また、日常回の予告に関するアンケートですが、5月22日11:00時点で169対216という結果になり、ゴルシの得票数が上回ったため、今後は通常回をナレーター風、日常回をゴルシでやっていこうと思います
投票してくださった皆様、ご協力いただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いしますm(__)m
その日、日本トレーナー委員会ビルにヤンは足を踏み入れた。いつもの軍服ではなく、スーツ姿である。どうにも慣れないが、これが正装らしい。
試験の科目は3つある。学科、模擬指導、面接。まず、学科を二日間行う。これはウマ娘とトレーナーについての知識を問うものである。中央ライセンスをとる場合、つまりヤンの場合は約9割の得点が必要であった。
これがヤンにとっては頭痛の種である。彼の脳みそは33年の使用歴があり、吸収力という点では、いささか劣っていた。
「なんで、この歳になってまで試験勉強をせにゃならんのだ」
言って変わるわけではなかったが、言わずにはいられなかった。彼の受けた試験は士官学校でのものが最後である。以降10年あまりは常に現実が答案用紙であり、相対する敵軍が採点者だった。紙とペンの試験とはわけが違う。採点者の使うペンの色は同じだったが…。
兎にも角にも、この試験にパスしないことにはこちらの世界での給料の源泉が絶たれてしまうし、何よりタキオンにチームを組むと言った手前、もはや引っ込みがつかない。
結局のところ彼は自分の外に動機を求める人間だった、と言うことができるかもしれない。最初は給料に、次は彼を慕う部下に、そして今は受け持つウマ娘に。
1日目の試験はまずまずの手応えで、彼は充足感のまま本屋へ向かった。さすが一国の中心都市で、本屋だけのビルというものがある。レンガ造の洒脱な外観で、ハイネセンやイゼルローンではあまり見ない意匠だった。中に入ると、紙とインクの匂いが充満している。電子書籍が主流で、紙の本、特に文庫本がなかった時代のヤンにとっては宝の山であった。本人からすれば、あくまで購買意欲を控えめに抑えつつ、5冊の本を買うと、夜が更けるのも構わず読み進めた。
「しまった! 明日も試験じゃないか…」
ヤンは続きを惜しみつつ、寝床についた。先約にも関わらず、存在そのものに対して不満をぶつけられた試験の方こそ良い面の皮である。
睡眠時間のハンデを背負ったものの、2日目の試験も無事に終えた。彼の脳細胞はまだ捨てたものでもないらしい。
その後、昼食を挟んで模擬指導が行われた。指導、と言っても相手は棋馬、ウマ娘のコマである。
試験官が10個ほどの棋馬を並べ、レースのある段階を机上に再現する。そして、受験生の一人を選んで、貴方ならこの娘にどうアドバイスしますか、レースの反省点としてなにを挙げますか、など様々な角度から質問を投げかける。
ヤンの番がやってきた。8つの棋馬が団子になっている。試験官は馬群の中ほどに位置する一つを指して問うた。
「これは第3コーナーでの状況です。貴方はこの娘が終盤どのような経過をたどり、何位になると思いますか」
はじめてのパターンだった。が、それは幸いだったかもしれない。この手の予想は彼の最も得意とする所であった。
「このまま沈んで、6位ぐらいでしょう」
「ほう、その心は? 」
試験官と目があった。興味深そうな光が覗き込んでくる。
「まず、先頭のウマ娘は最後の第4コーナーでもこの位置をキープするでしょう。外にいる2人は直線に入って並びかけてきます。一方で内のウマ娘たちにはチャンスがありません。このまま互いに潰しあって終わると思います」
「なるほど」
試験官の示した反応はそれだけであった。バインダーにペンで寸評を書きつけていく。
この試験から一次合格者が発表されるまで、およそ10日である。その間、彼は食事と睡眠のほかはガラス張りで外を望めるカフェに陣取り、読書に熱中した。彼にとって、久方ぶりの休暇であった。
同じ空の下、マックイーンは地面と睨み合っていた。膝に手をつき、なんとか座り込むのを押しとどめている。
彼女は今、公式にはヤンの担当ウマ娘だが、合宿中の立場は“ギャラクシー”の居候であった。が、ラインハルトの組むメニューは容赦がない。それは傍にいたテイオーから見ても、ちょっと可哀想なぐらいであった。
もともとスタミナが自慢のマックイーンだったが、これには参った。最初の一週間は毎日筋肉痛に襲われ、食べる量も明らかに増えた。特に朝食はご飯ならお茶碗一杯とお味噌汁一杯をおかわり、パンなら追加でトースト二枚、といつもの彼女からすれば一人前増えている。
