ブラック・ブレット―楽園の守護者―   作:ひかげ探偵

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三( ゚∀゚)フッカツダー!!




ごめん調子のった。

まず最初に遅くなって申し訳なかった。
待っていてくれた方々、本当にありがとうございます。

どうぞ、お楽しください!!


第九話 過去

 

 

 

 

 

――――人間は生まれながらに自由な生き物であり、それ故に自らを縛るものがあるなら、それは自分なのだろう

 

 

 

 

 

どういう人生を生きるのか、それを選ぶのは自分自身――そんな言葉を聞いたことがある。

 

聞いて″なるほど″と納得した。

人生において、最も優先されるのは本人の選択だろう。

ならばその選択が尊重されるかというと、実のところそうでもない。

何故なら現実はそう単純に出来ていないからだ。

現実は一つの主体で構成されている訳ではなく、人の意思、思想や社会の秩序など様々な要素が複雑に絡み合って成り立っている。

選択する事を不可能だと言っている訳ではない。

しかし、少なくとも伊熊将監という個人の選択を現実は長々と待ってはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

生まれた時、俺の身体は他の奴らと大差無かった。

しかし時が経つにつれてどんどん大きくなっていった俺は周囲から浮き始める。

極めつけには相手を睨みつけるような三白眼。

そんなヤツが世間からどういう認識を受けるかなんて考えるまでもねぇだろ?

 

 

街を歩けば不良に絡まれた。

広まる噂、級友が俺に近づいてくることはなかった。

学校で問題が起きたら一番に疑われるのは俺であり教師に謂われもない罵声を浴びせられた。

 

 

 

 

″理不尽″

 

俺の人生を表すのにこれほど相応しい言葉はないだろう。

 

 

しかし俺は殴られても抵抗はしなかったし、悪事には手を染めたことはない。

 

――今まで俺は耐えてこれたんだ、ならこれからも大丈夫だ、きっと耐え抜ける

 

そう自分に言い聞かせてきた。

道を踏み外さない、悪人にならない……しかしそれは所詮建前だったのかもしれない。

全部、結局は自分という存在を肯定するための、自分を守るための境界線(ライン)だったのかもしれない。

 

だが誇りだ何だと言って守り続けていたそれも、ぶっ壊れるのは一瞬だった。

 

 

理不尽な日常は変わることなく繰り返される。

何度も何度も繰り返され、耐えて耐えて、自分に言い聞かせて――そして限界を迎えた。

自分で定めたはずの境界線、俺はそれを踏み越えた。

 

 

 

 

 

 

学校で何か問題が起きた。

俺はその犯人候補として最有力に挙がっているらしい

 

――お前がやったんだろ!? そうなんだろ!

 

いつもと同じ、聞きあきた教師のその言葉。

違うと言えばいい。

俺じゃないと言えばいい。

そうすればこれも終わる。

 

………………終わって、どうなるんだ?

 

また繰り返すのか、これを。

これからも、この問答を、日常を、理不尽を、何度も何度も何度も何度もっ。

そんなのは……嫌だ。

 

心の中で希望を持っていたのかもしれない。

ここで否定すれば何かが変わるんじゃないかと、こんな不条理から抜け出せるんじゃないかと

所詮、幻想にすぎないそれを希望と勘違いして。

そして俺は心にした蓋をほんの少し開けてしまったんだ。

 

――俺じゃない。俺は……やってない。信じてくれ。特別なんていらない、ただ周りの奴らと同じように、なりたいんだ……

 

漏れたのは、俺の本音。

俺の―――平凡(ちっぽけ)な願い。

しかしそれに返されたのは無情な言葉だった。

 

 

――嘘つくんじゃねぇ!お前みたいなグズが真っ当に生きられる訳ねぇだろぉが!

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ、よ……それは。

俺は、ただ……ただ普通に生きたいだけなんだぞ。

そんな事もっ……そんな単純な事もっ、俺には許されねぇってのかよっ!?

 

 

 

 

 

やめろ

 

 

視界が赤く染まった。

 

 

 

 

 

やめろ

 

 

握りしめた拳から血が流れた。

 

 

 

 

 

やめろ

 

 

理性が俺を押しとどめる。

 

 

 

 

 

やめ――

 

 

 

 

 

俺の中でプツンと何かが切れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気づけば俺の拳は突き出され、目の前で倒れる教師の顔は赤く染まっていた。

集ってくる教師、響く甲高い悲鳴。

 

――ちがう……ちがう、俺はっ!俺はこんなことしたかった訳じゃ……!

 

教師に肩を強く掴まれた。

振り払えば簡単に相手の身体を吹き飛ばした。

 

――っ!今のはわざとじゃ!

 

それに思わず身体の動きがとまる。

その瞬間、右腕を、左腕を、腰を、右足を、左足を掴まれた。

引き倒されて頭を床に叩きつけられる。

脳が揺れ薄れゆく意識のなか、思う。

 

――何やってんだろうな、俺は……

 

事実として残ったのは俺が教師に暴行を振るったということだけ。

そんなレッテルの貼られた俺の言葉に耳を貸されることはなく即退学との判決が下された。

 

……なんだよこれは。なんでこんな事になってんだよっ!

 

胸中に渦巻くのは激しい怒り――そしてそれを上回る悲哀。

こんな風にしかなれなかったのか。

僅かな希望を、日常を願った結果がこれなのかよ。

 

くそっ、くそくそくそくそォォォォオオオオオ!!!!!!!

