは」

 

額に汗が浮かんでいるのに気づき急いでそれを拭う。

 

「おそらく伊熊将監よ。三ヶ島ロイヤルガーダー所属、IP序列は984位」

 

「……千番内、マジかよ」

 

世界中にかなり存在している民警、そのなかでも彼らは上位にいるということだ。

俺などは12万辺りで伊熊将監などとは比べるべくもない。

 

「さっきの通り、彼はプロモーターの中でも短気で気性が荒いと評判よ。うっかり挑発して怒らせないよう注意して」

 

なるほど、確かに()()()が勝つには難しいだろう。

 

「分かった、気を付ける」

 

天童民間警備会社と書かれたプレートのある席に木更が座りその後ろに俺は立った。

丁度、俺達が先ほど入ってきた扉が開き一人の禿頭の男が入ってきた。

その男は部屋に足を踏み入れると同時に卓の周りにある椅子を見回す。

 

「やはり空席は一つのようだな」

 

まるで空席が一つあるのを知っていたかのようなその発言に俺は違和感を覚えたが、男にとってのそれは単なる確認によるものだったらしくそのまま言葉を続けた。

 

「本件の依頼内容を話す前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席して欲しい。依頼内容を聞いた場合、もう辞退することは出来ないことを先に伝えておく」

 

その言葉を聞いても部屋を出ていこうとする者は一人もいなかった。

むしろ一部のプロモーター達からは任務に対する気迫が上がった雰囲気すら感じた。

 

「辞退者はなしということでよろしいか?」

 

男はもう一度周りを見回し確認を求める。

 

「ふむ、では説明を――」

 

話を遮るように突然、扉が開いた。

それに反応した全員の視線が向かう。

開け放たれた扉、そこに立っていたのは黒い外套を羽織った黒髪の少年。

その隣に真っ白なセーターを着た銀髪の少女が連れ立っていた。

その二人組を見た俺は即座に木更さんの耳元に顔を近づける。

 

「木更さん、前に話したのがあの二人だ」

 

そこに立っていた二人組はまさしく昨日、ステージⅡのモデル・スパイダーを瞬殺した二人組。

 

「なるほど、あの二人が……」

 

「ああ、この前の時にガストレアを倒した奴らだ」

 

「そう、あの二人がガストレアを……お金をくれた救世主(メシア)、じゃなくて蓮太郎君を馬鹿にした奴ら……」

 

何やら木更さんの本音と建前が絡み合ったようでブツブツと支離滅裂なことを呟いている。

 

「何なんだお前ら、今は会議中だ、子供が入ってくるな!」

 

扉を開いてから何の行動も起こさない二人に痺れを切らしたのか席に座っていた一人の男が立ち上がってそう怒鳴った。

少年はそちらを見向きもせず立っており、少女のほうは呆れたとでも言わんばかりの表情で言った。

 

「用があるから入ってきたんですが? それぐらい察して欲しいです」

 

「だから何しに来たかと聞いてるんだッ!!」

 

「先ほどの発言にはそのような意図の発言は含まれていなかったと思いますけど……頭が悪いんですね」

 

「なっ!この、ガキッ!」

 

少女の人を小馬鹿にした発言に腹を立てた男は机を強く叩く。

そんな中、俺は伊熊将監がのっそりと動き出したのを見た。

将監はゆっくりとした動きで二人組に近寄っていく。

銀髪少女はその様子に気づくと声を上げた。

 

「……ん、将監。お前もいたのですか」

 

室内の空気が凍りつき、思わずその室内にいた全員は息をすることを忘れた。

伊熊将監は短気で好戦的な男らしい、それは先程の出来事で分かった。

それを訳も分からぬ突然現れたイニシエーターが、少女が馴れ馴れしく呼び捨てにした。

誰もがこの後に起こる惨劇を予想した。

 

(やばいっ!? アイツは小さい娘でも容赦しねぇんじゃねぇのかっ)

 

あの眼を見るにあの少女はイニシエーターだということは確実、だから将監の攻撃を受けても簡単には死なないはずだ。

しかし、わざわざ幼い少女がただ殴られる様を見ていることなど出来るか、答えは否だ。

 

俺はすぐさまあの二人の間に入るため身を屈めて踏みこみ加速するもすでに二人の間には1メートルの距離もなく明らかに間に合わない。

 

