女心と曇り空   作:凧の糸

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はい、今回はメジロドーベルです。髪の具合とかが好きなんですが、分かる人います?




気高い猟犬は嫉妬深い

 

 

 

 ここは、トレセン学園。未来あるウマ娘たちはここで日夜自らの成長に励んでいる。

 

 

「いつもすまないな、ドーベルのトレーナー」

 

「いやいや、いつも世話になっているんだし、これくらいはさせてくれ」

 俺はメジロドーベルの担当トレーナーだが、彼女の一番のライバル(予定)で、目標でもあるエアグルーヴとそれなりに知り合いだった。まあ、情報収集と趣味の兼業といった二足のわらじをはいている。

 

 

 トレーナー自体は植物を育てることが趣味だったが、それは鉢植えで観賞用に朝顔を育てる程度。エアグルーヴは色の良い花やハーブなどの香りのある植物を育てることが出来た。それでも、同好の士として交流が続いている。

 

 

 

「と、トレーナー。今日のトレーニングは何かしら」

 自分のトレーナーにも関わらず、彼女がとても気まずそうにこちらをチラチラと伺うのには理由がある。メジロ家の令嬢として、特に手塩を掛けて育てられたのが彼女、メジロドーベルだった。

 

 箱入り娘の彼女はどうにも男性のことが苦手で、本当なら女性トレーナーに担当してもらいたかったが、自分自身のこの性分を変えたいと奮起して男性トレーナーを探した結果、同僚伝手でトレーナー()にお鉢が回ってきたと言う訳だ。

 

 名門メジロ家のウマ娘を監督するのはトレーナーによるが、それを名誉とする人もいる。「勿論!」と二つ返事な上に、前の担当が卒業して走りから離れたので、担当する娘を探さなければならない時の棚ぼたでもあった。尤も、自らの成長の為に厳しい試練を課す彼女に好感が持てたのが受けた理由でもあるのだが、小っ恥ずかしいので心の底に秘めておこうと思う。

 

 

 

「ああ、だから取り敢えず落ち着きなドーベル。はいこれ」

 

「な、何かしら?」

 箱入り娘具合に驚くが、最近の子供は知らないのかもしれない。ドーベルは恐る恐るちょんちょんと紙コップを触っている。

 

 

「糸電話って知ってるか?そっちを持って、しっかり糸を張ってくれよ」

 ウマ娘用に夜鍋して作った糸電話。ウマ娘の耳に合わせて作るのは少しばかり難しかった。

 

 

「な、何をするのよ!?」

 

「耳当てて」

 

「……したわよ」

 

「お"ーい」

 

「!!?」

 目を白黒させ、耳が激しく荒ぶる。

 

 

「何すんのよ!!」

 

 

「うげ……」

 パシン!と乾いた音の張り手がよく効いたスナップで放たれた。ウマ娘のパワーではトレーナーがグルングルンときりもみ回転して気絶した。

 

 

 

 

 

ーー数時間後、空が真っ赤に染まる頃にトレーナーは目を覚ました。

 

 

 

「と、トレーナー」

 

「うあ、ここは……」

 

「ごめんなさい……」

 記憶がスッ飛んでいた。ドーベル曰く、張り手がクリーンヒットしたトレーナー()は気絶してしまったらしい。頬を触ると熱を持っていて、少しピリピリとする。鏡を覗くと綺麗な紅葉が色付いている。

 

 

「あ、あのっ……」

 

「いいよ、説明不足だった。耳大丈夫か?」

 

「……大丈夫です」

 思えば、これが『私』がトレーナーのことに執着するキッカケだったかも知れない。私は妙に気恥ずかしくて、その日はトレーナーの顔を見ることができなかった。夕陽が気持ちを隠してくれたのが、せめてもの慰めだった。

 

 

 

 メジロドーベルとトレーナーは進撃を続ける。桜花賞は二着だったものの、オークスと秋華賞を征し、エリザベス女王杯で勝利した彼女は『女帝』エアグルーヴへと宣戦布告した。それに伴ってエアグルーヴとの交流の頻度を下げた。エアグルーヴ自身の話を聞く限り、「万全の状態で迎え打とう」と今まで以上に難敵だと思い知らされる。

 

 しかし、ドーベルの闘争心の高まりと共に彼女の機嫌がふとした事で悪くなる時があった。

 

 

「ちょっと、あの娘の事をジロジロ見過ぎよ」

 ウマ娘のトレーナーとしてついつい見てしまうのは職業病と言う他無かった。だから最初こそ、「やっぱりこの職の難儀な所だなあ」と思っていたが、ドーベルのソレは注意とは違う、嫉妬のようなものから由来するようにトレーナーは思えた。

 

 

 彼女の友人のサイレンススズカやマチカネフクキタル、メジロ家のウマ娘ならまだ可愛いもので、彼女と正反対のタイプのウマ娘を見た時は、身の毛がよだつほどだった。

 

 

 

 そして、澄み切った晴天の下、事件は起こるべくして起こった。

 

 

 

 

「やあ、ドーベルのトレーナー君。この間は快調な走りだったね」

 あまり言っていいのか分からないが、今日のエアグルーヴの化粧はやや濃い気がした。俺の気のせいかもしれないが。

 