 

そんな事が起きても日常は変わることはなく、ただ俺の中の苛立ちが溜まっていった。

 

街中を歩けば絡んでくる不良。

俺を見て嘲笑を浮かべる同級生。

 

周囲で騒いでいる他人、その全てが目障りだった。

全てが、俺の周りにある全てが。

視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触角―――そこから認識される全てが腹立たしい。

 

俺を、俺をそんな目でみんじゃねぇッ!

 

今まで、耐え続けた過去の日々。

あれは何だったのだろうか。

……俺は一体、何をしていたんだろうか。

 

 

意味などなかった、俺のしてきた事は無駄だったのだ。

思い出されたのは最後に教師の言い放ったあの言葉。

 

 

 

――お前みたいなグズが真っ当に生きられる訳ねぇだろぉが!

 

 

 

ああ、なんだ。

ははははっ……そうかよ…………簡単なことじゃねぇか。

決まってたのか、そういう風に。

世界は、この世界は俺に真っ当な生き方させてやる気がなかったのか。

 

俺の中で何かの歯車がかみ合い、そして狂いだした。

 

次に絡んできた不良。

俺はそいつらの顔を何を感じることなく驚くほど自然に殴れた。

 

 

 

 

 

まず理解した。

俺の周りに現れる奴らは、俺の世界にいる人間は二種類だということを。

俺に絡んでくるクソ野郎、俺を見てビビるゴミ野郎。

 

 

そして行動した。

ムカつく奴がいるなら殴り飛ばして、欲しいものがあったなら無理矢理手に入れた。

 

理性など無視して、ただ本能のままに生きる。

そうやって生きる、それだけで俺の人生は驚くほど上手くいった。

周りには俺の強さにビビる奴らがどんどん集まっていき気づけば不良共の間じゃ名が知れわたる。

 

ははっ、なんだこれ、楽過ぎんだろ。

ただ殴ってりゃいい、耐える必要なんてない。

こっちの方が断然気持ちいだろ。

 

人を支配する優越感に浸り、人に命令される腹立たしさを感じない。

ムカつく野郎をぶん殴る快感に浸り、何かに縛られる不快感を感じない。

 

 

最後にまた理解した。

権力でも、暴力でも、知力でも、魅力でも、どんな力でもそれが上な奴だけが勝利の味を知れるということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の都合など構うことなく唐突に、世界はその在り様を変えた。

 

 

″ガストレア″

 

人間を簡単に殺す化け物。

化け物は数を増やし、人を食い、世界を絶望させた。

 

周りの奴らはどんどん死んでいく。

 

それは俺が殴った教師だった。

それは俺の周りで騒いでいた奴らだった。

それは俺の事を嘲笑っていた同級生だった。

それは俺が顔も知らぬ他人だった。

 

こいつらは敗者だ――新しい世界に適応できなかった負け犬どもだ。

今まで作り上げられた全てのルールが消えたこの世界。

過去の全てが否定され、消えたこの世界。

 

法律もない。

 

規則もない。

 

制限もない。

 

強ぇ奴が生き残り弱者から死んでいくたった一つのルールが支配した世界。

弱肉強食―――それがこの世界のルールだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を経たずに腕を買われた俺はある警備会社に雇われた。

そしてそこで出会った一人のガキ、千寿夏世。

 

″呪われた子供達″

ガストレアの血がその身体に流れた社会から、世界から差別される事を生まれる前から決められたガキ共。

 

同情はねぇ。

そういう風に生まれたお前が悪い。

 

だが共感はする。

お前も俺と同じなのだと。

社会に認められずに弾き出された異物。

今は俺達、力がある奴らの時代だ。

吠える雑魚は無視しろ。

日常なんてもんは求めんな、そんなもんは俺達には必要ねぇ。

ガストレアと戦って、闘って、殺し尽くせ。

 

 

ただひたすらに戦い続ける日々が続いた。

ガストレアも、俺達の邪魔をする人間も殺した。

とにかく殺して殺して、殺し続けた。

そうすればするほど周囲の評価は上がった。

序列もどんどん上がっていく。

 

まだだ、まだ全然足りねぇ。

もっと殺す。

もっともっと殺す。

俺達が強者だと言う事の証明を、俺達の存在している理由の証明を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某日、外周区を出た未踏破領域、空は曇り眼下の大地を暗色に染め上げる。周囲には廃墟と化した建物があるだけで草木のようなものは一切存在していない。

俺達はそこで推定ステージⅡのガストレアと相対していた。目の前にいるガストレアは土色混じりの灰色をした爬虫類型だが体は地面から突き出て植物型のように体から触手を伸ばしていた。

 

 

いつもと変わらねぇ、こいつも殺してやる。

 

相変わらず一体何と何の生き物を掛け合わされたのかすら分からぬその姿を眺める。そして観察しながら背中に背負った大剣を構えた。体から生える無数の触手が蠢きその内の一本がこちらに高速で飛来する。

 

「―――つぅッ!!」

 

それほど硬度の高くない触手、しかし異常な速度で振るわれたそれは異常な威力を内包する。結果、ステージⅡとは思えない、まともに入れば一撃で意識を持っていかれそうな破壊力が将監を襲った。何とか大剣を水平に構え盾にすることでそれに耐えたが、硬直した隙を狙うように反対側から触手がもう一本こちらに迫っていた。

 

「夏世ォッ!」

 

「分かっています」

 

冷静な声が耳に届き、ショットガンの発砲音が響く。銃弾は触手を貫き、受けた触手は痛みに仰け反りもだえるように暴れた。

その隙を逃さずに手に持つ大剣を一閃、ガストレアを根本から断ち切る。

 

「将監さんっ!」

 

夏世の声に俺が反応するよりもはやく背後からの衝撃に吹き飛ばされた。

 

「クッ、ソ……なんだ……?」

 

痛みに耐えながらも素早く振り向く。そこにはいたのは先ほど夏世のショットガンで吹き飛ばされたはずの爬虫類型ガストレア。

一匹だけじゃなかったのかよ、そう思いガストレアに向き合った。

――しかし、その考えは誤りだった。

 

―――――ズズズズズッ!!!!!!!