(クソッ!!!間に合わ――「ギン姐さんッ!!!!ちわっす!!!!!!!!」――は?」

 

 

 

 

空気が凍った、先ほどとは違う意味で。

 

固まったままの俺達を余所に将監は続けた。

 

「災斗のアニキもっ!!!!ちわっす!!!!!!!!!!!」

 

「ん……」

 

少年は無表情ながら軽く頷き返した。

それを見て少し驚いた顔をした少女が言う。

 

「凄いですよ、マスターが挨拶を返したということは将監に対する好感度レベルがBに達したということの証です」

 

「マジっすか、っしゃああああああああああああっ!!!」

 

よく分からない会話をしつつも将監は心底嬉しそうな顔で叫んでいる。

 

「おい夏世!!お前も来て挨拶しろ!!」

 

「はい将監さん」

 

将監のイニシエーターらしき先程の少女が小走りに3人の方に向かった。

 

「久しぶりですね、夏世」

 

「はい、お久しぶりです。銀丹さん、災斗さん」

 

「おい夏世ッ!もっと喜べや!!」

 

「はい、すごく嬉しいです」

 

将監の言葉を受けた夏世の表情に大きな変化は見られず、それに将監がまた反応しようとするのを銀髪が言葉で制す。

 

「構いません、夏世がこういう娘なのは知ってますから。それより将監、夏世にはしっかりと優しくしてますか?」

 

「もちろんっす!やっぱりプロモーターとイニシエーターに必要なのは確かな信頼関係っすからね!!つっても、お二人の足元には全然及ばないっすけど!!」

 

それを聞いた銀丹と言うらしい銀髪少女は嬉しそうに胸を張り、先ほどまで一文字に結ばれていた口もとも心なしか頬が上がってるように見える。

 

「当たり前です、私とマスターは最強ですから」

 

「……当然」

 

四人が会話を続ける中、この室内にいる者の代表として蓮太郎は口を開いた。

 

「な、なあ、お前はそいつらと知り合いなのか?」

 

ギンッと射殺すような目でこちらを睨み付ける。

 

「こいつら、だぁ……? てめぇ、ガキ、嘗めてんのか。敬語使えやボケ」

 

短気で気性の荒い男、それがこの男を示す言葉だったはずだ。

それが敬語を使って人を敬えだと?

あまりの性格の豹変具合に反応が遅れる。

 

その時、僅かな電子音の後、最前にある巨大なモニターが映った。

全員の視線がモニターに向けられ、座っていた事務所の社長達が例外なく一斉に立ちあがった。

眼を見開きモニターに注視する、かく言う俺も信じられない面持ちでモニターを見つめていた。

そこに映っていたのは純白に身を包む銀髪の美しい少女。

 

 

『聖天子様』

 

ガストレアに負けた跡に東京エリア、そこを現在統治する者。

その未だ幼さの残る外見に似合わないその手腕を惜しげもなく発揮している。

 

 

その背後には聖天子様の影のごとく天童菊之丞がつき従っている。

天童木更の祖父に当たり二人の間には大きな確執がある。

 

モニターの聖天使様が声を発した。

 

『その方たちは私が呼んだのです』

 

その言葉に会議室にいる者たちがざわめきだす。

未だに彼らが誰か分からず伊熊将監には敬われ、聖天子様には直接呼び出されるという謎の二人組、反応に困るのも最もである。

しかし、次に聖天子さまが続けて発した言葉がおそらく聖天子様が現れた時以上のざわめきを呼んだ。

 

『呼んだ理由は単純、彼らは私が知る限り最強のプロモーターとイニシエーターだからです。みなさまも聞いたことはあるのではないでしょうか? 漆黒の銃槍(ブラック・ガンス)序列番外(エクストラナンバー)、その名を』

 

「そんな馬鹿な!!」「あれは都市伝説だろう」「あんな子供が……」

 

室内にいる者たちについていけない蓮太郎は置いてきぼりを食らったような顔をしながら木更に尋ねた。

 

「なあ木更さんそんなに有名なのか。そのブラックなんたらは?」

 

漆黒の銃槍(ブラック・ガンス)よ。有名というよりもはや伝説ね、昨日聞いてもしや、とは思ってたけど……」

 

「……知ってたのかよ? 何で昨日話してくれなかったんだ」

 

「眉唾物だと思ってたから。あまりにも噂が突飛過ぎて」

 

曰く、序列一桁でさえ彼らを冠するには相応しくない故に番号無し

 

