ギャグもシリアスもない健全な話   作:名無しの権左衛門

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6:わがままで頑固で飽き性な子だった場合

「お前さん、もう飽きたのか」

「む、飽きてないよ」

 

 壮年の男性が、ターフに座りこむ少女に呆れを含む声をかける。

対する少女は、桜色の頭髪を鉢巻きで支えながら頭髪を後ろで結わえながらふくれっ面を見せる。

 

「いーや、お前さんは飽きたな。どうする? 約束通り、メリージェーンにでもするか?」

「え!? やだよ、絶対ヤダ!」

 

 またこの発作だよと脳裏で愚痴りつつ、少女のいつものを聞く。

少女のいつものは、とても自分本位で周囲の事を考えていない。

彼女の年齢を考えれば、とてもかわいいものではあるが自身が所属する場所を考えると、

そういう甘えは許されない。

 

「北海道から高知に来て、そこからトレセン学園で1位をつかむとか息巻いていたじゃないか」

「だって皆、わたしをバカにするんだもん! だから絶対に1位を取ってやるんだ!」

「うん、それで?」

 

 鹿にされて頭に来たから、頑張ってトレーニングして地元の小学校で頑張って勉強してトレセン学園に来た。男性はこの中途半端な娘が、この魑魅魍魎がはびこっている魔境に入園できたのか。甚だ疑問である。

 

「わたしの頑張りが認められたんだよ!」

「底抜けにわがままならそうだよな」

 

 一応他人の前でおべっかを使うことはできている。

しかしそれ以外が壊滅的にダメだ。男性は頭を抱えながら、どうにかしてわがまま少女を

競争者として育成しようとした。

だがその頑張りは、少女の飽きっぽさの前で崩壊する。

 

「飽きたーねぇ、他の事しようよ!」

「あのなぁ、一定以上の事をせんと身体についてくるわけがないだろう」

 

 そして飽きたら、てこでも動かない。

妥協して別のようで々じ訓練をさせようとすると、少女は敏感に反応して飽きたと連呼する。提案し訓練しては飽きる。そこから妥協しようとせずとも、訓練自体が飽きたという。

 そんな少女を見て、男性は一大決心をつけた。

それは少女の監督者を止めるということ。

 

 トレセン学園は娘だけが学生として入ってくる。

つまり必然的に、女子高になってしまうのだ。そんな中に男性が入るのは、

基本的に教職員くらいしか不可能だ。

 だがその職種以外にも、男性が入ることができる業務が存在する。

それは一定の娘に対する監督だ。

 

 本来ならばトレーナーという調教師やダンストレーナーという講師だけが、

入園した娘の面倒を見れる。

 だが一部の資産家や持病持ち・気性が荒い警察案件の娘・貴族や華族等の娘が、

学園で何かしらやらかしたり男性トレーナーに何かされないように監視する。

そういう監視者こそ、監督者という役職になる。

 

 ちなみにこの監督者は、有名どころでメジロ家。

ここはメイドや執事を、早朝8時から夜の20時まで自身の周囲で奉仕させるために入園させている。更に隠れてはサンデーサイレンスの近縁分家護衛に、トウカイクインより始まる由緒ある名家の娘の護衛。

 他にもまだまだあるらしいが、トレーナーとして出向されている場合もあるので

実態は不明である。

 

「何で!?」

「ハルウララ。君はいささか、わがままで飽き性だからだよ。頑固だからこそ成長性があるのはいいけれど、ここではそんなの通用しない。甘すぎる。さっさと荷物をまとめて、故郷へ帰ろう。高知ならばマスコットにはなれる」

 

 いい加減疲れてしまった監督者は、よっこらせと地面に下ろしていたカバンを担いでターフより去る。

それを見た少女は、意気地なしと監督者を怒鳴りつけて去る。

 

「いいもん! わたしだけでやってやるもん!」

 

 不貞腐れた少女は、いつもの調子であり続ける。

全寮制かつ2人部屋なので、いつもの相方には笑顔を振りまき教室でもけなげな子を作る。

おませな女の子がやるような、計算づくのものではない。

それはただ、自身の存在を正当化するためのものでしかなかった。

 自分を作るという行為に飽きるほど、それはガラスの様に崩れるというのに。

察していく周囲の娘たち。

 

 だが有り余る無邪気さで、少女自身の心を砕きながら周囲の歓心を買うことができた。

 

 

 彼女は多くの知り合いや友人を作り、同時に走るための訓練を行う。

 

「わたしだって、やるときはやるんだから!」

 

