NEXT PAGE 作:うんこたれ蔵
ゴールドシップがのっしのっしと私の前を歩く。こいつはなんやかんやで要領がいい。きっと事前に学園内の道を把握でもしていたのだろう。ならば私はそれに付いていくだけだ。
……それにしても人通りが少ないな。入学式の後なんだから新一年生とかがワイワイやっててもいいと思うんだけど。
「どう思う、ゴールドシップ?」
「そりゃ明日の準備だろ。明日から本格的に競走ウマ娘としての生活が始まる訳だ。のんびりしてるヒマなんざないってこった」
「……それもそうか」
こいつ……割と意識高いのか? それとも私の意識が低いのか?
……まぁ二人して遅刻してる時点でど底辺は確定か。はぁ〜あ、気が滅入る。どんな風に怒られるんだろう? 実家に帰って人参農家でもやってろとか言われてしまうのかな?
「……おっ、売店があるぜ。おばちゃーん! ドロリッチ20個おーくれ! え? もう販売中止してる? そんなー」
「今日は天気がいいし、まさに将棋日和だなー。よーし今日は徹夜で指すぞ!」
「あそこに座ってる奴、もしかしてこのアタシにガン付けてんのか? ……やいてめーこら! アタシのイカした生姜ストラップに文句でもあんのか!? ゴルシちゃんドロップキックをグォレンダァお見舞いしてやる!」
「ばっ、ばか! それは流石にマズイよ! そこのウマ娘逃げて超逃げて!」
流石に聞き捨てならなかったのでゴールドシップを押さえる。非常に恵まれたこいつの体格から溢れるパゥアーは私には少々荷が重い。はよ行け!!!
はぁ、はぁ……ど、どうして歩いてるだけで疲れなきゃいけないんだ……? 普通に歩けないのだろうか。いい加減大人しくする事を覚えてほしい。
噛み付く相手が居なくなった途端、急に落ち着いたゴールドシップに問う。
「ね、ねぇゴールドシップ。生徒会室にはいつ着くの?」
「え? 知らね。アタシ場所分かんないし」
「は? じゃあなんで今まで前を歩いてたの?」
「そりゃあアタシがページの姉貴分だからだ。あの日飛ばしたタンポポの種を忘れたってのか!?」
「それ新幹線乗る前の話でしょ。そもそもゴールドシップが姉貴分とかありえない。むしろゴールドシップが私を姉貴って呼ぶべき」
「……お前アタシとの身長差理解してんのか?」
「こんなの誤差だよ誤差」
ジト目を向けてくるゴールドシップ。芦毛の長髪が美しいこいつは、中々の長身だ。170くらいあったっけ? 見上げると首が痛くなるから普段はこいつの胸と話してる。
「ていうか知らないなら勝手に歩かないでよ! 思わず付いていっちゃったじゃん!」
「まあまあ落ち着けって。そろそろターフに着くぞー」
「だからターフじゃなくてまずは生徒会室……ああっ、もう!」
確かにターフはとても気になるけど、それより先に謝りに行く方が先だと思う。
走っていったゴールドシップを追い掛ける。あいつは結構恵まれた体格をしてるので足がだいぶ速い(もちろん私の方が速い)。そこそこ重いキャリーケースを片手に持ってるくせに全く崩れない体幹に感嘆を覚えつつ、私はゴロゴロとキャリーを引きながら急足でその場に向かう。
ターフに着いた。先に着いていたゴールドシップの隣に並んでターフ全体を見渡す。そこでは様々なウマ娘達が特訓を行なっていた。
坂路で練習をする奴、数人で固まってランニングをする奴、トモ上げの筋トレをする奴、寝転んで葉っぱを食べてる奴などなど、皆がみな己の課題をクリアする為に必死になっていた。そして中央にいるだけあってレベルが非常に高い。
すごい……これがトレセン学園……。
思わず呆然と見下ろしてしまう。そもそも私は本格的なターフ自体を生で見るのが初めてなのだ。そして同年代のウマ娘もゴールドシップくらいしか知り合いのいない私が心を奪われるのは無理もない事だった。
「うっはー、こりゃすげーな! やっぱ中央なだけあって色んなコースに対応してやがる! まぁアタシんちの裏庭には負けるけどな!」
「……」
「なんてったって川という名の超弩級重バ場コースがある! ツツジも自生してるから生活にも困らないし、ついでにアタシが掘り当てたキン肉マン消しゴムたちもコミュニティを築きつつある。100点満点で完璧だろ! なぁページ?」
「じゃあ帰れ」
せっかく感傷に浸ってたのにこいつは……。しかしずっと見てると走りたくなってしまうので丁度良いといえば丁度良かった。
「はぁ……まぁいいや。あそこに校内の地図があるから、そろそろ生徒会室に行こうよ」
「んな事よりどんなチームがあるのか見に行こーぜ。アタシが土俵入りするに相応しいチームがあるのか、ねっとりと調べてやらん事もない!」
「そんなの明日からでもいいでしょ! いいから謝りに行こうよ! このままじゃ私のキューティクルな髪が五厘になっちゃうよ!」
「それはヤベーな!