曰く、ペアでのガストレア撃破数は世界記録(ワールドレコード)を軽く上回る

 

曰く、ステージⅢまでなら一撃で倒すことができる

 

曰く、彼の前で呪われた子供達を罵倒したら殺される

 

 

「現実味があんのは最後ぐらいだな……」

 

「もし彼らの噂が全て真実だというならあり得なくわないわね。モノリスの外、未踏破領域への単独探索も」

 

「……嘘だろ」

 

人類の最後の砦であるモノリスの外、大量のガストレア達の渦巻く地獄のような世界。

昨日、俺達が相対したステージⅡなんて当たり前、それよりも強力なステージⅢ、Ⅳが闊歩する。

そんな場所をたった二人で。

 

「ありえねぇ」

 

『有り得なくはありません』

 

聖天子様はそう言って俺の言葉を遮った。

 

『プロモーター鉄災斗、そのイニシエーター銀丹に関する噂、みなさまなら必ず一度は聞いたことがあるはず、そしてこの場で私の名において宣言しましょう。彼らに関する噂、その全てが真実であることを』

 

最早ざわめきすらも起きなかった。

皆一様に口を開き件の二人組みを見ている。

銀丹は胸を張り当然だと言わんばかりの顔で鉄災斗は何の反応を見せず変わらず無表情でそれらの視線を受ける。

その横では何故か将監が威張り、夏世もそれに頷いている。

 

「まあ、雑魚共には理解できない領域です。仕方ないですね」

 

「…………」

 

「ケッ、当たり前だ!!なんつってもアニキと姐さんは最強だからな」

 

「そうですね、今さらです」

 

『では、静かになった所でさっそく依頼についての話に移りたいと思います』

 

未だ先ほどの衝撃から立ち直りきらない者もいるが聖天子様は続けた。

 

『今回の依頼ですが、依頼内容は単純明快です。昨日、東京エリアにガストレアが侵入し一人の男性がガストレア化しました。ガストレア化した一人に関しては既に排除が完了しています。しかし感染源ガストレアが現在も逃亡している最中なのです。民警の方々にはこの感染源ガストレアの排除と、もう一つ、このガストレアが保持していると思われるあるケースを無傷で奪還して欲しいのです』

 

ELパネルに別ウインドウが表示されそこにジュラルミンケースと高額な成功報酬が映し出される。

俺達の疑問を予期してか言葉が続けられた。

 

『今回の任務、成功報酬が高額な理由としては一人の男が挙げられます』

 

聖天子様は一度俺の方を向き一瞬視線が交錯した。

 

『蛭子影胤、既に先日接触した者もいるようですが。今朝、大瀬フューチャーコーポレーションの社長が襲撃に会いました』

 

蛭子影胤、昨日の仮面を被ったシルクハット、燕尾服の男。

 

『幸い傍にいた鉄さん達のおかげで大事には至りませんでしたが、蛭子影胤は元民警であり当時の序列は134位、それがこの報酬額の理由です』

 

「134位ッ!?」

 

あまりにも高い、高すぎる序列。

その事実に全員が黙している中、木更さんが挙手をした。

 

「ケースの中身がなんであるか教えてもらってもよろしいでしょうか?」

 

『おや、あなたは』

 

「天童木更と申します」

 

 木更は軽く一礼をするともう一度聖天子を見据える。聖天子も「天童」と言う名に一瞬驚いたような素振りを見せたが、すぐにそれを振り払うと木更の問いに答える。

 

『……貴女の御噂はかねがね聞いております……ですが天童社長それは依頼人のプライバシーを侵害してしまいますのでお答えすることは出来ません』

 

「納得がいきませんね。感染者が感染源と同じ遺伝子を受け継ぐということは、恐らくそれはモデル・スパイダーのガストレアで相違ないでしょう。それぐらいであればうちの民警でも普通に対処できます」

 

 ちらりと蓮太郎を見て「多分ですけど……」付け加える、そんな木更の様子に思わず蓮太郎は頬をヒクつかせた。

 

「私達も任務を受けるにあたって―――」

 

「お話し中失礼」

 

銀丹が声をあげ木更さんの言葉を遮る。

木更さんはそれに少し眉根を寄せた。

 

「どうかしたのかしら? 今は私が聖天子様と話しているのだけど」

 