 努力も頑張りも、全ては結果が出せなければ意味はない。

その事を全く知らない少女は、ただひたむきに走る。

他の娘には、トレーナーがいて目標を決めた中で自身の強化に努めることができる。

しかし少女にそのような存在はいない。

何故なら例の監督者が、少女に対して干渉しないように周囲へお願いしているからだ。

 本来ならばこの学園の方針に反対しているとして、監督者を責任放棄の罪状で更迭できる。それができないのは、監督者が多くの輩出を出している北海道でなかなか有名な人物であるからだ。

 

 監督者の懇願は、学園長の暗黙の中で執り行われる。

勿論娘は誰も知らないし、生徒会長や教師陣もしらない。

本当にトレーナーのような国家資格を得て、知見や見分を集積したものでなければ

娘を競走として育成することは困難なのだ。

 よって生徒会長も教師も、助言はできるが師事はできない。

つまり少女はつんでいた。

 

 

 

 そんなこんなで少女は、今年最後の模擬レースにやってくる。

距離1200のダート。走者は8人。観戦者であるトレーナーは10人。

 

 

「いつもの体育だとびりだけど、競争では負けないよ!」

 

 ゲートに入る前に、少女はクラスメイトの娘たちと話す。

一応少女は今まで頑張って走って訓練していたが、根本的なものをつかめてすらいないので授業であっても連敗している。本人は勝利への邁進を飽きていないように気丈にふるまうが、競争としての覚悟がないことを周囲に気づかれている。

 

「勿論、負けないからね。

(走りも覚悟も中途半端な奴に、ライバル認定されるだけでも癪に障るわ)」

 

 そう、クラスメイトの一人も、笑顔を張り付けて少女と対話する。

残念ながら会話の距離は近いが、心の距離は非常に離れてしまっている。

日頃の態度からして当然だ。真剣な勝負を飽きないように、自分自身が走る事を楽しいと

思い込ませる。

 その”楽しい、次も一緒に走ろうね”は、周囲の焦っているダート短距離娘の心中を苛立たせるのであった。

 

「手加減はしないよ?(何楽しそうにわくわくしてるわけ? 芯の通ってない心と身体で、短距離ダート専攻娘を売り込めるわけないじゃん。本当に頭お花畑なのね)」

 

 この子もまた、自身を騙し周囲をだましきれていると思い込んでいる少女を嘲笑していた。勉強も実技も、ダンスはまあまあとしてもお世辞じゃ隠しきれない負の面が多すぎる。一週間前のテストも、平均を下回っていた。

専攻科目も失笑を禁じ得ないくらい、ひどすぎるもの。

 さらに言うと持久走に関しても、最下位で歴代21番目の遅さだと体育の教師陣は

苦虫を噛み潰したような顔をしていたのだ。

つまりそれくらい、忌みじく遅い。

 

 

 

 さて、レースという2分以内に収まる闘争は、瞬く間に終わった。

少女の得意距離であっても、適性脚質でも適性場でも……びりっけつだ。

 

 暗雲が立ち込め小雨を振ってきた中、肩で呼吸し呼吸を整える。

少女は今度こそと電光掲示板を見ると、やはり最下位。

彼女はいつものことと頭を振るって、意識のかなたへ情報を追いやるとすぐに笑顔になって仲間の下へ走る。

 少女が走っていったその場には、少ないものの確実に娘をスカウトしたいというトレーナーが居て、娘たちを次々自陣に加えていった。

 

「あ、シャネルちゃん。さっきのレース楽しかったね!」

 

 その声に一瞬で場は冷え切る。

そしてトレーナー達は、少女の友人ではなく最下位の少女に向けて冷ややかな目線を向ける。それは可哀想とかではなく、侮蔑や愚物といった負のもの。

勿論言葉に乗せると、すぐにトレーナー資格を剥奪されてしまうので喉から出かかっても

気合で何とか飲み込んだ。

 そしてこの頭ぱっぱらぱーな少女から逃げるように、最下位の少女以外の娘を連れていく。

無論、クラスメイトの少女たちが最下位の少女に向けるのは、優越感が満ちた蔑視。

 

 誰も何も言わず、背を向けて去る。

 

「あ……あ……」

 

 少女はついに、理解した。

 

 同じ部屋の娘やクラスメイトで仲の良かった娘。

彼女ら全員の心中から、最下位で覚悟の無いただただ目的の無いお気楽な少女は、すべての意味で排除されてしまう。

 それが分かった少女は、あらゆる罵詈雑言を叫んだ。

自身の語彙力が高くないことも、要領のいい頭をしていないことも把握している。

だが少女はただ、全力で叫んだ。

 

「かえろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰る場所など、とうに無いがな。

 

「なんで?」

「ですので、これが最後の機会だったんですよ」

 

 教師より言い渡されたのは、退学だ。

 