 

地鳴りの音と共に俺達の足元が盛り上がり、そこから先ほどの爬虫類の五倍はありそうな球状の物体が飛び出てきた。さらに球状の物体からは先ほどの爬虫類型のガストレアが数本伸びている。

 

「これが本体だってのかっ!」

 

「ステージⅢ!……将監さんッ!一度退いて態勢を立て直しましょう!」

 

「ざっけんじゃねぇ!化け物相手に逃げられっかよ。それに――」

 

俺達の周囲を囲むようにおそらく三桁は超えるであろう大量の触手が地中から飛び出た。それらが檻のように俺達を包囲する。

 

「コイツも逃がす気はねぇってよ」

 

「そんな……」

 

それからはリンチも同然だった。素早い触手が絶え間なく俺達に襲いかかる。

攻撃する隙などなく、ましてや逃げることなど出来る筈もなかった。

最初は大剣で弾いていたが、これでは保たないと感じ夏世を下に庇う様にして姿勢を下げ大剣を上に構えた。

 

「将監さん!私は大丈夫です、自分の身体をッ!」

 

「うっせぇ、黙ってろォ!銃持ってんのはテメェだけなんだ。そいつをしっかり抱えて作戦でも考えてろッ!!」

 

「っ――はい」

 

触手の猛攻、巨大な大剣でそれらから身を守ることも至難なその状況で俺に出来ることなど耐える以外にはなかった。

ここからの逃亡を成功させる鍵を握るのは夏世の持つケースの中身――そこに入っているショットガンの弾と手榴弾、そしてモデル・ドルフィンである夏世の頭だけだろう。しかしケースの中身は有限であるため無暗に使う訳にはいかずタイミングは重要だった。

 

そんな俺の考える隙をつくように、触手の一本が大剣の下を通り俺の下の夏世に迫った。身を屈ませ夏世を庇う。肩に強い衝撃を感じた。しかも打たれた箇所は痺れたように上手く動かすことが出来なくなっていた。

 

「ちっ、クソが!」

 

長い間耐えられる気はしねぇぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ経ったのだろう。

幾度となく大剣越しに衝撃が襲っていた。時折、その下を抜けてくる攻撃もギリギリで回避していた。しかし避け漏らした攻撃はあり、俺の身体は血だらけだった。

 

「チッ、くそ……夏世、もう耐えるのは無理そうだ。で、分かったか?」

 

「……はい、一点突破を提案します。今までの攻撃のパターンからしてあそこが一番確率が高いです」

 

夏世の指さす方向、そこは確かに触手の攻撃の手が緩いように感じられた。

 

「なら、いくぞッ!」

 

「ですが――」

 

「あ゛あっ!なんだ!?」

 

「……罠の可能性が高いです」

 

「……罠か」

 

今ここで罠にかかったら死ぬ可能性は跳ね上がるだろう。

だが――。

 

「どっちみちこのままなら死ぬ。賭けるぞ……タイミングは任せた」

 

「……分かりました。1,2,3のタイミングで行きます」

 

夏世はショットガンをケースの中に仕舞う。

代わりに全ての手榴弾を取り出した。

 

「1」

 

やや前傾の姿勢をとり駆けだす準備をする。

俺もそれを見て同じように体をやや前傾姿勢に変えた。

 

「2」

 

駆けだすため、足に力をためる。

 

「3ッ!!」

 

手榴弾をガストレア本体の球体に投げると同時に駆けだす。

次の瞬間、背後で爆発音が響き、生じた爆風に背中を押されながら勢いをつけて駆ける。

正面に向け大剣を横一閃。進行方向にある障害物を触手を含め両断した。

 

「ッ―――走れぇええええええええええええっ!!!」

 

そのまま止まることなく駆け抜ける。触手の檻を抜け――それでも走るのをやめない。

走る走る走る、止まることなく振り返ることなく、そして二人は足を止めた。

止めてしまったのだ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

――――目の前の触手の壁を見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達の身体は触手にが作った壁にぶつかり弾き倒される。立ち上がりすぐさま体勢を立て直した俺達を先ほどよりも遥かに強い揺れが襲った。俺達の正面で先ほどの比ではない範囲の地面が隆起する。

 

 

そして現れたのは全長は30メートルはありそうなほど巨大なガストレア。八本の触手の先には球体があり、そこから無数の爬虫類型の触手が生えている。

……モデル・オクトパスのガストレア、そして――。

 

「……ステージⅣ」

 

夏世の呟きが俺の耳に届いた。

 

 

 

 

ガストレア―――人類の勝つことのできない異形の化け物。

 

 

 

 

唾棄すべき考えが頭に浮かび、それをかき消すように吠える。

 

「ざけんなぁッ!」

 

俺はこんな所じゃ死なねぇ、俺は―――強者なんだ。

大剣を力の限り握りしめ、その手が震えていることに気付く。

 

「……どらあああぁーっ!!!夏世ォッ、構えろ!!」

 

しかし夏世は何の反応も返事すら返ってこない。

 

「おい!夏世、聞いてんのかっ!」

 

振り返って見れば夏世は手に持ったケースを落とし、呆然とした様子でガストレアの姿を見ながら震えていた。

 

「あ……む、むりです、勝てません……」

 

ゆっくりと首を振りながらそう言った。

目の端から涙が零れ落ちて声は震えている。

 