「いえ、それに関しては正直どうでもいいのですが。ですがわざわざこの会議の場で敵を放置しておくのはどうかと思いましたので」

 

「何の話を?」

 

「……借りる」

 

銀丹の発現に訝しげにその眉をしかめた木更さんの言葉を遮り、先ほどまでしゃべっていなかった少年がそう呟き将監の大剣を掴み投擲した。

あまりにもいきなりすぎる暴挙に全員反応ができず、ただ大剣の行方を目で追った。

剣は誰もおらず空席だった場所めがけて一直線に飛んでいき―――弾かれた。

 

「なっ!?」

 

謎の現象、体験が何もない空間にあたって弾かれた。

そしてどこからともなく聞こえてきた高らかな笑い声が室内を満たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

俺はただひたすらに願っていた。

それはまるで意中の相手に対する告白を彷彿とさせた。

言いたくとも言えない。

口が自分の思う様に動かない。

胸には確かに熱い思いが駆け巡り心は自分の身体を突き動かさんと叫び続けている。

 

今だけで――。

 

この一時でいい――。

 

だから、頼む――俺を解放してくれ。

 

 

 

 

 

――――コミュ障。

 

 

俺が前世で見たブラック・ブレットのアニメ、それは二話まで……。

何が言いたいのか、そうつまり―――原作知識。

 

ここにいるみなさんはご存じないかと思いますが俺はあの空席に蛭子っちが御着席なさっていることを知っているのですよ。

つまりアレだ。

ん……未だ分からぬと申すか。

 

つまりは……見せ場だよ、俺の。

 

 

 

俺がカッコいいことをするとギンたんは必ず俺を尊敬しキラキラした眼で見る。

それもめっちゃペロペロ――じゃなくて嬉しい。

だが、しかぁーしッ!!!

今回は、今回だけは……別目的だ。

 

みなさんには無いだろうか?『死ぬまでに言っておきたい台詞ランキング』なるものが。

 

俺にはある!!

幼女に告白する時に――

幼女とデートする時に――

幼女を褒める時に――

幼女と――etc

 

そして今回は戦闘時に言いたいランキングッ!!!

よく聞け、貴様ら、流れ的にはこうだ。

 

 

俺が何かしら蛭子っちに攻撃を仕掛ける。

で、小比奈パパが驚く

何故気付いた貴様的な事をお義父さんが言う。

 

それで俺がこう言う。

「むしろ俺が聞きたいぐらいなんだが、どうして生きているのに気配を消せないなどと?そこにいる人はそこにいる人でしかないのに」

 

で、それを聞いたギンたんのキラキラ視線GET☆

それに、多分アイツ強いみたいな感じで小比奈たんからの熱い視線もGET☆

 

まさに楽園へ続く栄光の道(パーフェクトプラン)

しかしそれには一つの欠点があった。

 

 

―――コミュ障

 

 

そうまさしく神が俺に課した足枷。

それが今まさにその真価を発揮し俺にとって最悪の試練となっていた。

 

普通の人間なら神に抗うこともせずに諦めるのかもしれぬな……。

だが、俺も伊達に巷で漆黒の英雄などと呼ばれているわけではない。

 

……神に抗ってこその……英雄じゃねぇのかよ。

俺は今ここで己の道を貫き通す。

 

俺の耳に某少年漫画のかみさまの声が聞こえた気がした。

 

 

――神には願わぬと?

当然

 

 

――神には媚びぬと?

愚問

 

 

――でも前話で神に願ってたよね?

…………

 

 

 

 

俺は立ち向かうさ……それが誰もが諦める巨大な壁だったとしても。

――え、いやあの――

いや壁が巨大だからこそ俺は燃えるんだよ。

――あの――

……ねだるな、勝ち取れ、さすれば与えられん……。

――……もういいです……――

 

 

 

「クックック、さすがはかの漆黒の銃槍、いや鉄災斗くんと言ったほうがいいかな。私と君はどうやら対立する運命にあるらしい」

 

――俺の脳裏を今までにあったロリ美少女達が流れていく。

 

白い仮面を被った燕尾服の男、蛭子影胤が足を組んで誰もいなかったはずの席に座っていた。

 

――世界中のロリ美少女、オラに元気を分けてくれッ!!

 

跳ね起きながら卓上に立ち視線を鉄災斗に向ける。

 

――ハァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!!!!

 

「しかし完全に気配は絶っていたつもりだったんだがねぇ」

 

――キタッ!!