 そもそもトレセン学園はスポーツ専攻だ。

色んな娘を輩出しているが、その者たちは全て何かしらのレースに出ている既出の娘なのだ。

206連敗を喫した少女も、3回しか当たらなかった少女も、トレーナーに率いられて

何かしらのレースに出た。

 そうして怪我をするか目標を超えられず挫折した子を、社会的に殺さないため経済娘としての価値を付与するために、ちゃんと勉学に向かわせて卒業させるのだ。

 

「あなたの監督者が門前で待っています。門限の21時前には、荷物をまとめて引き払ってください」

 

 今までの待遇はなくなり、完全なお客様対応をされる。

少女は今まで明るくあろうとしていたが、その必要もなくなった。

 虚無になった心のまま首肯し、荷物をまとめ始める。

とびらを開いて片付けに入って、ふと隣のベッドを見つめる。

相方はすでに眠っていた。

明日から華の娘として出走することになる。

 

 少女は暗い気持ちを抱く。

 

 片付けが終わってトレセン学園の制服を着たまま、扉を開けて出ていこうとする。

そのときベッドの布団ががさりと擦れる音が、少女の耳に入ってきた。

何事かと思って振り返る。

そこには勝者である娘の余裕があった。

 

「最後だから言わせてもらうけど。お前、すべてが中途半端。

やる気あったの? 何のためにトレセンにきたの?

てか、あんた本当に娘? ここは遊び場じゃなくて、

トレーニングセンター。れっきとした、競走育成所。

この意味がわかんないなら、二度と地方や中央のトレセンに再受講するな。

そういうわけで、消えな」

 

 顔も見たくない。

 

 悪意ではない。そもそも興味すらない付属品。

今までは相部屋の誼で、なんだかんだ付き合っていた。

しかしその程度の娘だったのだ。ならば容赦はいらない。

ただの娘に、中央所属のエリートの時間を取らせてはならない。

存在が邪魔。

 

「……私は……楽しかったよ。ありがとね……」

 

 少女は一番仲が良かったと思っていた相方に声をかける。

夜だからと配慮したが、それが癇に障ったのかその娘はベッドより降りてくる。

 

「ここはあたしの部屋なんだけど、部外者は出ていけよ!」

「ひっ!?」

 

 いきなり豹変した相方は、少女の肩を握って押し出しそのまま外へ押し飛ばす。

少女は力負けした自身に驚きながら、相方の圧倒的な膂力に押し飛ばされ壁に激突する。

更に部屋の中に残っていた荷物が、全力で投げ出され少女の腹部に直撃する。

鍛えた娘ならばこの程度、余裕で防ぐことができた。

 しかし何事も飽き性で、違う方角に興味が湧くという性格上力を蓄えることができなかった。

そのため少女は、この学園で最弱の存在になったのだ。

最弱は弱者にかなうことはない。

 

「ごほっ、ごほっ……」

 

 むせながらも立ち上がる。今まで明るく見えていた通路も校舎も、練習している娘たちも全てが真っ黒に染まっていく。

視覚に入るのは校門への一本道で、近づくたびに細く細くなっていく。

また聴覚に入ってきていた娘たちの活発な声は次第に、雨が強く打つ音しか聞こえなくなった。

 

「これからどうなるんだろ」

 

 傘をさす余裕なく、校門に立っている監督者。

その表情はただの無。虚無。期待外れ。

 

「期待外れだ。君のオーナーは、帰ってこなくていいと言っていた。

そういうわけで、自分のところに来い。宿泊代は、体で払えばいい」

「は?」

「だから、お前はもう用済みだ。幸い容姿端麗だから、ワンチャンあると思っていたがここまでとは。学園の授業料も高い。卒業しなかった者には、奨学金そのものの支払いが求められる。その額300万。払えるか? 払えないだろうなあ――」

 

 少女はただ打ちひしがれていただけだった。

しかしそこに乗せられるのは、非情な現実だ。

中退による学園補助の適用外により、授業料の完済要求。

 圧倒的な借金を提示されたとき、監督者は今までの仮面をかなぐり捨て

全身を舐めるように矚る。

特に注視されたのは、胸。

 

 少女は身の毛のよだつ思いに震えあがる。

少女はその手の広告を、PCを使った情報の勉強で最後の10分間のフリータイムで見たことがある。

また相方やクラスメイトと共に、そういう話題を行って検索したこともある。

つまり、そういうことだ。

 彼女はいつの間にか背後に回っていた大人の娘に拘束される。

勿論抵抗するが、護衛を生業にした者と最弱の少女では隔絶した差がある。

 

「嫌っ! 誰か助け―――」

 

 

 そうして少女の人生は、終わりを告げることになる。




美化ほど対象の名誉も尊厳も殺すことはないだろう。
だがそれが正しいかという尺度は存在しない。
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