「に、逃げましょう……むり、です、絶対に」

 

無理、絶対に――。

 

……ちげぇ。

絶対なんて、ありえねぇ。

俺は、俺達は―――。

 

「無理じゃねぇんだぁよぉおおおおおおおおぉぉぉっっ!!!」

 

自分を鼓舞するように、現実を否定するようにそう叫びながら俺は目の前の化け物に吶喊する。

がむしゃらに大剣で斬りつける。何度も何度も、繰り返す――がガストレアはダメージを受けた様子を示さない。

そして俺の攻撃を無視して、ゆったりとした動きで俺の両腕両足を触手で絡め取った。

 

「っ――しょ、将監さんっ!」

 

力を振り絞り、逃げ出そうとするが相当強い力で絞めつけられほどける様子はない。捕まったまま俺はガストレアの頭上に運ばれた。

 

「ちぃ、クソが!放せェッ!!」

 

俺の真下でガストラの頭部に八本の亀裂が走った。

そして開かれたのはおぞましい捕食口。

外周部に沿って何本もの牙があり、中心部からは鋭い突起物の生えた触手が何本もこちらに迫る。

 

 

死ぬのか?

そんな事を自然に考えていた。

こんな所で、こんなクソダコに食われて?

 

「ざけ゛んあぬぁあああああああああああああっ!!!」

 

萎えそうになった闘志を奮い立たせ動く部位を総動員で身体に巻きつく触手から逃げようともがく。

握りつぶし、あるいは噛み千切る。少し触手が緩んだ。

 

いけるッ!

 

更に力を入れようとした俺――その身体を鋭いものが貫いていた。見れば爬虫類型の触手が俺の足に、胴に、腕に噛みついている。噛みつかれた箇所から血が流れ、同時に体中から力と熱が抜けていく。

 

「将監さんをっ――放せェッ!!!」

 

夏世が涙を流しながら震える体でガストレアに向かってショットガンを乱射していた。

さすがのガストレアもバラニウム製の弾丸にダメージを受け―――しかし傷ついた部分がすぐに再生していく。

嘘……だろ。

 

一本の触手が夏世を周囲の瓦礫ごと薙ぎ払った。夏世の小さな身体は容易に吹き飛ばされ地面を跳ねた。

そんな姿を薄れゆく視界の中におさめる。

 

くそ、意識も朦朧としてきたし指先の感覚がねぇ。

……俺は……死ぬのか。

戦って戦って、最後はタコの餌かよ……ゴミみてぇな人生だな、笑えねぇ……。

…………しょうがねぇ、よな。俺にはこれしか、この道しか無かったんだから。

 

目を閉じ終わりのときを待つ。

 

 

 

 

 

 

しかし一向にその時は訪れなかった。

違和感を感じ、ぼやけた視界でその光景を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――足を引きずり、体中から血を流しながらも廃墟のビルに背中を預けショットガンの銃口をガストレアに向ける夏世の姿を。

 

「……将監、さんを……放せっ!」

 

おい夏世、テメェは戦闘向きのイニシエーターじゃねぇだろ。

さっさと逃げろよ、ボケ。

 

一本の触手が夏世の持つショットガンが弾き飛ばした。そして描いた軌跡を戻るように触手が払われ、夏世のいた廃墟ごと吹き飛ぶ。廃墟は倒壊し粉塵が舞った。

 

 

 

…。

 

 

……。

 

 

………クソ。

 

 

クソクソクソッッ!!

 

 

「クソクソクソクソクソクソクソダコがぁああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

掴み、握りつぶし、噛みつく。

俺の命を燃料にして限界を超えた力を捻りだす。

俺に噛みつく力が強まった。

だが気にしない、気にならない。

興奮が痛みを忘れさせる。

 

今は、今だけはただコイツをッ!!

 

「死ねェェェェエエエエエエエッッ!!」

 

全ての力を注ぎこんだそれは巨大なガストレアに対して何の意味もなさなかった。限界を超えていた力も尽きて、糸が切れた人形のように俺の身体から力が抜ける。そして俺の身体は落ちた。

 

ああ……食われんのか。

 

このままではタコの口の中に落ちるというのに意外なほどに頭は冷静だった。死ぬのも恐くない、今までも死と隣合わせだった。タコの餌というのは腹立たしいが仕方ないだろう。

ただ、ただ一つの後悔があるなら。

 

「……情けねぇな、俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体に何かが巻きついた。

 

そう思った時には俺の身体は凄まじい勢いで引っ張られていた。身体に巻きついた堅い″何か″が俺の身体を締め付け中身が口から出そうになる。

 

「ぅぐっ!………な、んだよ?」

 

巻きついていた何かが外れ解放された俺の身体は地面へと適当に投げ出された。状況が掴めない俺は呆然としながらそう呟く。

 

「将監さん!無事ですか!?」

 

「……お前、何で?」

 

俺に声を掛けてきたのは先ほど建物と一緒に潰されたはずの夏世だった。血まみれの身体ながらその身体は既に再生を始め傷も治り始め五体満足だった。

 

「助けてもらったんです、あの二人に!」

 

夏世の指さす方向、そこには二人のガキがいた。

一人は銀髪の女、目が赤く光っているからおそらく呪われた子供達なのだろう。

両腕の袖からは俺に巻きついていたと思われる黒い鎖が伸びている。

 

そしてもう一人は黒髪に同じく黒い外套を纏った男。

片手に持つのは異形の槍。

一般にガストレア討伐に使われるバラニウム製の黒い槍でなく、先端が三つに分岐している白銀の槍だった。

 

「テメェらは……」

 