――行くぞォッ!!燃えろッ!!俺の身に宿る全てのロリ魂ッ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

「……消せてない」

 

 

 

…………………………………はぁ。

 

俺の最大の見せ場がたった今終了しました。

ハイ、終了で~す、お疲れっした、ウッスウッス、またお願いしま~す。

 

 

――ねぇよ!!もう次の機会なんて無いんだよ!!

どんなに事前に構えといても5文字しか言えなかったんだぞ!?

何も知らないで始まる唐突なバトルシーン―――言えるはずねぇだろがぁ!!!!

 

うっうっう……もうやだぁ、お家帰るぅ……。

 

俺は深い絶望に身を包まれながら静かに瞼を閉じた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キュピンッ!!

 

―――ロリ美少女が俺を見てるッ!?

 

第6感的な何かでそれを察知した俺は眼を見開いてその視線を追うと部屋に一つだけある扉、それが半開きになっているのが見えた。

本人は隠れているつもりかもしれないが蛭子小比奈が顔をひょっこりと覗かせてこちらを見ていた。

俺と眼が合い、ぱっと隠れるもすぐにまた顔を出し、また隠れる。

それを何度も何度も続けている。

 

 

―――うむ、かわええ。

ロリ美少女の純粋さに癒された俺はHPゲージをフルチャージして蛭子影胤に相対した。

 

影胤に呼ばれ小比奈たんは小太刀を腰に下げながらトテトテと歩いてきて卓の上に難儀しながら登り

――あ、大丈夫?気をつけてね

スカートをつまみ上げ軽くお辞儀をした。

「蛭子小比奈、十歳」

――偉い偉い、よきゅできまちたねぇ~

 

小比奈たんはそう言うとすぐにみを浮かべながら小太刀に手を添え前傾姿勢になる。

 

「パパ、あいつ凄い、ゾクゾクする。斬っていい?」

 

俺を見て笑いながらそう言った。

 

 

 

 

そう俺を見て笑いながら――。

 

パパ、あのお兄ちゃんカッコいい、抱っこして欲しい(※妄想)

 

ふもっふ!!カモン、プリティーガール、AHAHAHA!!俺の胸はお前でもう予約済みさぁ。

 

 

―――瞬間、室内を濃密な殺気が満たした。

発生源の少女である銀髪の少女、その周りを両方の袖から伸びる漆黒の鎖がとぐろを巻くようにして動いている。

 

「私の前でのその発言、なるほど、確かにいい度胸ですね」

 

ヤベッ、ギンたんが嫉妬しちゃったぜよ!?

ギンたんはモデル・ウルフのイニシエーターでありその速度、パワー共に上位には入るが各分野での最高ではない。

だが、それらの代わりに発達した狼のある種の交感能力。

つまり、ギンたんは人の気持ちなるものを察することが出来るのだ、どうだ?凄いだろッ!!!

 

しかし、しかしだよ……今はやべぇ……どうしよう!?

てか、今のどっち?小比奈たんの発言?それとも俺の心の発露?

 

小太刀を抜き放った小比奈たんとギンたんが睨みあう。

 

 

やめてっ!!俺のために争わないでッ!!!

 

心の叫び虚しく、鎖の先端についた刃が小比奈たんを目標にして一直線に向かう。

それが小比奈たんに当たる寸前、青白い燐光と共に弾かれた。

 

「見えない壁――あなたは確かバリアーを使うのでしたね」

 

「君達には一度見せたのだったね、これは斥力フィールド。私は『イマジナリー・ギミック』と呼んでいるがね」

 

ドーム状のバリアーが小比奈たんを包んでいた。

 

ナイスブロック、さすがです、お義父さん。

 

「正直ここで戦うのも一興だとは思う。しかし、敗北が決定している戦いをするほど私は愚かではないのでね」

 

身を翻しモニターの聖天子様を見据えてピッと指を指しながら名乗りをあげた。

 

「お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿。私は改めて君達の敵、蛭子影胤だ」

 

ヒューッ!!かっけぇ!!決まってるねぇお義父さんッ!!!!

