本編と何ら関係ないけど、ファル子が好きすぎてつらい……
ファル子オオオオオオぉぉぉぉ!!!!!!!!!
はい。
「トレーナーさんっ!今度の日曜日は休みですよねッ!!」
机の向こうから身体をこちらに乗り出したスペシャルウィーク。尻尾がブンブンと激しく動き、興奮しているみたいだ。
「ど、どうした?」
「一緒にお出かけしませんか!」
実の所、数週間前もお出かけをしたのだが、意外にも妹のような可愛げがあった。誘いを断ってもいいのだが、絶好調なスペシャルウィークの機嫌を損ねるのは面白くない上に、買い物に行こうかと考えていたので気分転換にも丁度良いと思った。
「まあ……いいよ、俺もスケジュールは空いてるし」
「やったあ!!」
スペシャルウィークの様子は明らかに変だ。菊花賞の辺りから、なんと言えば良いのだろう。兎も角、この違和感を俺は言語化出来ずにいた。
今の状況を俺に懐いていると受けとるのが適切かも知れないが、どう考えても自意識過剰で嫌だった。
「ただいま〜って誰も居ないんだけどね」
俺は一人寂しくアパートへ帰る。トレーナーの職員寮に入寮も可能だったが、こちらに来る前に契約してしまったので手続きが色々と面倒で、このアパートにも多少の愛着が湧いていたので引っ越すことはしなかった。
「カギカギ……って、あれ?」
ドアを開けようと鍵を小さい巾着袋から探すが、一向に見つからない。
「あーあ、スペアを出すか……」
面倒だなと思いつつ、鞄の奥底に眠るスペアキーを取り出した。
「ふー、スペアがあって良かったな」
家に入って早めの夕食の準備をしていると呼び鈴が鳴る。こんな時間に誰だ?と思って覗き穴から見ると、家の前にサイレンススズカが居た。
「おいおい、どうしたスズカ?」
「これ……たぶんトレーナーさんの……」
スズカは俺のキーを見つけたようだった。
「ありがとう!何処で見つけたんだ?」
「床に落ちてて、このキーホルダーはトレーナーさんのものかと思って……」
俺が好んでいるキーホルダー付きのカギ。助かった、防犯面でも無くなったら困るからだ。
「いや〜スズカのお陰だ。本当にありがとうな」
「では、私はこれで……」
「せっかくだし、学園まで送るよ」
「そこまでしなくても」
「まあ、お礼みたいなモンだから」
日が暮れるのも早くなってきたので、女の子の一人歩きは危ないだろう。それに、そのまま返すのは外聞が悪そうだった。ウマ娘用ヘルメットは無いが、ヘルメットを渡した。
「バイク……ですか?」
「……ありがとうございました」
「じゃあな」
耳が出ない関係で気分が良くなかったのかもしれない。それに俺のヘルメットだから臭いも酷かったのか、顔が歪んでいた気がする。
「へこむなぁ……」
予想はできていたが、それはそれで凹むのが男心だった。
# # # # #
今、私は犯罪を犯す。心は行為自体への恐れよりもそれによって齎される高揚と歓喜が勝っていた。
「確か、あの巾着に……」
トレーナーお手製の巾着袋はカッコいいけど微妙な虎柄をしていた。この中身は大切なものが入っているともう知っていた。トレーナーの家の鍵はすぐに見つかった。
「ふふ、待っててトレーナーさん」
元の通りに綺麗に戻すと私は愉快な気分で鍵屋へ走った。
「お客さん、何の用?」
「カギの複製を作ろうと」
「まあ、この型なら20分くらいかかるな。明日に受け取るかい?」
「いえ、待ちます」
「あいよ」
鍵の複製は15分で終わった。
「アンタ、サイレンススズカだろ?」
「はい、そうですが」
「安くする代わりにっちゃあ何だが、サインくれないか?孫がファンなんだ」
「構いませんが……」
鍵の料金は600円。ちょっと安かった。
「『アンタ』もほどほどにな」
随分と意味深な言葉を背にして店を出る。快晴だった。
# # # # #
ーー日曜日
「はー、疲れた……」
スペシャルウィークにショッピングモールで振り回された俺はすっかりへとへとだった。可愛らしいウマ娘と休日を共にできるのは羨ましいかも知れないが、実際振り回されるとスタミナの違いやパワフルな彼女たちについて行くのがやっとな事が多い。
「あ、おかえりなさい」
キッチンからは料理の芳しい香り。俺のいちばん好きな肉じゃがの匂いだ。