俺の声が聞こえたのか、男のガキが俺に視線を向けたがすぐに戻した。

 

「……いくぞ」

 

 

 

 

 

 

それは蹂躙だった。

 

 

俺達はただ呆然と見ていることしか出来なかった。

自分達が手も足も出ず弄ばれたステージⅣのガストレアが今度はこのガキ共に手も足も出ずにやられていく。

 

 

鎖はガストレアを縛り、黒い嵐のように迫る触手を薙ぎ払った。

槍はガストレアを貫き、白銀の閃光が奔る度にガストレアに血華が咲き乱れる。

 

 

まさしく″暴力″

この世界を生きる上で最も必要な力、それをこの二人は誇示していた。

 

 

 

 

最後に槍の一突きはガストレアはその身を爆発、炎上させた。悲鳴をあげ、そして遂には動かなくなったガストレアの骸の前に静かに立っている二人の姿を呆然と見詰める。

それから覚醒した俺はボロボロの体に鞭打って移動しながら目の前のガキに問いかけた。

 

「つぅ――な、んだよ、テメェはぁッ!」

 

「将監さん!動いては――」

 

「うっせぇッ!!……さっきの、あの強さだ……」

 

俺の動きを止めようとした夏世を怒鳴り声で制止させる。そして先ほどのこいつらの動きを、力を思い出す。

今まで見た誰よりも強い、いや比較することすらおこがましい格の違う力。

 

「どうしたら、どうしたらあんな風に、お前みたいになれんだ!」

 

俺の声にガキの視線がこちらを向いた。

俺を品定めでもするかのように視線が走った。

 

「……何のために、求める」

 

な、んの……何のためだと?

そんなもんっ―――

 

「決まってんだろがぁ!!!」

 

過去に受けた苦渋、俺が劣っていたから受けた苦痛。

それを乗り越えるために必要なものこそが強さ。

相手を蹂躙し、屈服させる―――俺は、俺がッ!!

 

「生きるために、生き抜くために!!必要なんだよッ!!」

 

無表情だったガキの顔に初めて感情の色が広がった。

それは――驚愕。

 

そしてなにかを考えるように目を閉じ、そして問いかける。

 

「……一番、大切なものは何?」

 

一番、大切なもの。

考えるまでも無かった。

俺は即答する。

 

「――力、圧倒的な力だ。全てを屈服させる暴力だ!」

 

誰にも負けない、何にも縛られない。

文句も何も言わせねぇほど圧倒的な暴力。

 

「そうすりゃ誰に何も言われることはねぇ!!それだけで、それだけの力があれば!!」

 

この世界で自由に生きるために、生き抜くために必要な力があればっ……。

望むものに手を伸ばすかのように。懇願するように吠えた。

 

 

 

「……間違っている」

 

それは一言の下に切り捨てられた。

 

「なん、だと……」

 

「今のお前はダメだ」

 

「ち、力が……俺の実力が足りてないだけなんだろっ……!なあ、そうなんだろ!?」

 

「違う」

 

力じゃない、のか?

 

「……な、んで……なんでだッ!?」

 

何が違う?

何が間違ってる?

どうすりゃいいってんだァ!?

 

「一つだけ」

 

「一つ? 一つだけ、何だッてんだ!」

 

「お前には足りない」

 

俺に足りないものがある。

力じゃないのか?

力じゃなく、俺に足りないものがあるのか。

 

「そ、それが……それがあれば俺はなれるのかよ。お前みたいに」

 

「お前は似てる……昔の俺に」

 

驚愕だった。

昔のコイツに似てる、それならなれるのか!

その何かを得れば今の、今のお前みたいにっ……!

 

「教えろっ!教えろよぉっ!!何が足りない、どうすればいいっ!!!」

 

目を閉じ、一つ息を吐いてから言い放った。

 

「覚悟」

 

「かく、ご?」

 

なんだそれは?

俺が本気じゃねぇって、本気で力を求めてないってそう言いてぇのかよ!

 

「それが、俺とお前の差だ」

 

「差、だとッ!ざっけんなっ、んなもん当の昔にでき……て……っ!?」

 

最後まで口を開く事が出来なかった。

あまりの存在感に呑まれていた。

俺は今、目の前のたた″そこにいる″、それだけのこいつから視線を外すことができなくなっていた。

殺意や敵意がその身体から放たれている訳ではない。

ただ、その場所に立っているだけなのだ……なのに――俺には今、こいつが大きく見えた気がした。

 

「……見えたか」

 

「な、なんだよ……なんなんだよ、今のはッ!」

 

それは未知だった。

腕力、暴力、敵意、殺意、直接的なもの、間接的なものでも……そればかりを考えていた俺にとって理解できないものだった。

何もしていないはずなのに、何もされていないはずなのに―――何が起きた。

 

「俺の……覚悟だ」

 

「なんだそりゃっ!意味わかんねぇんだよ!!」

 

「だが感じただろう」

 

言葉に詰まる。

確かに俺は今、感じたのだ。

こいつの″何か″を。

 

「……で、それでっ!その程度で何が出来るッてんだ!!」

 

確かにすげぇ、初めて見た。

だがそれでどうなる。

お前の強さに、俺の足りないものにどんな関係があるってんだ。

 

ガキは俺の言葉に何も答えない。

ただ目を閉じ俺の言葉を聞いていた。

 

「覚悟だとっ? はっ、そんなもんじゃ何も変わらねぇ!変えられねぇんだよ!!」

 

考えるだけじゃ、望むだけじゃ、俺は何も変えられなかった!

知らず涙が頬を伝っていた。

それを拭い悔しさに歯を噛みしめる。

 

くそっ、くそぉっ!!