「んなこたどーでもいいの! いい加減にしないとルービックキューブの色テープ全部剥がすよ!?」
「──君たちはもしかして新入生か?」
二人して騒いでいると後方から声をかけられた。この聞き方は間違いなく学園関係者だ。しかし、何処かで聞いたことがあるような声だ。知り合いなんていない筈だけど……。
振り向いてどのような人物かを確認すると、そこには思わず目を疑うような人物が悠然と立っていた。
「ああん? なんだァ? てめェ……」
「ちょちょちょ! お前ホントバカ! 喧嘩売る相手くらい考えろこのダボが!」
「オゴァッ!」
私は必殺のウマアッパッパーをガラ空きの顎へと叩き込む。ブシのナサケで顎先だけに掠めるだけにしてやった。
アホが転がった事を確認し、もう一度声をかけてきた人物へと視線を向ける。
……うん、やっぱりそうだ。
基本、人というものは興味のない事柄に対して記憶する能力というものは持ち合わせていない。無駄だからだ。
しかし何事にも例外は存在する。興味はなくとも知っている偉大な人物。
漫画で言うと手塚治虫。鉄腕アトムやブラックジャック。ストーリー漫画の第一人者である彼を知らぬ人はいないだろう。
音楽であれば矢沢永吉。スタッフのミスでスイートルームの予約がされていなかった際に放たれた言葉は余りにも有名だ(※個人的な意見です)
そしてウマ娘で言うと──。
「はっ、はじめまみめ! し、しししし……」
「ふふ、少し落ち着こうか。同じウマ娘なんだ。周章狼狽する必要はない」
「あ、そうですか? 私、ネクストページというものです。そして地べたに沈んでいるのはゴールドシップといいます」
「あ、ああ、よろしく頼む……適応が早いな」
この人。史上初、無敗でクラシック三冠を制したという功績を残し、永遠なる皇帝と呼ばれる彼女の名は──。
「シンボリルドルフ──ッ!」
「まるで親の仇を見るような目だな。私は君に恨みでも買ったか?」
「…………さん」
「遅くないか?」
「すいません。まだちょっと有名人見てる感覚が抜けなくて……。あと睨んでないです。眼力に気合入れただけです」
突然だが、私は嫌な事はさっさと終わらせるタイプだ。先生や親からの鬼電を着拒した手前信じ難いかもしれないが、宿題は速攻で終わらせるしミスしたらすぐに報告する。ストレスを溜めたくないからだ。
なのでここでやる事はただ一つだけだ。
「……シンボリルドルフさん」
「なぁ、そこの彼女は大丈夫なのか? ピクリとも動いてないぞ?」
「本当に、申し訳ありませんでしたーーー!!!」
私は土下座を敢行した。なぜ私がシンボリルドルフさんに謝ったのか? それは彼女がこのトレセン学園の生徒会長だからだ。
中央のトレセン学園で、誰でも知ってる史上初の七冠バであるシンボリルドルフが生徒会長だぞ? この人に謝っておけば万事解決! そう思っての行動だ。
「な、なんなんだいきなり。そんな謝られるような事をされた覚えはないが……」
「じ、実は、入学式に間に合わなくって、今学園に到着したところなんです!」
顔を上げずに理由を述べる。
言い訳はしない。謝るときは素直に謝る。というか言い訳が言い訳として成立しないからただ謝る以外に方法がない。
「……間に合わなかっただと? 間に合ってるじゃないか」
シンボリルドルフさんが怪訝そうな顔を向けてきた。
間に合ってるだって? いやいや間に合ってないよ。今3時過ぎぞ? 9時から入学式なのに今3時過ぎぞ? 遅刻どころかサボりの域だよこれ。
「はい? ……あれ、もしかして入学式ってこれからなんですか?」
「……なるほど。ネクストページといったか。今日が何月の何日か答えてくれ」
「4月1日です」
「君の携帯には何日と書いてある?」
「3月31日と書いてます。あれっ、今年の3月って31日までありましたっけ?」
「いや、3月は毎年31日まであると思うが……」
「う、うぉぉぉ……!」
私は土下座の状態から崩れ落ちた。服が汚れる事などお構いなしにその場でうつ伏せになりなり、取り敢えず顔を隠した。
は、恥ずかしい……! 月の日数とかいちいち覚えてないよ! そういえばよく考えたら今日は一回も携帯を開いてない。ゴールドシップに奪われるからっていうのもあるけど、親からの鬼電が来てたからというのが一番の理由だ。
……あれ? 入学式は明日なんでしょ? どうして鬼電なんかかかってきたんだ? 遅刻をトレセンの人から知らされて掛けてきた訳じゃないとしたら一体なんなんだ?
