1:はじまりのはなし
「ねぇねぇトレーナー。中央に来てだって」
桜色の頭髪を持ち、後ろに結わえた少女。
彼女は隣に立つ人に、手に持っている紙を渡す。
「ほほぅ。トレセン学園に栄転してほしいとな」
少女の隣に立つは、渋い色の和服を着る偉丈夫。
「挑戦状か、いいだろう」
紙を手渡され中身を見るが、一瞥したら丸めてゴミ箱へシュート。
口端を上げて鼻で笑う。それは別に当然の事だとか傲慢なさまを表している訳ではない。
単純に自分の力を示せるという挑戦欲が、身の内からあふれてしまっただけだ。
「私はどうすればいいの?」
不安げに少女は偉丈夫を見上げる。たった一人置いてけぼりをくらう。
それは彼女に死ねと云うことと同義。裾を握って、私も連れていってと暗に示す。
そもそもの話、偉丈夫はトレーナーである。
ウマ娘という存在である少女を、こんな辺鄙なところに放置していくわけがない。
「共に中央の者を見返してやろうではないか。地方には地方の意地があるとな」
偉丈夫は少女に目を合わせず、遠くを見ゆる。その眼の先には、トレセン学園が見えているのだろうか。
それとも。
「うん。アナタとならどこへだっていけるよ」
少女は馬娘としてトレーナーのために尽くす。偉丈夫にとってそれは、彼女の本能が導く走りたいという欲求のためと思っている。少女が走りたいという感情を多分に出すわけではない。
それでもこんな走りにくい場所よりも、中央の整地された場所の方が走りやすいだろうという気遣いもあるのだろう。
「では行こうか、キズナキセキ」
「はい、官兵衛さん」
キズナキセキ。
異世界では、スズカキセキと同期かつ別の血統で生まれた牡馬。
最初のデビューでは、圧倒的な馬身差で1等。そこから人気と共に、多くの資金を稼ぐ。
初めて微妙な血統に優秀な血を入れた牧場主。そして圧倒的な人気に湧くオーナー。
非常に大事にされるがそれがストレスとなったのか、徐々に成績が下降。
18番人気の時、1着を取った後疲労骨折。即座に引退の後、屠畜になる。
約6660萬稼いだが、々じ母馬より生まれた牝馬の方が優秀だったので種馬にならなかった。
また丁寧にしても適当にしても、誰がジョッキーになったとしても気性難・性格難であったため、大事な牝を殺してしまう可能性があったという理由もある。
生涯において全ての脚質を以て、全くの勝負馬と持て囃された。
ターフは戦場。そこに定石はない。流動する気魄、後に噎ぶは蹄跡のみ。