 

 

ガキは静かに目を開くと後ろにいた銀髪のガキに視線を巡らせた。

そして不思議と響く声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

「想い」

 

 

―――空気が変わった。

 

 

「意思」

 

 

音が、この空間から消え去った。

 

 

「覚悟」

 

 

今、目の前にいるコイツがこの空間を支配していた。

空気が質量をもったように重く体に圧し掛かっているように感じる。ただ、呼吸をする事さえも辛い。

 

 

「お前に――」

 

 

コイツの視線が、全ての重圧が俺にだけ集中する。そうなれば最早呼吸する事が出来なかった。

 

 

「真に理解できているか?」

 

 

「――っ、かはっ―――ぁぁ」

 

 

空気を取りこめない。呼吸する事が出来ない、しようと思えない。

このガキ、いやこの少年から意識を逸らす事が出来ない、してはいけないとそう思わされる。

俺は、この少年に――″畏怖″していた。

 

 

「やめてくださいっ!」

 

 

悲鳴染みた―――夏世の声で響くと、途端に俺に掛かる重圧は霧散した。

空気を、酸素を求め荒く息を求める。俺の下に夏世が近づき、その手が俺の背に置かれた。

そんな俺達を置いて目の前の少年達は俺達に背中を向けた。

 

「ぜぇっ、ごほっ……待て、待ってくれ!」

 

行かせてはいけない。

まだ聞いていないのだ。

 

「想いだけで、覚悟だけでそこまでなれるってのか――俺は!」

 

「なれる」

 

振り向き、そして断言した。

迷いも無く、何の逡巡もなく。

それに呆然とした俺に言葉は続けられた。

 

「守る覚悟」

 

「まもる、覚悟?」

 

「お前に一番合う」

 

「なんで、なんでだよ」

 

無表情な少年が俺の事を馬鹿にするかのようにくすり笑った気がした。

 

「守る者、もういるだろう」

 

視線の先にいるのは俺の背に手を添える少女。

再び顔を上げれば目の前のそいつはもう俺に背を向けていた。

 

「待って、待ってくれ!」

 

しかし立ち止まらない。

 

「名前を、あんたらの、名前を教えてくれ!!」

 

振り返ることなく、しかし二人の声は俺に届いた。

 

「……銀丹」

 

一人はすこし不服そうに。

 

「鉄災斗」

 

一人は淡々と。

 

「ぎん、たん……くろがね、さいと……」

 

忘れぬよう、刻みつけるように名を反芻した。

 

「……待ってる」

 

最後にそんな声が届いた気がして視線をあげると二人の姿は消えていた。

しばらく、ただ二人の先ほどまでいた場所を見つめていた。そして隣の夏世が俺へと声をかけた。

 

「……将監さん、気持ちは分かります。でも、身体の傷を治療しないと……」

 

「……なあ、夏世」

 

俺の言葉に反応し身体の傷から視線をあげ俺を見た。視線が重なる。

思えば長くこいつとコンビを組んできたが、こいつのことをじっくり見るのは初めてかもしれない。

 

「俺は……俺は強くなれるか?」

 

「……それは、分かりません」

 

「あー、だよな。わりぃ、何言ってんだ俺は」

 

そう言ったら夏世が目を大きく開き口もポカーンと開ける変な表情をしていた。

 

「な、なんだよ」

 

「将監さんが、謝った? これは……現実ですか」

 

「ああ゛!どういう意味だ、こ゛らぁ!?」

 

「あ、いえ、その……初めて、見たので。将監さんが人に謝るの」

 

「いや、そんな事……」

 

過去を思い返す。

遅刻した時、建物をぶっ壊した時、三ヶ島さんに怒られた時。

 

「ねぇな」

 

俺がそう言うと夏世は何が面白いのかクスクスと笑いだした。

何故か、俺にはそれが異様に気恥かしく感じた。

 

「なに笑ってんだよ!」

 

「ふふ、い、いえでも…っ…将監さんがっ――あはは!」

 

「てめぇっ、夏世……」

 

俺の苛立ちの混じった声を、しかし夏世は気にせず笑う。

馬鹿らしくなり息を吐き、頭を掻く。そして視線を今も笑う夏世に向けた。

 

――災斗、さん…だったか。あいつの言った事少し分かった気がすんぜ

 

「っ――おいコラ!夏世、俺は怪我人なんだよ。笑ってねぇで治療しろや!」

 

すこし頭に浮かんだその考えを誤魔化すように俺は夏世にそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――これは英雄に憧れた一人の男の昔話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■鉄災斗■

 

 

 

 

ロリセンサーに強力な反応を感じた俺はギンたんと共に散策に出ていた。

デュフフ……デートみたいだろ? 羨ましいか? あん、羨ましいか、おいww

 

そんなこんなで二人で歩いてたら戦闘音が聞こえてきた。

気になって来てみたらアニメ二話に出てた夏世――改めなっちゃんを発見したお。

しかも、なにやら美味しくなさそうなタコにやられてたっぽいので速攻で救出しました!!

そしたらめっちゃ驚いた目で見られたのでちょっとKA☆I☆KA☆N♪……とかは感じる暇なかったわ。

何故ならッ!

くっ!……俺は……いまッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なっちゃんをお姫様だっこしてるからだYOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!

 

フゥゥゥゥゥウゥゥゥゥゥゥ!!!!!!

 

ヒィィィィィィィィハァアァァアアアアアアアアアアアッッッッ!!!!!!!!!

 

ひざ裏と背中に手をまわしてガッチリ優しくホーゥルドゥ!!!!!

 

 

 

し、しかし……じ、実にや、やわっこいです。

これがおにゃのこのからだなのか!?