「ただいま……ん?」
反射的に出たが、おかしな事だ。しかも、アレはスズカの声。心臓が嫌な音を立て始めた。
「なあ、どういう……つもりだ?」
「どういうつもり?……は、ハハ、あははははははは!!!」
スズカは狂ったように笑い始めた。普段のか細い声からは考えられないくらい不気味にこの狭い部屋に響く。素早く動いてカギを掛けられるとこちらににじり寄ってくる。
「な、うおっ!?」
ウマ娘乗り出した強力な筋力で組み伏せられると、スズカは何故か美味しそうな肉じゃがを盛った皿と箸を持つ。肉じゃがの中身を少し含むとぐちゃぐちゃに咀嚼した。
「……ッ!」
スズカは顔を近づけると、唾液が混ざった柔らかい肉じゃがを口づけで食道へと流し込んでいく。スズカは口内に舌を入れてして、ひたすらに苦しかった。
「っ、む……ぐ……」
官能的な甘い肉じゃがの味わい。一方の彼女の頬は上気して、湯気がでそうな程に真っ赤な色彩をしている。
「おいしかった?」
普段通りの瞳の色が、只々恐怖でしかなかった。硬直した思考は頷く以外の行動を奪ってしまう。
「よかったあ……貴方の好みの通りにつくったの」
「な、何で……こんな、ことを……?」
「分からないんですか?」
「菊花賞。あの日のウイニングライブの前を思い出してくれませんか?」
「……私」
「よくやった、スペシャルウィーク。お前はまだ、負けてない」
「でもッ……」
「いいか、真の『敗北』とは『心』が屈服する事だ。奴には勝てない、不可能だというような言葉こそが一番の敵だ。『勝った』奴は『負ける』と思って勝負する訳じゃ無い。折れずに挑む事こそ、自分に『負けない事』さ。お前が『負けない』限り、勝利はきっと遠くない」
「少し、胸を貸してください……」
俺の服はしっとりと湿り気を帯びた。
それからか、スペシャルウィークとのスキンシップが増えたような気がする。あくまで体感だったが……
「あれからスペちゃん、私にも貴方のことをよく喋るようになったんですよ。でも、とっても腹が立つんです。とっても……」
拳が固く握りしめられ、掴まれている腕はキリキリと危険信号を発する。
「いたっ、スズカッ!」
俺の大声にビックリしたスズカは、突然ウルウルと目を潤ませると泣き出し始めた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……わたしのこと、見捨てないで……きらいにならないで……」
「あ、あっ、嫌い、嫌いなわけがないだろ!!!!」
サイレンススズカの精神は確実に錯乱していたが、俺も精神的におかしくなっていた。トレーナーとしての精神と狂いかけの心の混ざり合いで口は素早く、不器用に動く。
「わたしのこと、好きですか?」
「勿論、勿論だとも!!大事なウマ娘だしなぁ!!」
とにかく必死だった。なりふりを構ってなどいられない。
「……駄目。ウマ娘だからじゃ、ダメ」
スズカの眼が揺れない決意で固まった時、ピンポーンと、気の抜けたインターホンが鳴った。
そして、この状況よりも奇妙なことにカギが掛けられているはずのドアから開錠音がした。
「あれ、どうしたの?」
「「!?」」
俺とサイレンススズカは錯乱した精神が一度で醒めるほどの衝撃に見舞われた。
「わ、私?」
紛うことないサイレンススズカ。瓜二つというより、一般的にドッペルゲンガーと呼称される現象でしかない。しかし、まだまだ終わらない。
「イテテテ……トレーナー……さん、と私が二人?」
奥の寝室から身体の節々を伸ばしながら来たのも、やはりサイレンススズカであった。もはや、ギャグだ。斉藤トレーナーはここにいないスペシャルウィークに助けを求めたい気分だった。
「サンニンノスズカ……ダジャレでもなんでもねえな……」
______________________________________________
閃いた!これはエアグルーヴとのトレーニングに活かせるかもしれない!
「どういう事だ、まるで意味が判らん……ツッコミどころが多すぎるぞ……」
エアグルーヴのやる気が下がった!
根性が20上がった!
かく乱のスキルレベルが上がった!
エアグルーヴは胃痛を獲得した!
何故、エアグルーヴが最後に出てきたかって?
理由:エアグルーヴだから。