まぁよくある異世界転生ものですが
だって下手くそでも手を付け易いんだもん
朝起きたら死んだ覚えもないのに知らない世界に転生していた。
転生モノテンプレの西洋中世風異世界。
窓に映る自分の顔も身体も全部自分が知らないモノ。
この世界の自分が今日に至るまで歩んできたであろう知識も経験も頭の中にはなかった。
この状態は最初から詰んでいるとまでは言わないまでも結構近い状態なのではないだろうか。
呆然とした表情で俺が立ち尽くしているとノックも無しに扉を開けて部屋に誰かが入ってきた。
「ちょっと、起きてこないと思ったら今目覚めたばかりなの? 早く支度して降りてきなさい」
当然見知らぬ顔であったが話しかけ方や外見から察するに俺の母親らしい。
外見……いや、かなり若く見えた気がする。
姉であろうか。
まぁどちらでも良い。
俺はベッドのすぐ横の床に服が置いてあるのを見つけ、その場で着替え始めた。
「ちょ、ちょっと! なに目の前で着替え始めてるわけ?!」
声がする方を向くと先程部屋に入ってきた女性がまだ居た。
彼女は慌てた様子で自分の抗議に対する俺の反応を待つことなくそそくさと出ていった。
あの様子から察するに母親ではなさそうだ。
となるとやはり姉か、もしくは彼女……はないだろう。
もしそうならあそこまで慌てたりするのはおかしい。
俺は頭の中で彼女の存在を暫定で姉と判断し、部屋を出て階段を下りていった。
因みに服は着れた。
低い文明の時代の服でも着るだけならできた。
着こなせているかという話になるとちょっとそれは大分自信はなかった。
「ちょっとアンタなにその格好……」
姉(仮)は降りてきた俺の姿を見るなり目を丸くして俺を見ていた。
彼女の直ぐ側にはそこまで歳が離れて見えない女性と男性が食卓と思しきテーブルに着いており、その二人も姉(仮)と同じような表情で自分を見ていた。
どうやら服は着れてもやはり完璧に着こなせてはいなかったらしい。
俺はバツが悪そうな顔をして「まだ寝ぼけてるみたい」と言った。
その瞬間に耳に聴こえた自分の声を聴いて、俺はこの世界に来て初めて心の底から驚いた。
なにも生まれ変わった新しい自分の声にそこまで驚いたわけではない。
驚いたのは日本語で話したつもりが自分が全く知らない言語に勝手に変換さてそれがまた勝手に口から出たことだ。
全く知らない言葉がなんの抵抗もなしに自然と口から出るというのは正直気持ちが悪かったが、それでもこれは今の俺にとってはとても有り難いことだ。
俺は瞬時にその結論に辿り着き、言葉が出た驚きから口元を押さえかけた手を止めて、なんとか自然を装って自分もテーブルに着いた。
腰を掛けた場所は見た目は若いが多分父親と思しき人物と向かい合わせになる場所。
姉(仮)と本当に姉弟だったなら隣同士に座るのが自然とも思えたが、生憎この時の俺にそこまで状況判断する冷静さは流石になかった。
そしてその判断が誤りであったことを俺は早速知ることになる。
「おいケイネス、お前家族なのになにそんなとこに座ってんだ」
「え」
俺は父親らしき人の言葉を聞いてキョロキョロと左右に首を振る。
意味が解らなくて僅かに沈黙したが、程なくして何となく察しが付いた。
多分今自分が座っている場所はゲスト用なんだろう。
果たしてそういういった文化がアジア的なのか西洋的なのかは判らなかったが、俺は内心「メンドくさ」と思いながらまた「ごめんまた寝ぼけてた」と適当に言い訳をしながら今度は姉(仮)の隣に座った。
今度は誰も何も言わなかった。
姉(仮)も特に不審がったり嫌な顔もしていない。
俺は自分の選択が今度は正解だった事に安堵し、そこで先程父親らしき人が自分をケイネスと呼んだことをハッと思い出した。
この世界での俺の名前はケイネスというらしい。
これは大変な収穫だ。
自分から「俺の名前なんだっけ?」などと不自然極まりない行動を取らずに済んだのだ。
俺はこの僥倖に気を良くしてもう少し身近な情報を収集して現状を少しでも把握する事にした。
「父さん」
「ん?」
父親らしき人が直ぐに反応してくれた。
よし、これからこの人は父親らしき、ではなく間違いなく俺の父親だ。
俺は父親の反応から更に次の情報を得るために会話を繋げることにした。
「母さんは今日……いつくらいに起きた?」
「は? いつって……いや、おい母さんいつだったっけ?」
「え? まぁ大体いつも通り日の出から少しくらいだったと思うけど?」
「そうだよな? いつも通り母さんが先に起きたはずだ。それがどうかしたか?」
「あぁ、いや……もしかして今日は珍しく父さんが先にって思っただけだよ」
「ははっ、そりゃ期待に応えられなくて悪かったな」
どうやら父親は俺のこの情報収集を朝に家族が交わす取り留めのない日常会話だと思ってくれたみたいだ。
俺はここに来て父親が側に居た女性に話しかけた事からその人物が自分の母親だと確信した。
いや、それにしてもやっぱり若くないか?
30代、下手したら20代とも思える。
まぁ、昔は若くして結婚する時代もあったらしいからそういうことなのかもしれない。
何がそういう事かまでは俺は深く考えることもなく、母親が出してくれたコーヒーっぽいものに口を付けた。
「…………」
勝手にコーヒーっぽいと思ったものはコーヒーではなかった。
ちゃんと注がれた湯気立つ液体を覗いてみるとそれは透明で、細かく刻まれた葉っぱみたいな物とパンカスのようなものが散りばめられていた。
味は優しい塩気に、恐らく葉っぱからであろう薬味的な香り。
口に入ってきたパンカスは当然ふやけて柔らかく、咀嚼して飲み込むのも簡単だった。
俺はそれを即興の朝食だと判断し、努めてコーヒーではなかったことに対する失望を表情に出さないようにした。
取り敢えず目標は……デメントとハイスコアガールと同じくらいのお気に入りが付けば御の字としよう
デメント……3件くらいだっけお気に入り
まぁ数年経てばきっと3件くらいは(慢心)