嬉すぃ……なっちゃんの心もガッシリホールドしたいぜよ!!!

 

などと考えていたらガッと急に襟元を引かれた。

見ればなっちゃんが俺の外套を掴みひっぱていた。

 

いや嘘です、ごめんなさい。

すいませんホント調子乗りました、お姫様だっこで十分、というよりお金払います、ごめんなさい許してください。

 

心の中で全力で謝罪する俺、しかし夏世さんが俺にお金の請求をすることはなかった。

そして俺の襟元を引く力が心なしか弱弱しくなり、か細い声で言った。

 

「し、将監さんを……将監さんを助けてっ――ください!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぶふぉおっ(瀉血)

 

 

う、上目遣い + 涙目 + ロリ美少女 = 無限大のロリ魂

 

 

キュピーンッ!!

俺は、この萌えだけで……あと千年は戦える――闘ってみせるっ……!

 

「……任せろ、ギン」

 

「はい……(お姫様だっこ……羨ましい)」

 

敵はタコ……ならばっ!!

ふぅぅんぬぅっ!!!

イメージするのは伝説の海神の槍……そうすなわち――――――銛!!!

 

 

……うっそー、本当はポセイドーンが持っていたと言われるトリアイナでっす!

 

そして俺の身の丈を超える大きな銀色の三叉槍を創造した。

 

んーあれ? トリアイナって赤色だっけ……ま、まあいっか。

 

将監さんというらしい男性はタコに誰得?って感じに触手プレイされていた。

ギンたんの素晴らしい鎖術により、ひとまずなっちゃんご要望の将監さんを救出する。

ズサァッ!という擬音のつきそうな程激しく地面に打ち捨てられるその身体……もうちょい優しくしてあげてねっ。

昔、アニメで見たホエーモンのような泣き声がガストレアから発せられる。

デカいな……このタコ。

とりあえず振り返りなっちゃんに熱視線を送る。

 

……俺の事、見ていてください

この戦いを誰でもない、貴方にぃ!捧げますっ!!!

 

巨大ダコを睨みつけて、あふれ出る気合いを元に槍を持つ手に力を込めた。

これより鉄災斗……目標を駆逐するっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ふぃ~っ、一仕事終えたぜぃ。

素早い触手の動きがすこし厄介になりそうだと思っていたんだがギンたんの鎖ぱねぇっ。

タコさんの足を一本残らずブツ切りにしていたでござる。

 

ちらりと隣に立つギンたんを見る。

 

ふ、ふつくしい……。

 

色白で幼さの残る端正な顔立ち、倒れ伏したガストレアをその赤眼でゴミのように見据える視線には背筋がゾクリとする。風にたなびく銀髪を掻きあげるする仕草には年齢を超えた妖艶な様を見せつけられる。ギンたんの周囲を守護するようにとぐろを巻く黒銀の鎖を従える――その姿はまさに戦乙女。

 

はぁはぁ、ど、どうしよう……お願いしたら裸Yシャツとかやってくれないかな、絶対似合うと思うんだが。

朝起きてギンたんがそんな姿でベットに乗っていたら俺は絶対に至れると思いまする。

そんな事を考えていたら先ほどヘルプした将監さんがこちらに歩いてきた。

 

「な、んだよ、テメェはぁッ!」

 

ふっ、紳士……ロリコン……ペロリスト……好きな名で呼べ。

 

「将監さん!動いては――」

 

「うっせぇッ!!」

 

おい、コラ美少女怒鳴んなや。

しばくぞハゲ、コラ!

 

「どうしたら、どうしたらあんな風に、おまえみたいになれんだ!」

 

んっと……え、俺みたいに?

俺みたいに……って、んー?

ちょっとよく分からんから鉄災斗といって思いつくものをあげてみよう。

 

 

紳士

 

犯罪者予備軍

 

ロリコニア

 

コミュ障

 

ペロリスト

 

 

 

ここから導き出される答えは……。

 

ハッ!!ま、まさかこいつ!!

ロリコン志望なのかよ!?

なるほど……そういうことか。

 

もう一度、目の前の将監を見る。

血まみれの身体、鬼気迫る表情、血走った眼。

……気迫はなかなかだな……だがロリに関して俺は妥協しないぞ?

これより第27回ロリコン希望者の素質検査を開始します。

 

question①:えー、まず将監君は何でロリコンになりたいのかな?

 

「決まってんだろがぁ!!!」

 

ほうほう……言ってみろ。

 

「生きるために、生き抜くために!!必要なんだよッ!!」

 

―――ッ!

こ、こいつぅ―――!!

既にそこまで至っているというのかぁ!?

こんな如何にも戦闘大好きムキムキ野郎みたいな格好しといて、その内にこんな本性を眠らせ――もとい燻ぶらせていたなんて。

い、いや待て……今のは差別発言だな、謝罪する。

悪かった……この世界(ブラックブレット)では、ロリコンは人種、信条、性別、社会的身分などなどによって差別されません。

いよっしゃぁーっ!俄然テンションが上がってきたぜ!!

 

question②:ロリコンにとって守らなければならない鉄則はなに?

 

「力、圧倒的な強さだ。全てを屈服させる暴力だ!」

 

ノォォォォォォオォォォォォォオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!!!!

 

YESロリータNOタッチ!!

 

おま、そこ間違えてたらそりゃ無理にきまっとるやんけ!!

基本だよ、それ基本だからねっ!!

こいつ、紳士の鉄則を分かっていなかったのか……ったく、力力力って……その程度でロリコンを語んじゃねぇっ!!!

ふぅー……いいか?