 

『あなたが……我々の邪魔をする目的をお聞きしてもよろしいでしょうか?』

 

ギンたんほどはないがそこそこ可愛い聖天子様がそう告げる。

 

「なに、私の欲しいものと君達の欲しいものが重なってしまっただけさ」

 

「欲しいものだと?」

 

主人公特有の唐突なシリアスシーンでの割り込みが発動。

……なんかさぁ、今の俺的には蓮太郎どうなのって感じなんだが。

アニメでも延珠ちゃんチャリから落とすしさぁ……やべ、殺意湧いてきた。

 

「もちろん七星の遺産だよ」

 

「七星の遺産?」

 

その言葉を聞いた時、一瞬聖天子様が眼を伏せた、が知らん、興味ないし。

 

「おやおや、聞いていないのかい。まあいい、当初の目的は果たせた。私達はこれで失礼させもらうとしよう、いくよ小比奈」

 

「はい、パパ」

 

二人は卓から降りて窓へと向かっていく。

しかし、その前に俺とギンたんが立ち塞がる。

 

「ただで逃げられるとでも?」

 

お義父さん、小比奈たん置いてとっとと帰れ。

 

「なるほど、やはりそう来るか。だが君達の存在を知りながら無策でここに来るとでも?」

 

意味深な事を言いながら懐に手を入れた。

ギンたんはすぐさま鎖を展開しお義父さんの行動に備える。

しかし取り出されたのは見た感じただの封筒だった。

 

え、何?それだけすか、なんかショボ~い。

 

などと考えているとそれを俺へと投げ渡した。

 

「ヒヒヒ、見てみるといい」

 

嫌な笑いに思わず俺の背筋を悪寒が駆け巡った。

 

ま、まさか―――これは俺の弱み。

俺のヤバい写真とかがこの中に入ってんのか?

 

「マスター危険です、私が見ます」

 

いや、むしろそれがヤバい。

もしかしたらギンたんの着替えシーンやお風呂シーンを覗いている俺を撮ったものかもしれん。

 

「なんでもない、ただの私からの近況報告さ。君にとっても悪くないものさ」

 

俺にとって悪くない―――いや待て!!

油断するな、しっかりと見て確認しろ、俺。

俺は生唾を飲み込みながら中から何かの写真二、三枚を取り出した。

 

―――こ、これはッ!?

 

俺は何も言わずそれを封筒の中に戻し懐へとしまう。

 

「……下がれギン」

 

「マスター?」

 

それにはさすがに驚いたのかギンたんが声をあげる。

 

「……頼む」

 

「……はい、分かりましたマスター」

 

戸惑いながらも俺を信じて素直に下がる。

 

「優しい、あまりにも優しすぎる男だな、君は……」

 

優しい、優しいだと!?

こんなもん渡されたら……そう言わずにはいられねぇだろ!!!

 

俺の懐の封筒の中、そこには――。

 

 

 

 

――――小比奈たんの寝顔写真が収められていた。

 

こいつぅ……気付いてやがる、俺がロリコンだということにッ!

なんて恐ろしい奴だ、この一手で俺がギンたんへとこの事実を話すことすら封じやがった。

次にあった時には確実に殺さねばこちらが社会的に殺される結果にないかねんな……。

 

「……次はない」

 

「そうかい、私は君とは仲良くなりたいのだがね」

 

この野郎ッ!!人の足元見やがってッ!!

仮面の下で笑っていると考えるとぶん殴りたくなる衝動を必死に抑える。

 

「……不可能」

 

「フフ、そうか、フハハハハハハ、そうだろうな、私は平穏を破壊する者、君は望む者」

 

蛭子が片手を前に差し出すと青白い燐光と共に窓が一斉に壊れた。

 

「ではさようならだ。いくよ小比奈」

 

「はい、パパ」

 

そこから躊躇いなく飛び降りた。

 

 

小比奈たんにパパと言われるその後ろ姿を見て俺は影胤を倒す覚悟を固めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■蛭子影胤■

 

 

 

「どうしたのパパぁ?」

 

隣でこちらを見ながら首を傾げる娘、小比奈を見ながら先ほど相対していた鉄災斗のことを考える。

 

彼らは私と会ったのは今朝が初めてだと思っているかもしれないが、私は彼らともっと前に会っている。

出会ったのはガストレアに負けるよりも前、いつものように国からの任務でガストレアを狩っていた時だった。

新人類創造計画によって新たな力「イマジナリー・ギミック」を得て戦いに飢えていた私は付近でステージⅢのガストレアが発生したという情報を聞いて喜々としてその討伐に向かった。

しかし、そこにあったのは既に肉片と化したガストレアとそれを見つめる少年と少女。

 