一人であれば挫けていたかもしれない。彼女を支えたものはライバルであるテイオーの存在が大きい。好敵手の前では恥ずかしい姿は見せられなかった。
今ひとつはマルゼンスキーが息抜きで連れて行ってくれるジェラート屋であった。練習場から車で10分ほどのところにあり、10種類ほどの味がある。午後の練習の合間に訪れ、帰りの車の中で味わうのが常になっていた。もちろん、自分と他の3人が夜に楽しむ分は別にテイクアウトしてある。彼女らは3日と間を置かずにジェラート屋へ足を向けた。
そんな生活にもようやく慣れ、筋肉痛と縁遠くなったものの、練習自体が楽になったわけではない。日が沈む頃にはいつも肩で息をしていた。
ようやく息を落ち着かせると、ルドルフが声をかけてきた。
「マックイーン、併せ馬をしないか」
突然だった。ルドルフは有無を言わせぬ様子でそのままコースに立つ。
マックイーンが並んでスタート位置につくと、テイオーがスタートの笛を吹く。
ルドルフはいきなり前に出て、引き離しにかかる。が、マックイーンは離されない。あじさい色の髪の少女は負けることが何よりも嫌いだった。相手がたとえ絶対的強者であっても…。
半周終えたところでルドルフはチラリと後ろを振り返った。マックイーンは歯を食いしばりながらついてきている。漏れ出る息のリズムは早い。
(もう少し、ペースを上げるか)
彼女は全力疾走に入った。このスピードで走るのは一年ぶりである。ついてこられるのは今やマルゼンスキーのみ。そのはずだった。蹄鉄の音が背後で刻まれている。マックイーンは未だ彼女の背中を捉えている。先程から少しも離されず、そのまま走っていた。
一周を終えた頃、ルドルフはコースを外れた。
「もう一周行ってこい」
マックイーンは頷くとまたコーナーに入っていった。ルドルフが前にいたときのスピードには及ばないものの、十二分に速い。
テイオーはライバルの姿を目で追う。それは羨望の眼差しだった。
(ボクだって会長と併せ馬がしたい)
提案は幾度となくしたが、その都度また今度、と断られていた。ラインハルトに頼んでも、今は基礎固めの時だ、と一顧だにされなかった。
(なんで、マックイーンだけ…)
ドス黒い感情がむくむくと首をもたげてくる。ライバルの姿を正視できない。彼女は天皇賞に出るため、自身の目標であるクラシックレースには出ないはずである。確かめたわけではない。それは願望に近かった。
ポン、と肩に手を置かれる。顔を上げると、黄金色の髪のトレーナーがいた。
「どうしたの、閣下? 」
「会長がお前と併せ馬をしないのは、クラシックでの負担の大きさを思いやってのことだ。お前の思うような理由ではない」
「そう、なんだ…」
「それと、人生の先輩として忠告するならば、友人は大切にするべきだ。失ってからでは遅いからな…」
テイオーは弾かれたようにトレーナーの顔を見た。蒼氷色の瞳はどこか遠くを見ている。その心は窺い知ることができなかった。
(閣下はどこから来たんだろう? )
彼女らのトレーナーの出自は会長や副会長、マルゼンスキーがすでに聞いているらしかったが、他のメンバーには一切知らされていなかった。
ただ、時々何とも言えない顔をする。空を見上げ、手を伸ばし、何かを掴もうとするのを何回か見かけた。ヤントレーナーが来てからはその頻度が減った。が、テイオーらに対する態度が変わったわけではない。
(ヤントレーナーは閣下にとっての何なの? )
ラインハルトはこの一ヶ月間つねに彼を意識している。テイオーらが七夕賞をTV中継で見ている時にふとやって来て、まだスタートもしていないのに、
「あの男の指導するウマ娘が負けるわけがあるまい」
と、だけ言い残していったのは記憶に新しい。
(もし、ボクとマックイーンが同じレースに出走したら、閣下はボクが勝つって言ってくれるのかな…?)
ピース!ピース!
みんなのアイドル、ゴルシちゃんだぞ!
夏もたけなわ、クールビズ!
聳ゆる山はいや高く!
明日は明日の風が吹く!
次回、ウマ娘英雄伝説『星々の行方』
ウマ娘の歴史にこのゴールドシップ様の名を刻めぇ!
改行した場合の段落はじめについて
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一文字下げた方が読みやすい
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一文字下げない方が良い