 

「そりゃどーも。アイツも対エアグルーヴに仕上がってきてるからな。そう簡単には負けんよ」

 ドーベルはトレセン学園のトップチームに入れる素質を持っていたが、ますます磨かれた玉のように一等星の輝きを放っている。

 

 

「ふ、私も負けていられないな……ッ」

 

「お、おい!?大丈夫か、エアグルーヴ!」

 膝の力が抜けたように、ふらりと崩れ落ちる彼女。額からは玉のような汗が流れ出し、青白さを隠していた女帝の仮面を剥がしていた。

 

 

「よっ、こいしょ……」

 エアグルーヴを抱えて一気に持ち上げる。昔やった引越しのアルバイトが役に立つとは思ってもみなかったが、遮二無二彼女を保健室へと運んで行く。

 

 

 

 

「おっ、あれはドーベルのトレーナーじゃねえか!」

 最悪なことに、この一部始終を問題児ゴールドシップが見ていた。エアグルーヴは勿論、ドーベルのトレーナーも一所懸命で気づかなかった。

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

「すまない……こんな情けないことを……」

 

「ありがとう、キミのお陰だ」

 エアグルーヴのトレーナーが生真面目に深く頭を下げている。かなり有名なトレーナーで、トレセン学園内でも特に優秀かつ謙虚で知られる人格者だ。

 

 

「いっ、いえ!トレーナーとしては当然のことですし……」

 トレーナーとしての一つの目標に感謝されて単に照れ臭くなる。恥ずかしさを誤魔化したくて、少しの間だけ、と引き止めようとする彼らに適当な言い訳をつけてさっさと保健室を飛び出した。

 

 

 あれから数時間も経っていて、トレーナーは一つ休憩でも入れようと缶コーヒーを買おうとしていた。奇妙なことにウマ娘たちはこちらを見てコソコソと何かを言っているようだった。

 

 

「あの……ドーベルのトレーナーさん……」

 

「どうした、スズカ」

 ドーベルの友達であるサイレンススズカが来たが、なぜか態度は気まずそうで、話しづらそうにしていたが暫く考えて決心したようだった。

 

 

「エアグルーヴと深い仲って本当ですか?」

 

 

「?」

 さっぱり分からない。しかし、スズカの話を聞いていると少しゾッとしてきた。何でも先程のエアグルーヴを背負っていた姿が誰かに見られていたらしい。トレーナー()は細心の注意を払っていたはずなのだが、そう上手くは行かなかったようだ。年頃の少女たちが沢山居るこの学園では噂、特に色恋沙汰はあっという間だ。

 

 

 

 

「ドーベルのこと……いや、ドーベルの所に行ってあげて下さい。意外とウマ娘(私達)って嫉妬深いですから」

 

 

「お、おう……」

 脅しめいた警句を受け取り、急いでドーベルの居場所を探す。食堂も、いつものグラウンドも、トレセン学園を隈なく探したが何処にもいない。斜陽が視界を染める頃、一つだけアテがある事を思い出した。

 

 

 

「河川敷は……ワンチャンあるか?」

 ドーベルと初めて会ったのは河川敷だった。落ち込んだ時、レースに負けた時はいつも反省会をしたのもあの河川敷だった。靴を履き替え、靴紐でしっかりと縛る。

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はぁ……」

 いつもの場所に、ポツンと小さく縮こまった紅い影。固く体育座りをした姿はむすっとした、人を寄せ付けない雰囲気を漂わせる。

 

 

 

「ドーベル、やっぱり……ここか……」

 情けないが、ぜえぜえと息が切れて言葉を出すのも億劫だった。ドーベルは顔を見せてはくれないし、意外と頑固な奴だということはよく知っていた。トレーナー()が無理やり覗きに行くのは無粋だと思った。

 

 何か適当な事を状況打開のキッカケの為に言おうとするが、一歩先手を取ったのは彼女からだった。

 

 

 

「ねえ」

 

「なんで、エアグルーヴや他の娘と仲良くするの?」

 表情の仮面の下に隠してしまうメジロドーベルには珍しい感情の発露。一見すると静謐そのものだが、その芯には確かな激情があった。トレーナー()は戸惑いを隠せない。彼女の背中は何も語りかけてくれない。

 

 

「ごめん、分からない。俺はトレーナーとして、ごく普通にウマ娘と接しているつもりだった」

 

「……知ってる。あなたがそんな人だって」

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 突然、ドーベルはガブリと首元へと齧り付く。飢えた吸血鬼のような強烈なキスに、トレーナー()は未知の快感とドーベルのあまりに蠱惑的な香りで頭が変になりそうだった。

 

 

「ッ、ど、ドーベル……」

 ドーベルの顔は真っ赤になっていた。きっと、トレーナー()も同じように真紅なのは違いないだろう。

 

 

「わかった?あなたは私のモノだから……」

 べとべとの唾液は鎖骨を越えてシャツにまで侵食していた。そして何よりも、キスマークがくっきりと付いていて、とても消せそうに無かったし、目の前の小さな女王様は逃してくれそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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