ウマ娘楽しい。ファル子が来てテンション爆上げですわ。
「がんばれゴルシ……」
パドックでの彼女はこちらに向かってぴすぴーす!とお馴染みのピースサインをしていたから、調子は良好。目立った怪我も無く、URAファイナル決勝には最高のコンディションで臨むことが出来た。しかし、相手も海千山千の強敵揃い。
ゲートインしたゴールドシップは気合十分で、決意に満ちている。
「しかし……アレは何だったんだろう?」
トレーナーは先程の会話を改めて考えてみた……
「なあ、トレーナー」
「ん、どした」
「もし、もしな。優勝したら記者会見あるだろ?」
「あ、ああ。そうだな」
ゴールドシップにしてはやけにキレの悪い言葉に何処か体調でも優れないのか心配した。しかし、そこそこゴルシのトレーナーとして付き合ってきたから体調の良し悪しはある程度は判る。彼の眼からして、健康120%のパーフェクトゴルシちゃんだった。
「いや〜体調が悪いわけじゃないんだよ。ま、覚悟しとけよっ!」
やけに調子が良いのが、逆に不気味だった。まあ、いつものことなんだけれども。どうせいつものよく分からんゴルシワールドを俺に視界いっぱい見せるのだろう。
「おう、覚悟しとくわ」
こうして回想を終えたトレーナー。やはりどうしても思いつかない。対ゴルシの為に久々に脳みそをフル回転させるも、思考が異次元のゴールドシップの考えはてんで理解できそうになかった。
『一番人気はゴールドシップ。最近のレースは上り調子で、パドックでのコンディションも完璧です』
掌や脇は汗でべったりとし、心臓は早鐘を打つ。興奮と緊張が自らの血圧を高めて、身体からはまるで湯気が立ち上っているかのように上気している。妙な迫力に隣の観客はごくりと唾を飲み込んだ。
『スタート!各ウマ娘、スタートを切りました!』
出だしは上々。宝塚記念のような大幅な出遅れも無い、それはどのウマ娘も同条件。ターフの戦場を26.5センチの足で駆け抜ける。
『一番人気、ゴールドシップは後方で足を溜めています』
『これまでの戦法や、彼女の脚質からしても合っていますねぇ』
ゴールドシップはスタンダードな戦法であり、粘り強く集団の前を維持して一番を狙う『先行』や、先頭の景色を譲らず、そのまま逃げ切る戦法の『逃げ』、ゴール手前で爆発的に加速する『差し』では無く、集団の後方で虎視眈々と狙い、最後の直線に命を賭ける第四の戦法、『追込』が彼女のベストだった。
実力とその名前から『不沈艦』の異名がつく程のゴールドシップ。難点としてかなり破天荒で、やる気のムラも激しいので良い時はとことん良いが、悪い時はとことん悪いというウマ娘。
(よしっ、キタっ!)
彼女の加速が始まった。後方から、ゴールまでロングスパートをかける強靭な足がいよいよ始動したのをトレーナーは感じ取った。集団をグイグイとゴボウ抜きしていく。
『ゴールドシップ!力強い加速で次々と抜いて行くッ!』
そして、いよいよ最後の直線に差し掛かった。
『ゴールドシップ、強い、強すぎるッ!!!』
『誰も彼女の世界に追いつけない、強靭、無敵、最強!!』
実況も、観客も、テレビの前の大衆も全てがゴールドシップの重力に引き寄せられる。一着で堂々たる走りを見せた不沈艦は満面の笑み。
「イェーイ!イェーイ!」
流石にドロップキックはしてこなかったが、全身で感情を顕している。俺も嬉しくなって、柄にもなく涙が出る。
「お、ゴルシちゃんの走りに感動しちゃった?」
アホみたいなニヤけた面で揶揄ってくる。止めたい涙は際限なく溢れてくる。
「ち、違うやい!目にゴミが入ったんだよッ!」
ガシガシと乱暴に目元を擦る。
「じゃ、行くぞー」
「ちょ、ちょっと待てよ」
ハイパワーなゴルシはトレーナーの体をがっしりとホールドし、そのまま連れて行く。めちゃくちゃ恥ずかしいが、ゴールドシップの力は強すぎる。なすすべもなく、周囲の興味を手当たり次第に引きながら記者会見の会場に到着した。
「時間をくれ、目元を何とかしたい」
「おう、わかった。これ貸してやるよ」
トレーナーはトイレに駆け込み、借り物のファンデーションで真っ赤な目元を誤魔化した。
「頼むぜ、トレーナー」
「勿論だ」
堂々と記者たちの前に相棒と立つ。
# # # # #
「ゴールドシップさん、URAファイナル優勝おめでとうございます。今後はーー」
「おう、勿論ーー」
ゴールドシップは今後もレースを続けることを表明し、いくつかの当たり障りのない質問に答えた。ゴルシの意味不明な言葉にも、難なく対応してくる記者は相変わらずバイタリティが凄まじかった。顔馴染みの乙名史記者も興奮治らない状態で鼻息荒く質問していたのは印象深かった。
「トレーナーはゴールドシップさんとの三年の道のりはーー」
「はい、それはーー」
トレーナーになる前は知らなかったが、こういった質問はある程度テンプレートがあった。沢山の記者やカメラの前で話すのはゴルシのトレーナーでも得意では無かったが、反復練習により乗り切ることができた。ゴールドシップに恥をかかせる訳にはいかなかった。
「ゴールドシップさん、何か大事な報告があると聞いていましたが……」
質問時間の最後に知り合いの記者が手を挙げた。すると、びっくりするくらいの調子でゴールドシップは意気揚々と宣言した。
「アタシ、トレーナーと結婚します!」
婚姻届を取り出して、聴衆に見せつけると、どよめきが漏れる。
「!?」
真っ先に驚いたのはトレーナー。デレデレゴルシちゃんが腕にくっついて混乱の極みにあった。婚姻届を書いた覚えもないし、ハンコも押した記憶がない。トレーナーが混乱していても、全ては計画通りに進んでいく。
ここからトレーナーは暫くの期間、殆どの記憶が無い。とある記録から軽く説明することとする。
まず最初に世間という外堀を得たゴールドシップは、トレセン学園やあらゆる場所に根回しして磐石の体制を敷いた。トレーナーの両親とはかなり前からコンタクトを取っており、逃げ場を消した。ちょっぴり目障りだった桐生院とかいうトレーナーや駿川なんたらには退場してもらい、トレーナーを狙っていた他のウマ娘には様々な手段で諦めてもらった。
それらは全てトレーナーに気づかれることは無かった。事は限りなく小さな規模で行われ、知り合いが何処かに移動になったとか、引越しをしたくらいの程度であった。最も、ゴールドシップに首ったけにされたトレーナーは頭のネジがいくつか外れ、彼女らのことをもう気にも止めなかった。
もしも、この一部始終を書籍化したなら、最後はこう締め括られるだろう。
『天才はいる。悔しいが』