お前に足りないものは一つ――覚悟、ロリコンになる覚悟だ。

俗世(年上)を捨てただロリを見守り、愛する事を誓う……それがどんなに難しいか。

俺ですら未だにその最上には至れずにいる。

闇雲に突っ走る……その気持ちは分かる、俺もそうだった(※勘違いです)。

だから見せよう、お前の求めるものを。

 

活目せよっ!!その目に、焼きつけろ……これがロリコンになる覚悟を持った者のみに扱える――――ロリ魂だ。

 

 

 

――ぶわぁっ!

 

 

 

俺の覚悟に圧された将監が瞠目する様を眺める。

 

「な、なんだよ……なんなんだよ、今のはッ!」

 

分かる……怖いよな。

お前は恐れているんだよな。

俺達の前に立ち塞がっていた法を、社会を、人の目を。

だから力に逃げようとするんだ、俺には分かる……お前の気持ちがな。

うん、分かる、分かるんだよォっ、手に取るよぉぉぅにぃっ!!!!!(※ひどい勘違いです)

 

「……で、それでっ!その程度で何が出来るッてんだ!!」

 

むぅ……?

こいつ、今の俺の覚悟では足りぬと、そう言うのか。

 

「覚悟だとっ? はっ、そんなもんじゃ何も変わらねぇ!変えられねぇんだよ!!」

 

……仕方ないか。

お前にはまだ早い、そう思っていたんだがな。

そこまでの意思があるというならお前に教えよう。

 

いいか? 

ロリコンには――――段階がある。

 

 

第一位階 ″見守る″

 

これは先ほど見せたな?

これはロリコンを理解した者のいる位階だ。

紳士の鉄則『YESロリータNOタッチ』を守る意思があれば誰にでも至ることが可能だ。

そして二つ目。

 

第二位階 ″守る″

 

これは俺のいる位階だな。

分かるか、これがなんなのか。

第一位階、見守る……見て、守る。

その行為の一つ先の段階、それすなわち守る。

見守るのではなくロリを守護する、そう心に誓った者だけが至れる位階。

二段階目に入ることによりロリ魂を用いた覚悟の発露、その威圧は一段階目の約三倍。

シャアザク並みの進化を発揮する。

それを受ける覚悟があるといったのだな、お前は。

 

俺は将監の目を見た。

そこにあったのは恐れ。

しかし、それ以上に負けるわけにはいかない、退くわけにはいかないという覚悟を見た。

 

ふふっ、いいだろう。

ならばゆくぞ!!これが第二位階の―――――ロリ魂だッ!!!!!

 

 

 

 

 

 

幼女への―――

 

「想い」

 

 

 

ロリコンになるという―――

 

「意思」

 

 

 

YESロリータNOタッチを厳守する―――

 

「覚悟」

 

 

 

ロリコンは力で屈服させるんじゃない……必要なのは紳士の技だ。

力ではなくロリ魂で、体では無く心で。

 

「お前に――」

 

 

 

 

見たか、将監よ……これが覚悟を持った者のロリ魂の使い方だ。

 

「真に理解でているか?」

 

俺の放てる全開のロリ魂、ただそこにあるだけだったそれを将監のみに集中させる。

息は苦しく辛いだろう、しかしこれはロリ道を甘くみた将監への……罰なんだ。

心を鬼にして徹しなければならない。

 

 

 

 

「やめてくださいっ!」

 

うん、すぐやめるね。

罰とか、酷過ぎたよね?

俺もそう思うもん!!

 

なっちゃんは俺をがん無視して将監を心配する。

べ、別に泣きそうじゃないしっ!全然平気だしっ(涙声)

……もう帰ろう、辛いし。

 

「ぜぇっ、ごほっ……待て、待ってくれ!」

 

まだ何か用か。

先ほどなっちゃんが止めなければ貴様……死んでいたぞ?

 

「想いだけで、覚悟だけでそこまでなれるってのか――俺は!」

 

「なれる」

 

なれるさ、俺はそうだった。

お前もきっと、な。

 

振り返り将監の目を見ながらそう言った。

見ればなっちゃんが少し恨めし気に俺を見てた。

っ!?

やばい、好感度あげないと!

アドバイスっ、アドバイスだっ!!

 

「守る覚悟」

 

「まもる、覚悟?」

 

「お前に一番合う」

 

「なんで、なんでだよ」

 

ハァァァ―――っ!?

お前、後ろに献身的美少女なっちゃんを控えさせといて、それ言うの?

はぁ……。

 

「守る者、もういるだろう」

 

そしてなっちゃんを見る。なっちゃんを見つめる将監の目は……ったく、俺のもう心配いらねぇな。

二人に背を向けて歩き出す。

 

「待って、待ってくれ!……名前を、あんたらの、名前を教えてくれ!!」

 

俺達は後ろにいるであろう二人に名を名乗る。

そして最後に将監に呟いた。

 

「……待ってる」

 

お前が俺と同じ場所まで来るのを……。

大丈夫、そう遠くねぇ……お前にもいるからな、守るべきものが。

待ってるぜ、同士(ロリコン)よ。

 

 

 

 

 

 




はい!と言うわけで九話は将監と災斗の馴れ初め、もとい過去話でしたぁー(^q^)


はい……ごめんなさい、ギンさんが空気でしたね。
もう本当に許してください。
また、また今度日常回的なときに書くので、本当に(泣)



……気づけばお気に入り数もかなり増え2000を越えることができました。これもハーメルンに住む紳士の方々のお陰であり、感謝の念を深く深く感じております。3000目指すとか身の丈に合わない願いは抱きません。今この作品のお気に入り登録者の方々にこれからもお付き合いいただければ幸いです。

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