当初はその光景に戸惑ったがステージⅢを倒すほどの実力を持った二人組、その力を試したいと襲いかかった。

しかし、いつの間にか少年が銀色の槍を手に持っておりそれを地面へと叩きつける。

それによって砂煙が周囲に広がりそれが晴れる頃にはもう彼らの姿はなかった。

 

その後も私は彼らを見つけては少年に何度も何度も挑み続けた。

しかし、決着はつかずこちらの攻撃を全て受けられ相手は逃げに徹するばかり。

 

ある時、私は彼に尋ねた。

 

「何故、君は逃げる!?」

 

彼は隣に立つ銀髪の呪われた少女を見て言った。

 

「……守るため」

 

「守る、だと?」

 

今の時代、ガストレアに対し激しい憎悪を持ちそれが呪われた少女達に及ぶことがあってもそれを守るといった者を私は知らなかった。

理解し驚愕して震えた。

この少年は未だ自らも幼いその身で彼女等を守るそう言っているのだ。

 

「君に彼女たちを守る理由などないだろう」

 

「……違う」

 

「なに?」

 

「……自己満足」

 

眼を伏せまるで己の行動を恥じるがごとくそう言った。

ガストレアへの憎悪を彼女達にぶつけるどころか、守ると言った少年。

しかし、それすらも彼は自分の自己満足、そう断じて己の無力さに震えている。

なんと、なんという少年だ……この世界に存在している大多数の無意味な者達とは比べる価値もない。

 

「君も、君もそう思うか!?彼女達こそ新たな時代を生き抜くために生まれてきた新たな人類。この世界に存在している旧世代の者達など何の価値もない」

 

「……同じ人間」

 

「……そうか、君もそのような戯言を言うのか……。私の考えを理解する者が現れた、そう思ったのだがね」

 

彼の生きざまには敬意すら抱ける。

しかし、残念ながら今は時代が悪い。

 

「悪いがここで死んでもらおう」

 

イマジナリー・ギミックを私達を囲むように展開しておき、更に内側から押し広げるように発動させる。

これならばどんなに早くても関係はない、逃げ場がなければただ潰れるしかないのだから。

 

「残念、本当に残念だ……少年」

 

「……今、ギンを狙ったか……」

 

背後からの声に振り返るとそこには銀髪の少女を抱えた少年がいた。

それに思わず笑いがこみあげる。

 

「ハハハ、これは驚いた。確実に殺すつもりだったのだがね」

 

私の答えを聞いた彼の眼が細まり、ゾクゾクするような殺気が発せられた。

 

「アハハハハハ、そうだ、これだよ!!これが欲しか―――グッ!?」

 

いつの間にか私の右腕が宙を舞っていた。

 

「……お前が死ね」

 

再び少年の姿が消えてどこからか不思議と響く声が聞こえた。

悪寒を感じ全方位にイマジナリー・ギミックを展開する。

しかし、すぐにそれが崩れ去り私の胸に一本の赤い槍が突き刺さっていた。

強化された私の身体はそれに耐えきったが、彼はそんな私を一瞥すると槍を槍を引き抜いて去っていった。

その後、私は目的のために身を隠すことになったため彼に会うことはなかった。

 

 

しかし、銀髪の呪われた少女を殺そうとした時に発せられた彼の殺意。

守るためにのみその力を発揮する少年。

 

先ほど渡した封筒の中には呪われた少女である小比奈の日常生活の写真が入れられていた。

それを見た彼は素直に私達を逃がした。

彼は小比奈が呪われた少女だということをそこで再確認してしまい躊躇った。

 

呪われた少女達であれば敵味方とてそこに例外はない、ということか。

 

「だが、それは甘い、甘すぎる」

 

このような時代でなければ素晴らしい崇高な精神だ。

しかし悪意と欲望の渦巻く現代においてそれは大きな弱点にしかならない。

 

「君は守る者で私は壊すもの、ああ、本当に残念だよ、鉄災斗くん」

 

 

 

 

 




昔の影胤はマスクしていなかった設定なので主人公も銀丹も忘れてます。
今朝戦った時に斥力フィールドは見たので知ってました。

とにかく焦って書いたので誤字脱字あったら報告お願いします。
ストーリー的にもおかしいこと書いてるかもです……。

ゴールデンウィークに是非もう一回は投稿したいです!!
では、また次話で(^皿^)b

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