「つまりどういうこと、ゴールドシップ?」
「……」
「起きろや」
ちょうど手元にあったゴールドシップの乳をガシリと掴み取る。
「あいてっ。いや、着いたら連絡しろって言ってたじゃん。それをお前が忘れてるからアタシがかけてやったんだぞ」
「思い……出した!」
そういえば家出てから一回も連絡してないな。
つまりあれは安否確認の電話だったんだ! 連絡しろって言われてたにも関わらずゴールドシップと遊び呆けてて忘れてたから今日みたいなことになったんだ! 日付なんて忘れるくらい楽しかったんだろうなぁ(他人事)
「……まぁとにかく、入学式は明日で、私たちは遅刻してないって事ですよね、シンボリルドルフさん? やったねゴールドシップ!」
「おーそうだな」
「……もっと喜びなよゴールドシップ。君の親なら尻尾引きちぎりに飛んできてもおかしくないよ?」
「いや知ってたし。焦るページをもっと見たくて黙ってたんだよ。アタシとしては予定通り学園に到着したし、なんかページが面白い事言ってるからそれに乗っただけだ。生徒会室てか3月は31日まであるのは常識だろ? 5月が64日まであるのと同じでよー」
これは……どうなんだ? 黙ってたゴールドシップが悪いのか、常識のない私(自虐)が悪いのか。
「どっちが悪いと思います?」
「ここで私に振るのか。そうだな、まず勝手に勘違いをしたのがネクストページで、その勘違いに気付いていながら正さなかったのがゴールドシップということだな。普通に考えると正す正さないはその人の勝手であり、間違っていたら必ず指摘されると思い込むのはあまり良い事ではない。どちらかといえば自己管理能力が不足していたネクストページに不備があると思える。とはいえ先程の私への謝罪とゴールドシップの言い分から考慮すると、恐らく生徒会室まで来て謝罪するつもりだったのだろう。なるほど、ゴールドシップというウマ娘が今後トレセン学園において問題児筆頭になる事も想像に難くない」
「言われてるよゴールドシップ」
「おいおい、あんまり褒めるなよ。褒めても溜まり醤油煎餅しか出せねーぞ?」
「いや褒められてないしっていうかそれ私のだし! 返せコラ! それだけはらめぇ!」
ゴールドシップが私の煎餅を手に取り上へとあげる。それをやられると私は絶対に届かない訳で、頑張ってぴょんぴょん跳ねるしかやることが無い。くすぐるという手もない事はないが、残念な事にそれは常日頃からやってたせいで耐性が出来てしまっているのだ。おのれディケイド!
「とりあえず入寮してくるといい。その荷物から見るに移動してきたばかりだろう。長距離の移動は案外疲れが溜まる物だ。風呂にでも入ってゆっくりとくつろぎ、明日からの学園生活に励んでくれ」
「はい、分かりました! 明日からよろしくお願いします!」
「んじゃーなー」
シンボリルドルフさんが学園の方へと消えていった。まさか来て早々に七冠ウマ娘に会う事になるとは夢にも思わなかった。なんというか、貫禄が違うよね! ありゃ某男塾塾長並だよ。
「……はー、ドキドキしたー」
「なんだよページ。もしかして緊張してたのか?」
「そりゃあ緊張するよ。だってテレビの中の人だよ? 七冠だよ? シンザン超えてるんだよ? リビングレジェンドなんだよ!?」
「そうか? だったらゴルシちゃんはガマ星雲第一番惑星のゴルゴル星から来た地球外生命体だ! ほれほれ人類史初の芦毛宇宙人ぞよ〜」
「……まぁそう思うんならそうなんじゃない? 君の中ではね」
私はゴールドシップの言葉を軽く流して寮の方へと歩き始めた。恐らく実家からの荷物も届いている頃だろう。面倒だが、今日のうちに荷解きまでは終わらせとかないとな。
何と言ったって、明日は記念すべき入学式!
競走バとしての生活が本格的に始まる。
──俺たちの戦いはこれからだ!
ああ!